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最後の一体
地上へ出ていた古代兵器をすべて破壊したあとも、ネアは遠くへ意識を向けたまま動かなかった。
兵器の残骸ではない。
その先にある地面を見ている。
「まだ一体、残っているんだな」
セトが尋ねた。
「ええ」
「どこだ」
「北東です。かなり深い場所にあります」
ネアは片手を上げた。
長い袖と羽衣の縁に、銀色の光が走る。
周囲の原光が細い筋となり、山の向こうへ伸びていった。
その先には、山と山に挟まれた広い窪地がある。
古代兵器の発掘が始まる以前は、木もほとんど生えていない荒れ地だったという。
「動いているのか」
「地上へは出ていません。ただ、原光は吸い続けています」
「なら、今のうちに掘り出して壊せばいい」
シアが言った。
「できるのであれば、その方がいいでしょうね」
「できないのか」
「大きすぎます」
ネアの視線は窪地の方角から動かなかった。
「これまで破壊した兵器とは、比べものになりません」
山の下の輪郭
翌朝、セトたちはローディア王国の国軍とともに窪地へ向かった。
近づくにつれ、地面に走る亀裂が増えていく。
細いひびではない。
場所によっては、人が落ちれば自力では上がれないほど深く、幅も広い。
亀裂の奥には、土や岩とは異なる黒い面が見えていた。
国軍の隊長が、亀裂の縁へ立つ。
「これが全部、兵器の外殻なのか」
「おそらく」
ネアが答える。
古代兵器の大半は、まだ山と地面の下に埋まっていた。
露出しているのは、上面の一部にすぎない。
それでも、端から端までは一目で見渡せなかった。
これまで倒してきた兵器なら、その全体が収まるほどの広さがある。
別の亀裂から、白い光が漏れている。
光は一定ではない。
弱くなったかと思えば、地の底で何かが脈打つように強くなる。
そのたびに周囲の草がしおれ、土の中から湿り気が失われていく。
「まだ出ていないのに、これだけ吸っているのか」
セトが言った。
「地上へ出れば、さらに多くの原光を必要とするでしょう」
「出てくる前に止める」
シアが亀裂の中をのぞき込む。
「ここから壊せないか」
「中枢の位置が分かりません」
ネアは目を閉じた。
「外殻の内側で原光が複雑に動いています。流れを追おうとしても、途中でいくつにも分かれています」
「全部壊せば、そのうち中枢に当たる」
「その前に地上へ出ます」
これまでの方法
国軍は窪地の周囲に大砲を並べられる場所を探していた。
地図の上では、砲台を置ける広さがある。
だが、その地面の下にも古代兵器が埋まっている。
砲台を築いた場所そのものが、兵器の起動とともに持ち上げられる可能性があった。
「前と同じ方法は使えないのか」
隊長が尋ねた。
「極炎で外殻を裂く。絶光で再生を止める。中枢が見えたところを、こちらで破壊する」
「無理だ」
シアが即答した。
「まだ試していないだろう」
「見れば分かる」
シアは地面の亀裂を指した。
「これまでの兵器なら、一度裂けば内側へ届いた。これは外側だけで何層あるのか分からない」
「極炎の最大出力でもか」
「一枚や二枚なら裂ける。だが、中枢へ届く前にセトが持たない」
セトも、地面の下にある原光の流れを探った。
兵器全体の構造までは見えない。
それでも、これまでの兵器とは規模が違うことは分かる。
切らなければならない範囲が広い。
再生を止めなければならない範囲も広い。
二本の精霊剣を同時に扱える時間の中で、中枢まで到達できるとは思えなかった。
「絶光で兵器全体を止められないのか」
隊長がネアへ尋ねた。
「範囲が広すぎます」
「一部なら」
「止められます。ただし、止めた場所を避け、別の部分から再生するでしょう」
「ならば、絶光を動かしながら――」
「その間、極炎を十分に振るうことができません」
セトが答えた。
二本を持つことはできる。
だが、この巨大な兵器を相手に、両方を最大限に使い続けることはできない。
