エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第16話 二つの極大技

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第16話 二つの極大技 エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第16話 二つの極大技
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第16話 二つの極大技 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

二体目

 古代兵器を倒してから、まだ日も昇りきっていなかった。
 地面が揺れた。
 倒れた古代兵器の周囲にいた兵士たちが、一斉に発掘現場の方角を見る。
 先ほどまで聞こえていた崩落の音とは違う。
 もっと遠く。
 もっと深い場所から、重い音が続いていた。

「遺跡の方だ」

 隊長が言った。
 直後、見張りの兵士が坂を駆け下りてくる。

「発掘現場で、別の兵器が動き始めました!」
「調査隊は退避したのか」
「全員、遺跡の外へ出ています。ですが、発掘坑の奥から兵器が上がってきています」
「一体か」
「確認できたのは一体です」

 隊長は、倒れた古代兵器へ目を向けた。
 一体を破壊するために、兵士も術士も消耗している。
 投石機の一部は壊れた。
 追加部隊が大砲を運んできているが、古代兵器の装甲を正面から破壊できるとは思えない。

「休む時間もないのか」

 セトが言った。

「兵器には、こちらの都合は関係ないらしい」

 隊長が答える。

「行くぞ」

 シアが発掘現場へ向かおうとする。

「待ってください」

 ネアが止めた。
 遺跡の方角へ顔を向け、地下へ吸い込まれていく原光を見ている。

「一体ではありません」
「何がだ」

 シアが尋ねる。

「動き始めた兵器です」

 地上へ向かっている大きな流れは一つ。
 だが、その周囲にも原光が集まり始めている。
 発掘された場所より奥。
 人間がまだ掘り進めていない地下。
 別々の場所へ、何本もの流れが伸びていた。

「ほかの兵器も動いているのか」

 セトが尋ねる。

「ええ」
「数は?」

 隊長が聞く。

「分かりません」
「流れが見えるのだろう」
「重なりすぎています」

 ネアの視線が、少しずつ左右へ動く。

「少なくとも、一体や二体ではありません」

 再び地面が揺れた。
 今度は、先ほどとは異なる方向からも振動が伝わってくる。
 一体目を破壊して終わりではなかった。
 遺跡に残されていた複数の古代兵器が、次々と動き始めている。

「全部が地上へ出るまで、どれくらいだ」
「埋まっている深さが違います。すぐに出てくるものもあれば、時間のかかるものもあるでしょう」
「同じ戦いを繰り返している余裕はないな」

 最初の古代兵器とは三度戦った。
 装甲を破壊し。
 再生を遅らせ。
 核の防御壁を絶ち。
 ようやく破壊した。
 同じことを何体にも繰り返していれば、先に別の兵器が地上へ出てくる。

「もっと早く倒す」

 シアが言った。

「今は絶光がある」

 シアはネアを見る。

「原光を全部止めればいい」

意識を断つ

「できます」

 ネアが答えた。
 セトがネアを見る。

「全部止められるのか」
「周囲一帯の原光を、完全に断つことはできます」
「さっきは、数が多すぎて無理だと言った」
「あれは、絶光で流れを一本ずつ切った場合です」

 ネアは自分の胸元へ手を添える。

「わたし自身の意識を断ち、すべての力を原光の遮断へ集中させれば、周囲一帯を覆えます」
「駄目だ」

 セトは即座に言った。

「まだ説明の途中です」
「最後まで聞いても同じだ」
「なぜですか」
「同じ言葉を、前にも聞いた」

 セトはシアを見る。
 シアも覚えている。
 自分という意識を消し、力だけになれば、より大きな炎を放てる。
 以前、シアも同じことを言った。
 セトは、その時も受け入れなかった。

「意識を断った後、元に戻れるのか」

 セトが尋ねる。

「分かりません」
「なら駄目だ」
「戻れないと決まったわけではありません」
「戻れるとも言えない」
「今のままでは、何体もの兵器を止められません」
「だからネアが消えていいとはならない」
「消えると決まったわけでは――」
「試して確かめられることでもない」

