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決まった手順
発掘坑の奥から、次の古代兵器が姿を現した。
二体目を破壊してから、それほど時間は経っていない。
それでも、先ほどまでとは状況が違った。
街道へ続く道の左右には、土と岩で壁が作られている。
その先には、ローディア王国の大砲が並んでいた。
砲身はすべて、古代兵器が通る一点へ向けられている。
さらに離れた高台では、術士たちが投石術に使う岩を集めていた。
「位置についた!」
隊長の声が響く。
「左右から攻撃しろ! 正面には立つな!」
術士たちが火と風を放った。
古代兵器の装甲へ当たる。
傷をつけるには足りない。
だが、攻撃を受けた古代兵器は術士たちへ向きを変えた。
左右から交互に攻撃を加え、正面の道へ誘い込む。
土壁と崩した岩によって進路を狭められた兵器が、大砲の前へ近づいていった。
「もう少し右だ!」
隊長が叫ぶ。
右側の術士が攻撃を止める。
左側から風の刃が飛ぶ。
古代兵器が、わずかに向きを変えた。
「そこで止めろ!」
装甲を開く剣
シアがセトへ手を差し出した。
「最初はわたしだ」
セトはその手を取る。
「シア」
赤橙色の光が集まり、炎の剣となった。
精霊剣・極炎。
シアの力が、セトの全身へ流れ込む。
古代兵器の上部が開いた。
砲口へ原光が集まり始める。
セトは地面を蹴った。
兵器の脚が振り下ろされる。
その下をくぐり、関節を足場にして上へ駆ける。
次の脚が横から迫った。
極炎で受け流し、その勢いを使って正面装甲へ飛び移る。
『核は、前の兵器と同じ位置だ』
シアの声が聞こえた。
「ああ」
正面中央より、わずかに下。
装甲の奥に、核がある。
セトは極炎を上段へ構えた。
『一度で開く』
刀身を包む炎が赤から白へ変わった。
「極炎!」
極大技・極炎。
赤白い炎が、古代兵器の正面へ振り下ろされた。
一枚目の装甲を裂く。
二枚目を焼き切る。
奥にある骨組みと、原光を運ぶ管が断たれる。
切られた装甲の端には、すぐに新しい部品の輪郭が浮かび始めた。
古代兵器へ原光が流れ続けている。
再生は止まっていない。
それでも、極炎は再生より先へ進んだ。
核を覆っていた最後の装甲が砕ける。
球状の核が露出した。
その周囲には、精霊力の防御壁が残っている。
原光を断つ剣
『ここまでだ』
極炎が赤橙色の光へほどけた。
人の姿へ戻ったシアの体を、セトが受け止める。
地面へ降りると、ネアが待っていた。
「次です」
差し出された手を取る。
「ネア」
黒に近い光がセトの手へ集まった。
細身の刀身を銀色の光が縁取る。
精霊剣・絶光。
古代兵器の装甲は、すでに閉じ始めていた。
露出した核の左右から、新しい部品が伸びている。
時間はない。
『いつでも』
セトは絶光を核へ向けた。
「絶光!」
極大技・絶光。
音のない波が、周囲一帯へ広がった。
空から流れ込んでいた原光。
大地の中を通っていた原光。
森や川から古代兵器へ引かれていた原光。
そのすべてが、完全に途切れた。
伸び始めていた部品が止まる。
輪郭が崩れ、光の粒となって消えた。
古代兵器の砲口からも、光が失われる。
核を覆っていた防御壁が揺れた。
球状の壁が薄くなり、やがて、その輪郭が完全に消えた。
人間が核を砕く
『今です』
ネアの声と同時に、隊長が腕を振り下ろした。
「全門、撃て!」
大砲が一斉に火を噴いた。
砲弾が露出した核へ向かう。
高台からは、術士たちが岩を放った。
岩は絶光の範囲へ入った瞬間、術による加速を失う。
だが、それまでに得た速度までは消えない。
砲弾と岩が、ほぼ同時に核へ直撃した。
球状の表面へ亀裂が走る。
二発目が亀裂へ食い込んだ。
続けて大きな岩が当たり、核の一部を砕く。
