勇者の条件 第25話 灰の一団

勇者の条件 第25話 灰の一団 創作実験
勇者の条件 第25話 灰の一団
勇者の条件
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勇者の条件 第25話 灰の一団 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

四人になった旅

四人で歩く街道は、二人で歩いていた頃とは少し違った。

まず、足音が増えた。

それから、荷物の場所が変わった。

ロアンとミルカだけの時は、荷をどう分けても大きな違いはなかった。

ロアンが重いものを持ちすぎて、ミルカに止められる。

ミルカが薬や地図や細かい道具を管理する。

だいたいそれで済んでいた。

だが、今は違う。

エナがいる。

ガルドがいる。

エナは薬箱と薬草を持っている。

ガルドは剣と、少しの荷と、なぜか薬草を持っている。

ロアンはその荷を見て、首をかしげた。

「ガルドさん、荷物少ないですね」

ガルドは自分の背負い袋を見た。

「そうか?」

「旅に出るって言ってたから、もっと持つのかと」

「剣と外套と替えの服があれば、だいたい何とかなる」

ミルカが即座に言う。

「なりません」

ガルドは少し驚いた。

「そうなのか」

「なりません。食料、水袋、火口、針と糸、布、薬、予備の紐。あと雨具」

「外套がある」

「外套は万能ではありません」

ロアンは少し懐かしい気持ちになった。

「それ、俺も言われた」

ミルカが見る。

「今も言う」

「まだ?」

「まだ」

エナがガルドの荷を見て言った。

「でも、薬草は増えていますね」

ガルドは頷く。

「あると便利だからな」

ミルカは額に手を当てた。

「便利なものを全部持つと、荷物になるんです」

ロアンが笑う。

「それ、俺も言われた」

「ロアンは二回目」

「はい」

エナは少し楽しそうに、四人の荷を見比べていた。

神殿を出たばかりの頃は、足取りにも表情にも緊張があった。

道の先を見て、空を見て、後ろを振り返っていた。

けれど、今は少し落ち着いている。

戻る場所がある。

父のいる神殿がある。

だから外へ進める。

そう思えるようになっていた。

ロアンは歩きながら言う。

「四人になると、荷物の分け方が変わるな」

ミルカが答える。

「食料の減り方も変わる」

ガルドが言う。

「俺はそんなに食わないぞ」

ミルカはガルドを見る。

「昨日、宿で麦粥を三杯食べてました」

「三杯は普通だろ」

ロアンが言う。

「俺も普通だと思います」

ミルカはロアンを見る。

「比較対象が増えて悪化した」

エナが小さく手を上げる。

「私は二杯でした」

「エナは昨日、癒やしを使っていないのに二杯」

「歩くとお腹が空くので」

「分かる」

ロアンが頷く。

ミルカは深く息を吐いた。

「食料の減り方が変わる、という話です」

ガルドは真面目に言った。

「多めに買えばいい」

「銅貨が減ります」

「なら稼げばいい」

ミルカは少しだけ目を細める。

「その話は、近いうちにちゃんとします」

ロアンはその声の硬さに気づいた。

けれど、その時はまだ深く考えなかった。

四人で歩くことに、まだ慣れていなかったからだ。

ロアンは全体を見る。

ミルカは地図と空と荷を見る。

エナは道の不安な場所をなんとなく避ける。

ガルドは足場の悪い道を、まるで平地のように歩く。

まだ一団と呼べるほど、形が決まっているわけではない。

けれど、四人の役割は、すでに少しずつでき始めていた。

灰色の外套

昼を過ぎた頃、雨が降り始めた。

細い雨だった。

空は薄く曇り、街道の土が少しずつ黒くなる。

ミルカは空を見上げて言った。

「外套」

四人はそれぞれ荷から灰色の外套を出した。

最初の一着は、国境洞窟を開いたあと、村から受け取ったものだった。

作業用の外套。

丈夫で、安くて、泥に強い。

旅の途中でそれが便利だと分かり、ミルカが似たような灰色の布を買い足した。

同じ仕立てではない。

よく見ると布も厚みも違う。

けれど、遠目には全員が灰色の外套を羽織った四人組に見えた。

ロアンは外套の前を留めながら言った。

「全員同じ外套だと、なんか揃ってる感じがするな」