 ネアが口を閉じる。
 遠くで、岩が大きく砕ける音がした。
 二体目の古代兵器は、すでに地上へ向かっている。

「セトは、わたしの時にも同じことを言った」

 シアが言う。

「ああ」
「わたしは消えなかった」
「意識を消す方法を使わせなかったからだ」
「ああ」
「今回も同じだ」

 ネアは遺跡へ集まる原光を見る。

「では、別の方法を考えます」
「あるのか」
「今、考えています」

 原光の流れを一本ずつ切る。
 それでは遅い。
 周囲一帯を完全に断つ。
 それなら、古代兵器の再生も攻撃も止められる。
 だが、長く維持するには、自分の意識まで力へ変えなければならない。
 長く維持する必要がなければどうか。

「一瞬だけなら」

 ネアが言った。

「何だ」
「意識を断ち続ける必要はありません」

 ネアはセトを見る。

「一瞬だけ、ほかのすべてを捨て、原光の遮断だけへ力を集中させます」
「それで足りるのか」
「わたしが力を放つのは一瞬です」

 ネアは、周囲を流れる原光へ目を向ける。

「ですが、一度完全に断たれた流れが元へ戻るまでには時間がかかります」
「どれくらいだ」
「古代兵器へ一度攻撃を通すだけの時間は作れるはずです」
「意識は残るのか」
「完全には手放しません。合図を受けた瞬間だけ、ほかのことを考えなくします」
「本当に戻れるのか」
「戻ります」
「初めて使うのだろ」
「ええ」
「なら、言い切るな」
「では、戻るつもりです」
「それも同じだ」

 シアが二人を見る。

「一瞬だけならいい」
「シアが決めるな」
「では、セトが決めろ」

 発掘現場の方角から土煙が上がった。
 時間は残されていない。

「本当に一瞬だけだ」

 セトが言った。

「戻れないと感じたら、すぐに止めろ」
「分かりました」

絶光という合図

「力を出すための合図が必要です」

 ネアが言った。

「何と呼べばいい」
「絶光と」

 セトが眉を寄せる。

「剣の名前と同じか」
「ええ」

 ネアが変じた精霊剣の名は、絶光。
 今ネアが求めているのは、精霊剣へ変じるための呼びかけではない。
 精霊剣・絶光に秘められた力を、一瞬で解き放つための合図だった。

「精霊剣としての絶光と、今の技は別のものです」

 ネアが言った。

「精霊剣・絶光は、わたしが剣となった姿です」
「技の絶光は?」
「精霊剣・絶光が持つ力を、一瞬だけ最大まで解放する極大技です」
「同じ名前なのか」
「シアも同じでしょう」

 ネアがシアを見る。

「剣の名は極炎」

 シアが答える。

「剣の力を一撃へ集める極大技の名も極炎だ」

 精霊剣・極炎。
 それはシアが剣となった姿。
 極大技・極炎。
 それは精霊剣・極炎へ集めた力を、一撃として放つ技。
 絶光も同じだった。
 精霊剣・絶光はネアが剣となった姿。
 極大技・絶光は、精霊剣・絶光の力を一瞬だけ完全に解放する技。

「呼ばれた時に、どちらか分かるのか」

 セトが尋ねる。

「剣になっていない時に、技は使えません」

 ネアが答える。

「精霊剣になった後、セトが何を求めて呼んだかは分かるはずです」
「はず?」
「初めてですから」
「またか」
「それでも、するしかありません」
「絶光で原光を止める」

 セトが言った。

「その間に、極炎で古代兵器を斬る」
「核ごと斬る」

 シアが付け加える。
 ネアが頷く。

「極大技・絶光によって、装甲の再生へ使われる原光も完全に止まります」
「その間なら、極大技・極炎で一気に核まで斬れる?」
「可能なはずです」
「また、はずか」
「一体目では、再生する装甲に力を奪われました」

