エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第13話 地下から来た兵器

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第13話 地下から来た兵器 エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第13話 地下から来た兵器
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第13話 地下から来た兵器 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

東から逃げる者

 ローディア王国へ入ってから、街道の人の流れは二つに分かれていた。
 東へ向かうのは兵士と、荷車へ物資を積んだ者たち。
 西へ向かうのは、家財を抱えた住民だった。
 子供を背負う者。家畜を連れて歩く者。荷物を積めるだけ積み、車輪の壊れた荷車を引く者。
 誰もが何度も東を振り返っていた。

「何があった」

 セトが、荷車を押していた男へ声をかけた。

「分からん」

 男は足を止めずに答える。

「山の方で地面が割れた。そこから何か出たらしい」
「何か?」
「兵器だとか、魔物だとか言っている。見たやつの話が全部違う」

 男の隣を歩いていた女が口を挟む。

「魔物じゃない。金属でできていたって聞いた」
「金属の魔物かもしれないだろ」
「金属でできた魔物なんているものか」
「いないとは限らん」

 二人とも、自分で見たわけではないらしい。
 ただ、逃げろと言われて逃げてきた。
 それだけは同じだった。

「村は?」
「兵士が残っている。近づくなと言われた」

 男は街道の先を指した。

「あんたたちも行かない方がいい」
「行く必要がある」

 シアが言った。
 男はシアの服装を見て、次にネアを見た。
 人間ではないとまでは分からなくても、普通の旅人ではないことは伝わったらしい。

「好きにすればいい。だが、死んでも助けには戻らんぞ」
「ああ。それでいい」

 シアが答える。
 男は首を振り、再び荷車を押し始めた。

「止めないのですね」

 ネアが言った。

「何をだ」
「逃げる人間へ、心配するなとは言わないのですか」
「止められるか分からない」

 シアは東を見た。

「分からないことを、大丈夫とは言えない」

 ネアは少しだけシアを見る。

「そういうところは、簡単に考えないのですね」
「何の話だ」
「別に」

ローディアの兵士

 街道を進むと、木を組んだ柵が道を塞いでいた。
 その前に、二十人ほどの兵士が並んでいる。
 武装してはいるが、全員が東を気にしていた。
 隊列の後ろには、負傷者が寝かされている。
 鎧がへこんだ者。肩から血を流す者。火傷を負った者。
 魔物との戦いとは違う。
 傷の付き方に統一性がなかった。

