

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。
地上へ出るもの
窪地の中央で、地面が持ち上がった。
土と岩が斜面を滑り落ちる。
崩れた場所から、黒い外殻が姿を現した。
前日に亀裂の奥から見えていたものは、兵器のほんの一部でしかなかった。
地面からせり上がるたび、新たな外殻が現れる。
黒い金属の塊は、窪地そのものが起き上がっているように見えた。
「大きすぎるだろ」
隊長が呟いた。
兵器の上部と思われる場所が、ようやく土の中から現れる。
いくつもの砲口。
折り畳まれていた太い脚。
外殻の隙間を走る、白い原光。
頭部に当たる部分があるのかさえ分からない。
これまでの古代兵器は、巨大であっても一体の魔獣に近い形をしていた。
目の前のものは違う。
城壁と攻城兵器を、そのまま一つへまとめたような姿だった。
「全軍、予定どおりに動け!」
隊長が叫ぶ。
「正面から撃つな! 北側へ進ませろ!」
窪地の左右に配置された大砲が火を噴いた。
砲弾が古代兵器の左側へ集中する。
爆発。
外殻の表面が砕け、黒い破片が飛び散った。
古代兵器の身体が、わずかに右へ向く。
反対側では、術士たちが火と風を放った。
倒すための攻撃ではない。
兵器が進む方向を限定するための攻撃だった。
「動いた」
シアが言う。
「ああ」
セトは兵器の進路を見る。
予定していた誘導路へ向かっている。
「ネア」
「まだです」
原光の流れが一本になる場所で、ネアが答えた。
長い袖と羽衣が、流れに沿って大きく揺れている。
「兵器が封鎖地点へ完全に入ってから止めます。今止めれば、別の方向へ進む可能性があります」
古代兵器が一歩進む。
太い脚が地面へ沈み、山全体が揺れた。
次の一歩で、森の端にあった木々がまとめて倒れる。
事前に誘導路を切り開いていなければ、兵士たちが巻き込まれていた。
「右側、撃て!」
隊長の指示で、別の砲列が攻撃を始める。
外殻へ砲弾が当たる。
兵器は攻撃を受けた方向へ砲口を向けた。
「退避!」
白い光が砲口へ集まる。
兵士たちが伏せた直後、太い光が地面をなぎ払った。
大砲が二門、土ごと消える。
攻撃そのものが、原光で形作られていた。
「止まるな!」
隊長が再び叫ぶ。
「残った砲で撃て!」
誘導
セトはシアへ手を伸ばした。
「行くぞ」
「ああ」
シアの身体が赤い光へ変わる。
光はセトの手へ集まり、一本の剣となった。
火の精霊剣、極炎。
刀身の周囲で、白に近い炎が揺れる。
セトが地面を蹴った。
炎が背後で爆ぜる。
一瞬で古代兵器の側面へ到達し、その外殻を斬り上げた。
赤白い線が、巨大な黒い面を走る。
遅れて外殻が割れた。
兵器がセトへ砲口を向ける。
『右だ』
シアの声に従い、セトは横へ跳んだ。
光が通り過ぎる。
避けた先で兵器の脚へ降り、もう一度極炎を振るう。
脚の外殻が裂けた。
兵器の身体が傾く。
「そっちじゃない」
セトは兵器の北側へ回り込む。
炎の斬撃を放つ。
古代兵器は、攻撃を受けたセトへ向き直ろうとした。
その動きによって、さらに北へ進む。
『うまくいった』
「まだだ」
兵器の上部に並ぶ砲口が、まとめて光り始めた。
セトは外殻を駆け上がる。
砲口が光を放つより早く、極炎を横へ振り抜いた。
三つの砲口が切断される。
切断面から原光が漏れた。
しかし、すぐに黒い金属が盛り上がり始める。
『再生している』
「ああ」
原光は、まだ周囲から流れ込んでいる。
破壊しても、すぐに修復される。
今は倒す段階ではない。
セトは炎を噴き出し、兵器から離れた。
砲撃と精霊術を避けるように、古代兵器が岩場へ入っていく。