 ネアは倒れた古代兵器を見る。

「再生が完全に止まっていれば、同じことにはなりません」
「なら、真っ二つにする」

 シアが言った。

「装甲も核も全部だ」
「核の防御壁が残る可能性はあります」
「それも炎で壊す」
「できればよいのですが」

目覚める兵器

 一行が発掘現場へ着く頃には、二体目の古代兵器が地上へ姿を現し始めていた。
 大きく崩れた発掘坑の中から、金属の脚が伸びている。
 一体目と同じ形だった。
 分厚い装甲。
 複数の脚。
 上部に備えられた原光の砲口。
 だが、周囲の状況は一体目の時より悪い。
 発掘坑の奥では、別の光がいくつも動いている。
 地面の亀裂からも、淡い原光が漏れていた。

「本当に、ほかにもいるのか」

 隊長が尋ねる。

「ええ」

 ネアが答える。

「この下にも。さらに奥にも」

 地中から、複数の振動が伝わってくる。
 一体の兵器が動く音ではない。
 遺跡の各所で、異なる何かが岩や土を押している。
 追加部隊の兵士たちは、大砲を発掘坑へ向けていた。
 砲弾と火薬を運び、いつでも撃てるよう準備している。

「大砲は古代兵器に通じるのか」

 セトが隊長へ尋ねた。

「装甲の表面を壊す程度ならな」
「核には?」
「装甲がある限り届かん」
「今回は、俺たちが開く」
「前も同じことを言っていたな」
「今度は一度で開く」

 二体目の古代兵器が、土を押しのけて完全に地上へ出た。
 脚が地面へ突き刺さる。
 上部の装甲が開き、砲口へ原光が集まり始めた。

「兵を散らせ!」

 隊長が叫ぶ。
 大砲の周囲にいた兵士たちが左右へ離れる。
 ネアがセトへ手を差し出した。

「セト」

 セトはその手を取る。

「ネア」

 黒に近い光が広がった。
 ネアの体がほどけ、セトの左手へ集まる。
 周囲の光を絶つ、銀色に縁取られた剣。
 精霊剣・絶光。
 シアもセトの右手を取る。

「シア」

 赤橙色の光が集まり、炎の剣となった。
 精霊剣・極炎。
 右手には極炎。
 左手には絶光。
 二人の精霊王の力が、セトの全身へ流れ込む。

『砲撃が来ます』

 精霊剣・絶光からネアの声がする。

『先に切るか』

 精霊剣・極炎からシアの声が届く。

「いや」

 セトは二本の剣を構えた。

「最初から全部止める」

極大技・絶光

 古代兵器の砲口が白く輝いた。
 周囲から集めた原光が、今にも放たれようとしている。

『呼んでください』

 ネアが言った。

「戻れるな」
『戻ります』
「必ずだ」
『ええ』

 セトは左手の精霊剣・絶光を地面へ向けた。
 精霊剣を呼ぶためではない。
 その剣に秘められた全力を解き放つために、技の名を呼ぶ。

「絶光!」

 極大技・絶光。
 音のない波が、精霊剣・絶光から周囲へ広がった。
 光はなかった。
 風も起こらない。
 それでも、世界の何かが途切れた。
 古代兵器の砲口へ集まっていた原光が消える。
 空から落ちていた流れ。
 大地を通っていた流れ。
 森や水から引かれていた流れ。
 すべてが、古代兵器を中心とした広い範囲で完全に断たれた。
 術士たちが、自分の手を見る。
 精霊術を使おうとしても、周囲から原光が集まらない。
 古代兵器の砲口から光が失われる。
 装甲の隙間で脈打っていた原光も弱くなった。
 発掘坑の奥で動いていた光まで、一時的に消えている。