内部から漏れた光が弱くなる。
「もう一度だ!」
隊長が叫ぶ。
次の砲弾が放たれた。
核の中心を打ち抜く。
亀裂が全体へ広がり、球状の核が複数の破片へ分かれた。
古代兵器の脚から力が抜ける。
巨体が前へ傾き、地面へ倒れた。
絶光が光へ変わる。
人の姿へ戻ったネアを、セトが支えた。
「止まったか」
隊長が尋ねる。
「核は壊れています」
倒れた古代兵器へ原光は集まらない。
切られた装甲も戻らなかった。
「これでいけるな」
セトは倒れた兵器と、並べられた大砲を見る。
シアが装甲を開く。
ネアが周囲一帯の原光を断つ。
防御を失った核を、王国の大砲と術士が破壊する。
二体目のように、最後まで三人だけで壊す必要はない。
「ああ」
これが、残る古代兵器を倒すための手順となった。
一体ずつ
古代兵器は、同じ場所から現れるわけではなかった。
発掘坑の奥。
山の斜面。
何年も使われていない採石場。
畑の下。
原光を吸い始めた兵器が、岩や土を押しのけて地上へ向かっていた。
ネアが原光の流れを追い、兵器の位置を探す。
近くにある町や村から、住民を避難させる。
先行した兵士が地形を調べ、誘導する道を決める。
土壁を作る。
岩を崩す。
大砲を運ぶ。
術士たちは投石に使える岩を集める。
一体を倒せば、次の場所へ移動した。
どの兵器も、倒し方は同じだった。
ただし、場所が違えば準備に時間がかかる。
街道を外れた山中では、大砲の車輪が泥へ沈んだ。
兵士たちは馬だけに任せず、綱を引いて坂を上る。
川の近くでは、兵器が水辺へ向かわないよう、術士たちが土を盛って進路を変えた。
畑から現れた兵器は、周囲に遮るものがない。
遠くから攻撃を加え、何度も向きを変えさせながら大砲の正面へ誘い込んだ。
「次は北東です」
ネアが地図の一点を指した。
「ここから半日かかるぞ」
隊長が言った。
「すでに地上へ向かっています」
「近くの部隊だけで止められるか」
「倒すことはできません」
「分かっている。こちらが着くまで、街道から外せればいい」
隊長は伝令を呼んだ。
「北東の部隊へ伝えろ。正面から戦うな。森の側から攻撃して、岩場へ向かわせろ」
「はい!」
「大砲も動かすぞ!」
移動中の休息
兵士たちが大砲の車輪へ綱を結ぶ。
セトも、その一本を取ろうとした。
隊長が先に綱を奪う。
「お前は荷車に乗れ」
「これくらいならできる」
「次に剣を持つのは誰だ」
「俺だ」
「なら、腕を休めろ」
「兵士は歩いている」
「兵士は精霊剣を二本も使わん」
「続けて使っているだけだ」
「それを二本使っていると言う」
セトは綱へ手を伸ばした。
今度はネアに手首をつかまれる。
「乗ってください」
「ネアまで」
「セトの代わりはいません」
「大砲を引く兵士の代わりもいないだろ」
「兵士は交代できます」
「俺も休めばいい」
「ですから、今休むのです」
後ろからシアがセトの背中を押した。
「乗れ」
「押すな」
「自分で乗らないからだ」
セトは二人に押され、砲弾を積んだ荷車の端へ座った。
兵士たちは何も言わなかった。
自分たちが歩くことより、核までの道を開く者が休むことの方が重要だと理解していた。
荷車が動き始める。
道は平らではない。
車輪が石を踏むたび、荷台が大きく揺れた。
「これで眠れると思うか」
「目を閉じるだけでも違います」
ネアが答える。
「揺らさなければいい」
シアが荷車を見る。
「持ち上げるか」
「やめろ」
「少し浮かせるだけだ」
「馬が驚く」
「ならセトだけ持つ」
「もっとやめろ」
シアなら本当に抱えたまま歩きかねない。
セトは荷車の縁へ背を預け、目を閉じた。
二体の起動
北東の兵器を誘導している途中で、西の林が持ち上がった。
地面へ亀裂が走る。
木々が根から傾き、その隙間から金属の装甲が現れた。
「もう一体だ!」