「止まれ!」

 兵士の一人が槍を向ける。

「この先は封鎖されている!」

 セトは国境でもらった書状を見せた。
 兵士は受け取り、何度かセトたちと書状を見比べる。

「エルディナからの調査?」
「ああ」
「話は聞いていない」
「出したばかりの書状だ。俺たちが先に来た」
「勝手なことを」

 兵士が顔をしかめる。
 その後ろから、別の男が歩いてきた。
 鎧の形は同じだが、肩に付いている印が違う。

「見せろ」

 男は書状を受け取る。
 最後まで読むと、シアとネアへ目を向けた。

「火と月の精霊王とある」
「わたしが火だ」
「わたしが月です」

 二人は隠さなかった。
 周囲の兵士たちがざわめく。

「本物なのか」
「確認しますか」

 ネアが尋ねる。

「いや」

 隊長らしい男は、すぐに首を振った。

「確認のために何かされても困る」
「賢明です」
「何が起きている」

 セトが尋ねる。
 男は東を見た。

「発掘物が動き出した」
「古代の遺跡から見つけたものか」

 男の視線が戻る。

「なぜ知っている」
「遺跡の場所をローディアへ伝えた人間から聞いた」
「誰だ」
「グラウス」

 男には覚えがないようだった。

「情報は仲介人を通したらしい。直接会ってはいないはずだ」
「それなら、上の者しか知らない」
「発掘したのは国か」

 男はすぐには答えなかった。

「ここで話していいことではない」
「この先で人が逃げている」

 シアが言う。

「話さない方が大事か」
「言い方を選べ」
「選んでいる間にも、原光が吸われている」
「原光?」
「世界にある力だ。あれが吸っている」

 隊長は意味を理解できていない。
 だが、シアの顔を見て、冗談ではないことは理解したらしい。

「中で話す」

発掘された兵器

 柵の内側には、仮設の指揮所が作られていた。
 天幕の中央に地図が広げられている。
 山地の一角に大きな印があり、そこから西へ向かう道へ複数の線が引かれていた。

「遺跡を掘っていたのは、王都から派遣された調査隊だ」

 隊長が言った。

「正式な名目は、古代の動力装置の調査だった」
「兵器だとは知らなかった?」

 セトが尋ねる。

「少なくとも、現場の兵士は聞かされていない」
「調査隊は?」
「知っていた者もいるだろう」

 隊長は地図上の印を指した。

「地中から、同じような構造物が複数見つかった。そのうち、遺跡の入口に近い一体を試験に使った」
「地上へ運び出したのか」
「いや。大きすぎた」

 隊長は首を振った。

「周囲の土を取り除き、地下の広間で全体を露出させた。固定具と操作用の装置を取り付け、そこで動かそうとした」
「動いたのか」
「一部はな」

 最初は脚の一本。次に、上部の砲口らしき部分。
 調査隊が道具を操作すると、それに応じて動いた。
 少なくとも、現場の者たちにはそう見えた。

「三日前から、周囲の精霊術が急に使いにくくなった。調査隊は、発掘した兵器が力を集めているからだと説明した」
「知っていたのか」

 シアの声が低くなる。

「原光を吸っていることを」
「原光という言葉は聞いていない。周囲の精霊力を燃料として蓄えている、とだけだ」
「止めなかった?」
「止める必要はないと言われた」

 隊長は苦い顔をする。

「試験を終えれば停止できる。使った分も、時間が経てば自然に戻る。そう説明された」
「戻っていない」

 ネアが言った。

「この国だけでなく、かなり広い範囲から吸い上げています」
「広い範囲とは?」
「国境の向こうからもです」

 隊長が黙る。

「今朝、調査隊が本格的に起動させた」

 少しして、男は続けた。

「最初は命令どおりに脚を動かした。だが、途中から操作を受け付けなくなった」
「それで地面が割れたのか」
「ああ」

 兵器は、自分を固定していた器具を壊した。
 地下の広間の天井を砲撃で崩し、地盤を破りながら地上へ這い出した。
 国境で聞いた低い音は、その時のものだったらしい。

「最初から制御できていなかったのでは?」

 ネアが言った。

「動かせたことを、制御できたと思い込んでいた」

 隊長は否定しなかった。

「おそらくな」

地下から出たもの

 三人は兵士たちとともに高台へ移動した。
 そこから、遺跡のあった谷が見下ろせる。
 山の斜面が大きく崩れていた。
 土の下から、黒い壁のようなものが斜めに突き出している。
 遺跡の外壁だろう。
 その前に、兵器がいた。
 大きさは二階建ての家ほど。
 人や獣に似た形ではない。
 厚い装甲を幾重にも重ねた胴体を、複数の脚が支えている。
 脚には前後の区別がない。
 どの方向へも、そのまま進める構造に見えた。
 装甲の隙間では、淡い光が脈打っている。
 光は兵器の内側から生まれているのではない。
 空気中や地面から、細い流れとなって兵器へ吸い込まれていた。

「原光が、あれに集まっている」

 シアが言った。

「ええ」

 ネアが目を細める。

「流れの中心は、間違いなくあれです」

 兵器の周囲では、ローディアの兵士たちが距離を取りながら包囲していた。
 投石機。大弓。精霊術を使う術士。
 地面には、すでに何人も倒れている。

「攻撃しているのか」

 セトが尋ねる。

「村へ向かおうとした」

 隊長が答えた。

「進路を変えさせるために攻撃している」

 投石機から大きな石が放たれた。
 兵器の側面へ当たる。
 硬い音が谷へ響いた。
 表面の装甲がへこむ。
 続けて、術士たちの火と風が集中する。
 へこんだ部分が砕け、装甲板の一枚が地面へ落ちた。