「全部、止まった」

 隊長が呟いた。
 精霊剣・絶光の銀色の縁が薄くなる。

『戻りました』

 ネアの声が聞こえた。
 弱い。
 だが、意識は残っている。

「ネア」
『聞こえています』
「次へ行くぞ」
『ええ』

 完全に断たれた原光は、すぐには元へ戻らない。
 空にも。
 大地にも。
 古代兵器の周囲には、流れが一つもなかった。

『今度はわたしだ』

 シアが言った。

極大技・極炎

 セトは右手の精霊剣・極炎を上段へ構えた。
 古代兵器はまだ動いている。
 兵器の内部に残されていた力までは、極大技・絶光でも消していない。
 複数の脚が、セトへ向かって振られる。
 セトは地面を蹴った。
 二人の精霊王から流れ込む力によって、古代兵器の脚を越える。
 古代兵器の正面。
 核がある位置を見据える。

『中央より少し下だ』

 シアが言った。

『前の兵器と同じ位置です』

 ネアも答える。

「装甲ごと斬る」
『全部使え』
「ああ」

 精霊剣・極炎へ、シアの力が集まり始めた。
 刀身を包む炎が、赤から白へ変わる。
 炎は長く伸び、古代兵器の全高を越えた。
 セトは技の名を呼ぶ。
 剣を呼ぶための名ではない。
 精霊剣・極炎に集めた全力を、一撃として放つための名。

「極炎!」

 極大技・極炎。
 赤白い炎が振り下ろされた。
 古代兵器の上部へ入る。
 一枚目の装甲を切る。
 二枚目。
 内部の骨組み。
 原光を運ぶ管。
 すべてを焼き切りながら、炎の刃が下へ進む。
 古代兵器の中央へ、一本の線が走った。
 通常なら、途中で装甲の再生が始まる。
 新しい部品が炎の進路へ入り、極大技・極炎の力を削る。
 今は違う。
 極大技・絶光によって原光の供給が完全に断たれている。
 切られた装甲は戻らない。
 破壊された骨組みも作り直されない。
 赤白い炎は止まることなく、機体の下部まで斬り抜けた。
 古代兵器の巨体が左右へ分かれる。
 上部から脚の付け根まで。
 機体は完全に真っ二つになった。

「やった!」

 兵士の一人が声を上げる。
 だが、二つに分かれた機体は倒れなかった。
 中央に、球状の核が残っている。
 極大技・極炎は、核がある位置まで届いていた。
 しかし、核を覆う防御壁が赤白い炎を左右へそらしている。
 機体の上と下は斬れている。
 核の周囲だけが、防御壁に守られたまま残っていた。

『防御壁が残った』

 シアが言った。

『原光の供給を止めても、すでに作られていた壁は消えません』

 ネアが答える。
 外からの原光は完全に断たれている。
 防御壁を新しく作り直すことはできない。
 それでも、極大技・絶光を放つ前から存在していた防御壁には、核を守りきるだけの力が残っていた。

「なら、残った壁を壊す」

 セトが核へ向かおうとする。
 右手の精霊剣・極炎が揺れた。
 左手の精霊剣・絶光も、形を保てなくなっている。

『もう剣ではいられない』

 シアが言った。

『わたしもです』

 二本の精霊剣が光へ変わる。
 赤橙色の光がシアの姿を作る。
 黒に近い光がネアの姿へ戻る。
 二人は地面へ降り立った。
 立つことはできている。
 だが、すぐにもう一度精霊剣になれる状態ではない。

「ここにいろ」

 セトが言った。

「一人で行くのか」

 シアが尋ねる。

「核は見えている」

 セトは両手を開く。
 右手に白い刀身。
 左手に黒い刀身。
 白刃と黒刃が伸びた。

「これで壊す」

届かない二本

 左右へ分かれた古代兵器の中央に、核が残っている。
 核を覆う防御壁は、先ほどまでより薄い。
 原光の供給が完全に断たれているため、新しい力は入ってこない。
 壊すなら今しかない。
 セトは右手の白刃を突き出した。
 白い光が核へ向かう。
 防御壁へ触れた瞬間、光が横へ流された。
 以前よりは深く入っている。
 それでも核には届かない。
 左手の黒刃を、防御壁へ当てる。
 黒い刀身が、壁に残る精霊力を吸収する。
 球状の輪郭が揺れた。
 少しずつ薄くなる。