「もう少しです!」
ネアが声を上げる。
巨大な前脚が、原光の流れを狭めた地点を越えた。
続いて本体。
最後の脚も、岩場へ入る。
「今です!」
流れを止める
ネアが両腕を広げた。
羽衣の縁から、銀色の光が伸びる。
山と地中から集まり、一本になっていた原光の流れへ触れた。
流れが横へ曲がる。
窪地へ向かっていた淡い光が、岩場の手前で分かれた。
一本は東へ。
もう一本は西へ。
古代兵器のいる岩場だけが、原光の流れから切り離される。
外殻を走っていた白い光が弱くなった。
「止まりました!」
ネアが叫ぶ。
「周囲の細い流れも、こちらで偏向します! ですが、兵器から強く引かれれば長くは持ちません!」
「十分だ」
セトは極炎を構えた。
「止めている間に壊す」
地上の大砲が一斉に火を噴いた。
砲弾が、古代兵器の正面へ集中する。
爆発が連続する。
黒い外殻が砕けた。
再生が始まる。
だが、先ほどより明らかに遅い。
「効いている!」
術士の一人が叫んだ。
「原光を止めれば、再生も止められる!」
「まだ止まってはいません」
ネアが訂正する。
「遅くなっただけです!」
それでも、今までとは違う。
破壊した外殻が、すぐには元へ戻らない。
セトは兵器へ向かって走った。
一層目
極炎が外殻へ食い込む。
セトは両手で柄を握り、そのまま剣を押し込んだ。
白い炎が切断面へ流れ込む。
黒い金属が赤く変わり、溶け始めた。
『硬い』
シアの声が響く。
「今までの何倍ある」
『何倍か分からないくらい』
セトは極炎を引き抜いた。
もう一度、同じ場所へ斬撃を叩き込む。
最初の外殻が大きく開いた。
内側から、別の黒い面が現れる。
『もう一枚ある』
「見えている」
外側の一枚を破壊しただけだった。
その奥にも、分厚い外殻がある。
セトは再び剣を振るう。
大砲が周囲を砕き、術士たちの攻撃が外側の亀裂を広げる。
セトは、その中心を極炎で貫いていく。
二層目が割れる。
その奥から、細い管と歯車のようなものが見えた。
白い原光が流れている。
「中身が見えたぞ!」
隊長が叫ぶ。
「砲撃を集中しろ!」
砲弾が内部へ撃ち込まれる。
爆発。
複数の管がちぎれ、原光が噴き出した。
兵器全体が震える。
上部の砲口が地上へ向いた。
「防御!」
術士たちが壁を作る。
古代兵器から放たれた光が、何重もの防壁へ衝突した。
一枚目が割れる。
二枚目も砕ける。
三枚目を破り、残った光が地面をえぐった。
兵士たちが吹き飛ばされる。
「撃ち続けろ!」
隊長は倒れた兵士へ駆け寄らず、先に大砲へ命令を出した。
「止まったら、次が来る!」
奥にある壁
破壊した内部が、ゆっくりと塞がり始めている。
原光の供給は止まっている。
それでも、再生は完全には止まらない。
「ネア!」
セトが叫ぶ。
「流れは止まっているか!」
「止めています!」
ネアは両腕を広げた姿勢から動かない。
周囲の羽衣が激しく揺れていた。
「外から入っている原光はありません!」
「なら、なぜ再生する!」
「分かりません!」
兵器の外殻が閉じる前に、セトは亀裂へ飛び込んだ。
極炎を横へ振るう。
内部の管と構造物をまとめて切断した。
さらに奥へ、黒い壁がある。
外殻とは違う。
内部の重要な部分を守るための壁だ。
『この向こうかもしれない』
「中枢が?」
『原光が集まっている』
セトにも見えた。
壁の向こうに、大きな流れがある。
周囲から吸収したものではない。
兵器の内部で循環している原光だった。
「ここを抜く」
セトは極炎を振り上げた。
刀身を包む炎が膨れ上がる。
一撃。
黒い壁が赤熱する。