「壊せる」

 セトが言った。

「見ていてください」

 ネアは兵器から目を離さなかった。

新しい部品

 装甲を失った場所へ、原光が集まった。
 淡い光が欠損部分を覆う。
 傷が塞がったのではない。
 光の中に、直線が生まれた。
 角ができる。
 板の形になる。
 空中で作られた新しい装甲板が、兵器の内部へ滑り込む。
 硬い音を立てて固定された。
 落ちた装甲板と同じ形だった。
 へこんだ周囲の部品も、一度内側へ引き込まれる。
 代わりに、光の中から新しい部品が押し出された。
 数秒後には、投石機が破壊した場所が元へ戻っていた。

「治った?」

 シアが言う。

「違います」

 ネアが答えた。

「壊れた部分を直しているのではありません」
「作り直した」
「ええ。原光から、同じ部品を作っています」

 セトは落ちた装甲板を見る。
 壊れた部品は地面に残っている。
 それにもかかわらず、兵器の側面には同じ板が戻っていた。

「元の部品を戻す必要がないのか」
「構造さえ同じなら、別の部品でよいのでしょう」
「機械が精霊術を使っている」

 シアが言った。

「そう考えるのが近いでしょう」

 ネアの周囲に黒い細線が浮かぶ。
 原光の流れを探っている。

「本来、原光を物質の形へ変えるのは、精霊や精霊術が行うことです。あれは、それを内部の仕組みだけで行っています」
「なら、周りに原光がある限り壊しても戻る」
「小さな損傷なら、ほとんど意味がありません」

 隊長が二人を見る。

「止める方法は?」
「全部壊す」

 シアが答えた。

「一度にです」

 ネアが付け加えた。

最初の攻撃

 兵器の上部で、装甲板が左右へ開いた。
 内部に光が集まる。
 ネアが即座に振り返った。

「伏せてください!」

 谷へ向けて光が放たれた。
 炎ではない。
 風でもない。
 属性を持つ前の原光を、そのまま押し出したような攻撃だった。
 地面が一直線に砕ける。
 土と岩が吹き上がった。
 盾を構えていた兵士たちが、まとめて後方へ飛ばされる。
 隊長が高台から駆け下りようとする。

「待て」

 セトが止めた。

「今行けば、次に巻き込まれる」
「部下がいる!」
「だからだ」

 セトは谷を見る。
 兵器の上部が、再び開こうとしている。

「シア」
「ああ」

 シアがセトへ手を伸ばした。

「名を呼べ」
「シア」

 シアの体が赤橙色の光へほどける。
 光がセトの右手へ集まり、炎の剣となった。
 極炎。
 セトが柄を握った瞬間、体へ力が流れ込む。

『一気に近づく』
「ああ」
『ネア。あれの攻撃を少しだけそらせるか』

 ネアが極炎へ視線を向けた。

「試します」

 精霊剣となったシアの声は、グラウスには聞こえなかった。
 だが、精霊王であるネアには直接届くらしい。
 確かめている時間はない。
 ネアが両手を兵器へ向けた。
 空中に黒い線が何本も伸びる。
 再び放たれた原光の塊へ、横から触れた。
 攻撃全体を止めることはできない。
 だが、軌道がわずかにずれた。
 光はセトの右側を通り、岩壁へ当たる。

「今です」

 セトは地面を蹴った。

極炎の刃

 シアの力で強化された体が、谷を駆ける。
 兵器が脚を動かす。
 前後を変えず、横へ滑るように移動した。
 脚の一本がセトへ振られる。

『下』

 セトは体を沈める。
 頭上を金属の脚が通過した。
 そのまま懐へ入る。
 厚い装甲板の継ぎ目が見えた。
 セトは極炎を振り上げる。
 炎の刃が装甲を切る。
 表面の一枚。
 その下の二枚目。
 さらに内側の骨組み。
 切断された部品が赤く焼け、地面へ落ちる。
 兵器の内部に、複数の細い管と歯車に似た構造が見えた。