「消えろ」

 セトは黒刃へ力を込める。
 防御壁の一部が欠けた。
 すぐに白刃を、その隙間へ突き込む。
 白い光が防御壁の内側へ入る。
 だが、核へ触れる直前で、残っていた壁に軌道を曲げられた。

「まだ足りない」

 原光の流れが戻り始めていた。
 遠くの空から、細い流れが伸びてくる。
 地中でも、途切れていた原光がつながり始めている。
 極大技・絶光によって作られた時間が、終わろうとしていた。

「早くしろ!」

 隊長の声が響く。

「分かってる!」

 セトは黒刃で防御壁を吸う。
 白刃で欠けた場所を攻撃する。
 吸収。
 放出。
 二本を交互に使う。
 防御壁は薄くなる。
 それでも、完全には消えない。
 左右へ分かれた装甲にも、原光が集まり始めている。
 切断面へ、新しい部品の輪郭が浮かんだ。

「セト!」

 シアの声がする。

「振り返るな!」
「何だ」
「そのまま二本を出していろ」

 背後から、シアとネアが近づいてくる。

「休んでいろと言った」
「休んでいる場合ではない」

 シアが答える。

「わたしも同意します」

 ネアがセトの左側へ立った。

「剣にはなれないのだろ」
「精霊剣になれないだけです」
「力がなくなったわけではない」

 シアはセトの右側へ立つ。

白炎と黒月

 シアが白刃へ手を伸ばした。

「白刃は、力を外へ出す剣だったな」
「ああ」
「なら、わたしの力と同じ向きだ」

 シアの指先から、白い炎が流れる。
 白刃の表面へ炎が重なった。
 白い刀身が、さらに強く輝く。
 刃そのものが炎へ変わったように揺らめいた。

「白炎」

 シアが言った。
 白炎。
 精霊剣・極炎ではない。
 セトの白刃へ、シアが残った力を重ねた剣だった。
 ネアも黒刃へ指先を添える。

「こちらは、前にも作りましたね」

 黒に近い光が、黒い刀身へ広がる。
 表面に細い銀色の線が浮かんだ。
 黒月。
 精霊剣・絶光ではない。
 セトの黒刃へ、ネアが残った力を重ねた剣だった。
 右手には白炎。
 左手には黒月。

「これなら届く」

 シアが言った。

「黒月で防御壁を奪います」

 ネアが続ける。

「白炎で核を破壊してください」
「二人とも、まだ力が残っていたのか」
「少しだけだ」
「一撃分です」
「十分だ」

 セトは黒月を、防御壁の欠けた場所へ当てる。
 通常の黒刃より強い吸収が始まった。
 残っていた防御壁が黒月へ引かれていく。
 球状の輪郭が大きく歪む。
 外から原光が戻ってくる。
 防御壁を作り直そうと、細い流れが核へ向かった。
 黒月は、その流れごと吸い上げる。

「今です!」

 ネアが叫ぶ。
 防御壁の一部が完全に消えた。
 セトは右手の白炎を突き出す。
 白い炎が、開いた穴へ入る。
 防御壁にそらされない。
 まっすぐに核へ届く。

「白炎!」

 白い炎が核の表面へ突き刺さった。
 亀裂が走る。
 黒月は、核へ戻ろうとする原光を吸い続ける。
 核は亀裂を直せない。
 白炎がさらに内部へ入った。
 亀裂が広がる。
 球状の核が大きく揺れた。

「壊れろ!」

 白い炎が核の中心を貫く。
 核が内側から割れた。
 複数の破片へ分かれ、内部の光が消える。
 左右に分かれていた古代兵器の脚から力が抜けた。
 二つの巨体が、別々の方向へ倒れる。
 地面が大きく揺れた。
 黒月が消える。
 白炎も白い光へ戻り、セトの手からほどけた。
 原光の流れは戻り始めている。
 だが、もう核はない。
 切断された装甲も、壊れた脚も再生しなかった。