見張りの兵士が叫ぶ。
北東から来る兵器は、すでに街道の先まで迫っている。
西の兵器との距離は遠くない。
二体が同じ場所へ集まれば、大砲を撃つ前に陣形を崩される。
「西の方を埋め直せ!」
隊長が命じる。
術士たちが林へ向かって岩を落とす。
地面から半分ほど現れていた兵器が、崩れた岩に埋まる。
だが、その上部が開いた。
白い光が、積み重なった岩を内側から貫く。
砕けた石が林へ降り注いだ。
古代兵器が土を押しのけ、完全に地上へ出る。
「二体を倒せるか」
隊長が尋ねた。
「同時には無理だ」
セトが答える。
「なら、片方を引き離す」
シアとネアが、同時に手を差し出した。
セトは二人の手を取る。
「シア」
右手へ赤橙色の光が集まる。
極炎。
「ネア」
左手へ黒に近い光が集まる。
絶光。
二本の精霊剣から流れ込む力が、セトの全身で重なった。
二本で止める
北東の兵器が、脚を振り上げる。
セトは極炎で受け流し、そのまま装甲の継ぎ目を斬る。
一枚を裂く。
すぐに原光が集まり、傷が埋まり始める。
倒すためではない。
足を止め、こちらへ向かせるための攻撃だった。
『西から砲撃が来ます』
ネアの声がする。
林を出た兵器の砲口が光った。
セトは絶光を横へ振る。
放たれた光の側面へ、黒い刀身を当てた。
砲撃が曲がる。
二体の間にある地面へ突き刺さり、土と岩を吹き上げた。
「西の兵器を北へ誘導しろ!」
隊長が叫ぶ。
「術士は左から攻撃! 北へ下がれ!」
術士たちが、西の兵器へ火と風を放つ。
攻撃を受けた兵器が、術士たちへ向きを変えた。
術士は森の外へ下がる。
兵器が追う。
北東の兵器が、逃げる術士へ向きを変えようとした。
セトは極炎で脚を斬りつける。
兵器の動きが止まり、再びセトへ向いた。
二本を持てば、二体の攻撃へ同時に対応できる。
極炎で一体を止める。
絶光でもう一体の砲撃をそらす。
だが、それだけだった。
一方の装甲を開けば、もう一方が兵士と大砲を攻撃する。
周囲一帯の原光を断てば、味方の術士も動けなくなる。
さらに、二人分の力を同時に受け続けるセトの体にも限界があった。
二体まで
腕が重い。
足へ力を流すまで、わずかな遅れが出始める。
『西の兵器が離れました』
ネアが言った。
「どれくらいだ」
『ここからは見えません』
「なら、こちらを倒す」
セトは北東の兵器から距離を取った。
「二人とも戻れ」
『なぜだ』
シアが尋ねる。
「このままでは大きな技を使えない」
二本の精霊剣が、それぞれ光へ変わった。
シアとネアが人の姿へ戻る。
セトは一度膝へ手をつき、息を整えた。
それから、改めてシアの手を取る。
一体ずつなら、決まった手順で倒せる。
二体までなら、一体を止めながら、もう一体を引き離せる。
それ以上は相手にできない。
そして、二体を相手にできる時間も長くはなかった。
分霊核
北東の兵器を破壊した後、三人は西の兵器を追わなかった。
誘導を担当した部隊が、谷の入口で足止めしている。
大砲が移動するまでには時間がかかる。
セトたちは岩陰へ座り、次の戦いに備えていた。
西の部隊から、負傷者が運ばれてくる。
砲撃を直接受けた者はいない。
だが、砕かれた岩や倒れた木に巻き込まれ、何人も傷ついていた。
「二体を相手にすると、余裕がありませんね」
ネアが言った。
「引き離せた」
シアが答える。
「兵士たちが危険を引き受けたからです」
「倒すまでの間だけだ」
「その間に負傷者が出ています」
ネアは、治療を受ける兵士たちを見た。
「分霊核があれば、もう少し戦術の幅が広がるのですが」
「分霊核?」
セトが聞き返す。
「ええ」
「何だ、それ」
ネアはすぐには答えなかった。
西の方角では、今も原光が集まり続けている。
古代兵器が止まっていない証だった。
「探せば見つかるものなのか」
