

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。
岩の中で動くもの
採石場の奥から、低い音が響いていた。
地面が小さく揺れる。
崖を崩して塞いだ場所から、石が一つ転がり落ちた。
少し間を置いて、また音がする。
古代兵器は止まっていない。
積み重なった岩の向こうで、外へ出るために動き続けている。
「どれくらい持つ」
セトが尋ねた。
ローディアの隊長は、崩れた崖を見上げた。
「分からん」
「見当もつかないのか」
「兵器を閉じ込めるために崩したわけではない。元から亀裂のあった崖を落としただけだ」
岩の隙間から、淡い光が漏れている。
光は次第に強くなっていた。
「夜までは持たないだろう」
日はすでに西へ傾いている。
古代兵器を採石場へ誘導してから、まだ半日も経っていなかった。
周囲では、兵士たちが負傷者を運んでいる。
動ける者は投石機を移動させ、術士たちは少しでも力を戻そうと休んでいた。
隊長が地図を地面へ広げる。
「西には村がある。北は街道だ。南の森の先にも集落がある」
「東は発掘現場か」
「ああ」
「兵器が戻る可能性は?」
「分からん。どこを目指しているのかも不明だ」
古代兵器は、攻撃を受ければ反撃する。
進路を塞ぐものがあれば破壊する。
そこまでは分かっている。
だが、なぜ移動しているのかは分からなかった。
「追加の兵は呼んだ」
隊長が言った。
「二百ほど来る」
「増えても倒せない」
シアが即座に答える。
隊長の顔が険しくなった。
「分かっている」
前の戦いで、兵士たちの攻撃がまったく効かなかったわけではない。
投石機は装甲をへこませた。
術士の攻撃は内部の部品を破壊した。
それでも、古代兵器は倒れなかった。
壊した場所を、原光から作り出した新しい部品で埋めてしまうからだ。
「人を増やすより、村の避難を急がせた方がいい」
セトが言う。
「そちらも進めている」
「発掘現場は?」
「試験を中止し、残っているものには触れるなと伝令を出した」
「それだけでは足りません」
ネアが言った。
「何がだ」
「調査隊も兵士も、遺跡の外へ出してください」
隊長がネアを見る。
「あそこには、まだ調べるものが残っている」
「その結果が、あれです」
ネアは崩れた岩の向こうへ目を向けた。
「一体でも止められていません。次を動かしてから考えるのでは遅いでしょう」
隊長は少し黙った。
やがて、近くにいた兵士を呼ぶ。
「発掘現場へもう一人走れ。調査隊を含め、全員を遺跡の外へ退避させろ」
「しかし、責任者の許可は」
「俺の名を出せ。何か言われたら、あの兵器を見に来いと伝えろ」
「分かりました」
兵士が走っていく。
その直後、採石場の奥から大きな音が響いた。
崩落の一部が外側へ膨らむ。
岩の隙間から漏れる光が、さらに強くなった。
足りなかったもの
三人は、採石場を見下ろせる高台へ移動した。
崩れた岩の向こうへ、原光が集まり続けている。
空から。大地から。森や川のある方角から。
何本もの細い流れが、古代兵器のいる場所へ引かれていた。
「閉じ込めても吸えるのか」
セトが言った。
「ええ」
ネアが答える。
「岩や土で囲んでも、原光の流れは止まりません」
「あれは中で元に戻っている」
シアが言う。
「前に壊した場所も、もう残っていないかもしれないな」
「その可能性が高いです」
セトは前の戦いを思い返した。
最初の極炎で、古代兵器の側面を大きく破壊した。
装甲だけではない。
内部の骨組みや管もまとめて切り裂いた。
それでも、次の大きな一撃を放てるようになる頃には、破壊した場所の大半が戻っていた。
二度目の攻撃では、正面の装甲を割った。
その奥にある核も露出させた。
だが、核は見えない防御壁に守られていた。
「装甲は壊せる」
セトが言った。
「ああ」
「核も見つけた」
「ああ」
「だが、装甲を壊している間に、前に壊した場所が戻る」
「核を守る壁もある」
シアが付け加える。