二体目の停止

 兵士たちは、倒れた古代兵器を見ていた。
 一体目より短い戦いだった。
 それでも、予定どおりではない。
 極大技・絶光で、周囲一帯の原光を完全に断った。
 その間に、極大技・極炎で機体を真っ二つにした。
 核まで斬るつもりだった。
 しかし、核の防御壁が最後まで残った。
 結局、白炎と黒月を使わなければ、核を破壊できなかった。

「倒したのか」

 隊長が尋ねる。

「核は壊れています」

 ネアが答える。

「もう再生しません」
「次は?」

 隊長が発掘坑を見る。
 奥では、再び淡い光が動き始めていた。
 極大技・絶光で断たれていた原光が戻り、地下の古代兵器へ流れ込んでいる。

「すぐに次が来るのか」
「まだ地上へは出ていません」

 ネアが言った。

「ですが、動き続けています」
「今の戦いを、あと何回できる」

 隊長が尋ねる。
 シアは地面へ座り込んでいる。
 ネアも普段より呼吸が深い。
 セトも、二人の極大技を同時に扱った直後だった。

「すぐには無理だ」

 セトが答える。

「なら、休んでいる間に次が出てくる」
「ああ」
「どうする」

 誰もすぐには答えなかった。
 極大技・絶光で原光を完全に断ち。
 極大技・極炎で機体を真っ二つにし。
 白炎と黒月で核を破壊する。
 この方法なら、一体を短時間で倒せる。
 だが、三人が力を使いすぎる。
 古代兵器が何体いるのか分からない以上、同じ方法を繰り返すことはできない。
 ネアは、二つに分かれた古代兵器を見る。
 大きな問題は二つだった。
 核へ至るまでの分厚い装甲。
 核を覆う、精霊力の防御壁。
 逆に言えば、その二つさえ取り除けばよい。

極炎だけでできること

「セト」

 ネアが言った。

「何だ」
「あなた一人が、すべてを終わらせる必要はないのではありませんか」
「どういう意味だ」
「極大技・極炎だけでも、核を露出させることはできます」

 最初の古代兵器との戦いでも、核までの装甲を破壊することはできていた。
 ただし、極大技・極炎だけでは、機体を完全に真っ二つにはできない。
 破壊した装甲が再生し。
 生成された部品が炎の進路へ入り。
 極大技・極炎の力を削るからだ。
 先ほど機体を上から下まで斬り分けられたのは、極大技・絶光によって周囲一帯の原光が完全に断たれていたためだった。
 装甲も内部構造も再生しない間だけ、極大技・極炎は機体の下部まで一度に斬り進むことができた。

「絶光を先に使わない場合は?」

 セトが尋ねる。

「極大技・極炎で、核を覆う装甲を破壊します」
「核の露出までか」
「ええ」

 ネアは二つに分かれた古代兵器の中央を見る。

「核を守る防御壁までは破れません」
「その防御壁へ、極大技・絶光を使う」
「そうです」
「周囲一帯の原光ではなく、壁だけを消すのか」
「ええ」

 ネアは自分の手を見る。

「通常の絶光でも、防御壁へ切れ目を入れられました。極大技として力を集中させれば、防御壁全体を完全に無効化できるはずです」
「原光を全部止めなくても?」
「防御壁だけに力を集中させます」
「その間に、俺が核を壊す」
「それを、セトが行う必要はありません」

 ネアは隊長を見る。

「大砲がありますね」
「ああ」
「極大技・極炎で装甲を破壊し、核を露出させます」
「次に、極大技・絶光で核の防御壁を消す」

 隊長が続ける。

「そうです」
「その後で、大砲を撃つのか」
「核そのものは、装甲ほど頑丈ではありません」

 一体目も二体目も、攻撃が届けば核には亀裂が入った。
 難しかったのは、核までの装甲と、その周囲の防御壁だった。

「大砲なら、周囲の原光がなくても使える」

 セトが言った。

「ええ」

 ネアが頷く。

「火薬で砲弾を飛ばしますから」
「術士はどうする」

 隊長が尋ねる。

「極大技・絶光で防御壁を無効化している範囲では、精霊術を維持できない可能性があります」
「使えないのか」
「絶光の範囲外で使えばよいでしょう」
「範囲の外から核を狙う?」
「投石術を使います」