『浅い』
「分かってる」

 兵器の体が回転する。
 別の脚が迫る。
 セトは切り開いた場所から離れた。
 着地と同時に、上部の砲口がセトへ向く。

「右へ!」

 ネアの声。
 セトは右へ跳ぶ。
 原光の攻撃が地面を砕いた。
 吹き上がった石が背中へ当たる。
 倒れずに着地する。

『装甲は切れる』
「ああ」
『中まで一度に壊す』
「極炎を使う」

 シアが剣の中で力を集める。
 セトは正面から兵器へ走った。

一撃目

 兵器が原光を放つ。
 セトは横へ避ける。
 脚が地面を薙ぐ。
 極炎で受け流す。
 衝撃で腕がしびれた。
 それでも足を止めない。
 先ほど切った側面へ回る。
 すでに光が集まり始めている。
 装甲が再生成される前に、セトは剣を構えた。

『合わせる』
「ああ」

 セトが踏み込む。

「極炎!」

 炎の剣へ、シアの力が一瞬で集中する。
 赤白い刃が大きく伸びた。
 横薙ぎの一撃が、兵器の側面へ入る。
 装甲板がまとめて切断された。
 内側の骨組み。
 原光を運んでいた管。
 小さな部品の集まり。
 それらが炎に飲まれ、兵器の内部から外へ吹き飛ぶ。
 兵器の巨体が傾いた。
 脚の二本が動きを止める。
 上部の砲口から集まっていた光も消えた。
 兵士たちから声が上がる。

「止まった!」
「今だ! 撃て!」

 投石機と術士の攻撃が、開いた側面へ集中する。
 炎。岩。風の刃。
 露出した内部がさらに砕かれる。
 兵器が地面へ沈んだ。
 セトは大きく息を吐いた。
 極炎の刀身が少し揺れる。

『まだだ』

 シアが言う。
 開いた側面へ、周囲の原光が集まり始めていた。

壊れた場所の形

 最初に生成されたのは、細い管だった。
 光の中で筒状の部品が生まれる。
 次に、複数の小さな輪。歯の付いた円盤。
 それらが空中から兵器の内部へ収まり、互いにつながる。
 壊れた場所を確認しながら作っているような迷いはない。
 最初から、どの部品をどこへ置くか決まっている。

「攻撃を続けろ!」

 隊長が叫ぶ。
 術士たちが炎を放つ。
 新しく作られた管が砕ける。
 だが、その後ろから次の管が作られる。
 投石機の石が内部へ当たり、複数の部品を押し潰す。
 潰れた部品が内側へ落ちる。
 代わりに新しい部品が生まれる。

「止まらない」

 セトが言った。

『作る速さが上がっている』

 兵器へ流れ込む原光も増えている。
 周囲の草が急速に色を失った。
 谷を流れていた細い水の表面から、淡い光が抜けていく。
 ネアが両手を広げた。
 兵器へ向かう原光の一部が、横へ曲がる。
 黒い線に沿って、地面へ流された。
 部品の生成がわずかに遅くなる。

「全部は止められないのか」

 セトが尋ねる。

「範囲が広すぎます」

 ネアの額に、うっすら汗が浮かぶ。

「わたし一人の周囲だけなら止められます。ですが、あれは地中からも空からも集めています」
『もっと近づけばどうだ』
「近づけば、流れを強く曲げられます」
「危険だ」
「今さらでしょう」

 ネアは兵器へ歩き始めた。

回復ではない

 兵器の内部が埋まっていく。
 外から見えていた空洞が、部品で満たされる。
 次に骨組みが作られた。
 最後に装甲板が生成される。
 一撃目の極炎で切り取った範囲が、閉じ始めた。
 セトは呼吸を整える。
 シアも次の一撃へ力を集めている。
 だが、すぐには撃てない。
 最大まで重ねるには、わずかな時間が必要だった。
 そのわずかな間に、兵器は戻っていく。

