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星華
終焉の炎。
その向こうに、太陽。
二つは、一本の射線上へ並んでいた。
終焉の炎の再生は、ほとんど終わっている。
四枚の赤い翼が広がり、胸部の砲口へ原光が集まっていく。
先に撃たれれば、苦労して整えた射線が崩れる。
セトは右手の極炎と左手の絶光を握り直した。
シアが七つの赤い分霊核を広げる。
ネアの七つの黒い分霊核も、別々の位置へ動いた。
右手の精霊剣を含む八つの赤。
左手の精霊剣を含む八つの黒。
十六の射点が、終焉の炎を捉えた。
『準備できた』
シアの声が右手から伝わる。
『こちらも問題ありません』
左手のネアも続いた。
終焉の炎の胸部で、赤い光がさらに強まる。
セトは十四個の分霊核の位置を確認した。
赤と黒を同じ力へ変えるのではない。
二つの異なる流れを、それぞれ保ったまま、同じ瞬間へ合わせる。
分霊核の位置。
二本の精霊剣の向き。
終焉の炎までの距離と、その向こうにある太陽。
どれも、誘導を終えて射線をそろえた時からずれていない。
精霊回路は増大する負荷に合わせて流路を変え、赤と黒を滞らせずに通していた。
胸部に集まる赤い原光は、さらに勢いを増している。
シアとネアが射点の向きを微修正すると、セトも最後尾から軸を合わせた。
十六門の一つでも向きが外れれば、削るべき範囲へ力が届かなくなる。
終焉の炎の砲口で、赤い光が弾けた。
「星華!」
八本の赤い線と八本の黒い線が、同時に宇宙を走った。
赤い火が肉体を貫き、黒い月が原光の流れを分断する。
胸部の砲口は撃ち返す前に消え、四枚の翼が切り離された。
頭部、腕、胴体も、赤と黒の光の中で失われていく。
十六本の線が異なる位置を通り、巨体の中心までも削り取った。
赤い巨体が消えた。
中心へ集まっていた原光も、一度は途切れる。
だが次の瞬間、何も残っていないはずの位置へ小さな赤い光が現れた。
周囲から原光が届くより早く、表の核と呼んだ中心が戻っている。
「やはりほぼ一瞬で修復するのか。ただ、核の周りの質量は大幅に削れた」
『次』
シアが短く促した。
「ああ」
星華の目的は果たした。
表の核を守る肉体がない今なら、次の一撃を直接通せる。
再生が広がる前に、もう一つの大砲撃へ移る。
星穿
セトが、表の核から太陽へ続く射線を示した。
シアとネアが、それぞれ七つの分霊核を動かす。
今度は終焉の炎を囲まない。
赤と黒の核が、セトと表の核を結ぶ一本の線へ移動していく。
最もセトに近い位置へ一つ。
その前へ、次の一つ。
十四個の分霊核が、互いの力を通せる間隔を保ちながら一直線に重なった。
セト自身も最後尾へ移動し、右手の極炎と左手の絶光を同じ方向へ向ける。
二本の精霊剣。
十四個の分霊核。
十六門すべてが、一本の射線に並んだ。
星華の負荷がまだ回路に残っている。
赤い流れが増えれば、空いた部分へ道が広がる。
黒い流れが続けば、別の経路がそれを受け止める。
ヴァルナに再調整された回路は、二本の精霊剣から届く力を止めなかった。
ただし、負荷が消えるわけではない。
セトは八翼の安定を確かめながら、最後の射点まで意識を通した。
赤い核も黒い核も、動かしているのは二人だ。
セトは二つの流れが同じ線から外れないよう、全体の位置と負荷に意識を向けた。
別々の砲撃を同じ場所へ繰り返すのではない。
一つの砲撃を十六門へ通し、それぞれの門が力を加える。
広げず、散らさず、一本へ集める。
双天・星穿のためにそろえた配置だった。
表の核から赤い筋が伸びる。
失われた肉体が作り直されようとしていた。
セトは二本の剣へ力を流した。
「双天!」
『星穿!』
シアとネアの声が重なった。
二本の精霊剣から放たれた赤と黒の力が、一つの砲撃となって射線へ入る。
最初の分霊核を通過する瞬間、その核の出力が加わった。
続く核も同じ流れへ力を重ねる。
次の核。
その次の核。
十四個を抜けるたび、光は細さを保ったまま密度と速度を増した。
十六門分の力が一本へ集約され、双天・星穿が終焉の炎を貫いた。