だが、切れない。
もう一撃。
表面へ亀裂が走る。
外側で砲撃が続いている。
兵器の攻撃も止まらない。
セトは三度、同じ場所へ極炎を叩き込んだ。
亀裂が深くなる。
その奥から、白い光が漏れた。
『近い』
「ああ」
中枢は、この先にある。
だが、まだ届かない。
極大技
破壊した入口が閉じ始めた。
外殻だけではない。
切断した内部の管も、周囲の金属を取り込みながらつながり直している。
このままでは、押し戻される。
「シア」
『分かっている』
「一瞬だけ合わせる」
『ああ』
セトは極炎を両手で構えた。
剣となったシアの力と、自分の動きを重ねる。
すべてを力へ変えればよいわけではない。
セトが剣を振るう。
シアが、その一瞬へ最大の炎を重ねる。
二人のタイミングが完全に合った時だけ、極炎は最大の力を出す。
「極炎!」
赤白い炎が、内部を埋め尽くした。
剣が黒い壁へ触れる。
触れた場所から、金属が消し飛んだ。
厚い壁に一本の穴が開く。
奥へ向かって、炎の道が伸びた。
さらに壁。
極炎はそれも貫く。
その先に、白く輝く巨大な構造物が見えた。
中枢。
だが、遠い。
炎の勢いが弱まる。
開いた道の先で、中枢を守る最後の壁が残っていた。
「届かない……」
極炎の刀身から炎が消える。
セトの身体から力が抜けた。
片膝をつく。
『セト』
「もう一度だ」
『無理だ』
「あと一枚――」
『無理だ!』
極炎が赤い光へ変わった。
シアが人の姿へ戻る。
セトは支えを失い、その場へ倒れた。
引きずり出す
破壊した通路が閉じ始める。
外殻の亀裂から、黒い金属が伸びてくる。
シアは倒れたセトの脇へ両腕を入れた。
「立て」
「少し待て」
「待ったら埋まる」
シアはセトを引きずった。
セトの靴が、黒い金属の上を擦る。
セトの手は動いている。
意識もある。
だが、立ち上がるだけの力が残っていない。
「自分で歩く」
「歩けていない」
「少し休めば」
「それは外に出てからだ」
後ろで金属が閉じる音がする。
シアは炎を足元で爆発させた。
セトを引きずったまま、一気に通路を進む。
閉じかけた外殻の隙間へ飛び込んだ。
背後で黒い金属がぶつかり合う。
ほんの少し遅ければ、二人とも内部へ閉じ込められていた。
「救護班、こっちだ!」
隊長が叫ぶ。
シアは答えず、セトを引きずり続ける。
古代兵器から離れ、砲撃の届かない岩陰まで運んだ。
そこでようやく手を離す。
「ここなら死なない」
「まだ戦える」
「剣を握れないだろ」
セトは手を上げようとした。
指がわずかに動くだけだった。
「少し休めば戻る」
「今は休め」
「シア」
「わたしが行く」
「一人では無理だ」
「倒すとは言っていない」
シアは兵器へ振り返った。
止まらない再生
最大出力の極炎で開けた穴が、閉じていた。
一度は内部まで貫いた。
中枢の手前まで届いた。
それだけの破壊が、すでに元へ戻ろうとしている。
原光の流れは止まったままだ。
ネアも制御を続けている。
それでも兵器は再生していた。
「ネア!」
シアが叫ぶ。
「本当に入っていないのか!」
「入れていません!」
ネアの声にも余裕がない。
「この地域へ入ろうとする流れは、すべて外へ逃がしています!」
「なら、中にある」
「そのようです!」
シアは古代兵器を見上げた。
外から原光を得られなくても、再生できる。
兵器の内部に、原光が蓄えられていた。
これまで倒した兵器にも、ある程度は蓄えがあった。
だが、この大型兵器が持つ量は異常だった。
極大技を受け、中枢の手前まで破壊されても、なお再生を続けている。
「だから止まらなかったのか」
前日の推測が、ようやくつながった。