『もう半分戻った』
「ああ」
『二発目までに閉じる』
「分かってる」

 セトは極炎を構え直した。
 通常の斬撃で、生成途中の装甲を切る。
 薄い板なら壊せる。
 だが、セトが一枚を切る間に、別の場所で二枚が生まれる。

「治っているのではありません」

 ネアが兵器の近くから言った。
 黒い線を伸ばし、原光の流れを押さえている。

「人や精霊の傷なら、残った部分をつなぎ直します。あれは、失った部分をすべて別の部品で置き換えています」
「違いは?」

 セトが尋ねる。

「残っている部分へ負担をかけません。何度同じ場所を壊しても、材料さえあれば同じ状態へ戻せます」
『なら、弱っていかない』
「原光がある限りは」

 ネアが答える。
 兵器の脚が動いた。
 止まっていた二本が、新しい部品に置き換わっている。
 巨体がゆっくり持ち上がった。

「二発目が来る前に、ほとんど戻ったな」

 セトが言う。

『遅いと言いたいのか』
「俺たちがじゃない。あれが速すぎる」
『ならいい』

核までの道

「外側を壊すだけでは終わらない」

 セトが兵器を見上げる。

『中に大事なものがある』
「ああ」

 装甲。骨組み。部品。
 すべてを作り直す仕組みがあるなら、その命令を出している場所がある。

「中心を探す」

 セトが言った。

「一撃で、そこまで開く」
『今度は縦だ』
「分かった」
「待ってください」

 ネアが言った。
 黒い線の一部を兵器の内部へ入れている。

「中心へ原光が集まっています」
「核か?」
「おそらく」
「位置は?」

 ネアが兵器の胸部に近い場所を指す。

「装甲の中心より少し下です」
「見えるのか」
「原光の流れだけです。何があるかまでは分かりません」
『十分だ』

 兵器の砲口がネアへ向いた。
 セトが走る。

「ネア、下がれ!」

 ネアは原光の流れを横へ曲げる。
 放たれた攻撃の軌道がずれた。
 だが、先ほどより近い。
 完全には避けられない。
 光の端がネアの周囲をかすめた。
 長衣の袖が裂ける。
 ネアの体が後方へ飛んだ。

『ネア!』

 シアの声が極炎から響く。

「動けるか!」

 ネアは地面へ片手をついた。

「問題ありません」
「下がれ」
「もう位置は分かりました」

 ネアは立ち上がる。

「次は、あなたたちが開いてください」

二撃目

 セトは兵器へ向かう。
 砲口が動く。
 脚が振られる。
 極炎で脚の先を切り落とした。
 切断された場所へ、すぐに原光が集まる。
 新しい脚先が生成され始める。
 止める意味はない。
 動きを鈍らせる数秒だけでいい。
 セトは兵器の正面へ回った。

『たまった』
「俺も行ける」
『本当か』
「本当だ」
『息が乱れている』
「撃てる」
『倒れたら運べないぞ』
「その時は引きずれ」
『分かった』

 兵器の前面装甲が開く。
 砲口ではない。
 複数の板がずれ、内部へ原光を引き込んでいる。
 再生成に使うための入口なのかもしれない。

「今だ」

 セトは正面から踏み込んだ。
 極炎を上段へ構える。

「極炎!」

 シアが刃へ力を集める。
 セトは兵器の正面を、上から下へ斬り下ろした。
 炎の線が装甲を割る。

 一枚目。
 二枚目。
 三枚目。

 重ねられた装甲板が左右へ崩れた。
 内部の骨組みが焼き切れる。
 原光を運ぶ管が破裂し、淡い光が周囲へ漏れた。

 さらに奥。

 兵器の中心近くに、球状の部品が見えた。
 周囲を複数の輪が囲み、内部で光が脈打っている。

「見えた!」

 隊長が叫ぶ。

「術士! 中央を狙え!」

見えない壁

 複数の精霊術が、露出した球状の核へ向かう。
 火の矢。
 圧縮された風。
 石の槍。
 すべてが核へ届く直前で止まった。
 何かに衝突したように形を崩す。
 そこには装甲がない。
 透明な板もない。
 それでも、攻撃は核へ触れなかった。

