エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第22話 過ぎ去るのを待てない

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第22話 過ぎ去るのを待てない エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第22話 過ぎ去るのを待てない
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第22話 過ぎ去るのを待てない 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

倒すものではない

「では、どうする」

 セトがもう一度尋ねた。
 ネアは、東へ消えていく流れから目を離さなかった。

「眠りの王は、倒すものではありません」
「倒せない、ではなく?」
「ええ。倒すという考え方が、最初から合っていません」

 シアが眉を寄せる。

「精霊王を取り込んでいる。止めるなら倒す」
「通常の精霊王であれば、それでもよいでしょう。ですが、眠りの王には、倒したあとに世界へ返る役割がありません」
「何もないからか」
「何もないことが、眠りの王です」

 ネアは空中へ小さな黒い点を作った。
 周囲の原光が流れ込み、黒い点はすぐに小さくなる。

「放っておけば消えるのか」
「通常の空白なら、そうです。眠りの王も、原光が戻れば作用を失うものなのでしょう」
「通常なら?」
「ええ。ですが、今回はすでに精霊王を取り込んでいます」
「見たことがあるのか」

 リグが尋ねた。

「ありません」
「だが、対処は知っている」
「知識にあります」

 ネアは黒い点を消した。

「誰が眠りの王を見たのか。どの時代に現れたのか。どれほど続いたのか。そのような記憶はありません」
「知識だけか」
「ええ。空白が一定以上に広がった時、何が起きるか。精霊王がどう振る舞うべきか。その形だけが残っています」

 シアがネアを見る。

「先代たちが残した?」
「誰が残したかは分かりません。精霊王の役割に最初から含まれていた可能性もあります」
「なら、正しいのか」
「通常の状況に対しては、正しいのでしょう」
「今回にも?」
「それが分からないから、困っています」

 ネアは、知っていることと分からないことを分けるように言った。

過ぎ去るための知識

「人間の記録には残っていないのですか」

 ハルヴェンが尋ねた。

「眠りの王という名前で残っている可能性は低いでしょう」
「別の名前なら?」
「世界の終わり、長い夜、神々の眠り。そのような伝承に変わっているかもしれません」
「探す価値はあるな」

 セトが言う。

「ええ。ただし、伝承が同じ現象を指しているとは限りません」
「精霊王の知識にも、いつ起きたかはないのだろう」
「ありません。対処だけが残り、状況が抜けています」

 ネアはわずかに眉を寄せた。

「知識は整っています。だからこそ、今回にもそのまま当てはめてよいのか判断できません」
「経験がないのに、答えだけがある」
「ええ。便利ですが、危険でもあります」
「では、どうする」

 セトが尋ねる。

「過ぎ去るのを待ちます」

 ネアの答えは短かった。
 シアがすぐに聞き返す。

「いつまでだ」
「原光が戻り、あれが再び眠るまでです」
「眠りの王が、自分でどこかへ行くわけではないのか」

 ハルヴェンが尋ねた。

「移動する個体かどうかも分かりません。原光が満ち、空白が維持できなくなれば、作用を失う。その状態を、再び眠ると呼んでいるだけです」
「雨がやむのを待つのと同じか」

 リグが言う。

「近いですが、雨よりは厄介です。雨は降っている場所を離れられます」
「眠りの王からは離れられない」
「世界のどこにでも作用し得ますから」
「時間は?」
「分かりません。世界が空白を埋められるまでです」

世界が先に眠る

 リグが東へ続く流れを見る。

「戻らなかった場合は?」
「世界が先に眠ります」

 風が止まったわけではない。
 森の葉も揺れている。
 それでも、その言葉のあとだけは、周囲の音が遠くなったように感じられた。

「世界が眠るとは、どうなる」

 セトが尋ねる。

「精霊王だけではありません。火、水、雷、風。今は別々に働いている現象の境界が、少しずつ失われます」
「全部、眠りの王へ取り込まれる?」
「どこまでを取り込むと呼ぶかによります。ですが、最後には別々の現象として働けなくなるでしょう」
「火が燃えなくなるのか」
「火だけが止まるわけではありません。燃える、流れる、動く、固まる。その違いそのものが失われます」
「何も起きなくなる?」
「何が起きたかを分けられなくなります」