これまでのやり方を、そのまま規模だけ大きくすることは不可能だった。
届かない中枢
術士たちが、地面の亀裂へ探査の精霊術を流した。
土の中を進んだ力は、兵器へ触れたところで吸収される。
反響が返らない。
どこまで外殻が続き、どこから地面へ変わるのかも分からなかった。
「掘ることもできないのか」
セトが尋ねる。
「掘ること自体はできます」
調査を担当していた術士が答えた。
「ただ、兵器へ触れれば、掘削へ使った精霊力を吸われます。人の手だけで掘るには、範囲が広すぎます」
「火で土を飛ばす」
シアが言う。
「兵器まで攻撃することになります」
「それが目的だ」
「中枢の位置が分からないまま外殻を刺激すれば、起動が早まる可能性があります」
ネアが止めた。
「なら、起動してから倒すしかない」
シアは兵器が埋まっている窪地を見渡した。
「これまでより大きいだけだ」
「その大きさが問題なのです」
「大きければ当てやすい」
「倒しにくくもあります」
「やることは同じだ」
「同じことをしても、中枢まで届きません」
二人の視線がぶつかる。
セトは再び亀裂の奥を見た。
「今までとは違う方法が必要だ」
シアは不満そうに息を吐いたが、否定はしなかった。
なぜ埋まっていた
その日の調査では、中枢の位置も、兵器の正確な形も分からなかった。
兵士たちは窪地から離れた場所へ野営地を移した。
兵器が地上へ出た時、巻き込まれないだけの距離を取るためだった。
夜になっても、地面の奥から低い振動が続いている。
シアは焚き火の前に座り、窪地の方角を見ていた。
「どうした」
セトが隣へ座る。
「考えている」
「珍しいな」
「わたしも考える」
「知っている」
シアはセトを見る。
「今、少し間があった」
「気のせいだ」
シアは焚き火へ小枝を投げた。
「こいつらは、なぜ埋まっていたんだ」
「古代の兵器だからだろ」
「そうではない」
炎が小枝を包み込む。
「兵器は勝手に土の中へ入らない。誰かが埋めた」
「使わなくなって捨てたんじゃないのか」
「それなら中枢を壊す。動かなくしてから捨てればいい」
古代兵器を作った者たちが、何を考えていたのかは分からない。
だが、原光を吸えば再び動く兵器を、そのまま地中へ残す理由はない。
「故障していた可能性は?」
「故障したものが、今は動こうとしている」
「直ったのかもしれない」
「土の中でか?」
シアは首を横へ振った。
「誰かが、動くものを無理に埋めたんじゃないか」
過去の精霊王たち
ネアは、二人の会話を少し離れた場所で聞いていた。
「誰かというのは、精霊王ですか」
そう言いながら、焚き火の近くへ来る。
「人間だけで、あれを埋められるか」
シアが尋ねた。
「現在の兵士と術士だけでは難しいでしょうね」
「昔の人間なら」
「今より強い精霊術を扱う者がいた可能性はあります。ただ、それでも人間だけとは考えにくいです」
「なら、精霊王も戦った」
「そうかもしれません」
「勝ったのか?」
ネアは答えなかった。
シアも、すぐには続けない。
地面の奥から振動が伝わってきた。
焚き火の炎がわずかに揺れる。
「勝ったなら、なぜ中枢を残した」
シアが言う。
「破壊する余裕がなかったのかもしれません」
「負けたなら、どうやって埋めた」
「戦いながら封じたのでしょう」
「倒せなかったから埋めた?」
「可能性はあります」
セトは窪地の方角へ目を向けた。
これまでの兵器は、二本の精霊剣と国軍を合わせれば破壊できた。
最後の一体だけが、はるかに大きい。
過去の精霊王たちも、同じ兵器を前にして止まったのかもしれない。
ただ、今の時点では、何が起きたのかを判断する材料が足りなかった。
王都への脅し
シアは何かを思い出したように、ネアを見た。
「昨日、お前は王都への原光を止めると言ったな」
「言いましたね」
「本当にできるのか」
「できないことを、脅しには使いません」
「どうやって止める」
「周囲から王都へ流れ込む原光を偏向します」
「全部を?」