「一つずつなら壊せるかもしれない」
セトは採石場の奥を見る。
「だが、一つを壊している間に、前の一つが戻る」
装甲を破る。内部を壊す。核を覆う壁を破る。核そのものを破壊する。
必要なことは分かっている。
だが、そこへ至るまでの時間が足りない。
「原光を吸わせなければいい」
シアが言った。
「それは試しました」
ネアが答える。
「近くの流れを曲げても、別の方向から入ってきます」
「もっと近づけば?」
「強く妨害できます。ですが、あの兵器全体を覆うほど広くはありません」
「少しでも再生が遅くなれば、前より先へ進める」
セトは左手を開いた。
黒い刀身が伸びる。
「黒刃も、吸う力だ」
周囲を流れていた微かな精霊力が、黒い刃へ引かれていく。
ネアが黒刃を見る。
「白い方も出せますか」
セトは右手に白刃を作った。
白と黒。二本の剣状精霊術が、左右の手に現れる。
ネアはしばらく二本を見比べた。
「剣状精霊術を使う一族なのですね」
「ああ」
「白い方は、力を外へ出す剣ですか」
「周りから集めた力を放つ」
「黒い方は?」
「吸収する」
「でしたら、黒い方は使えるかもしれません」
黒い方
ネアが黒刃へ近づく。
「何をする」
セトが尋ねた。
「そこへ、わたしの力を重ねます」
「黒刃に?」
「乗るだけ乗せます」
「何ができるようになる」
「原光を吸う力が強くなるはずです」
ネアは黒刃の周囲を流れる力を見ている。
「それに加えて、反射と偏向もある程度使えるでしょう」
「反射と偏向?」
「原光の攻撃をすべて吸いきれなくても、流れを曲げられます。うまく向きを変えれば、相手の方へ返すこともできるかもしれません」
シアが白刃を見る。
「白い方には乗せないのか」
「乗りません」
「なぜだ」
「放出と吸収では、働きが反対です」
ネアは白刃を指した。
「白い方は、集めた力を外へ放つのでしょう」
「ああ」
「わたしが重ねようとしているのは、原光を吸い、流れを内側へ引く力です。無理に重ねても、どちらかの働きを邪魔するだけです」
「本当に乗らないかは、やってみないと分からない」
「シア」
セトが止める。
「何だ」
「今は壊れるかもしれない方を試す時ではない」
「黒い方も初めてだぞ」
「働きが同じ方向だ」
シアは少し考える。
「それなら分かった」
ネアが黒刃へ指先を伸ばした。
「触れます」
「ああ」
指先が、黒い刀身の側面へ触れる。
黒月
黒刃が細かく震えた。
ネアの指先から、黒に近い光が流れ出す。
黒刃そのものの色とは違う。
周囲の明るさを弱め、色を薄くするような光だった。
光が黒刃の表面へ広がる。
その中に、細い銀色の線が生まれた。
根元から先端へ。
何本もの線が、黒い刀身の上をゆっくりと巡る。
周囲を流れる原光が、先ほどより強く刃へ引かれ始めた。
刃へ触れていない流れまで、近くを通るとわずかに曲がる。
「まだ入るのか」
セトが尋ねる。
「もう少しです」
ネアは指を離さない。
銀色の線が増える。
黒刃の輪郭が強くなり、刀身もわずかに伸びた。
やがて、表面が大きく揺れた。
ネアが指を離す。
「ここまでです」
「これ以上は?」
「黒刃の形が保てません」
セトは変化した黒刃を振った。
刃が通った場所へ、周囲の原光が引かれる。
これまでの黒刃より、明らかに吸う範囲が広い。
変わったのは剣だけだった。
セトの腕や体には、何も起きていない。
「兵器の攻撃も、これで吸えるのか」
「全部は無理です」
「どれくらいなら?」
「分かりません。あの兵器が放つ量を、この剣で受けたことはありませんから」
「では、試すしかないな」
「正面から受け止めないでください」
ネアが言った。
「刃を斜めに当てます。吸いきれない分は、刃に沿って流してください」
「どちらへ流す」
「人がいない方へ。角度が合えば、兵器へ戻しても構いません」
シアが黒い刀身を見た。
「名前がいる」
「黒刃でいいだろ」
「今までと違う」
「ネアの黒刃」
「セトの術です」
ネアが答える。
「では、黒い月」