再生しかけた肉体が消し飛ぶ。
表の核も中心を貫かれた。
だが、核は同じ位置へ戻る。
その瞬間、維持された射線が再び核を貫いた。
壊れる。
戻る。
戻った直後に、また貫かれる。
ほとんど一瞬のうちに破壊と修復が繰り返され、そのたびに核へ太陽方向の速度が加わった。
赤い光が激しく明滅しながら加速する。
そして、太陽の白い輝きへ突入した。
赤い光は白の中へ飲み込まれ、見分けられなくなる。
射線が途切れても、核へ与えた速度は残った。
表の核はそのまま、太陽の内側へ落ちていった。
淡緑色の二翼
『落ちた』
シアが言った。
「まだ終わってない」
セトは太陽から意識を外さなかった。
表の核が落ちたことと、消滅したことは違う。
太陽の中で再び核が形成され、終焉の炎の肉体まで戻る可能性は残っている。
少なくとも、そこを確かめるまでは帰れなかった。
その時、背後の八枚の翼が大きく揺れた。
赤と黒の輪郭が繰り返し明滅する。
双天・星華に続けて双天・星穿を放った負荷が、セトの精霊回路へ押し寄せていた。
流路の偏りは抑えられていても、通した力の量までは減らせない。
『セト、流れが崩れてる』
「分かってる」
『これ以上維持する必要はありません』
「ああ。二人とも離れてくれ」
二本の精霊剣が光へ変わった。
セトの八翼が消え、右手の赤い光はシアの人型へ戻る。
左手の黒い光もネアの姿を取り戻した。
二人の背にはそれぞれ四翼が開き、十四個の分霊核は七つずつ二人の周囲へ分かれる。
翼を失ったセトの身体が、わずかに太陽方向へ流れた。
「フィオラ!」
「はい!」
待機していたフィオラが飛び込み、淡緑色の光となった。
一本の翔嵐がセトの手に収まり、背中へ二枚の翼が開く。
フィオラの流れが精霊回路へ入り、崩れかけた姿勢を整えた。
この場での二翼の役目は、戦い終えたセトを支え、観測を続けられる状態へ戻すことだった。
『大丈夫ですか?』
「ああ。回路は壊れてない」
『疲労は?』
「ある。でも、観測はできる」
二翼は周囲の原光を循環させ、呼吸に必要な空気と生命維持のための力を補った。
体温と水分も保たれている。
セトは身体の周囲の薄い水膜を保ち、急激な温度変化にも備えていた。
だが、呼吸と生命維持を支えているのは、フィオラの原光循環だ。
人間であることは変わらない。
飲食せずに身体を維持できても、睡眠や精神的な疲労まで不要になったわけではなかった。
「このまま付き合ってくれ」
『もちろんです』
四人は太陽から少し距離を取った。
シアが赤い防御を広げ、ネアが周囲の原光の動きを確認する。
セトはフィオラの二翼で進路を保ち、観測に適した位置へ移動した。
白い光の内側
太陽は、遠くから見ても視界を白く埋めた。
近づけば、表面とその向こうを見分けることさえ難しい。
まして、落とした核がどのような姿をしているかなど、目で確かめることはできなかった。
セトは光そのものではなく、原光の流れへ意識を向けた。
太陽の内側では膨大な流れが絶えず動き、方向も強さも一定ではない。
そこへ混じった小さな異常を、一つずつ確かめていく。
落とした核の位置も、完全には追えない。
最後に見えた進路を手掛かりに、可能性のある範囲を絞るしかなかった。
太陽がもともと持っている揺らぎを、核の再生と取り違えてはいけない。
小さな乱れが見えても、それが何によるものかを確かめる必要があった。
見つからなければ終わりという話でもない。
確認できない範囲に、まだ核が残っている可能性もある。
「何か分かる?」
シアがセトの横へ来た。
「太陽そのものの流れが強すぎる。まだ、はっきりしない」
「じゃあ、もう少し近づく?」
「近づけば、フィオラの負担も増える。まず、この位置で探す」
ネアはシアと反対の側へ移り、別の方向から原光を追った。
二人の精霊王が感じるものと、セトが精霊回路で捉えるものは完全には同じでない。
だからこそ、一人の見落としを別の者が確かめられる。
しばらくして、セトは一か所で生じた小さな乱れを捉えた。
周囲の流れから少しずれて、原光が同じ中心へ寄っている。
