エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第6話 二人一組の大会

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第6話 二人一組の大会 エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第6話 二人一組の大会
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第6話 二人一組の大会 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

参加受付

 大会の開催地へ入った二人は、そのまま町の中央へ向かった。

 広場の先に、円形の闘技場が見える。

 入口には長い列ができていた。

 武器を背負った者。杖を持つ者。鎧を着込んだ者。

 ほとんどが二人一組で並んでいる。

「全員、魔剣を狙っているのか」

 シアが列を見渡した。

「賞金目当ての方が多いだろ」

「魔剣の方が強い」

「売れば賞金より高いかもしれないな」

「売るのか?」

「俺たちは調べるだけだ」

「欲しくなったら?」

「持ち主が決まる前から考えるな」

 列は少しずつ進んだ。

 受付の机へたどり着くと、係員が二人へ紙を差し出した。

「二人の名前を」

「セト」

「シアだ」

「使用する武器と精霊術は?」

「剣状精霊術」

「火」

 シアの答えは短かった。

 係員は紙へ書き込みながら、ちらりとシアを見る。

「火の精霊術だけですか?」

「ああ」

「使用する武器は?」

「ない」

「素手で参加するということですか?」

「火がある」

「それは精霊術ですね」

「だから、火を使う」

 係員が困った顔でセトを見る。

「こいつは後ろから援護する。前で戦うのは俺だ」

「分かりました。武器なしの火属性精霊術士、と」

「火属性ではない」

 シアが訂正する。

「火そのものだ」

「それでいいから」

 セトが話を切った。

 ここで火の精霊王だと名乗られても困る。

優勝賞品

 受付を終えた参加者は、闘技場の中へ通された。

 中央には石造りの舞台がある。

 その周囲を、階段状の観客席が囲んでいた。

 舞台の一方には、大会の運営者たちが並んでいる。

 その後ろに、大きな木箱が置かれていた。

 金属の金具で閉じられ、二人の兵士が左右を守っている。

「あれか」

 シアが木箱を見た。

「たぶんな」

「見えない」

「優勝賞品をむき出しでは置かないだろ」

「近くへ行く」

「駄目だ」

「まだ何もしていない」

「今からするところだっただろ」

 参加者が集まると、運営者の一人が舞台へ上がった。

 大会は十六組による勝ち抜き戦。

 勝利条件は、相手二人の降参、場外、または審判による戦闘不能の判定。

 故意に命を奪った者は失格となる。

 観客席への攻撃も禁止された。

「優勝した組には、賞金と、ここに収められた魔剣が与えられる!」

 運営者が木箱を示した。

 観客席から歓声が上がる。

「中に力はある」

 シアが小声で言った。

「分かるのか」

「何かは入っている。だが、ここからではよく分からない」

「なら、勝って近くで見るしかないな」

「ああ」

 シアが舞台へ向かおうとした。

「まだ俺たちの試合じゃない」

「先に勝っておく」

「順番を守れ」

後ろにいろ

 組み合わせが発表され、二人の初戦は三試合目に決まった。

 控え場所で待つ間、セトはもう一度シアへ役割を説明した。

「前に出るな」

「なぜだ」

「昨日も話しただろ」

「わたしが倒した方が早い」

「早すぎるんだよ」

「早いことは悪くない」

「相手を燃やしたら悪い」

「燃やさずに倒す」

「どうやって?」

 シアは少し考えた。

「軽く殴る」

「お前の軽くは信用できない」

「では、どうする」

「後ろから小さい火を飛ばせ。相手の動きを止めるか、俺の白刃へ乗せる」

「それだけか」

「あとは俺が危ない時に助けろ」

「危なくなければ助けない?」

「必要な時だけでいい」