 シアが掌へ小さな火を作った。
 赤い炎が揺れる。

「これは火だ」
「ええ」
「眠れば、何になる」
「分かりません」
「消えるのか」
「消えるという変化も、火とほかのものが分かれているから言えることです」

 シアは掌の火を見つめた。

「燃えない。消えない。火でもない?」
「そのような状態に近いと思います」

 火は普通に燃えている。
 今はまだ、熱を持ち、光を放ち、空気を揺らしていた。
 セトは火の向こうにあるシアの顔を見る。

「すぐに全部が止まるわけではないのか」
「おそらく、境界の弱いものからです。すでに乱れている精霊王が先に影響を受けています」
「次は普通の精霊か」
「現象かもしれません。順番までは分かりません」

 シアは火を握るように消した。

人間だけは残れない

「精霊王ではないなら、人間は取り込まれにくい可能性があると言っていたな」

 セトが確認する。

「ええ。しかし、取り込まれにくいことと、生きられることは別です」

 ネアは地面へ視線を落とした。

「人間は火を作り、水を飲み、空気を吸い、大地の上で生きています」
「どれか一つでもなくなれば困る」
「ええ。すべての現象が同じものへ溶ければ、人間の身体も今の形を保てないでしょう」

 ハルヴェンが自分の手を見る。

「人間も、身体の中ではいろいろなものが別々に働いています」
「その違いも、世界の現象と無関係ではありません」
「人間だけを守る壁は作れない?」
「壁を作る力も、守られる身体も、眠りの王の外にはありません」
「残ったとしても、生きているとは言えないか」
「ええ。個人の境界だけが残ればよい問題ではありません」
「どれから眠る」

 シアが尋ねた。

「分かりません」
「火が先か。水が先か」
「属性ごとの順番ではないと思います」

 ネアは周囲の原光を薄く集めた。

「流れが弱い場所。すでに乱れている現象。個としての境界を失いかけている精霊王。そのようなものから影響を受ける可能性があります」
「同じ火でも、場所によって違う?」
「ええ。こちらでは燃えていても、別の場所では火としてまとまらなくなるかもしれません」
「人間は、どこから崩れる」

 セトが尋ねる。

「分かりません。身体かもしれません。周囲の空気や水が先かもしれません」
「確かめるために待つことはできないな」
「確かめられた時には、その場所で被害が始まっています」

助かるとは言わない

「その後は」

 セトが尋ねた。

「いつか、また始まるでしょう」

 ネアは、遠い未来を慰めのようには語らなかった。
 知識にある事実を、そのまま置く声だった。

「原光まで消えるわけではありません。長い時間をかけて流れが整えば、再び違いが生まれる可能性があります」
「火や水も戻る?」
「同じものかは分かりません」
「精霊王は?」
「役割が再び分かれれば、新しい精霊王も生まれるかもしれません」

 リグが腕を組む。

「今いる者ではない」
「ええ」
「人間もか」
「今の人間が戻るとは考えにくいでしょう」

 ハルヴェンが小さく息を吐いた。

「世界は続いても、俺たちは続かない」
「そうなります」
「始まるのは、今とは別の世界ですね」
「少なくとも、今の世界の続きとは呼べません」

 シアはしばらく黙っていた。
 難しい説明を理解できていないのではない。
 短い言葉へまとめようとしていた。

「それは、この世界が助かるとは言わない」
「ええ。ですから、今回は待つこともできません」
「普通は待つのだろう」

 セトが言う。

「普通なら、眠りの王が世界を眠らせる前に原光が戻ります」
「今回は普通ではない」
「古代兵器が、世界規模で原光を奪いました。眠りの王が活性化するほどの空白が、一度に各地へ生まれています」
「兵器は止まった」
「ええ。ですが、取り込まれた精霊王の力が眠りの王へ残っています」
「原光が戻るのと、眠りの王が大きくなるのが同時に進んでいる」
「そう考えるべきです」