ミルカが答える。

「揃えた方が探しやすいから」

「格好いいからじゃなくて?」

「泥が目立たないから」

エナが外套の裾を見た。

「灰色って、汚れても灰色ですね」

ガルドが頷く。

「便利だな」

「便利さで決めたのに、だんだん目印になりそう」

ミルカはそう言いながら、ロアンの外套の留め具を見た。

「そこ、斜め」

ロアンは慌てて直す。

「外套にも戻りがある?」

「あります」

「ありますか」

エナが自分の外套を見た。

「私は大丈夫ですか?」

ミルカは少し直した。

「ここだけ」

「ありがとうございます」

ガルドは自分の外套を見下ろした。

「俺は?」

ミルカは一度見て、すぐに言った。

「雑」

ガルドは首をかしげる。

「着られているぞ」

「着られていればいい、という考えがもう雑」

ロアンは小声で言う。

「分かる」

「ロアンも直して」

「はい」

雨は強くならなかった。

灰色の外套は、水を弾くというほどではないが、細い雨なら十分に防いだ。

泥が跳ねても目立たない。

破れたら縫える。

夜には黒すぎず白すぎず、仲間の位置も分かる。

理由は全部、実用だった。

象徴にするつもりなど、誰にもなかった。

ただ、四人は灰色の外套を羽織り、街道を歩いた。

それだけで、人の目には少し残るようになった。

灰色の外套の護衛

雨宿りに入った宿場で、商人が護衛を探していた。

小さな宿場だった。

国境洞窟が開いてから荷は動き始めたが、街道沿いにはまだ魔物が出る。

正規の護衛を雇いたい。

だが、遠くまで頼むほどの金はない。

商人は困った顔で、宿の店主と話していた。

「次の村まででいいんだ。荷を通したいだけなんだが」

ロアンはその話を聞いて、ミルカを見た。

ミルカはすでに商人の荷馬車を見ている。

車輪の状態。

荷の量。

馬の疲れ。

道のぬかるみ。

空模様。

そして、商人の腰に下がった銭袋の大きさ。

「短距離なら、できなくはない」

ミルカが言った。

ロアンは頷く。

「困ってるみたいだし」

「報酬は確認する」

「そこから?」

「そこから」

ミルカは商人と話した。

金額は高くない。

むしろ安い。

だが、次の村までなら距離は短い。

荷は生活用品で、危険な品ではない。

魔物が出るとすれば小鬼程度。

ミルカは少し考えた。

「受けるなら、条件。戦闘になったら荷馬車は止めない。馬を守る。荷を捨てる判断が必要なら、先にこちらが言う」

商人は驚いたようにロアンを見る。

「あなたがたは、旅人では?」

ロアンは答えた。

「旅人です」

ミルカが小声で言う。

「報酬を受けたから、今は護衛」

ロアンは言い直した。

「今は護衛です」

商人は少し戸惑ったが、深く頭を下げた。

「助かる」

出発した荷馬車は、雨の上がった街道をゆっくり進んだ。

ロアンは前方と馬の様子を見る。

ミルカは荷馬車の車輪と道を見る。

エナは商人の従者の顔色を気にしている。

ガルドは少し前を歩いた。

剣の柄に手を置いているが、抜いてはいない。

しばらくして、小鬼が三匹、茂みから出てきた。

一匹は前から。

二匹は横から。

荷馬車を止めようとしている。

ガルドが前に出た。

早い。

だが、ただ斬り込んだのではない。

荷馬車から離すように、一匹の足元へ踏み込み、武器を弾き、道の外へ押し出す。

ロアンは馬のそばについた。

「大丈夫だ。止まらなくていい」

馬が暴れかける。

ロアンは手綱を取る商人の従者に声をかけた。

「前を見て。馬を怖がらせないで」

ミルカは小さな土壁を車輪の横に立てた。

横から飛んできた石が、土壁に当たって落ちる。

エナは従者の腕にかすり傷があるのに気づく。

「血が出ています」

「このくらい」

「このくらいのうちに巻きます」

エナは手早く布を巻いた。

癒やしは使わない。

ただの手当てだ。

ガルドが最後の小鬼の武器を叩き落とし、ロアンが剣を向けて道の外へ追う。

小鬼たちは、荷馬車を諦めて逃げた。

商人はしばらく呆然としていた。

「ただの旅人じゃなかったのか」

ロアンは少し困る。

「旅人です」

ミルカが言う。

「今は護衛」

「そうだった」

商人は四人の灰色の外套を見た。

「灰色の外套の護衛か。覚えておく」

ロアンは外套を見る。