 ネアは発掘坑の周囲を見る。

「範囲の外で岩を加速させます。飛び始めた後で絶光の範囲へ入れば、術が消えても岩そのものは進み続けます」
「原光ではなく、飛んでいる岩が核へ当たる」
「ええ」

一人で終わらせない

「待て」

 セトが言った。

「極大技・極炎を使った後で、すぐに絶光も使えるのか」
「同時に使う必要はありません」

 ネアが答える。

「まず、シアが精霊剣・極炎になります」
「極大技・極炎で、核までの装甲を開く」

 シアが続ける。

「シアが人の姿へ戻った後、わたしが精霊剣・絶光になります」
「極大技・絶光で、露出した核の防御壁を完全に無効化する」
「その瞬間に、大砲を撃つ」

 隊長が言った。

「投石術も同時です」

 ネアが答える。

「セトは?」

 シアが尋ねる。

「俺は何をする」
「二つの極大技を、確実に届かせてください」
「それだけか」
「それだけではありません」

 古代兵器の攻撃を避け。
 正面へ接近し。
 極大技・極炎を核の位置へ正確に当てる。
 次に露出した核へ近づき、極大技・絶光で防御壁を完全に無効化する。
 どちらも、セトが二本の精霊剣を扱えなければ成立しない。

「最後の一撃まで、セトが行う必要はないということです」

 ネアは大砲を準備している兵士たちを見る。

「古代兵器の数は多い」

 発掘坑の奥で、別の光が動いている。
 先ほどより地表へ近づいていた。

「一体ずつ、セトが白炎や黒月まで使って核を壊していては間に合いません」
「人間の武器で壊せる部分は、人間へ任せる」

 セトが言った。

「ええ」
「確実に当たるのか」
「それは、兵士たちの役目です」

 隊長が答える。

「核が露出していて、防御壁もないなら当ててみせる」
「外したら?」

 シアが尋ねる。

「次を撃つ」
「遅い」
「なら、最初から全弾を当てる」

 隊長は並べられた大砲を見る。

「一門ずつ撃つ必要はない。核が露出した瞬間に、全門を一斉に撃つ」
「投石術も重ねます」

 ネアが言った。

「複数の砲弾と岩を同時に当てれば、核は破壊できるでしょう」
「今度は白炎も黒月も使わない?」

 シアが尋ねる。

「使わずに済む戦い方を作るのです」

 ネアは発掘坑の奥を見る。
 古代兵器は一体ではない。
 何体出てくるかも分からない。
 セトと二人の精霊王が、毎回すべての力を使い切る方法では最後まで持たない。

「確実で」

 ネアが言った。

「速く」

 隊長が続ける。

「同じ形で繰り返せる戦い方が必要だ」

 セトは発掘坑へ目を向けた。
 奥から、次の古代兵器が岩を砕く音が聞こえている。

「大砲を並べろ」

 隊長が命令した。

「核が見えたら、俺の合図で全門発射だ!」

 兵士たちが動き始める。
 砲身の向きをそろえる。
 砲弾を運ぶ。
 火薬を詰める。
 術士たちは、絶光の力が届く場所から離れ、大きな岩を集め始めた。
 極大技・極炎で、核までの装甲を破壊する。
 極大技・絶光で、核の防御壁を無効化する。
 最後は、大砲と投石術で核を破壊する。
 二つの極大技は、それだけで戦いを終わらせるためのものではなかった。
 人間の攻撃が届くところまで、道を開くためのものだった。
 次の地鳴りが響く。
 発掘坑の奥から、新しい金属の脚が姿を現し始めていた。


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エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…

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