終焉の炎が再生を始める時に見せた動きによく似ていた。
「ここだと思う」
「私も近い位置に乱れを確認しました」
ネアが応じた。
シアは赤い四翼を広げたまま、太陽の方へ身構える。
「また出てくる?」
「分からない。でも、これが表の核なら、再生しようとしてる」
セトは視線を動かさずに答えた。
ここで再生を確認したとしても、作戦が失敗したことにはならない。
問題は、核が太陽の中で形を保てるかどうかだった。
同じ場所の乱れ
小さな乱れは、少しずつ周囲の原光を集めた。
以前なら、その中心から赤い筋が伸び、胸部や四翼へと肉体が作られていった。
だが、太陽の内側では形が定まらない。
集まった流れが一つへまとまる前に、外側から崩される。
「戻った」
「見えるのか?」
シアが尋ねた。
「形は見えない。でも、同じような中心ができてる」
「また、こっちへ飛び出してきたりしない?」
「今はその兆候がない。肉体を作る前に、流れが崩れてる」
ネアも原光の変化を確認していた。
中心に集まる動きが途切れた直後、同じ辺りに似た流れが生まれる。
そして、もう一度崩れた。
観測できるのは原光の変化までで、核の輪郭そのものではない。
それでも、繰り返す順序は終焉の炎の再生に似ている。
「予想どおりです」
ネアが言った。
「表の核を戻しても、維持できていません」
「じゃあ、もう一発撃てば終わる?」
「いや。いま撃つ必要はない」
セトは首を振った。
追加の砲撃が届くまでに核が別の場所へ移る可能性もある。
それより、何もしなくても中心が崩れている事実の方が重要だった。
太陽の中では、再生すること自体が肉体を保つ結果につながらない。
シアはまだ納得しきれない様子だった。
攻撃を止めれば、相手は必ず元へ戻る。
それを何度も見てきたからこそ、今も動かずに待つことの方が落ち着かなかった。
それでも、セトの言葉を聞いて分霊核を動かすことはしなかった。
「何回くらい続けば終わる?」
「分からない。一度で戻すのをやめるなら、もう終わってる」
「なら、待つしかないな」
シアは太陽を見た。
中心が現れては崩れ、また現れる。
四翼も砲口も腕も作られない。
終焉の炎は、再び巨体へ戻ろうとするたび、同じ壁にぶつかっていた。
核の再生を止めているのが何なのか、セトにはまだ分からなかった。
ただ、壊し続けなければならなかった戦いが、観測し続ける時間へ変わったことだけは確かだった。
交代の観測
どれほど待っても、乱れが完全に止まる様子はなかった。
太陽の内側で中心が現れ、崩れ、また現れる。
セトはそのたびに時刻と変化を覚えようとしたが、地上のように報告用紙を広げられる環境ではない。
数を追うだけでも集中力が必要で、やがて目の奥が重くなってきた。
『セトさん、休んでください』
「もう少しだけ見ていたい」
『先ほどから、同じ位置を何度も確認しています』
「分かった。少し眠る」
フィオラの二翼は生命維持のための循環を続けられる。
だが、頭の疲れまで消してくれるわけではない。
セトは翔嵐を握ったまま姿勢を安定させ、意識を休めた。
「観測は私が引き継ぎます」
ネアが太陽へ向き直る。
「シアは周囲を見ていてください。何かが近づいたら、まず知らせてくださいね」
「分かった。でも、核が戻ってきたら?」
「その時は私も気づきます。フィオラ、セトをお願いします」
『はい。変化があれば起こします』
シアの赤い四翼が、セトたちの少し前へ移った。
見える範囲に終焉の炎の巨体はない。
それでも、また現れる可能性を無視することはできなかった。
シアは攻撃する相手もいない方向をじっと見張った。
敵の動きを読むより退屈な時間だったが、セトが眠る間だけでも何も起こさせたくなかった。
ネアの方も、時折短く原光の変化を伝える以外は観測に集中していた。
しばらくして、フィオラがセトへ呼びかけた。
『セトさん、起きられますか』
「ああ。何かあった?」
『核に似た流れが、また現れました』
セトが太陽の方へ意識を向けると、乱れはすでに崩れ始めていた。
ネアが、その間に見た変化を手短に伝える。