「外套で?」

「目印になる」

商人はそう言って、礼を述べた。

次の村で報酬を受け取る。

銅貨は多くない。

だが、干し肉と豆を少し分けてもらえた。

エナは豆を見て、少し嬉しそうだった。

ミルカはその表情を見逃さなかった。

「豆で決めてない?」

「決めていません」

「本当に?」

「少しだけ嬉しいです」

ロアンが言う。

「豆は旅に向いてるから」

ミルカはため息をつく。

「それは正しいけど、二人とも豆に弱い」

ガルドが豆の袋を持ち上げた。

「軽いし、腹にたまる。いいな」

ミルカは空を見た。

四人になって、食料の減り方は増えた。

そして、豆を喜ぶ者も増えた。

橋の下

次の村で、橋の下に魔物が住みついていると聞いた。

橋は小さかった。

だが、村人にとっては大事な橋だった。

畑と水車小屋をつなぐ道で、壊れれば遠回りになる。

橋の下は狭く、槍を持った自警団が入るには向いていない。

無理に戦えば、橋脚を傷めるかもしれない。

ロアンは橋の上から下を見た。

暗い。

水音が響く。

橋の下で何かが動いた。

「倒すより、出した方が早いかも」

ミルカは水の流れと橋脚を見ていた。

「煙でいぶすのは危険。橋が傷む」

ガルドは橋の横から下を覗く。

「中で斬るには狭いな」

エナは橋の板に足をかけて、ふと止まった。

「この辺、踏まない方がいいです」

村人が首をかしげる。

「そこは昨日も通ったが」

その直後、板がみしりと沈んだ。

村人が慌てて下がる。

ガルドが感心したように言った。

「よく分かったな」

エナは首をかしげる。

「なんとなくです」

ミルカはその板の周囲を見る。

「腐ってる。ここに人が集まってたら危なかった」

ロアンは頷く。

「じゃあ、人は橋から離す。俺は出口の横。塞がないで、逃げ道を決める」

「私は橋の下に風を通す」

ミルカが言う。

「強すぎると橋が揺れるから、片側だけ」

「俺は出てきたやつを斬る」

ガルドが言う。

エナは村人に声をかけた。

「橋に近づかないでください。子どもも下がって」

作戦は派手ではなかった。

ミルカが橋の下へ小さな風を流す。

水面近くの湿った空気が動き、橋の下の魔物が嫌がる。

魔物は低級の泥獣だった。

ぬるりと体を動かし、片側の出口へ逃げようとする。

ロアンは出口を完全には塞がない。

逃げ道を残す。

「こっちじゃない。こっちへ出ろ」

自分でも何を言っているのか分からなかったが、剣の位置と体の向きで、魔物の進む方向を誘導する。

ガルドが一歩で入る。

橋脚に当てない角度で、泥獣の首元を斬った。

あっけないほど静かに終わった。

橋は壊れなかった。

板はあとで直すことになった。

村人たちは橋を見て、それから四人を見た。

「灰色の四人が橋を守ってくれた」

誰かがそう言った。

ロアンは聞き返しそうになったが、ミルカが袖を引いた。

「今は報酬」

「はい」

報酬は、銅貨と乾いた布だった。

ミルカは布を受け取って、満足そうに言った。

「これは使える」

ロアンは笑う。

「銅貨より嬉しそう」

「布は傷にも荷にも服にも使える」

エナが頷く。

「包帯にもなります」

ガルドも頷く。

「剣の手入れにも使える」

ミルカは布を抱えた。

「つまり、銅貨よりすぐ使える」

ロアンは思った。

四人になると、喜ぶものの種類も増える。

森の子ども

別の村では、子どもが森へ入ったまま戻らないという話を聞いた。

日は傾き始めていた。

森は深くない。

だが、夕方の森は道を失いやすい。

小型の魔獣もいるらしい。

母親が泣いていた。

村人たちは松明を準備しているが、闇雲に入るとかえって危ない。

ロアンとエナは、ほとんど同時に言った。

「探しに行きましょう」

「探しましょう」

ミルカは二人を見た。

それから空を見る。

「日没まで、あまり時間がない」

ロアンは頷く。

「だから急ぐ」

「急ぐけど、走らない。食料と水。目印。戻る道。怪我人がいた時の布」

エナはすでに薬箱を開いていた。

「捻挫なら固定します。出血ならまず圧迫。癒やしは最後」

「よし」

ガルドは地面を見ていた。

「小さい足跡がある。こっちだ」

母親が銭袋を握りしめていた。

「お礼は、できるだけします。だから」