 待つという知識は残っていても、今が待てる状態だという保証はなかった。

回復と吸収

 ネアは、周囲へ戻る原光と、東へ消える細い流れを並べた。
 一方は広く薄く世界へ戻る。
 もう一方は細いまま、境界を失う場所へ吸い込まれている。

「原光が戻れば、必ず眠るわけではないのか」

 ハルヴェンが尋ねた。

「本来は、そのはずです」
「今は違う?」
「眠りの王が、空白だけではなくなっています」
「取り込んだ精霊王の力か」

 リグが言う。

「ええ。役割も力も、個人として分けられないまま残っています」
「その力で空白を維持している?」
「可能性があります。少なくとも、原光が少し戻っただけでは消えていません」
「回復すれば弱くなる。だが、取り込めば強くなる」
「そう見えます」
「どちらが勝つか分からない」
「ええ」
「原光が戻る速さだけでも測れないか」

 セトが尋ねた。

「この周囲なら測れます」
「世界全体は?」
「ここからでは無理です。流れが戻っていても、別の地域ではまだ兵器の影響が残っている可能性があります」
「兵器は全部止めたはずだ」

 シアが言う。

「確認できた兵器は、です」
「まだある?」
「動いているほどの吸収は感じません。ただ、地下に残った器や、原光が戻りにくくなった流路までは分かりません」

 リグが地面へ手を当てる。

「流れが細い。止まってはいないが、元どおりでもない」
「回復の速い場所だけを見て、世界全体も同じだと考えるのは危険です」

 ネアの言葉に、セトは地図へ新しい印を付けた。

どちらが先か

「比べられないのか」

 セトが尋ねた。

「原光の回復量は地域ごとに異なります。眠りの王の作用も、どこでどれだけ強いか確定できません」
「なら、待てば助かる可能性もある」

 ハルヴェンが言った。

「あります」
「待てば先に世界が眠る可能性もある」
「あります」
「確率は?」
「出せません」

 ネアは細い流れへ触れた。
 その流れは、先ほどよりもわずかに薄くなっていた。

「ただし、今も境界を失い続けているものがあります」
「回復を待っている間にも消える者がいる」
「ええ」
「原光の回復が先でも、その前に何人かは取り込まれるかもしれない」
「すでに多くが取り込まれています」

 ネアは視線を落とさなかった。

「待つという選択にも、失うものがあります」
「なら、原光を早く戻せばいい」

 シアが言った。

「どこから持ってくるのです」
「多いところから少ないところへ運ぶ」
「世界全体で不足しています」
「全部同じではない。多いところもある」
「そこから奪えば、その場所に新しい空白ができます」
「少しずつなら?」
「広い範囲から薄く集めれば、一時的には可能です」

 セトがネアを見る。

「眠りの王の中核へ集めるのか」
「近くというものが定まっていません。それに、集めた原光がそのまま取り込まれれば、眠りの王へ力を与える結果になります」
「原光を戻せば消えるのに、取り込まれれば大きくなる?」
「空白を外から埋められれば消えます。ですが、作用へ触れて境界を失えば、眠りの王の一部になる可能性があります」
「確かめるには危険すぎるな」
「ええ」

精霊王は原光を作れない

「わたしたちで増やせないのか」

 シアが尋ねた。

「何をです」
「原光」
「作れません」
「火は作れる」
「原光を火へ変えているだけです」
「元へ戻せば増える?」
「変換したものを戻しても、最初に使った量を超えません」

 リグが掌へ小さな雷を作り、すぐに消した。

「俺たちは流れを変える側だ。流れそのものを生む側ではない」
「そうです」
「では、人間の精霊術も同じか」

 ハルヴェンが尋ねる。

「人間は周囲の原光を集め、精霊へ働きかけています。何もないところから増やしてはいません」
「世界が自分で戻すのを待つしかない」
「原光を増やすという意味では、そうなります」
「それ以外の方法を探すしかないか」
「ええ」
「東へ向かう流れを止める」