セトの知らないところでも、観測は途切れていなかった。
「ありがとう。今度は俺が見る」
「では、私たちも少し力を抑えます」
ネアとシアが位置を入れ替える。
四人は役割を交代しながら、同じ場所を見守り続けた。
終わらない記録
時間が過ぎても、太陽の内側では同じような現象が繰り返された。
表の核に似た流れが集まる。
形を取りかけ、崩れる。
その後に訪れる静けさは、次の再生によって破られた。
セトは眠る前に確認した現象を、目覚めた後のネアの報告とつなぎ合わせた。
観測者が違えば、細かな見え方も変わる。
だから、自分が見ていなかった時間に何が起きたかを、勝手に補わない。
確認できた再生と、確認できなかった間隔を分けて覚える。
地上で天文記録を作っていた時と、やることは変わらなかった。
「昨日より、静かじゃないか?」
シアが尋ねる。
「静かな時間もある。でも、再生が止まったとは言えない」
「毎回、同じ答えだな」
「同じ現象が起きてるからな」
太陽から離れすぎれば、小さな原光の乱れを捉えにくくなる。
近づきすぎれば、位置を保つための負担が増える。
四人は無理に接近せず、観測できる範囲で距離を調整した。
フィオラがセトの体温と水分を保ち、必要な力を補っている。
それでもセトは眠り、目を覚まし、再び観測へ戻らなければならなかった。
見つけた回数を増やすことより、何を確かめられなかったのかを忘れない方が難しい。
眠っている間に中心が現れても、セト自身がそれを見たことにはならない。
ネアの報告を聞き、二人で確認できた範囲をつなぎ合わせた。
何日も、同じ場所で過ごした。
次に気づいた時には、それが何週間にもなっていた。
セトが知っている地上の暦で、およそ一か月が過ぎようとしている。
シアとネアにとっての一年近い戦闘に、さらに長い待機が重なった。
「まだ戻る」
「ええ。また同じ流れです」
赤い巨体が現れたわけではない。
四人の誰も、再び攻撃を放ってはいなかった。
それでも核に似た乱れが残る限り、セトは帰ると決められなかった。
不規則な間隔
表の核に似た流れが崩れてから、次の乱れが現れるまでの間隔は一定ではなかった。
ほとんど途切れずに現れる時もあれば、しばらく何も感じられない時もある。
セトはその違いが再生能力の変化を示しているのか確かめようとした。
最初は、長い空白が増えているようにも思えた。
太陽の中で何度も破壊され、再生の力が弱まっているのかもしれない。
だが、長く途切れた直後に、短い間隔で続けて現れることもあった。
ただ時間の長さだけを比べても、一つの規則にはならない。
「長く戻らなかった時もあるんだろ?」
シアが尋ねる。
「ああ。でも、その次はすぐ戻った」
「じゃあ、戻る力が減ってるってことじゃないのか」
「まだ分からない」
ネアが別の方向から原光を確かめた。
太陽内部の大きな流れに、小さな乱れが紛れ込むこともある。
見えなかった時間がそのまま再生していなかった時間とは限らない。
「見つけられなかっただけ、という可能性も残ります」
「それだと、いつ終わったか分からないじゃないか」
「ですから、複数の位置から確認しているのです」
シアは不満そうに太陽を見た。
その間にも、新しい流れの中心が現れた。
セトとネアがほぼ同時に気づき、すぐ後に崩れたことを確かめる。
「今のは、かなり短かったな」
「ええ。ですが、次がいつ現れるかまでは予測できません」
「予測できないなら、何を待つ?」
「戻らないことを確認できるまでだ」
セトは答えながら、自分でもそれが簡単ではないと分かっていた。
今まで何度も戻ってきた敵を、次は戻らないと判断するには、ただ長く待つだけでは足りない。
流れを追い続け、別の場所にも同じ兆候がないことを確かめる必要がある。
長い空白が続けば続くほど、もう終わったのではないかと期待してしまう。
その直後にまた流れが現れると、どこかで落胆する自分がいる。
期待や落胆を理由に、次の一回を見逃すわけにはいかなかった。
それでも、帰還を急いで判断を誤るよりはよかった。