シアは銀色の線を見る。
「黒月」
「そのままですね」
「分かりやすい」
セトも黒い刀身を見る。
「黒月か」
「ただし、とどめには向きません」
ネアが言った。
「相手を大きく壊す力ではないからです」
「何に使う」
「こちらの防御を助けます。兵器の攻撃を吸収し、そらす」
ネアは崩落の向こうへ目を向ける。
「壊れた場所へ流れ込む原光を奪えば、再生も遅らせられます。核を守る壁が精霊力で作られているなら、そこにも使えるはずです」
「黒月で、相手の防御と再生を防ぐ」
シアが言う。
「ええ」
「とどめは極炎」
「そうなります」
「なら倒せる」
「届くかどうかは分かりません」
「またそれか」
「初めて使う力ですから」
採石場の奥から、大きな音が響いた。
崩落を塞いでいた岩が、外側へ押し出される。
次の一撃まで
ローディアの隊長を加え、攻撃の順番を決めた。
古代兵器が出てきたら、最初の砲撃を黒月でそらす。
セトが接近し、極炎で装甲を切り開く。
黒月で再生を遅らせ、その間に兵士たちが露出した内部を攻撃する。
核が見えたら、黒月を防御壁へ当てる。
最後に、極炎の大きな一撃で核を破壊する。
「最初から大きな極炎を撃たないのか」
隊長が尋ねた。
「それでは前と同じだ」
セトが答える。
「装甲は大きく壊せる。だが、次の一撃を出せるようになる前に戻される」
「通常の極炎で少しずつ開く?」
「ああ。大きな一撃は、核まで残す」
「その間、兵器の攻撃は黒月で防ぐのですね」
ネアが頷く。
「すべてを止められるとは限りません。兵士も一か所に集まりすぎないでください」
隊長は地図に配置を書き込む。
「極炎が開いた場所へ、投石機と術士の攻撃を集中させる」
「別の場所を攻撃しても、すぐに戻る」
シアが言った。
「分かっている。正面だけを狙わせる」
「兵士も役に立つのだな」
「シア」
セトが呼ぶ。
「何だ」
「余計な言葉を足すな」
「役に立つと言った」
「今まで役に立たないと思っていたように聞こえる」
「古代兵器を倒す役には立たなかった」
隊長が額を押さえた。
「作戦の話を続けていいか」
「ああ」
「兵器の砲口がこちらを向いた場合は?」
「避ける」
シアが答える。
「避けられない場合を聞いている」
「黒月でそらす」
「それも失敗したら?」
「死ぬ」
「シア」
「何だ。間違っていない」
「隊長」
セトが言った。
「黒月で全部を防げる保証はない。兵器が砲口を向けたら、攻撃を止めてでも散らせ」
「分かった」
隊長は兵士たちへ指示を出し始めた。
二本を持つ
黒月は、セトが消さない限り形を保っていた。
銀色の線も薄れない。
セトは左手に黒月を残したまま、シアへ手を伸ばした。
「試すぞ」
「ああ」
シアがその手を取る。
「シア」
名前を呼ぶ。
シアの体が赤橙色の光へほどけた。
光がセトの右手へ集まり、炎の剣となる。
極炎。
シアの力がセトへ流れ込む。
両腕。両脚。体全体が強化される。
右手には極炎。左手には黒月。
『動けるか』
「ああ」
セトは二本を構えた。
極炎を振る。
続けて黒月を振る。
二本の軌道を交差させ、触れる直前で止めた。
極炎の火が黒月へ引かれ、わずかに揺れる。
「近づけすぎない方がいいな」
「黒月が極炎の力まで吸う可能性があります」
ネアが言った。
『わたしを吸うなよ』
「気をつける」
『絶対に気をつけろ』
セトは二本の間隔を広げる。
「黒月で流れを曲げる時は、どちらへ動かせばいい」
「わたしが伝えます」
ネアが答える。
『ネアの声はわたしにも聞こえる。セトだけに言わなくていい』
「分かりました」
セトは二本を下ろした。
同時に扱うことはできる。
極炎で破壊する。黒月で原光を遮る。
役割も分かれていた。
あとは、実際に古代兵器へ通じるかどうかだった。
崩れる岩
日が山の向こうへ沈み始めた頃。
崩落の中央へ亀裂が走った。
内側から淡い光が漏れる。
「来るぞ!」
隊長の声が採石場へ響く。
兵士たちが持ち場につく。
投石機の縄が引かれる。