過去の月の精霊王も、原光の流れを止めた。
火と雷の精霊王が攻撃した。
それでも兵器は動き続けた。
外から入る原光を止めるだけでは足りない。
内部へ蓄えた分まで、なくさなければならない。
空にすればいい
古代兵器の砲口が、再び光った。
国軍へ向けて放たれる。
術士たちが防壁を作る。
光が壁を破り、兵士たちを吹き飛ばした。
シアは、その光を見た。
兵器の外殻を流れる白い線が、攻撃の直後だけ弱くなる。
すぐに戻る。
だが、完全に同じではない。
「攻撃しても減る」
シアは呟いた。
古代兵器が一歩進む。
脚を動かすためにも、原光を使っている。
壊された砲口が再生する。
それにも使っている。
「動けば減る」
シアは地面を蹴った。
兵器の側面へ飛び込む。
拳へ炎を集め、再生しかけていた外殻を殴った。
爆発。
黒い金属が砕ける。
直後、周囲の外殻が集まり、壊れた部分を塞ぎ始めた。
「再生させても減る」
シアは笑った。
「なら、倒す必要はない」
兵器へ向かって叫ぶ。
「中身を空にすれば、わたしたちの勝ちだ!」
古代兵器が答えることはない。
複数の砲口がシアへ向く。
「撃て」
シアは地面を蹴った。
光が放たれる。
直前までいた場所が消し飛ぶ。
シアは兵器の脚へ回り込み、炎を叩き込んだ。
「撃っても減る。直しても減る」
外殻が再生する。
「たくさん使え」
シア一人
シアは古代兵器の周囲を走った。
炎を噴き出し、加速する。
砲撃を避ける。
外殻へ拳を叩き込む。
蹴りで砲口を曲げる。
兵器が攻撃する。
シアが壊す。
兵器が再生する。
そのすべてに、内部の原光が使われている。
だが、シアにも原光が必要だった。
周囲の流れはネアが止めている。
兵器だけでなく、シアも外から十分な原光を得られない。
自分の内側に持つ力だけで戦わなければならない。
「出しすぎないでください!」
ネアが叫ぶ。
「こちらの地域には原光がほとんどありません! 使った分はすぐに戻りません!」
「分かっている!」
「分かっている人の使い方には見えません!」
シアは古代兵器の砲撃を跳び越えた。
そのまま上部へ着地する。
砲口をつかみ、炎を流し込む。
内部で爆発が起きた。
複数の砲口がまとめて壊れる。
「早く減らした方がいい!」
「あなたが先に空になります!」
「その前に止める!」
シアは次の砲口へ向かう。
だが、兵器の側面から太い腕が伸びた。
避けきれない。
シアは両腕で受けた。
身体が吹き飛ぶ。
地面へ落ち、何度も転がった。
「シア!」
セトが岩陰から身体を起こそうとする。
「来るな!」
シアは立ち上がった。
腕が痺れている。
肩も痛い。
それでも動く。
「休んでいろ!」
国軍の攻撃
「全砲、あいつが壊した場所を狙え!」
隊長の命令で、大砲が火を噴いた。
砲弾が、破壊された砲口の周囲へ集中する。
爆発。
外殻が大きくめくれた。
術士たちも攻撃を重ねる。
火が内部へ入り、風が破片を引き剥がす。
古代兵器が再生を始めた。
黒い金属が盛り上がる。
「効いている!」
兵士が叫んだ。
「さっきより遅い!」
確かに、再生速度が落ちている。
壊れた砲口が元へ戻るまでの時間が長くなっていた。
「このまま撃ち続けろ!」
隊長が叫ぶ。
「倒せなくていい! 直させろ!」
古代兵器が国軍へ向き直る。
外殻の一部が開き、大型の砲口が現れた。
これまで使っていなかったものだ。
白い光が集まる。
「全員、退避!」
シアが兵器へ飛び込む。
砲口の正面へ炎を叩きつけた。
発射直前の光が内部で暴発する。
古代兵器の上部が爆発した。
外殻がまとめて吹き飛ぶ。
シアも爆風に巻き込まれ、地面へ落ちた。