ロアンは首を振りかけた。

「報酬の話をしてる場合じゃ」

ミルカが横から言った。

「これは依頼というより、緊急の手助け」

ロアンはミルカを見る。

ミルカは小声で続けた。

「ただし、戻ったあとに保存食を少し分けてもらう。完全に無償にすると、次に動けない」

ロアンは少し黙った。

子どもが危ない時に報酬の話をするのは、冷たい気がした。

けれど、ミルカが言っているのは金を取ることではない。

次に誰かを助けるための準備を残すことだ。

「分かった」

ロアンは頷いた。

森へ入る。

ガルドは足跡を見る。

折れた枝。

柔らかい土の跡。

小さな靴の泥。

「走ってない。迷って歩いた感じだ」

ミルカは木に小さな光を残していく。

派手な灯りではない。

帰り道を示す、薄い光。

エナが途中で足を止めた。

「そっちは、嫌です」

ロアンはすぐ止まる。

「魔物?」

「分かりません。でも、嫌です」

ガルドは周囲を見る。

「右へ回れば足跡に戻れる」

ミルカが頷く。

「回る」

進んだ先で、獣の低い唸りが聞こえた。

もしまっすぐ進んでいれば、鉢合わせしていたかもしれない。

ロアンは小声で言う。

「豆より当たる」

エナも小声で返す。

「森では豆より当たります」

「場所で変わるんですか」

「たぶん」

「たぶんも場所で変わる」

ミルカが言う。

「静かに」

森の奥で、かすかな泣き声が聞こえた。

ロアンは声をかける。

「いるか!」

小さな返事があった。

子どもは木の根元にいた。

足をくじき、動けなくなっている。

近くには小型魔獣が一匹、鼻を鳴らしていた。

ガルドが前に出る。

速い。

けれど、子どもを怖がらせないように、剣を大きく見せない。

一歩で間に入り、魔獣の前足を払う。

魔獣は逃げた。

ロアンは子どもの前に膝をついた。

「もう大丈夫だ」

エナが足を見る。

「捻挫です。折れてはいないと思います」

ミルカが布を出す。

エナは手早く固定する。

癒やしは、ほんの少しだけ。

痛みを和らげる程度。

ロアンが子どもを背負った。

「戻ろう」

村へ戻ると、母親は泣きながら子どもを抱きしめた。

何度も礼を言う。

ロアンは報酬を断りかけた。

だが、ミルカが先に言った。

「保存できる食料を少し分けてもらえますか。干し物か、豆か、硬いパンを」

母親は驚いたが、すぐに頷いた。

「もちろんです。それくらいでいいなら」

ロアンは小声で言った。

「完全に無償にすると、次に動けない」

ミルカは少しだけ目を丸くした。

それから、うなずいた。

「そう」

エナは保存食を受け取りながら、少しほっとした顔をしていた。

困っている人を助けること。

でも、自分たちが次に動けるようにすること。

その二つを、まだうまく分けられない。

ただ、必要なことなのだと、ロアンにも少しずつ分かり始めていた。

灰の一団

噂は、ロアンたちより少し速く街道を進んだ。

宿場の食堂。

商人の荷馬車。

橋のたもと。

村の井戸端。

地方役人の控え所。

そういう場所で、人は話をする。

「灰色の外套を着た四人組がいる」

「荷馬車を守ったらしい」

「橋の下の魔物を追い払ったって聞いた」

「森から子どもを連れ戻したとも」

「剣士がやたら速いらしい」

「魔法使いは派手じゃないが、橋を壊さず魔物だけ出したそうだ」

「神官の娘もいるとか」

「若い男がまとめ役らしい」

「いや、若い男は荷物係じゃないのか」

「人数は三人じゃなかったか?」

「五人って聞いたぞ」

話は少しずつ変わった。

灰色外套。

灰色の旅人。

灰の連中。

灰の四人。

灰の旅人たち。

呼び名も揺れた。

誰かが言った。

「灰の一団って呼べばいいんじゃないか。全員、灰色の外套なんだろ」

別の者が笑った。

「勇者一行みたいな名前だな」

「勇者じゃないだろ。傭兵まがいだ」

「でも危ない仕事は受ける」

「じゃあ、灰の一団でいい」

名前は、そうやって勝手に整えられた。

その頃、ロアンたちは宿場で食事をしていた。

豆の煮込み。

硬いパン。

干し肉を少し。

ミルカは銅貨を数えている。

エナは豆の煮込みを見て、少し嬉しそうだ。

ガルドは硬いパンを平然と噛んでいる。

ロアンはそれを見て言った。

「硬くないですか?」