「防がれた?」

 隊長が呟く。
 セトは極炎を突き出す。
 炎の切っ先が、核の手前で止まる。
 手応えはある。
 硬い壁へ当てた感覚ではない。
 剣を進めるための力だけが、別の方向へ流されていく。

『見えない』

 シアが言う。

「だが、ある」
『精霊力だ』

 極炎の炎が、壁の表面に沿って左右へ流れた。
 その一瞬だけ、核の周囲に球状の輪郭が浮かぶ。
 精霊力によって作られた防御壁。
 装甲の内側へ、さらにもう一枚の守りがある。

「切れないか」
『押す』

 シアが出力を上げる。
 セトも柄を両手で握った。
 極炎の先端が防御壁へ食い込む。
 わずかに進む。
 だが、核までは遠い。
 兵器の周囲へ、再び原光が集まり始めた。

「セト!」

 ネアの声が届く。

「装甲が戻ります!」

閉じる装甲

 左右へ落ちていた装甲の代わりに、新しい板が生成される。
 最初は薄い骨組み。
 次に、その外側を覆う板。
 セトの左右から、兵器の正面が閉じ始める。

「まだ届かない!」
『分かってる!』

 シアがさらに力を集める。
 防御壁がわずかにへこむ。
 だが、壊れない。
 核は光を脈打たせ続けている。
 それ自体が兵器全体へ原光を送り、部品を作らせているように見えた。
 ここを壊せば止まる。
 届けば倒せる。
 だが、装甲を破った後にも、もう一つ破らなければならないものがあった。

「下がってください!」

 ネアが黒い線を伸ばす。
 閉じかけた装甲板の一枚を横へ引く。
 完全には止まらない。
 それでも、セトが抜ける隙間を残した。

『セト、離れる』
「もう少しだ」
『次が撃てない』

 極炎の刀身が揺れる。
 シアの力が尽きかけている。
 セトの腕も動かなくなってきた。

「くそっ」

 セトは極炎を引いた。
 閉じる装甲の隙間から外へ飛び出す。
 直後、兵器の正面が閉じた。
 核は再び装甲の奥へ隠れた。

立ち上がる兵器

 兵器が大きく震えた。
 破壊された内部の部品が、次々と生成される。
 先ほどより広い範囲を壊したため、完全に戻るまでには少し時間がかかっている。
 だが、止まってはいない。
 原光を吸い上げる量が増える。
 谷の草が茶色く変わった。
 近くの木々から葉が落ちる。
 投石機を動かしていた術士たちが膝をつく。

「術が出ない!」
「周りに何も残っていない!」

 ネアが周囲へ黒い線を広げた。
 兵器へ集まる原光の一部を押し戻す。
 だが、顔色が悪い。

『ネア』
「分かっています」
『何がだ』
「これ以上は止められません」

 シアが人の姿へ戻った。
 セトの右手から炎の剣がほどけ、隣へ立つ。
 精霊剣でなくなった後も、ネアはシアへ答え続ける。

「範囲が広すぎます。それに、吸う力が強くなっています」

 兵器の脚が一本ずつ動きを取り戻す。
 切断された装甲も、外から見ればほとんど元へ戻っていた。
 二度の極炎。兵士と術士たちの集中攻撃。
 それでも、兵器は立ち上がった。

「一体も倒せないのか」

 隊長が呟いた。
 シアが兵器を見る。

「今はな」
「まだ戦うのか」

 セトが尋ねる。

「戦える」
「俺が無理だ」

 シアがセトを見る。

「そうか」
「少しは否定しろ」
「無理なものは無理だ」
「退くぞ」

 セトは隊長へ向き直った。

「あれを倒す方法がない」
「村へ向かわせるわけにはいかない」
「倒せないまま戦えば、兵士だけが死ぬ」
「では、どうする」

 セトは地図を思い出す。

「進路を変える。人のいない場所へ誘導する」

撤退ではなく誘導

 隊長はすぐに命令を出した。
 正面からの攻撃を止める。
 村とは反対側にある岩場へ部隊を移す。
 投石機と術士は、兵器を壊すためではなく、注意を引くために攻撃する。