「これも減っただろ」
土の上で転がりながら、シアが言う。
兵器の上部が再生を始める。
しかし、先ほどまでのようには戻らない。
白い原光の線が、途中で明滅していた。
境界へ向かう
古代兵器が止まった。
すべての脚を地面へ下ろし、動かなくなる。
「止まったか?」
隊長が大砲の横から顔を出す。
「まだです!」
ネアが叫んだ。
「内部に原光が残っています!」
古代兵器の外殻を走る光が、前方へ集まる。
攻撃ではない。
脚と身体の接続部へ流れている。
「動くぞ!」
古代兵器が方向を変えた。
これまで進んでいた誘導路ではない。
原光を止めている岩場の外へ向かっている。
「どこへ行く」
シアは兵器の進路を見る。
ネアが原光を偏向している地域には、明確な境界がある。
その外には、通常どおり原光が流れている。
「分かっているのか」
古代兵器に意思があるのかは分からない。
だが、原光が入らない場所から出ようとしている。
外へ出れば、再び周囲から原光を吸収できる。
再生速度も戻る。
ここまで使わせた内部の原光も、補充される。
「右側を撃て!」
隊長が命令する。
「進路を戻せ!」
砲弾が古代兵器の右脚へ集中する。
外殻が砕ける。
兵器は止まらない。
一歩。
地面が揺れる。
二歩。
原光が止まっている地域の端へ近づいていく。
「行かせるな!」
シアは走った。
埋めるしかなかった理由
シアは古代兵器の前へ回り込んだ。
両手へ炎を集める。
正面の脚へ、炎を叩き込んだ。
爆発。
外殻が砕ける。
兵器の動きが一瞬止まる。
だが、壊れた脚が再生を始めた。
別の脚を前へ出す。
止まらない。
「過去の精霊王たちが、埋めるしかなかったのは、これのせいか」
月の精霊王が原光を止めた。
火と雷の精霊王が攻撃した。
兵器の内部に蓄えられた原光を減らした。
だが、空になる前に兵器が動き出した。
原光の止まっている場所から逃げようとした。
「外へ出さないために」
シアは兵器の下を見る。
「土の精霊王が、この場所ごと埋めた」
完全に破壊することはできなかった。
ならば、せめて原光の流れへ戻さない。
巨大な土と岩で押さえ込み、動けないまま地中へ封じる。
それが、過去の精霊王たちに残された最後の手段だったのかもしれない。
「でも、今は土の精霊王がいない」
シアは拳を握る。
「だから、ここで止める」
離脱を止める
シアは古代兵器の脚を殴り続けた。
一つ壊す。
再生が始まる前に、隣を壊す。
兵器の巨体が傾く。
国軍の砲撃が背後から続く。
術士たちの攻撃が脚の接続部へ集中する。
それでも古代兵器は前へ進む。
一歩ごとに、原光の止まった地域の外へ近づく。
「左の脚を撃て!」
「砲身が持ちません!」
「持たせろ! ここを出られたら全部やり直しだ!」
砲身が赤く焼けている。
兵士たちは水をかけ、再び砲弾を詰めた。
シアは兵器の正面へ立った。
外殻の奥で原光が動く。
砲口が開いた。
シアは横へ跳ぶ。
光が地面を削る。
攻撃を避けた分だけ、兵器は前へ進んだ。
「避けたら進む」
シアは足を止めた。
次の砲口が光る。
今度は避けない。
両腕を交差させ、炎を前へ広げた。
兵器の光と、シアの炎がぶつかる。
押される。
靴が地面を削る。
炎が薄くなる。
「シア、離れてください!」
ネアが叫ぶ。
「離れたら逃げる!」
「あなたが消えます!」
「消えない!」
シアはさらに炎を出した。
兵器の光がわずかに押し返される。
だが、長くは持たない。
腕の感覚がなくなる。
視界が白く染まる。
その時だった。
落ちる雷
空が光った。
雲はない。
それでも、巨大な雷が古代兵器へ落ちた。