「硬いな」

「平然としてますね」

「噛めば減る」

ミルカが小声で言う。

「ガルドの食事説明、たまに剣術みたい」

エナが頷く。

「力強いです」

そこへ店主が料理を置きながら聞いた。

「灰の一団ってのは、あんたらかい?」

ロアンは固まった。

「誰ですか、それ」

店主は笑った。

「灰色の外套の四人組。荷馬車守って、橋の魔物追い出して、森の子どもを助けたって」

ミルカが小さく言う。

「たぶん、私たち」

エナが自分の外套を見る。

「灰色ですしね」

ガルドも外套を見る。

「一団なのか」

ロアンは困った顔をする。

「一団って言われると、なんかちゃんとしてそう」

ミルカは銅貨を見ながら言う。

「実際は、宿代の計算で揉めてるけど」

店主は笑った。

「名前があると、依頼もしやすいんだよ」

ロアンは首をかしげる。

「名乗った覚えはないんですけど」

「名乗らなくても、周りが呼ぶさ」

店主はそう言って、別の客の席へ行った。

ロアンはしばらく黙っていた。

「灰の一団、か」

エナは少し嬉しそうに言う。

「一団って、仲間みたいですね」

ガルドが言う。

「仲間ではあるだろ」

エナは笑った。

「そうですね」

ロアンはまだ困っている。

「でも、勇者一行みたいに聞こえない?」

ミルカが即答した。

「聞こえない」

ガルドも言う。

「勇者は灰色ではないだろ」

エナが言う。

「勇者様は、もっと白とか金色のイメージです」

ロアンは少し安心した。

「ならいいか」

ミルカは銅貨を袋へ戻した。

「ただし、名前が付いたなら、依頼も増える。報酬の決め方を考えないとまずい」

ロアンは豆を口に運びながら言った。

「そこはまた今度で」

ミルカがじっと見る。

「今度じゃなくて、近いうち」

「そんなに?」

「そんなに」

エナが小さく言う。

「でも、困っている人がいたら」

ミルカはエナを見る。

「助ける。けど、旅が続かなくなる助け方はだめ」

ガルドが頷く。

「食料がなくなると歩けないからな」

ロアンは豆を見た。

確かに、豆がなければ歩けない。

少なくとも、今はそう思えた。

「近いうちに話そう」

ミルカは頷いた。

「絶対」

「絶対なんだ」

「絶対」

四人は食事を続けた。

まだ、自分たちの呼び名に慣れてはいない。

けれど、呼ばれてしまったものは、もう街道の上を歩き始めていた。

鉱山道の撤退

その翌日、彼らはもう一つ依頼を受けることになった。

小さな鉱山道で、作業員が魔物に追われて戻れなくなっているという話だった。

鉱山といっても、大きなものではない。

村の近くにある古い採掘道で、今は石材と少しの鉱石を掘っている。

そこに小型の魔物が入り込んだ。

作業員が奥に取り残されている。

村の者は、ロアンたちを見つけるなり言った。

「灰の一団だろ。頼む、手を貸してくれ」

ロアンは少し反応が遅れた。

「ええと」

ミルカが小声で言う。

「たぶん私たち」

「慣れないな」

「慣れる前に条件」

ミルカは依頼人へ向き直った。

「目的は討伐ですか、救出ですか」

依頼人は戸惑う。

「どっちもできるなら」

ミルカは首を横に振る。

「優先順位です」

ロアンが続けた。

「作業員を外へ出すのが先です。魔物を全部倒すのは、その後で考えます」

依頼人は頷いた。

「人が先だ」

鉱山道は暗く、湿っていた。

木の支柱がところどころ古い。

奥から、金属がぶつかる音と、人の叫び声が聞こえる。

ミルカは支柱を見た。

「崩れそうなところがある」

ガルドは剣を抜く。

「前は俺が行く」

エナは薬箱を抱え直す。

「怪我人がいたら、動ける状態にします」

ロアンは深く息を吸った。

「荷は捨てる判断をする。人が先。道具は後」

坑道に入る。

魔物は小型だった。

だが、場所が悪い。

狭い坑道では、逃げ場が少ない。

ガルドは前を切り開いた。

無理に斬り進むのではなく、作業員への道を開ける。

ミルカは崩れそうな支柱の周囲に土を寄せ、一時的に固定した。

エナは倒れていた作業員の足を見る。

「動けます。痛みはありますが、骨はたぶん大丈夫です」

ロアンは奥に残っている作業員に声をかけた。

「出ます!」

作業員の一人が工具箱を抱えていた。