 シアが次の案を出した。

「眠りの王へ入らなければ、取り込まれない」
「どこで止める」

 セトが尋ねる。

「消える前だ」
「流れは一本ではありません」

 ネアは空中へ無数の細い線を浮かべた。

「見えているものだけでも、各地から集まっています。見えていない流れもあるでしょう」
「全部止める」
「原光の流れまで止まります」
「精霊王の流れだけを分ける」
「すでに重なり始めています」

 シアは線を見つめた。

「止めると、どうなる」
「境界が崩れかけた精霊王を、その場所へ留めることになります。周囲の原光を巻き込み、新しい空白を作る可能性があります」
「助けるつもりで増やすかもしれない」
「ええ」
「面倒だな」
「最初からそう言っています」

守れる場所はない

「人が多い場所だけ守ることは?」

 ハルヴェンが尋ねた。

「王都や大きな町へ原光を集め、空白を近づけないようにする」
「短期間なら可能かもしれません」
「なら――」
「その外側が先に失われます」

 ネアはハルヴェンの言葉を遮らず、続きが出る前に問題を示した。

「森、畑、川、街道、小さな村。原光を集めるほど、その周囲から先に空白が広がります」
「全員を町へ入れることもできない」

 セトが言う。

「できたとしても、食料も水も外から来ます」
「町だけ残っても生きられないか」
「ええ。それに、眠りの王は一方向から近づくものではありません」
「壁で囲っても意味がない」
「原光の欠落が内部へ生じれば、壁の中から作用します」

 ハルヴェンは苦い顔をした。

「避難先がない災害ですか」
「世界そのものの現象ですから」
「眠りの王のことを、そのまま各国へ伝えるのですか」

 ハルヴェンが尋ねた。

「そのままでは伝わりにくい」

 セトが答える。

「精霊王が消えている。原光の異常が続いている。大きな異変を見つけたら報告してほしい。それで十分だ」
「世界が終わる可能性は伏せる?」
「隠すつもりはない。ただ、確定していないことまで断定すれば混乱する」
「逃げる場所もないですからね」
「だからこそ、今必要な行動を伝える」

 リグがハルヴェンを見る。

「ヴァレスト王国への連絡は任せる」
「戻る時間も惜しいので、まず使者を出します」
「ローディア王国にも、兵器の後始末だけで終わっていないと知らせる」

 セトは、国を責める話と、今起きている危機への対応を分けて考えた。

残った者を探す

「取り込まれていない精霊王を探す」

 リグが言った。

「数が増えれば、できることも増える」
「それは必要です」

 ネアがうなずく。

「ただし、原光を増やすことはできません」
「分かっている。流れを調べる者が増えれば、眠りの王の広がりを把握できる」
「狂い始めている者もいる」

 シアが言った。

「ああ。見つけても、話が通じるとは限らない」
「それでも探す?」
「放置すれば取り込まれる。狂っているなら、眠りの王へ近づけないよう止める必要もある」

 ハルヴェンがリグを見る。

「俺たちだけで探せる範囲には限界があります」
「各国へ協力を求める」

 セトが言った。

「精霊王そのものを探せなくても、急な異常や大きな精霊力の偏りは報告できる」
「人間の目も使うのですね」
「ああ」
「反応が残る精霊王は、何人いる」

 セトが尋ねた。

「数え方が難しいです」

 ネアは揺れる細い流れをいくつか示した。

「一人の流れが複数へ分かれているのか、複数が重なっているのか、すでに判別できないものがあります」
「明確に一人だと分かるものは?」
「ごく少数です」
「呼びかけられるか」

