八重結び あとがき 『八重結び』を終えて

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八重結び|霊障処理にも契約範囲がある現代退魔業者もの
八重結び現代退魔業者もの怨霊は悪ではない。けれど、有害なら処理する。作品概要二〇三号室、夜間圧迫感および首部発赤の調査、ならびに必要と判断される場合の簡易対処および対処後観察。黒瀬退魔処理に回ってきたのは、そんな長い案件名の調査依頼だった。…

ここまで『八重結び』をお読みいただき、ありがとうございました。

実は、この作品で最初に書いたのは第0話でした。
公開しているものは、後から設定に合わせてかなり調整していますが、最初に出てきたのは「八十年前の地下道で、防火扉を閉めた日」の話です。

ただ、その時点では、特に小説を書くつもりはありませんでした。

第0話を書いたあと、ふと考えました。

怨霊って、そもそも何なんだろう。

壁を抜ける。
でも、人の首を絞める。
実体があるのか、ないのか、よく分からない。

気体なのか。
固体なのか。
それとも、状態を変えられるのか。

そんなことを考えているうちに、かなり雑に言うと、

存在確率を調整できれば、それっぽいことができるのでは?

という発想に行き着きました。

量子力学のトンネル効果などを、かなりふわっとしたイメージとして借りています。
もちろん、厳密な物理として扱っているわけではありません。
あくまで創作上の発想です。

そこから、

  • 偏向:空間上の存在確率に偏りを持たせる
  • 固定:存在確率が高い状態をその場に固定する
  • 希薄:存在確率を減らす、散らす、分解する
  • 凝縮:存在確率を高め、集める
  • 観測:存在確率を読む
  • 同調:存在確率に自分を合わせる

といった術式の基本系統が出てきました。

ただ、一つ一つの系統だけだと、どうにも弱そうです。

では、組み合わせればいい。

これが「接続」の基本設定です。

接続する以上、上限もあるだろう。
人間が安全に扱える限界は、八個くらいではないか。
では、その倍くらいまで無理やり伸ばすと、禁呪になるのではないか。

そんな感じで、八接続、十六接続、禁呪という考え方が出てきました。

作中でも瀬良が言っていますが、

難しければ術者が減る。
術者が減れば事例が減る。
事例が減れば事故が起きやすくなる。

このあたりは、設定を作っている時にかなり自然に出てきた考え方です。

そして、十六接続を安全に分解したら、六十四接続くらいになりそうだなと思いました。

そこで主人公に、

だったら八人でやればいいじゃん

と言わせたら、ちょっと爽快なのではないか。

ここで「八重結び」という言葉が出てきました。

ただ、それだけだと少しシンプルすぎました。

十六接続を八人で分けて終わり、では面白くない。
それなら、まず「安全化禁呪」という形に一段階置いて、そこからさらに危険を取り除いたものを「八重結び」にしよう。

そう考えたあたりから、設定作りが一気に地獄になりました。

まず、安定化。
これは対立系統で中和する。
つまり、術式には対立構造が必要になります。

次に、押し上げ。
作中でいう「枝」です。
これは、術者本人にもはっきり見えない、言語化しきれない暗黙知として置くと面白そうだと思いました。

さらに、それを分担させる。

最初は八人で済むつもりでした。
でも、考えれば考えるほど、

八人だけでは足りない。
隙間を見る人がいる。
外側から観測する人がいる。
署名を確認する人がいる。
責任を持つ人がいる。
術具を支える人がいる。

十六人、三十二人と増えていき、

八重結び、いったい何人参加してるんだよ。

という状態になりました。

そうして、だいたい今の作品の形になっています。

そして、ここで重要なことを忘れていることに気づきました。

キャラを、誰一人考えていない。

そうです。
この物語は、設定だけが先行しきってしまった作品です。

読んでくださった方の中には、「伏線をちゃんと拾っている」と思ってくださった方もいるかもしれません。

逆です。

答えを先に設定しています。
伏線っぽいものは、後から配置しています。

極端なことを言うと、この作品は、

0話 → 6.5話 → 7話 → 8話 → 8.5話 → 6話……

くらいの順番で作っていると言っても過言ではありません。
本当にそんな感じです。

最初の作品なので、一般的な小説がどのように作られているのかは、正直よく分かっていません。
たぶん、少し特殊な作り方をしているのかもしれません。

設定を作って、構造を決めて、成立条件を並べて、事故条件を洗い出して、そこから登場人物を配置する。

ある意味、職業病のようなところもあります。

職業は一応伏せておきます。
推測してみるのも、少し面白いかもしれません。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

『八重結び』は、退魔士を「祓う人」ではなく、調査し、対処し、報告し、経過観察まで行う専門業者として描く話でした。

怪異を倒して終わりではなく、
名前を確認し、記録を残し、責任の線を引き、帰ってきたことを確かめる。

そういう地味な部分まで含めて、ひとつの作戦になる。

その面倒くささを、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。

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