四人があの星へ戻る時、終焉の炎まで連れ戻すわけにはいかなかった。
長い空白
ある時、表の核に似た流れが消えた。
崩れ方は、それまで何度も見たものと変わらない。
集まった原光がほどけ、周囲の大きな流れへ紛れていった。
セトは次に現れる中心を探し始める。
短い時間が過ぎた。
何もない。
しばらく待っても、同じ乱れは生まれなかった。
「終わった?」
「まだ決められない」
セトは太陽から意識を外さなかった。
これまでにも、再生までの間隔が長い時はあった。
今回だけが特別だと判断する根拠はない。
ネアが観測する方向を少し変えた。
セトたちの位置を基準にした一か所だけを見ていても、流れが別の位置で現れれば見逃してしまう。
シアは四翼を広げ、太陽から何かが出てこないかを警戒した。
フィオラは精霊剣のまま、セトの姿勢と生命維持の循環を保っている。
「何も見つからないのは、いいことなんだろ?」
シアが言った。
「ああ。だが、確認できないことと、存在しないことは違う」
「何度でも戻ってきたからな」
「今度も戻るなら、また最初から観測するだけだ」
太陽の光は少しも弱まらない。
その中に、以前とは違う何かが隠れているようにも見えない。
それでも四人は、目に見えない小さな変化を待ち続けた。
いつもなら赤い中心が戻ってくる頃には、シアが次の攻撃の向きを考えていた。
今はその必要がない。
何も起きないまま待っているという事実が、かえって落ち着かなかった。
シアは太陽の方へ少し進みかけ、すぐに元の位置へ戻った。
観測を交代しても、報告は同じだった。
流れの中心は現れない。
以前に長く途切れた時より、さらに長い空白が続いている。
「今なら、終わったと言ってもいいんじゃないか」
シアの声に、セトはすぐには答えなかった。
期待していないわけではない。
だが、期待で観測の結果を変えることもできない。
セトはネアの方を見た。
ネアは、まだ太陽から視線を離していなかった。
戻らない核
流れの中心が消えてからも、四人は観測を続けた。
太陽の内部では、膨大な原光が絶えず動いている。
その中から、終焉の炎に特有の流れだけを探す。
セトは最後に表の核が現れた辺りを追い、ネアは別の方向から確認した。
シアは、赤い光が再び飛び出してきた場合に動ける位置で待っていた。
フィオラも翔嵐の内側から二翼を循環させ、セトの身体と観測位置を支え続ける。
誰かが見失った時には、ほかの者が同じ範囲を確かめた。
それでも、新しい中心は見つからなかった。
これまでのような短い空白を超えても、結果は変わらない。
何度か観測位置を変え、別の方向から確かめ直したが、終焉の炎に似た流れは戻らなかった。
「もう、流れはありません」
ネアが言った。
「私の方でも見つからない」
シアも太陽から視線を外した。
セトはもう一度だけ、最後に核が現れた位置へ意識を向ける。
再形成される兆候はない。
周囲から原光が集まる動きも、肉体が作られる動きも見つからなかった。
「回数か、時間かは分からないが」
セトはゆっくりと言った。
「再生が困難として、裏の核が表の核を手放したみたいだ」
『裏の核も消えたのですか?』
右手の翔嵐から、フィオラが尋ねた。
「分からない」
セトは答えた。
「消えたのか、どこかに残ってるのか、それも分からない。ただ、表の核は戻らない」
「なら、終焉の炎は?」
シアの問いに、セトは太陽の流れを改めて確かめた。
裏の核の正体も、再生が止まった理由も分かっていない。
それでも、今この空間へ肉体を戻す働きが途絶えたことは、四人の観測で確認できている。
「完全に消滅したと見ていい」
長く続いた戦い。
さらに続けた観測。
何度破壊しても戻ってきた終焉の炎は、もう再生しなかった。
シアはしばらく太陽を見ていた。
自分を内部へ閉じ込めていた肉体も、自分から力を奪い続けた流れも、今は見つからない。
やがてシアは、自分の両手へ視線を落とす。
指を動かし、手のひらを開いた。
終焉の炎の一部ではない。
イフリートという機能でもない。
今ここにいるのは、シアだった。
帰る場所