 リグが尋ねる。

「試しました。返事はありません」
「眠りの王へ入っていないのに?」
「原光の枯渇で動けないのか、境界が崩れて応じられないのか、判断できません」

 シアが拳を握る。

「見つければ助けられる」
「見つけたあとに何をするかも考える必要があります」
「それでも、見つけないよりいい」
「ええ。それは同意します」

一夜の観測

 結論を急ぐ前に、セトたちは流れの変化を見ることにした。
 日が沈んでも、東へ消える線は残った。
 ネアは原光の回復を測り、リグは異なる方向へ細い雷を通した。
 シアは、境界を残している流れから目を離さなかった。
 ハルヴェンは近くにいる兵士へ、各地の異常報告を集めるよう頼んだ。
 セトは地図へ、分かった範囲だけを書き込んだ。
 線は大陸東端へ近づくほど集まる。
 だが、途中で消えるため、最後の位置は記せない。

「変化は?」

 セトが尋ねる。

「原光は増えています」

 ネアが答えた。

「眠りの王へ向かう流れは?」
「止まっていません」

 リグも首を横へ振る。

「別の方向にも通した。戻った反応はない」

 回復している。
 それでも、失われ続けていた。
 夜が明けるまでに、原光はわずかに増えた。
 枯れかけた草の近くにも、微細な光が戻っている。
 だが、東へ向かう線は一本も消えなかった。
 消えたのは、線の先ではなく、線を作っていた個別の輪郭だった。

「回復しているのに、止まらない」

 ハルヴェンが言った。

「一晩で判断するには短すぎます」

 ネアはそう答えたが、安心させる言葉は続けなかった。

「でも、一晩でも取り込まれた」

 シアが言う。

「その可能性が高いです」
「待つ時間が長いほど、残る者が減る」
「ええ」

 セトは、夜の間に増えた印と、消した印を見比べた。
 世界の回復は目に見えた。
 眠りの進行も、同じように目に見えていた。

待つという選択

 夜が深くなるころ、空中に残していた細い流れがまた一つ薄くなった。

「消えたのか」

 シアが尋ねる。

「完全には分かりません」

 ネアは慎重に答えた。

「別の流れと重なり、個別に追えなくなった可能性があります」
「それも消えたのと同じだ」
「個人として見れば、そうです」

 セトは地図から目を上げた。
 待てば原光は戻る。
 待てば眠りの王が再び眠る可能性もある。
 だが、待っている間に、誰かの役割と人格が一つずつ失われる。

「待つというのは、何もしないことではないな」
「ええ」

 ネアが答えた。

「失われていくものを見ながら、世界の回復が先であることへ賭ける選択です」
「賭けに負ければ、世界ごとか」
「はい」
「世界が自然に戻るなら、それを待つ方が正しいのかもしれませんね」

 ハルヴェンが言った。

「無理に触れて悪化させる可能性もあります」
「ある」

 セトは否定しなかった。

「俺たちが動けば、助かるはずだったものまで消すかもしれない」
「では待つのか」

 シアが尋ねる。

「待たない」

 セトはすぐに答えた。

「なぜだ」
「自然に戻るまでに、今いる者が全員消えるかもしれないからだ」
「失敗すれば同じです」

 ネアが言う。

「ああ。だから、何でも試すわけではない」
「安全な方法が見つからなかったら?」
「危険の小さい順に考える。それでも間に合わないなら、その時に選ぶ」
「誰が?」
「ここにいる全員だ。精霊王だけにも、人間だけにも決めさせない」

自然に逆らう

 リグが小さく笑った。

「精霊王を相手にするどころか、世界の戻り方へ逆らうのか」
「嫌か」

 セトが尋ねる。

「いや。世界が勝手に決めたから従う、というのは好かない」
「俺もです」

 ハルヴェンが言った。

「いつか別の世界が始まるから、今の人間は諦めろと言われても納得できません」

 シアは二人を見た。

「最初からそう言えばいい」
「何をだ」
「今いる者を助ける」
「そのための方法を考えている」
「なら、待たない」
「ああ」

 ネアはすぐには加わらなかった。
 知識では、待つことが通常の対処だった。
 それでも、東へ消える流れを見たまま、静かに言う。

「わたしも、待つべきだとは思いません」
「すぐに止める方法が見つからない場合は?」

 ハルヴェンが尋ねた。

「取り込みを遅らせる方法も探す」

 セトが答えた。

「完全に助けられなくても、時間を増やせれば、世界の回復が追いつくかもしれない」
「何で遅らせる」

 シアが聞く。

「それを調べる。人間とのつながりが境界を保つなら、残った精霊王を誰かが一個人として認識し続けることも助けになるかもしれない」
「精霊剣になっていなくても?」
「同じ強さではないでしょう」