紫白色の光が、外殻全体を走る。
シアへ向けられていた砲撃が途切れた。
古代兵器の身体が大きく揺れる。
シアは後ろへ跳んだ。
「雷の精霊王?」
違う。
兵器の上に、一人の人間が立っていた。
長身の青年。
灰色がかった茶髪。
濃い青のサーコートと軽装の鎧。
手には、紫白色の放電をまとった長剣がある。
青年が剣を外殻へ突き立てる。
雷が兵器の表面を駆け抜けた。
砲口。
脚。
再生しかけている亀裂。
外殻の接合部。
雷は、一か所ではなく兵器全体へ広がっていく。
いたるところで金属が弾けた。
古代兵器が再生を始める。
同時に、外殻を走る原光が大きく弱まった。
「誰だ」
シアが尋ねる。
青年は兵器から飛び降りた。
着地する直前、身体の周囲へ細い放電が走る。
「事情はあとで」
青年は剣を構えた。
「今は、あれをこの場所から出さなければいいんですよね」
「ああ」
「では、手伝います」
広がる雷
古代兵器が青年へ砲口を向けた。
青年は地面を蹴る。
一瞬、姿が消えた。
次の瞬間には兵器の側面へいる。
砲撃が、誰もいない地面を貫いた。
「速い」
シアが言う。
青年の剣から声がした。
『ハルヴェン。広く削れ』
「分かっています」
青年――ハルヴェンは剣を地面へ突き立てた。
「万雷!」
紫白色の雷が、地面から古代兵器へ跳ね上がる。
一本ではない。
無数の雷が外殻へ広がった。
装甲の隙間へ入り込む。
砲口を焼く。
脚の接続部を破壊する。
内部の管へ伝わり、複数の場所を同時に壊していく。
どの一撃も、極炎ほど深くはない。
中枢へ届くような攻撃ではない。
だが、破壊された場所が多すぎる。
古代兵器は、そのすべてを再生しようとした。
外殻の白い光が一斉に動く。
「それだ」
シアが笑う。
「もっと直させろ!」
「目的は理解しました」
ハルヴェンは剣を引き抜く。
「壊すより、直させる方が効くわけですね」
『随分と変わった倒し方だな』
剣の声が言う。
「倒せれば何でもいい」
シアが答えた。
火と雷
シアが正面から飛び込む。
兵器の砲口を殴り、上へ向ける。
発射された光が空へ消えた。
ハルヴェンが側面を駆ける。
剣を振るうたび、雷が外殻を伝う。
シアの炎は、一か所を大きく壊す。
ハルヴェンの雷は、広い範囲へ小さな破壊を重ねる。
国軍の大砲が、二人の作った亀裂へ砲弾を撃ち込む。
術士たちが内部へ火と風を流す。
古代兵器が再生する。
原光が減る。
兵器が攻撃する。
さらに減る。
「右へ動くぞ!」
シアが叫ぶ。
「止めます!」
ハルヴェンが雷をまとい、右脚へ突進した。
剣が外殻を切り裂く。
脚が折れ、古代兵器が傾いた。
再生が始まる。
だが、遅い。
黒い金属が途中まで伸び、止まる。
「減っている!」
ネアが叫んだ。
「内部を流れる原光が、明らかに弱くなっています!」
「あと少しだ!」
シアは兵器の上へ跳んだ。
炎を両足へ集め、再生しかけた外殻を踏み砕く。
ハルヴェンの雷が、その亀裂へ入り込む。
内部で爆発が起きた。
古代兵器の動きがさらに遅くなる。
最後の離脱
古代兵器が残った力を脚へ集めた。
外殻の光が消える。
砲口も動かなくなる。
再生も止まる。
すべての原光が、前進するためだけに使われている。
「逃げることだけに絞った」
シアが言う。
「攻撃しなくなった分、動けるようになっています」
ハルヴェンが答える。
古代兵器が一歩進む。
原光の止まった地域の境界まで、もう遠くない。
「脚を壊す!」
シアが飛び込む。
炎を叩き込む。
外殻が割れる。
だが、兵器は再生しない。
壊れた脚を引きずりながら、別の脚で進む。
「直さなくなった」