「完全に止める必要はありません。入る量より使われる量を多くすれば、いずれ不足します」
「それでは時間がかかる」
「急ぐのであれば、流れの中心を遮断します」
シアの目が細くなる。
「流れの中心?」
「原光にも流れがあります」
「それは、火や風へ変わる前の話か」
「ええ」
「そんな知識はない」
「イフリートに必要な知識ではなかったのでしょう」
「精霊王なのにか」
「すべての精霊王が、原光のすべてを知っているわけではありません」
ネアは焚き火へ手をかざした。
炎の周囲にある原光を、指先でわずかに曲げる。
火が横へ揺れた。
「原光は、どこにでも同じ量があるわけではありません。集まりやすい場所と、通りやすい場所があります」
「川みたいなものか」
「かなり簡単に言えば」
「なら、その川を止めればいい」
「一つではありません」
原光の流れ
翌朝、ネアは窪地を見渡せる高台へ三人を連れていった。
隊長と数人の術士も同行している。
「ここからであれば、少し分かりやすいでしょう」
ネアが両手を広げた。
周囲へ薄く原光が放たれる。
攻撃でも防御でもない。
ただ、原光がどこからどこへ流れているのかをなぞるための力だった。
セトの目にも、淡い光の筋が見え始める。
山から下りてくるもの。
谷に沿って曲がるもの。
地面の下へ潜り、別の場所から現れるもの。
細い流れがいくつも重なり、窪地へ向かっていた。
「多いな」
シアが言った。
「ええ。これをすべて止めるのは簡単ではありません」
「王都にも、こんなにあるのか」
「もっと多いでしょうね」
「昨日は止めると言った」
「時間をかければできます」
「今は時間をかけられない」
「ですから、別の方法を探します」
ネアは窪地へ集まる光を指先で追った。
いくつもの流れは、そのまま兵器へ入っているわけではない。
途中で合流し、また分かれている。
地面の下を通るものは、岩盤によって進路を変えられていた。
「流れは、完全に自由ではありません」
「岩で止まるのか」
「止まるというより、通りにくくなります。原光は、より通りやすい場所へ集まります」
一本だけの道
ネアは術士たちに、周辺の地形図を広げさせた。
兵器が埋まる窪地。
左右の山。
古い川の跡。
発掘のために切り開かれた道。
地表の地図だけでは、原光の流れまでは分からない。
それでも、山と岩盤の位置は手掛かりになる。
「流れが一つしかない場所はないのか」
シアが尋ねた。
「この周辺で、ですか」
「ああ」
「ほかの流れが全くない場所という意味なら、ありません」
「では駄目か」
「いいえ」
ネアは地図の一点へ指を置いた。
「大きな流れが一本しか通れない場所なら、あるかもしれません」
「細いものは残る?」
「残ります。ただ、兵器が使う量を大きく減らすことはできるでしょう」
セトは地図をのぞき込む。
「その一本を止めれば、兵器へ入る原光を抑えられるのか」
「周囲から別の流れが入り込まないよう制御できれば」
「どれくらい止められる」
「場所を確認しなければ分かりません」
「探せるか」
「探します」
シアはすでに立ち上がっていた。
「どっちだ」
「まだ分かりません」
「早く探すぞ」
「そのために、まず地図を見ているのですが」
地図にない川
ネアは高台から原光を広げ、地面の下の流れを追った。
一度に広い範囲を見ると、細かな違いまでは区別できない。
範囲を狭め、少しずつ場所を移していく。
シアも同じことを試した。
だが、火へ変換する前の原光を薄く広げ、戻ってくる違いを読み取る作業は得意ではない。
「全部同じに見える」
「強く出しすぎです」
「弱くすると分からない」
「火へ変えないでください」
「変えていない」
「熱が出ています」
「少しだけだ」
「少しでも流れが変わります」
シアは不満そうに手を下ろした。
「ネアに任せる」
「最初から、その方が早かったと思います」
「わたしも調べた方が早いと思った」
「結果として遅くなりましたね」
セトと隊長は、二人の後ろで地図へ印を付けていた。