「これを持っていかないと」

ロアンは即座に言った。

「道具は置いていきます」

作業員は怒鳴る。

「これがないと仕事にならない!」

ロアンは一歩近づいた。

「持って出られたら持ちます。でも、持って死んだら仕事どころじゃない」

作業員は言葉を詰まらせた。

ロアンは工具箱の中から、小さな袋だけを抜き取った。

「これ、替えがきかないものですか」

「測り針と印石だ」

「これは持ちます。箱は置く」

ガルドが前から言う。

「来るぞ」

魔物が曲がり角から出てくる。

ガルドが止める。

剣は狭い坑道でも乱れない。

大きく振れない場所なら、必要な分だけ動く。

戻りが速い。

ロアンは作業員を順に出した。

「走らない。支柱に触らない。エナさんの後ろについて」

エナが負傷者を支える。

ミルカが最後に支柱を確認する。

「長くは持たない」

「全員出た?」

ロアンが聞く。

「出た!」

坑道の外へ出た瞬間、奥で鈍い音がした。

一部が崩れたのだ。

作業員たちは青い顔で振り返った。

道具の一部は失われた。

けれど、人は全員戻った。

依頼人は、地面に座り込んだ作業員たちを見て、深く頭を下げた。

「助かった」

ロアンは息を吐いた。

「戻れたなら、よかった」

ミルカが小声で言う。

「報酬」

ロアンは小声で返す。

「今?」

「今。救出依頼として受けた」

「はい」

依頼人は多くは払えなかった。

それでも、銅貨と保存食、そして古いが丈夫な革紐を渡してくれた。

ミルカは革紐を見て、かなり満足そうだった。

「これは良いです」

ロアンは笑った。

「銅貨より?」

「今の荷なら、銅貨よりすぐ役に立つ」

ガルドが頷く。

「紐は大事だ」

エナも頷く。

「薬箱にも使えます」

ロアンは革紐を見ながら言った。

「灰の一団、報酬が紐で喜ぶんだな」

ミルカは平然と答えた。

「旅は現実です」

名前負け

宿場から次の町へ向かう街道で、四人は灰色の外套を着て歩いていた。

雨は上がっている。

だが、道はまだ少しぬかるんでいる。

荷は重くなった。

銅貨は多くない。

保存食も、すぐに余裕があるとは言えなくなるだろう。

それでも、四人の歩調は少し揃ってきていた。

ロアンはぽつりと言った。

「灰の一団、か」

ミルカが答える。

「呼ばれてしまったものは仕方ない」

エナが聞く。

「嫌ですか?」

ロアンは少し考えた。

「嫌ではないけど、名前負けしそう」

ガルドが言う。

「名前に合わせればいいんじゃないか」

ミルカがすぐに言う。

「雑」

ロアンは笑った。

「でも、悪くないかも」

「悪くないけど、名前に合わせて無茶をするのは禁止」

「はい」

「報酬の話から逃げるのも禁止」

「はい」

エナが外套の裾を見た。

「灰色って、やっぱり落ち着きますね」

ガルドが頷く。

「汚れも目立たない」

ミルカが言う。

「それが始まり」

ロアンは前を見た。

まだ勇者ではない。

正式な傭兵団でもない。

神殿に認められた一行でもない。

ただ、灰色の外套を着た四人組として、街道で少しずつ知られ始めている。

それだけだった。

けれど、その名は彼らより少し先を歩き始めていた。

その名は、彼らが名乗ったものではなかった。

灰色の外套を着ていたから。

泥にまみれても目立たず、雨を受け、破れても直しやすいから。

ただそれだけの理由で、四人は灰色の外套を使っていた。

だが、人は目印を欲しがる。

荷馬車を守った四人。

橋の下の魔物を追い払った四人。

森から子どもを連れ戻した四人。

鉱山道から作業員を逃がした四人。

誰かが灰色外套と呼び、誰かが灰の連中と呼び、誰かが灰の四人と呼んだ。

やがて、それは少し整えられた。

灰の一団。

正式な名ではない。

勇者一行でもない。

神殿の認定もない。

国の騎士団でもない。

だが、街道の人々はそう呼び始めた。

灰色の外套を着た、危険な依頼も受ける若い一団。

ロアン、ミルカ、エナ、ガルド。

彼らはまだ知らない。

その曖昧な呼び名が、後に多くの報告書で揺れ続けることを。

そして、その揺れが、魔王の目から彼らを少しだけ遠ざけることを。


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