「分かりません」
「場所を知らないのか」
「ええ」
「役に立つなら、探す手もあるだろ」
「しかし、この段階で探しても、先に世界の原光が吸い尽くされるでしょう」
「それで、分霊核は何なんだ」
「それが何であるかを、この場で説明しても意味はないでしょう」
「話を出したのはネアだろ」
「今は使えないものです」
「気になる」
「古代兵器を倒した後も必要であれば、説明します」
「必要かどうかも分からない」
「知らなくても、今の戦いには影響しません」
休める間に
西の空が白く光った。
足止めしている部隊へ、古代兵器が砲撃を放ったらしい。
ネアが立ち上がる。
「大砲が着くまで、もう少し休んでください」
「もう動ける」
「足は?」
「動く」
「腕は?」
「剣を持てる」
「重くはありませんか」
「少しだけだ」
シアがセトの右腕をつかみ、上へ持ち上げる。
「何をする」
「確かめている」
「自分で上げられる」
「なら上げろ」
シアが手を離す。
セトは腕を上げた。
上がる。
だが、普段より少し遅い。
「大砲が着くまで休む」
シアが言った。
「それまでなら」
「着いても、ネアがいいと言うまで待て」
「なぜネアが決める」
「セトより正しく見ている」
セトは反論しかけた。
ネアがセトの正面へしゃがみ、顔をのぞき込む。
「まだ休んでください」
「分かった」
言い争う方が疲れると判断し、セトは岩へ背を預けた。
数日間
一日で終わる戦いではなかった。
一体を倒せば、別の場所で兵器が地上へ出る。
兵士たちは大砲を運び、街道を外れ、山を越えた。
術士たちは兵器を一体ずつ誘導する。
セトはシアを精霊剣にし、装甲を開く。
次にネアを精霊剣にし、周囲一帯の原光を断つ。
大砲と投石術が、露出した核を破壊する。
同じ手順を、何度も繰り返した。
二日目には、砲兵たちも核が露出する位置を予測するようになった。
装甲が開く前から、砲身の向きを調整する。
術士たちは、絶光の範囲へ入る前に十分な速度を与えられる距離を測った。
核の防御壁が消えたかどうかを確認してから撃つ者はいない。
ネアを信じ、合図と同時に放つ。
迷えば、途切れた原光が戻る。
装甲が再生する。
核の防御壁も作り直される。
確実に倒すためには、全員が決められた瞬間に動く必要があった。
三日目の限界
三日目になると、セトは目を覚ました時から体が重かった。
食事は取っている。
眠ってもいる。
それでも、前日の疲れが残っている。
精霊剣を握っている間は、シアやネアの力によって体が強化される。
古代兵器の脚をかわし、装甲の上を駆けられる。
剣を手放した後、その反動がまとめて戻ってきた。
「今日は一体だけです」
朝、ネアが言った。
「二体、地上へ出る」
セトが答える。
「一体は国軍に足止めしてもらいます」
「昨日も負傷者が出た」
「それでもです」
「俺たちが行った方が早い」
「二本を同時に使うつもりですか」
「必要なら」
「使わせません」
「まだ動ける」
「昨日、絶光から戻った後に膝をつきました」
「一度だけだ」
「三度です」
「数えていたのか」
「ええ」
シアが干し肉を食べながら、セトの足を見る。
「右足も遅い」
「遅くない」
「兵器の脚を避ける時、半歩遅れた」
「避けた」
「極炎が動かしたからだ」
「それも俺の動きだろ」
「今日は一体だ」
「シアまで」
「一体を確実に倒す。次は休んだ後だ」
「その間にも原光が吸われる」
一体だけ
ネアは、すぐには答えなかった。
古代兵器が動いている限り、世界から原光が失われ続ける。
一日遅れれば、その分だけ森や川が力を失う。
精霊術を使えなくなる土地も広がる。
「それでも、セトが動けなくなれば、残る兵器を倒せません」
「今日二体倒せば、残りは減る」
「今日二体を倒して、明日一体も倒せなくなる可能性があります」