術士たちは、残っている精霊力を集めた。
亀裂の奥で、光が強くなる。
次の瞬間、積み上がった岩が吹き飛んだ。
砕けた石が採石場へ降り注ぐ。
土煙の中から、金属の脚が現れた。
古代兵器が岩を押しのけ、外へ出てくる。
その装甲には、傷一つ残っていなかった。
極炎が切断した場所も。兵士たちが破壊した内部も。すべて新しい部品へ置き換わっている。
『戻っているな』
「ああ」
『もう一度壊す』
古代兵器の上部が開く。
砲口へ原光が集まった。
「左から右へ流れています」
ネアが言った。
「黒月を左下から当ててください」
セトは左手の黒月を斜めに構える。
古代兵器が原光を放った。
曲がる光
原光の塊が採石場を横切る。
セトは正面から受けなかった。
迫る光の左下へ、黒月の刃を当てる。
刀身の銀色の線が強く光った。
原光の一部が、黒月へ吸い込まれる。
残った力は、刃の表面に沿って流れた。
「右上へ!」
ネアの声に合わせ、セトは黒月を振り上げる。
原光の塊が軌道を変えた。
兵士たちの頭上を通り、採石場の崖へ直撃する。
岩壁が砕け、石が降り注いだ。
原光を消したわけではない。
それでも、攻撃の向きを変えることはできた。
「通用した」
『次が来る前に行くぞ』
セトは地面を蹴った。
極炎によって強化された体が、古代兵器へ迫る。
兵器の脚が横から振られた。
セトは極炎で受け流す。
硬い衝撃が腕へ伝わった。
そのまま脚の内側へ潜り込む。
『関節だ』
「ああ」
極炎を振り下ろす。
炎の刃が装甲を裂き、脚の関節へ入った。
内部の骨組みが焼き切れる。
切断された脚の先が地面へ落ちた。
古代兵器の巨体が傾く。
すぐに、切断面へ原光が集まり始めた。
「黒月を当ててください!」
セトは左手を伸ばす。
黒月の刃を、脚の切断面へ添えた。
集まっていた原光が刃へ引かれる。
光の中に浮かび始めていた部品の輪郭が崩れた。
『止まった』
「完全には止まっていません」
別の方向から、さらに原光が集まってくる。
黒月が吸い込む。
それでも、すべては奪えない。
新しい部品が、ゆっくりと形を作り始めた。
「今だ! 撃て!」
隊長の命令。投石機から岩が放たれる。
切断された脚の根元へ直撃した。
術士たちの火と風が、生成途中の部品を壊す。
脚の再生が再び止まった。
「前より遅い」
『その間に正面を開く』
セトは黒月を切断面から離した。
離れた瞬間、原光が再び脚へ集まり始める。
「脚を戻させるな!」
セトが兵士たちへ叫ぶ。
隊長が指示を引き継ぐ。
「攻撃を続けろ! 関節だけを狙え!」
開いたままの傷
セトは古代兵器の正面へ回り込んだ。
右手の極炎を横へ振る。
分厚い装甲板の一枚が切断され、地面へ落ちた。
その下には、二枚目の装甲がある。
古代兵器の砲口がセトへ向く。
「下へ流してください!」
原光が放たれる。
セトは黒月を攻撃の側面へ当てた。
刀身を下へ振る。
光の軌道が曲がり、セトの足元より先へ突き刺さった。
地面が深く削れる。
土と小石が吹き上がった。
セトは倒れずに踏み込む。
『今だ』
極炎を縦へ振り下ろした。
二枚目の装甲が切り裂かれる。
内側の骨組みが露出した。
セトは黒月を割れ目へ差し込む。
装甲を作り直そうとしていた原光が、黒い刀身へ引かれた。
再生が遅くなる。
「正面が開いた!」
隊長の声が響く。
投石機と術士たちの攻撃が、開いた場所へ集中する。
脚への攻撃が止まったため、切断した関節は再び作られ始めた。
だが、今は正面を開く方が先だった。
大きな岩が露出した骨組みへ当たる。
術士の炎が内部へ入り、細い管を焼く。
風の刃が、歯車に似た部品を砕いた。
古代兵器の動きが一瞬止まる。
「さらに奥だ」
セトは極炎を振る。
右で装甲と部品を壊す。左の黒月で、そこへ流れ込む原光を奪う。兵士たちが開いた場所を攻撃する。
前の戦いとは違う。
一度開いた傷が、すぐには閉じない。
完全に止まってはいない。
それでも、再生よりも破壊が少しだけ先へ進んでいた。
「核はどこだ」
「中央より少し下です」