ネアが流れを確認するたび、細い線を書き加えていく。
地表には存在しない原光の川が、地図の上へ現れていった。
夕方には、窪地へ向かう流れのほとんどが判明した。
だが、一本だけになる場所は見つからない。
「ここにも二本あります」
ネアが新しい線を引く。
「近いだけで、別の流れです」
「その二本を同時に止めるのは」
セトが尋ねる。
「できます。ただ、兵器が強く吸い始めた場合、同時に制御し続けられるとは限りません」
「一本なら」
「より確実です」
埋められた場所
日が沈む直前、ネアが地図の端を見た。
「この線は、誰が引きましたか」
隊長がのぞき込む。
「発掘前の地形です。今は削られてなくなっています」
窪地の北側に、細長い高まりが描かれていた。
古い記録では、小さな丘だったらしい。
発掘を進める際、土と岩を取り除き、平らな道へ変えられている。
「その下を調べたいです」
一行は、発掘路となった場所へ向かった。
ネアが再び原光を広げる。
東と西から来ていた流れが、岩盤に押されるように集まっていく。
丘があった場所の下で、一つになる。
その先は窪地へ続いていた。
「一本だ」
シアが言った。
「ええ」
ネアは目を閉じたまま頷く。
「ここを通る流れが、窪地へ入る原光の中心です」
「止められるか」
「現在の状態では、流れが広がっています」
「丘が削られたからか」
「おそらく」
ネアは足元へ手を向けた。
「以前は、もっと狭い範囲を通っていたのでしょう」
「丘を戻せばいいのか」
隊長が尋ねる。
「同じものを作る必要はありません。原光を通しにくい土と岩を集め、流れを一か所へ寄せられれば十分です」
「兵士と術士を使えばできる」
隊長はすぐに伝令を呼んだ。
古い制御の痕跡
兵士たちが土と岩を運び始める間、セトたちは窪地の手前を調べた。
一本へ集まった原光は、そのまま兵器へ入っているわけではない。
窪地へ達する直前で、不自然に向きを変えていた。
「曲げられている?」
セトが尋ねた。
「そう見えます」
「兵器が吸っているからではないのか」
「それだけではありません」
ネアは地面へ手を触れた。
「古い制御の痕跡があります」
「誰のものだ」
「分かりません。ただ、兵器が作った流れではありません」
シアが周囲を見回す。
「月の力か」
「似ています」
「ネアがやったのか」
「わたしではありません」
ネアはきっぱりと答えた。
「この兵器が埋められた時代に、わたしはここへ来ていません」
「なら、昔の月の精霊王だ」
「可能性は高いですね」
ネアより前にも、月の精霊王は存在した。
役割と知識は受け継がれる。
だが、誰と戦い、どこで何をしたかという個人の記憶までは残らない。
「過去の月の精霊王が、原光の流れを変えた」
セトが言う。
「ええ」
「兵器へ入る原光を止めるためか」
「そう考えるのが自然でしょう」
流れを止めたあと
シアは窪地の方角を見た。
「月の精霊王が原光を止めた」
「おそらく」
「それだけで兵器を壊せるのか」
「止めるだけでは破壊できません」
「なら、ほかにもいた」
ネアがシアを見る。
「何がですか」
「戦った精霊王だ」
シアは地面へしゃがみ、原光の流れが集まる場所へ手を置いた。
「月の精霊王が流れを止める。そのあとに、ほかの精霊王が兵器を攻撃した」
「可能性はあります」
「外殻を壊して、中枢まで届かせるなら、強い攻撃が必要だ」
これまで倒した古代兵器も、外殻を破壊しただけでは止まらなかった。
再生を妨げながら、中枢へ攻撃を届かせなければならない。
この大型兵器も、基本的な構造が同じなら、必要になる役割も大きくは変わらない。
「イフリートか」
セトが尋ねた。
「ああ」
シアは頷く。
「火なら、外殻を焼いて壊せる」
「ほかには?」
「雷だ」
「雷の精霊王?」
「一点を突破する力が強い。硬いものを抜くなら、火より向いていることもある」
「月が流れを止め、火と雷が攻撃した」
セトが整理する。
「そうだったかもしれない」
シアは地面の下にある巨大兵器を見つめた。