「そこまで疲れていない」
「判断するのはセトではありません」
「俺の体だぞ」
「だからです」
「どういう意味だ」
「自分の体であるため、動く限り使おうとするという意味です」
シアが頷く。
「セトは壊れるまで使う」
「壊れない」
「壊れてからでは遅い」
結局、その日に倒したのは一体だけだった。
戦いを終えた後も、セトは歩けた。
だが、次の兵器へ向かう途中で、荷車から下りようとして足を滑らせた。
地面へ落ちる前にシアが支える。
「道が悪い」
セトが言った。
「荷車から下りるだけだ」
「車輪が石を踏んだ」
「止まっていた」
「なら石が悪い」
「今日は終わりだ」
シアはセトを荷車へ戻した。
ネアも反対側へ座り、逃げられないようにしている。
セトは諦めて背を預けた。
来ない精霊王
夕暮れの空には、古代兵器へ向かう原光の筋がいくつも見えた。
ネアは、その流れを眺めながら、ふと疑問を覚えた。
ここにいる精霊王は、火と月だけだった。
世界規模で原光が吸われている。
本来なら、ほかの精霊王が異変に気づいてもおかしくない。
何人かが集まってきても、不思議ではなかった。
だが、誰も来ない。
ネアは一度だけ、遠くへ意識を向けた。
それらしい気配は感じられない。
ほかの国でも、何かが起きているのかもしれない。
原光が減ったことで、それぞれの土地に異変が生じている。
精霊王たちも、自分の役割から離れられないのだろう。
そう考えれば、ここへ来ていないことも、それほど不自然ではない。
今は目の前の兵器を止める方が先だった。
ネアは、それ以上深く考えなかった。
王都から来た者
三日目の夜、王都から高官が来た。
数人の護衛を連れ、兵士たちの野営地へ入ってくる。
古代兵器の近くへ来たのは初めてらしい。
衣服にも靴にも、ほとんど汚れがなかった。
高官は隊長から報告を受けると、休んでいるセトたちの前へ来た。
「次の兵器を、今夜中に破壊してもらいたい」
「無理だ」
シアが答えた。
「まだ、お前には聞いていない」
「誰に聞いても同じだ」
高官はセトを見る。
「戦えるか」
「一体なら」
セトが答える。
「なら、すぐに出てもらいたい」
「駄目です」
ネアが言った。
「本人は戦えると言っている」
「セトの判断は採用しません」
「なぜだ」
「疲労によって、正しく判断できていないからです」
「歩いているように見える」
「精霊剣を扱えるかどうかは、歩けるかどうかでは決まりません」
高官はセトへ視線を戻す。
「各地で被害が広がっている。精霊術が使えず、水をくみ上げられない村もある。作物も枯れ始めた。一晩待てば、その被害はさらに増える」
「分かっている」
セトが立ち上がろうとする。
シアが肩を押さえた。
「行かない」
「シア」
「今日は行かせない」
国よりセト
高官の表情が硬くなる。
「国全体の被害より、一人の休息を優先するのか」
「ああ」
シアは迷わなかった。
「セトを壊してまで、この国を守るつもりはない」
「この国がどうなってもよいと?」
「セトより大事ではない」
周囲にいた兵士たちが息を止める。
高官はネアを見る。
「月の精霊王も同じ考えか」
「ええ」
「あなた方が戦わなければ、国軍だけでも次の兵器を止める」
「倒せません」
「それでも出撃させる」
「兵士たちを戦わせれば、セトが見捨てられないと考えていますか」
高官は答えなかった。
ネアの羽衣が、わずかに持ち上がった。
周囲を流れていた原光が揺れる。
「兵士たちを使ってセトを戦わせるのであれば、王都へ流れる原光を止めます」
静かな声だった。
それでも、周囲の誰にも聞き間違える余地はなかった。
王都への脅し
「脅しているのか」
「ええ」
「王都に何人いると思っている」
「知っています」
「本気で止めるつもりか」