「シア」
セトが名前を呼んだ。
シアは両手を下ろして顔を上げる。
「ん?」
「帰ろう」
シアは一度だけ目を見開いた。
それから、大きく笑った。
「うん。帰る」
ネアも表情を緩めた。
「ようやくですね。一年近く戦って、さらに一か月待ちました。地上へ着くまで、余計なものとは戦いたくありません」
「何か来たら?」
「避けます」
「ネアが?」
「シアが避けてください」
「私が戦う流れじゃない?」
「戦わないと言ったばかりです」
『お二人とも、帰り道で争わないでください』
フィオラの声が翔嵐から聞こえた。
「争ってない」
「通常の会話です」
『その通常に一年近く付き合っていなかったので、判断がつきません』
セトは小さく笑った。
こうして三人のやり取りを聞くのも、ずいぶん久しぶりだった。
戦闘中は互いの位置と敵の動きばかりを確かめていた。
今は、次の砲撃を急ぐ必要も、逃げ道を探す必要もない。
シアとネアがいつもの調子で言い合うことが、少しだけ懐かしかった。
相手の命を気にして声を張り上げる必要はない。
返事が来るかどうかを心配せずに呼びかけられる。
それだけのことが、セトにはずいぶん長く失われていたように思えた。
「フィオラ」
『はい』
「地上へ戻ったら、何か食べたい」
『では、温かいものにしましょう』
宇宙では、フィオラの二翼がセトの身体を支えていた。
空腹で倒れることはなくても、食事の味や湯気まで忘れたわけではない。
セトは、地上で食べるものを思い浮かべた。
「一か月分?」
シアが尋ねた。
『一度に食べれば、別の意味で危険です』
「フィオラまでネアみたいになった」
「正しい指摘をしただけでしょう」
「続きは帰ってからにしろ」
セトは太陽へ背を向けた。
遠くに、青い星がある。
シアとネアが終焉の炎を追って離れた星。
セトとフィオラが、二翼で飛び出した星。
戦う場所ではない。
戻る場所だった。
シアの赤い四翼が開いた。
ネアの黒い四翼も並ぶ。
セトの背中では、フィオラの淡緑色の二翼が穏やかに光っていた。
帰路に並ぶ翼
「競争する?」
シアが、青い星を指さして言った。
「セトとフィオラを置いていくので却下です」
『私はセトさんと一緒ですので、置いてはいかれません』
「じゃあ、ネアを置いていく」
「帰還直前に、また長期戦を始めたいのですか?」
「やめとく」
シアは赤い四翼の勢いを抑えた。
そのまま飛べば、セトたちよりずっと先へ出られる。
だが、今は誰より先に到着する必要などなかった。
ネアも黒い四翼を広げ、三人と進む方向をそろえる。
セトは翔嵐を握り、淡緑色の二翼へ進路を示した。
フィオラが原光を循環させ、直線へ向けた流れを安定させる。
出発した時とは違い、前方にはシアとネアがいる。
四翼二人は、速度を上げすぎずにそのまま並走した。
戦っている間は、相手の攻撃を避けるため、二人の距離は何度も変わった。
片方が前へ出れば、もう片方が追う。
そうして動き続けた二つの光が、今は淡緑色の翼を挟んで同じ速さを保っている。
「ずいぶんゆっくりだな」
シアが振り向く。
「先に行っててもいいぞ」
「それじゃ競争する相手がいない」
「ネアがいるだろ」
「私は参加しません」
「ほら」
シアが笑った。
セトは答えずに進路を保った。
追うべき敵の赤い光は、もう前方にない。
動いているのは、シアの赤、ネアの黒、フィオラの淡緑だけだった。
振り返れば、太陽はまだ大きく輝いている。
その中で何が起きたのか、すべてを知ることはできなかった。
それでも、四人で確かめた結果は変わらない。
核は戻らず、終焉の炎の巨体も現れない。
これまでの長い戦いでは、二つの光が敵を追い、敵の攻撃を避けるために動いていた。
今は三つの光が、同じ速さで一つの方角へ進んでいる。
誰かを倒すためではない。
帰るためだった。
観測室の空白
地上では、宇宙の戦いを追う観測が続いていた。
太陽に近い方向を見られない時間が多く、報告書には空白が増えている。
見えない時間を、戦いが終わった時間だと決めることはできない。