「それでも、中枢は残っている」
なぜ破壊できなかったのか。
なぜ兵器は地中へ埋められたのか。
そこまでは分からなかった。
過去の精霊王たちが押し切れなかったのか。
攻撃が中枢まで届かなかったのか。
あるいは、別の理由があったのか。
残っているのは、原光の流れを変えた痕跡と、破壊されていない兵器だけだった。
同じ場所で戦う
「昔と同じことをするのか」
隊長が尋ねた。
「同じところまではできる」
シアが答える。
「ネアが原光の流れを止める。わたしとセトが攻撃する」
「絶光は使えないぞ」
セトが言った。
ネアが周囲の流れを制御するなら、精霊剣になることはできない。
セトが使える精霊剣は極炎だけになる。
「分かっている」
「これまでより大きい」
「それも分かっている」
「極炎だけで中枢まで届くか」
「やってみなければ分からない」
ネアが二人の間へ入る。
「戦う場所を選べるだけでも違います」
地図の上で、原光が一本へ集まる地点を示す。
「ここで流れを遮断します。兵器をこの付近へ誘導できれば、新しく入る原光を大きく抑えられます」
「止めたあとは、極炎で外殻を壊す」
セトが言う。
「国軍も援護する」
隊長が続けた。
「大砲と術士を集める。どれだけ大きくても、攻撃する場所を絞れば役には立つ」
「過去と違うところは、国軍がいることだな」
シアが言った。
「過去にも人間がいた可能性はあります」
「なら、今度はもっと多い」
シアは立ち上がった。
「月が止めて、火が壊す。雷はいないが、大砲がある」
「大砲を雷の代わりにするのか」
「硬いものを壊せるなら同じだ」
「かなり違うと思いますが」
「役割は同じだ」
ネアは少し考えたあと、否定しなかった。
誘導する道
問題は、兵器を原光の流れが一本になる場所まで動かせるかどうかだった。
現在埋まっている窪地と、流れを遮断しやすい場所は近い。
だが、同じ場所ではない。
兵器がそのまま真上へ出れば、封鎖地点から外れる。
ネアが中心の流れを止めても、別の場所から原光を取り込まれる可能性があった。
「出てきたら、ここへ誘導する」
隊長が地図に線を引いた。
窪地の北側。
削られた丘を作り直している場所の先に、広い岩場がある。
原光の中心となる一本を止めれば、岩場へ入る原光の大部分を遮断できる。
「どうやって誘導する」
シアが尋ねる。
「左右から攻撃し、進む方向を変えさせる」
「これまでより大きい」
「兵士を増やす」
「踏まれるぞ」
「近づかない。大砲と精霊術で遠距離から攻撃する」
セトは地図の線を見た。
兵器の進路に村はない。
だが、途中には森がある。
「森を通せば、シアの火が広がる」
「外殻だけを狙う」
シアが答えた。
「大砲の砲弾で木が倒れる」
「先に切り開く」
隊長は地図へ別の線を引いた。
「ここを誘導路にする。兵器が動き出す前に、周囲の木を倒す」
それぞれの役割
夜までに作戦がまとまった。
兵器が地上へ出る前に、周囲の住民を避難させる。
国軍は誘導路を作り、大砲と術士を配置する。
兵器が起動したら、左右から攻撃し、原光を遮断する岩場へ誘い込む。
ネアは、狭めた一本の流れを遮断する。
周囲から別の流れが入り込まないよう、原光の向きも制御する。
その間、ネアはその場所から動けない。
精霊剣にもなれない。
セトとシアは極炎で兵器の外殻を破壊する。
国軍も大砲と精霊術で攻撃する。
原光の供給を止めた状態で外殻を破壊し、中枢まで攻撃を通す。
それが、今考えられる唯一の方法だった。
「どれくらい流れを止められる」
高官が尋ねた。
「実際に兵器が原光を吸い始めなければ分かりません」
ネアが答える。
「途中で制御が崩れる可能性は」
「あります」
「兵器を止められない可能性も」
「あります」
高官は黙り込んだ。
前日のように、すぐ戦えとは言わなかった。
「王都からも大砲を送らせる」
やがて、それだけを言った。
「間に合うかは分からないが、使える兵はすべて出す」
原光を止める者
作戦会議が終わったあと、セトはネアを呼び止めた。