「必要であれば」
高官はネアを見た。
ネアは視線をそらさない。
虚勢ではない。
少なくとも、高官にはそう見えた。
「国軍は、今夜の出撃を見送る」
高官が言った。
「日の出まで、次の兵器を足止めさせる」
「そうしてください」
「明朝には戦えるのだろうな」
「セトが回復していれば」
「また条件を付けるのか」
「最初から同じ条件です」
高官はそれ以上何も言わず、護衛を連れて離れた。
その背中が見えなくなってから、セトが口を開く。
「王都まで止めるな」
「必要なら止めます」
ネアが答えた。
「必要じゃない」
「それは、相手が決めます」
「国よりセトの方が大事だ」
シアが言う。
「比べるな」
「比べるように言われたから答えた」
セトは何か言い返そうとした。
シアが先に天幕を指す。
「寝ろ」
「まだ話は終わっていない」
「わたしたちは終わった」
「勝手に決めるな」
「起きているなら運ぶ」
シアがセトへ手を伸ばした。
セトは自分で天幕へ向かった。
翌朝
夜の間、谷へ誘導された古代兵器は、国軍が足止めした。
岩を落とす。
進路を土壁で塞ぐ。
遠くから攻撃を加え、村のない方向へ向かせる。
倒そうとはしない。
朝まで近づけさせないことだけに集中した。
日の出とともに、セトたちは谷へ向かった。
前日より、セトの足取りは軽い。
疲れがすべて消えたわけではない。
それでも、極炎を核の位置へ正確に振り下ろせる。
絶光を放った後も、自分の足で立っていられた。
大砲と投石術が核を砕く。
古代兵器は短時間で停止した。
「昨日の夜に戦うより早かったな」
隊長が言った。
「昨日でも倒せた」
セトが答える。
「倒した後、お前が動けなくなっていただろう」
「今日はまだ動ける」
「なら次へ行くぞ」
高官は離れた場所から戦いを見ていた。
今度は、すぐ次へ向かえとは言わなかった。
ネアと一度目が合う。
高官の方が先に視線をそらした。
一体ごとの休息
それ以降、一体を倒した後には必ず休息を入れた。
大砲を移動させる時間。
砲弾を運ぶ時間。
次の地形を整える時間。
それらすべてを、セトたちの休息にも使った。
早く倒そうとして無理に二体を相手にするより、一体ずつ確実に処理する方が、結果として多く倒せた。
四日目。
朝に一体。
夕方に一体。
五日目。
昼までに一体を破壊した。
その日の夕方、地上へ出ていた最後の古代兵器が、大砲の正面へ誘導された。
兵士たちの動きに、初日の迷いはない。
術士たちは必要な距離を取り、すでに岩を浮かせている。
砲兵は装甲が開く位置を予測し、砲身をわずかに右へ向けていた。
シアが剣となる。
赤白い炎が装甲を裂く。
核が露出する。
シアが人の姿へ戻る。
入れ替わるようにネアが剣となった。
「絶光!」
周囲一帯の原光が途切れる。
装甲の再生が止まり、核の防御壁が消えた。
「撃て!」
大砲が火を噴く。
高台から岩が飛ぶ。
砲弾が核の表面を割り、続く岩が亀裂を押し広げた。
最後の砲弾が中心へ入る。
核の光が消えた。
古代兵器が地面へ倒れる。
残る一体
しばらく、誰も動かなかった。
兵器が再生しないことを確かめてから、兵士たちが武器を下ろす。
「終わったか」
隊長が尋ねた。
ネアは周囲へ意識を広げた。
各地へ伸びていた原光の流れは、ほとんど消えている。
地上へ向かって動く兵器の反応もない。
だが、すべてではなかった。
「まだ一つ残っています」
「どこだ」
「地下です」
「動いているのか」
「いいえ」
ネアは遠くの地面へ目を向けた。
「今は、まだ」
通常の古代兵器を相手にした、数日間の殲滅戦は終わった。
それでも、世界から原光を奪う流れは、完全には消えていなかった。
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