 ネアが言う。

「ですが、名前、記録、祈り、直接のつながり。境界を保つものが何もないよりはよい可能性があります」
「可能性ばかりですね」
「確実な方法がないからです」
「なら、可能性も集める」

 セトはそう決めた。

方法の条件

「止めるなら、何が必要だ」

 セトが尋ねた。

「少なくとも三つあります」

 ネアは指を一本立てた。

「まず、眠りの王へ届くこと。中核位置へ近づく前に取り込まれては何もできません」

 二本目。

「眠りの王と、取り込まれた精霊王を区別すること。すべてをまとめて消せば、役割まで世界から失われます」

 三本目。

「分けた役割を、世界へ返すこと。空白だけを消しても、火や水を担うものが戻らなければ意味がありません」
「届く。分ける。返す」

 シアが言った。

「簡単に言えば」
「それができれば止められる?」
「可能性はあります」
「できなければ?」
「眠りの王を大きくするか、世界の役割まで消すことになります」
「失敗できないな」

 リグが言った。

「目標を決める」

 セトが地図の空いた場所へ線を引いた。

「眠りの王を再び眠らせる方法」
「原光が足りない」

 シアが言う。

「今すぐには難しい。次だ」
「取り込まれた精霊王を引き離す方法」

 ネアが言った。

「引き離せれば、眠りの王の力も減る可能性があります」
「個人として戻せなくても、役割を世界へ返せるかもしれない」
「ええ」
「最後は?」

 リグが尋ねた。
 セトは少し考えた。

「眠りの王そのものを消滅させる方法」
「倒すものではないと言っただろう」

 シアがネアを見る。

「通常は、です」
「今回は通常ではない」
「ええ」

 待てないなら、知識にない方法を探すしかなかった。

探すべきもの

「消滅させれば、取り込まれた精霊王も消えるかもしれません」

 ネアが言った。

「眠りの王だけを分けられなければ、助ける方法にはなりません」
「なら、分けてから消す」

 シアが言う。

「簡単に言いますね」
「必要なことは分かった」
「方法が分かっていません」
「これから探す」

 セトは地図を畳んだ。

「残っている精霊王。過去に眠りの王が現れた記録。原光の空白へ干渉できる術や道具。何でもいい」
「何でも試すわけではないと言ったばかりでしょう」
「試す前に調べる。候補は広く集める」
「それなら構いません」

 東へ消える線は、まだ残っていた。
 世界が先に回復するのを待つことはできない。
 今の世界を終わらせないために、自然にはない終わらせ方を探す。
 その方針だけが、ようやく決まった。


本ページに掲載している本文、画像の著作権は作者に帰属します。

作者本人または作者が許諾した媒体を除き、無断転載・無断複製・無断配布・改変利用を禁じます。

感想・紹介・レビュー等で一部を引用する場合は、引用元ページ名またはURLを明記し、引用部分が分かる形で、必要な範囲に限ってご利用ください。

本作品は、作者本人により自サイト・カクヨム・小説家になろう等に掲載される場合があります。


エレメンタルクロス ~精霊の剣~ TOPへ

エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…

自サイト版では人物紹介・用語集・設定資料などをまとめていますが、
”カクヨム”、”小説家になろう”ではフォロー、応援、レビュー、コメントなどができます。

気に入っていただけた方は、”カクヨム”、”小説家になろう”でも応援していただけると嬉しいです。

カクヨム版はこちら:
https://kakuyomu.jp/works/2912051606413324517

小説家になろう版はこちら:
https://ncode.syosetu.com/n8296mp/

コメント

タイトルとURLをコピーしました