ネアが答える。
「そのまま奥へ進んでください」
増える吸収
古代兵器へ集まる原光が太くなった。
空気中に、淡い光の筋が見える。
採石場に残っていた草が急速に色を失った。
地面の湿り気が抜けていく。
遠くの森からも、原光が引かれていた。
『吸う量を増やした』
「壊された分を補おうとしているのでしょう」
ネアが言った。
黒月は切断面へ流れ込む原光を奪っている。
だが、古代兵器へ集まる量そのものが増えたことで、新しい部品が少しずつ作られ始めていた。
「黒月でも追いつかないか」
「効いてはいます」
ネアが答える。
「ですが、兵器が集めるすべてを吸えるわけではありません」
正面の装甲は開いている。
一方で、最初に切断した脚は、ほとんど形を取り戻していた。
新しい関節が組み上がる。
古代兵器の巨体が持ち上がった。
「脚が戻った!」
隊長が叫ぶ。
複数の脚が同時に動く。
「右です!」
セトの右側から脚が迫る。
極炎で受け流す。
続けて左から別の脚が来る。
セトは黒月を傷口から抜き、体をひねって避けた。
黒月が離れた瞬間、正面の装甲へ原光が集まり始める。
『戻るぞ』
「分かってる」
セトはすぐに黒月を割れ目へ戻した。
再生が遅くなる。
しかし、古代兵器の攻撃を防ぐたびに、黒月を傷口から離さなければならない。
離した時間だけ、部品は作られる。
「攻撃は、わたしができるだけ曲げます」
ネアが両手を兵器へ向けた。
「黒月は再生を止める方へ使ってください」
「全部は曲げられないだろ」
「黒月を離す回数は減らせます」
古代兵器の砲口へ原光が集まる。
ネアが横から流れへ干渉した。
放たれた光が、セトの右側へずれる。
完全には外れない。
セトは黒月を傷口から抜き、攻撃の端へ当てた。
残った力を外へ流す。
光が背後の岩へ当たる。
すぐに黒月を傷口へ戻した。
「それで十分だ」
『正面へ集中するぞ』
核までの道
極炎が内部の骨組みを切る。黒月が原光を奪う。兵士たちが露出した部品を破壊する。
新しい部品が作られる。黒月が再び吸う。
破壊と再生が、同じ場所で繰り返された。
少しずつ。わずかずつ。
開いた傷が深くなっていく。
やがて、兵器の内部に球状のものが見えた。
複数の輪に囲まれ、中心で淡い光が脈打っている。
「核です!」
ネアが言った。
「中央を狙え!」
隊長の命令。術士たちが一斉に精霊術を放つ。
火の矢。風の刃。石の槍。
すべてが核へ届く直前で形を崩した。
前の戦いと同じだった。
核を覆う、見えない防御壁。
「黒月を当てます」
セトが言った。
「再生は俺たちが止める!」
隊長が叫ぶ。
「セトは核へ行け!」
投石機と術士たちが、生成され始めた装甲へ攻撃を集中する。
セトは黒月を傷口から抜いた。
装甲の再生が速くなる。
黒月の切っ先を、核へ伸ばす。
刃が何もない場所で止まった。
壁へぶつかった感触ではない。
前へ進もうとする力が、横へ流される。
「刃の側面を当ててください」
ネアが言った。
セトは黒月を傾けた。
刃の側面を、見えない防御壁へ沿わせる。
銀色の線が強く光った。
核を囲んでいた球状の輪郭が、淡く浮かび上がる。
防御壁を作っている精霊力が、黒月へ吸い込まれていた。
「薄くなっている」
『全部消せるか』
「黒月が触れている場所なら」
ネアの言葉どおり、刃の周囲だけ防御壁が薄くなる。
球全体が消えるわけではない。
黒月を当てた一点へ、小さな穴が作られていく。
「極炎が通ればいい」
シアが言った。
「ああ」
セトは黒月を動かさず、防御壁の一点へ当て続ける。
右手の極炎へ、シアが力を集め始めた。
狭くなる道
左右から、新しい装甲が伸びていた。
兵士たちが攻撃する。
投石機の岩が、生成された板を砕く。
術士の炎が骨組みを焼く。
一枚を壊す。その隣で、次の一枚が作られる。
原光の供給は止まっていない。
「装甲が閉じるぞ!」
隊長が叫ぶ。
「まだか!」
「もう少しです!」
ネアが防御壁を見る。
黒月の周囲では、球状の壁が薄くなっている。