「流れを止めている間、ネアは大丈夫なのか」
「問題ありません」
「兵器が原光を引けば、その力とぶつかるんだろ」
「そうなりますね」
「どれくらい持つ」
「実際にやってみなければ分かりません」
「本当に問題ないのか」
「長時間になれば、負担は増えます」
「なら、ほかの術士と交代できないか」
「原光の中心を精密に止めるなら、わたしが適任です」
「ほかの術士では」
「流れを弱めることはできます。しかし、兵器が強く吸えば崩される可能性があります」
シアも近づいてくる。
「倒すまで持たせろ」
「簡単に言いますね」
「わたしも倒すまで壊し続ける」
「セトが先に動けなくならないようにしてください」
「今回は一本だけだ」
「一本でも、極炎を使い続ければ負担はあります」
「分かっている」
シアはセトを見る。
「無理なら言え」
「シアもな」
「わたしは言う」
「言わないだろ」
「セトよりは言う」
ネアが小さく息を吐いた。
「二人とも、限界になる前に言ってください」
戻された丘
翌朝までに、原光の流れを狭める作業が終わった。
かつて丘があった場所に、土と岩が積まれている。
昔と同じ形ではない。
人が作った、長く低い壁だった。
原光を通しにくい岩を外側へ置き、内側へ土を詰めている。
術士たちは壁の形を保つために精霊術を使った。
兵器が起動した後も、可能な限り形を維持する予定だった。
ネアが壁の前へ立つ。
目を閉じ、原光の流れを確かめる。
東と西から来ていた大きな流れが、壁に沿って集まっていく。
狭い一点を通り、窪地へ向かう。
「一本になっています」
ネアが言った。
「止められるか」
セトが尋ねる。
「ええ」
ネアは指先を流れへ触れさせた。
ほんの一瞬だけ、原光の向きを横へ変える。
窪地へ向かっていた淡い光が途切れた。
地面の下から響いていた振動が、わずかに弱くなる。
すぐにネアは手を離した。
原光が元の流れへ戻る。
振動も戻った。
「止まったな」
シアが言う。
「一瞬だけです」
「本番では止め続ける」
「ええ」
「なら、あとは壊すだけだ」
ネアは窪地の方角を見た。
「それで終わるかどうかは、まだ分かりません」
「終わらせる」
シアは迷わず答えた。
過去と同じ場所
兵士たちが誘導路の両側へ配置につく。
大砲は、原光を止める岩場を囲むように並べられた。
過去の精霊王たちも、この場所で戦ったのかもしれない。
月の精霊王が原光の流れを変える。
火の精霊王が、強い炎で外殻を壊す。
雷の精霊王が、一点を突破する。
そこまでは想像できる。
だが、なぜ中枢を破壊できなかったのか。
なぜ最後には兵器を地中へ残したのか。
その答えは、まだ地面の下にあった。
「今度は中枢まで届かせる」
シアが言った。
「ああ」
セトは頷く。
「過去の精霊王たちが何をしたのか、全部は分からない」
「なら、戦いながら確かめる」
ネアは、原光の流れが一本になる場所へ立った。
「できれば、確かめずに終わってほしいところですが」
「終わればそれでいい」
「それには同意します」
その直後、窪地の方角から大きな音が響いた。
土と岩が崩れる音。
地面の奥で、巨大なものが身じろぎする音。
見張りの兵士が、高台から叫ぶ。
「亀裂が広がっています!」
隊長が腕を上げた。
「全員、配置につけ!」
兵士たちが大砲へ走る。
術士たちが、誘導路の左右へ散った。
「予定どおり、原光の止まる場所へ誘導する!」
ネアは一本へ集められた原光の前へ立つ。
セトはシアの隣へ並んだ。
過去の月の精霊王が、原光の流れを変えた場所。
火と雷の精霊王が、巨大兵器を攻撃したかもしれない場所。
そこで今度は、セトたちが最後の古代兵器を迎え撃つ。
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エレメンタルクロス ~精霊の剣~ TOPへ

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