「残りを全部、移動へ回しています!」
ネアが叫ぶ。
「もう内部の原光はほとんどありません!」
「なら、止まるまで壊す!」
国軍の大砲が撃つ。
砲弾が脚を破壊する。
術士たちの攻撃が接続部を焼く。
古代兵器は、それでも前へ進んだ。
最後の一歩を踏み出そうとする。
その先には原光がある。
境界を越えれば、再び吸収を始める。
「行かせるか!」
シアは兵器の正面へ飛び込んだ。
両手で脚を押す。
炎を噴き出す。
巨体は止まらない。
シアの足が地面へ沈む。
ハルヴェンが隣へ並んだ。
「少しだけ止めてください」
「何をする」
「中枢まで行きます」
「場所は分かるのか」
「あなたたちが開けた跡が残っています」
極炎が貫いた道。
再生しきらなかった亀裂。
その延長上に中枢がある。
「一度で抜けるのか」
「抜きます」
ハルヴェンが剣を後ろへ引いた。
『ハルヴェン』
「はい」
『まっすぐだ』
「いつもどおりですね」
迅雷
シアは残った力をすべて炎へ変えた。
古代兵器の正面から、巨体を押し返す。
兵器の動きが一瞬だけ止まった。
「今だ!」
ハルヴェンの身体を雷が包む。
髪の先と瞳が白く光る。
地面を蹴った。
「迅雷!」
紫白色の一本の線が、古代兵器へ突き刺さった。
最初の外殻を抜く。
内部の管を切断する。
極炎が開けた道を通り、その奥へ進む。
再生しかけた壁を貫く。
最後の防壁へ衝突する。
雷が一点へ集まった。
黒い壁が割れる。
ハルヴェンの姿が、その向こうへ消えた。
一瞬の静寂。
古代兵器の内部から、雷があふれ出した。
外殻の隙間すべてが紫白色に光る。
中枢が砕ける音が、地面を通して響いた。
古代兵器の脚から力が抜ける。
巨体が前へ傾いた。
「離れろ!」
シアが叫ぶ。
兵士たちが退避する。
巨大な兵器が地面へ倒れた。
山が崩れたような音が、岩場全体へ広がる。
土煙が舞い上がった。
雷の剣を持つ青年
誰も動かなかった。
古代兵器の外殻に、白い光は戻らない。
砲口も動かない。
壊れた脚も再生しない。
「ネア」
シアが尋ねる。
「原光は」
「兵器の内部には、ほとんど残っていません」
「中枢は?」
「流れが消えました」
終わった。
ネアは、ようやく両腕を下ろした。
偏向されていた原光が、少しずつ元の流れへ戻っていく。
それでも古代兵器は動かなかった。
中枢は完全に破壊されている。
倒れた兵器の側面で、内側から金属が押し開かれた。
ハルヴェンが外へ出てくる。
濃い青の服と鎧は黒く焦げていた。
灰色がかった茶髪も乱れている。
それでも、手にした長剣には紫白色の雷が残っていた。
「無事か」
シアが尋ねる。
「無事です」
ハルヴェンは兵器から飛び降りた。
着地した瞬間、膝が少し揺れる。
「少し疲れましたが」
「さっきのは何だ」
「説明は、そちらの人が動けるようになってからでいいですか」
ハルヴェンは、岩陰で横になっているセトを見た。
「精霊剣の使い手なら、あの状態で話を続けるのはつらいでしょうから」
シアもセトを見る。
セトは片腕を上げた。
「聞こえている」
「なら、簡単に」
ハルヴェンは剣を立てた。
「西のヴァレスト王国で騎士をしている、ハルヴェンです」
紫白色の雷をまとった剣が、わずかに震える。
剣の内側から、男の声がした。
『細かい話はあとでいい。まずは休ませろ』
シアは剣を見る。
人間の青年が持つ、意思のある雷の剣。
火の精霊剣、極炎。
月の精霊剣、絶光。
そして、三本目。
最後の古代兵器を貫いたものは、雷の精霊剣だった。
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