だが、極炎の刃を通すにはまだ足りない。
セトは黒月を同じ場所へ押し当てる。
銀色の線が強く輝く。
防御壁の一部が消えた。
「開きました!」
『行くぞ』
極炎へ集められた力が、赤白い炎となる。
セトは右腕を引いた。
核までの道は見えている。
だが、その道は狭まり続けていた。
生成された骨組みが左右から伸びる。
新しい装甲板が、開いた場所へ滑り込もうとしている。
「極炎!」
セトは核へ向けて、炎の剣を突き出した。
届いた刃
赤白い炎が、古代兵器の内部を進む。
途中に残っていた骨組みを焼き切る。
生成途中の部品が進路へ滑り込む。
極炎がそれを貫いた。
さらに、新しい装甲板が横から入る。
『邪魔だ!』
極炎が装甲板を焼き切る。
だが、何かを破壊するたびに炎の勢いが削られる。
黒月が作った防御壁の穴へ、極炎の切っ先が入った。
炎が核へ届く。
球状の表面に、細い亀裂が走った。
「届いた!」
隊長の声が聞こえる。
セトは極炎をさらに押し込む。
亀裂が広がった。
核の内部で、淡い光が乱れる。
古代兵器の脚が大きく震えた。
『このまま壊す!』
シアが残った力を極炎へ集める。
炎が核の表面を焼く。
だが、核は砕けない。
極炎は核へ届くまでに、生成された部品を何枚も破壊していた。
最後の一撃に残したはずの力が、途中で削られている。
「防御壁が戻ります!」
ネアが叫んだ。
黒月は、開けた穴へ当て続けている。
それでも、球状の防御壁の周囲から、新しい精霊力が回り込んでくる。
黒月が吸収する。
別の方向から、さらに流れ込む。
穴が少しずつ狭くなる。
極炎の側面へ、防御壁が触れた。
炎が横へ流された。
『押し返される』
セトは極炎を前へ進めようとする。
核の亀裂は、それ以上広がらない。
左右から閉じる装甲も、目前まで迫っていた。
「退いてください!」
「あと少しだ!」
「その少しが届いていません!」
極炎の刀身が揺れる。
シアが集めた力も、もう多くは残っていない。
『セト、退くぞ』
「核は割れている」
『砕けていない』
「もう一度押せば」
『その前に閉じ込められる』
装甲板が、セトの左右から迫った。
セトは歯を食いしばる。
極炎を引き抜いた。
黒月も防御壁から離す。
閉じる装甲の隙間へ体を滑り込ませる。
外へ飛び出した直後、古代兵器の正面が閉じた。
返された光
セトが地面へ着地する。
右手の極炎がほどけた。
シアが人の姿へ戻り、セトの隣へ立つ。
「倒せなかった」
「ああ」
古代兵器の脚が動く。
戦いの間に破壊した関節も、すでに新しい部品へ置き換わっていた。
正面装甲の内側へ、原光が集まっている。
核の亀裂も直し始めているらしい。
「兵を下げろ!」
隊長が叫んだ。
投石機を動かしていた兵士たちが、順番に後退する。
術士たちは、残った力で古代兵器を攻撃した。
兵器の上部が開く。
砲口へ原光が集まり始めた。
「セト、左の崖です」
ネアが言った。
採石場の側面には、先ほど黒月でそらした砲撃によって、大きな亀裂が入っている。
「もう一度、あそこへ向けてください」
「崩すのか」
「ええ」
古代兵器が原光を放った。
セトは黒月を構える。
迫る攻撃の側面へ、斜めに刃を当てた。
原光の一部が吸収される。
残りが刀身に沿って曲がる。
「もう少し左です!」
セトは踏み込み、黒月を振り抜いた。
光の塊が大きく向きを変える。
古代兵器へ返すのではない。
亀裂の入った崖へ向ける。
原光が岩壁へ直撃した。
亀裂が一気に広がる。
「下がれ!」
隊長の声。崖が崩れた。
大量の岩が、古代兵器の上へ降り注ぐ。
兵器の姿が土煙の中へ消える。
完全に倒したわけではない。
それでも、すぐに追ってくることはできなくなった。
「退くぞ!」
セトたちは兵士とともに採石場を離れた。
できたこと
古代兵器を二度目の崩落で足止めした後、兵士たちは村とは反対側の谷へ防衛線を移した。
追加の部隊も到着し始めている。
日が沈み、辺りは暗くなっていた。
採石場の方向からは、岩を砕く音が続いている。