それは、長い観測を続けた担当者たちが何度も確かめてきたことだった。
ある日、観測筒の先に小さな光が現れた。
少し離れた場所にも、別の光が見える。
さらに離れた位置には、もう一つ。
以前の三つとは色の組み合わせが違っていた。
赤と黒に加え、淡緑色の光がある。
観測筒をのぞいていた担当者が、星図を広げる同僚へ尋ねた。
「この位置、前の記録と合いますか?」
「最後の観測位置からは、かなり離れています」
「戦場そのものが動いていたはずです。向きを比べてみましょう」
担当者たちは時刻の異なる星図を並べた。
観測できない間に何が起きたかは分からない。
太陽の近くで、終焉の炎がどのような攻撃を受けたのかも分からなかった。
新しく見える淡緑色の光が、どの瞬間に二人へ加わったのかも追いきれていない。
最初の報告だけを読んだ者は、光の正体まで断定しようとはしなかった。
これまでも赤い光が一つ消えたように見えて、次の夜にはまた現れたことがある。
何が見えたかと、何が起きたかを分けて記すやり方は、今も変わらない。
別の観測設備からも、三つの光について記録が届き始めた。
それぞれが見えた位置を重ねると、光はほぼ同じ方向へ進んでいる。
互いに追いかけ合う時のような不規則な動きではない。
進行方向を示す線が、少しずつ青い星へ近づいていた。
「こちらへ向かっています」
記録係が、まだ照合していない紙を押さえた。
「まだ確定はできません。次の位置を待ちましょう」
担当者は、報告書へ新しい点を記した。
そこから先に線を延ばしすぎない。
ずっとそうしてきたように、確認できる位置だけを残した。
次の観測でも、三つの点は同じ方向へ進んでいた。
別々に動くことも、急に戦場へ引き返すこともない。
担当者の一人が椅子から立ち上がった。
何が起きたのかは分からない。
だが、向かう先だけはもう見間違えようがなかった。
地上へ向かう光
その日も、地上の観測設備では望遠鏡が空へ向けられていた。
一年以上、途切れ途切れになりながらも続けられてきた観測だった。
太陽の近くにあった終焉の炎と思われる赤い光は、もう確認できない。
代わりに、三つの小さな光が同じ方向へ動いていた。
赤。
黒。
淡緑。
「帰ってきます!」
観測室に声が響いた。
誰かが椅子を倒した。
誰かが記録用の紙を落とした。
それでも、すぐに拾おうとする者はいなかった。
望遠鏡をのぞく者。
隣の部屋へ知らせに走る者。
窓の外へ飛び出し、まだ肉眼では見えない空を見上げる者。
観測を続けていた者たちが、次々に動き始める。
歓声は観測室から廊下へ広がった。
ほかの観測設備へも、三つの光が帰還を始めたという知らせが伝えられていく。
誰もが、あの光の正体を細部まで確認できているわけではない。
それでも、長い間追ってきた光の行き先が変わったことは分かった。
最初に赤と黒の光が星を離れた時、地上に残った者たちは、戦いがどこまで続くのか知らなかった。
途中で淡緑色の光が加わっても、救援が成功したのか、新たな戦いが始まったのかさえ分からなかった。
毎日の観測でできたのは、見える光がまだ消えていないと確かめることだけだった。
戦いが終わったことを、地上の人々はまだ知らない。
終焉の炎が完全に消滅したことも知らない。
太陽の近くで何が起きたのかも分からない。
それでも、一つだけ確かなことがあった。
三つの光は、同じ星へ向かっている。
その中にいる四人は、生きて帰ってくる。
遠い宇宙を、赤と黒と淡緑の光が進んでいた。
その先には、四人が帰るべき星があった。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ TOPへ

自サイト版では人物紹介・用語集・設定資料などをまとめていますが、
”カクヨム”、”小説家になろう”ではフォロー、応援、レビュー、コメントなどができます。
気に入っていただけた方は、”カクヨム”、”小説家になろう”でも応援していただけると嬉しいです。
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