「攻撃された方向へ進むとは限りません」

 ネアが言った。

「だが、今までは反撃してきた」

 セトが答える。

「狙う相手を選んでいるなら、動かせる」
「意思があるのでしょうか」
「分からない。だが、反応はしている」

 兵器の砲口が、撤退する兵士たちへ向く。
 シアが前へ出た。

「わたしが引く」
「今は精霊剣にならないぞ」
「分かっている」

 シアの両手に炎が集まる。
 周囲の原光が少ないため、普段より小さい。
 それでも、兵器の装甲を叩くには十分だった。
 炎が側面へ当たる。
 兵器の向きが変わった。
 砲口がシアを追う。

「こっちだ」

 シアは岩場へ走る。

「一人で行くな!」

 セトも追う。
 ネアは一度、残っている兵士たちを見る。

「負傷者を先に運んでください」
「あなたは?」
「二人が無茶をしすぎないように見てきます」

 ネアも岩場へ向かった。

地下から来た兵器

 兵器は、三人を追って谷を進んだ。
 速くはない。
 だが、止まらない。
 脚が岩を砕き、木を押し倒す。
 壊れた装甲は歩きながら再生成されていく。
 原光を吸い。部品を作り。失った場所へ収める。
 兵器にとって、破壊されたことは傷ではない。
 必要な部品が一時的になくなっただけだった。
 岩場の奥には、古い採石場があった。
 周囲を高い崖に囲まれている。
 兵士たちが上から岩を落とす。
 シアが炎で崖の一部を崩した。
 兵器の前へ大量の岩が落ちる。
 進路が塞がれた。
 兵器は脚を止める。
 砲口が上を向く。

「離れろ!」

 セトの声と同時に、原光が放たれた。
 崖の一部が砕けた。
 それでも、すぐに外へ出られるほどではない。

「しばらくは止められる」

 隊長が言った。

「どれくらいだ」
「分からん」
「何も分からないな」

 シアが言う。

「分かっていることもあります」

 ネアが兵器を見る。

「装甲は極炎で破壊できる」
「だが、すぐ戻る」
「再生ではなく、部品を新しく作っている」
「材料は原光だ」
「核は装甲の内側にある」
「その核にも防御がある」

 セトは右手を見る。
 二度の極炎を撃った腕は、まだ震えていた。

「一度で装甲と防御壁と核を、全部壊す必要がある」
「今の極炎では届かなかった」

 シアが言った。
 極炎が弱いわけではない。
 装甲を破る力はある。
 核までの道も開ける。
 だが、一撃で兵器全体を完全に破壊するには足りない。
 二撃目を撃つ頃には、最初の損傷がほとんど元へ戻る。

「原光を使わせなければいい」

 セトが言った。
 ネアがセトを見る。

「簡単に言いますね」
「できないか」
「わたし一人で、あの兵器へ流れるすべてを止めるのは無理です」
「すべてでなくてもいい。再生成が遅くなれば、二撃目が間に合う」
「人の姿では、止められる範囲が狭すぎます」

 ネアは崩れた岩の向こうを見る。

「それでも、考える価値はあります」

 兵器の内側で、低い音が響いた。
 崩れた岩の隙間から、淡い光が漏れる。
 閉じ込められている間も、周囲の原光を吸い続けている。
 止まったわけではない。
 ただ、進めなくなっただけだ。
 セトたちは一体の兵器と戦った。
 装甲を破った。核を露出させた。
 それでも、倒すことはできなかった。
 地下から現れた兵器は、壊された部品を作り直しながら、再び動き出す時を待っていた。


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エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…

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