完全に閉じ込められたわけではない。
得られたのは、次の戦いまでの時間だけだった。
「核に亀裂は入った」
セトが言った。
「戻り始めています」
ネアは採石場へ向かう原光の流れを見ていた。
「まだ完全ではありませんが、核へ原光が集まっています」
「核まで直すのか」
「完全に壊せなければ、元へ戻せるのでしょう」
シアが採石場の方を見る。
「次は、もっと早く核まで開く」
「早くなっても、最後に足りなくなる」
セトが言った。
「なぜだ」
「黒月を再生へ使っている間は、核の防御壁が残る」
セトは地面へ二つの円を描いた。外側の大きな円。内側の小さな円。
「外が装甲。中が核だ」
外側の円へ線を当てる。
「黒月をここへ当てれば、装甲の再生を遅らせられる」
次に、内側の円へ線を移す。
「だが、核の防御へ黒月を移したら、装甲の再生が速くなる」
「兵士が壊していた」
「追いつかなかった」
「兵士を増やす」
「古代兵器も、さらに多くの原光を吸った」
シアが黙る。
ネアは、セトが描いた二つの円を見る。
「黒月そのものは通用しています」
「倒せなかったぞ」
「攻撃をそらしました。再生を遅らせました。核の防御にも穴を開けました」
「では、何が足りない」
「黒月が影響を与えられる範囲です」
ネアは、外側の円と内側の円へ同時に指を置いた。
「兵器は、装甲だけでなく全身から原光を取り込んでいます。黒月を一か所へ当てても、別の場所から入ってきます」
「黒月をもっと大きくする」
シアが言った。
「長くすることはできる」
セトが答える。
「だが、長くした分だけ吸収できるとは限らない」
「太くする」
「扱いにくくなる」
「二本出す」
「黒刃を二本同時には維持できない」
「不便だな」
「一族の術へ、古代兵器を倒すための便利さを求めるな」
ネアは採石場から流れてくる淡い光を見る。
「力の性質は間違っていません」
「原光を吸うことか」
「ええ。あの兵器を止めるには、必要な力です」
「だが、今の黒月では足りない」
「足りません」
ネアははっきりと答えた。
一本では届かない
夜になっても、採石場から低い音が聞こえていた。
古代兵器は、崩れた岩を破り続けている。
兵士たちは交代で見張りにつき、近隣の住民をさらに遠くへ避難させていた。
セトは左手に黒刃を作った。通常の黒い刀身。ネアが力を重ねれば、黒月になる。
古代兵器へ通用する力ではあった。
だが、一本の刃が触れられるのは一か所だけだ。
装甲の再生を止めれば、核の防御が残る。
核の防御へ穴を開ければ、装甲が閉じ始める。
極炎は核を傷つけた。
しかし、核へ届くまでに装甲を破り直し、最後の一撃に必要な力を失った。
「極炎一本では届かなかった」
セトが言った。
「黒月があれば届いた」
シアが答える。
「核へ触れただけだ」
「次は壊す」
「同じ方法では、また装甲が戻る」
「では、戻らないようにする」
「その方法がない」
「今はないだけだ」
シアは迷わずに言った。
セトは黒刃を消す。
ネアは二人の会話を聞きながら、採石場へ集まる原光を見続けていた。
「黒月で止めるべきものは分かりました」
ネアが言う。
「兵器の攻撃。装甲の再生。核を守る防御壁」
「全部、原光で動いている」
「ええ」
「なら、全部止めるしかない」
「そうなります」
「できるか」
ネアはすぐには答えなかった。
採石場へ向かう原光は、一本や二本ではない。
空から。地面から。周囲のあらゆる方向から、古代兵器へ流れ込んでいる。
「方法を考えます」
ネアが言った。
「次に、あれが岩を破るまでに」
遠くで淡い光が瞬いた。
少し遅れて、岩の砕ける音が届く。
時間は多く残されていない。
黒月によって、初めて核へ刃が届いた。
それでも、古代兵器を完全に破壊するには足りなかった。
一本の刃で押さえられる範囲を超えて、原光は兵器へ流れ込み続けていた。
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