「援護は面倒だな」

「相手を全部倒すより考えることが多いからな」

 シアは舞台で行われている試合を見た。

 二人の精霊術士が、一人を左右から挟んでいる。

 残る一人が後方から風を放ち、相手の退路を塞いだ。

「今のが援護か」

「ああ」

「風を当てれば倒せた」

「倒さずに、仲間が攻撃しやすい場所へ動かしたんだ」

「なぜ自分で倒さない」

「二人で戦うためだろ」

 シアは納得していないようだった。

初戦

 三試合目。

 セトとシアは舞台へ上がった。

 対戦相手は、大きな盾を持つ男と、杖を持つ女だった。

 盾の男が前に立ち、杖の女が後ろへ下がる。

 セトたちと同じように、前衛と後衛を分けているらしい。

「始め!」

 審判の声と同時に、盾の男が走り出した。

 セトは白刃を作る。

 男は盾を正面に構え、そのまま押し込んできた。

 白刃を盾へ当てる。

 硬い音が響いた。

 盾の表面には精霊力がまとわりついている。

 ただの金属ではない。

 白刃の切っ先が浅く食い込んだところで、男が盾を振った。

 セトは横へ押し出される。

 その隙に、後方の女が杖を向けた。

 石の礫がいくつも浮かび、セトへ飛ぶ。

「シア!」

「ああ」

 シアが指を動かした。

 小さな火が一つ飛ぶ。

 火は先頭の礫へ当たり、赤く弾けた。

 一つだけだった。

 残った礫がセトへ迫る。

「一つじゃ足りない!」

「小さくしろと言った」

「数を増やせ!」

「先に言え」

 セトは白刃で礫を払い落とした。

 その間にも、盾の男が距離を詰めてくる。

小さい火

 シアの周囲へ、指先ほどの火が五つ現れた。

「それを相手に当てるなよ」

「何のために出した」

「礫を落とせ!」

 再び石の礫が飛ぶ。

 五つの火が、それぞれ一つずつ礫へ向かった。

 空中でぶつかり、赤い火花と石片が散る。

 今度はセトまで届かない。

「できるじゃないか」

「最初から倒した方が簡単だ」

 盾の男が白刃を押し返す。

 その後ろで、杖の女が次の術を作ろうとしていた。

「シア、あっちを止めろ」

「倒すのか」

「止めるだけだ!」

 小さな火が、杖の女の足元へ飛んだ。

 石床へ触れ、短く燃え上がる。

 女は驚いて一歩下がった。

 作りかけていた礫が崩れる。

 その一瞬で十分だった。

 セトは盾の側面へ回り込む。

 白刃を短くし、盾と腕の間へ差し込んだ。

 切る直前で刃を止める。

「動くな」

 切っ先は、男の脇腹へ触れる寸前だった。

 男が盾を下ろした。

「降参だ」

 続いて杖の女も杖を下げる。

 審判がセトたちの勝利を宣言した。

援護した

 舞台を下りると、シアが言った。

「勝ったな」

「ああ」

「わたしが礫を全部落とした」

「最初は一つだけだったけどな」

「小さい火を出せと言われた」

「一つだけ出せとは言ってない」

「次から数も言え」

「状況を見て決めろ」

「面倒だな」

 シアは少し考えてから続けた。

「杖の人間も倒さなかった」

「あれはよかった」

「火を足元へ置いただけだ」

「術を止められた。それで十分だ」

「弱い火にも意味があった?」

「ああ」

「倒していないのに?」

「俺が倒せるようにしてくれただろ」

 シアは先ほどの舞台を振り返った。

「わたしが倒したのではない」

「だから援護なんだよ」

「勝ったのは二人?」

「そうだ」

 シアはしばらく黙った。

 完全には納得していないだろう。

 それでも、弱い火に意味があることは少し理解したらしい。

次の相手

 初戦を終えた八組が、準々決勝へ進んだ。

 次の相手は、二人とも武器を持っていた。

 一人は細身の剣。

 もう一人は、短い槍を二本。

 舞台へ上がる前から、二人はセトとシアの動きを観察している。

「あの少女は火を飛ばすだけだ」

 槍の男が相方へ言った。

「先に潰す」

 聞こえるように言ったのか、隠す気がないだけなのか。

 シアが男を見る。

「潰すと言われた」

「相手の狙いが分かってよかったな」

「先に倒していいか」

「駄目だ」

「向こうはわたしを狙う」

「避けながら援護しろ」

「前に出るな?」

「ああ」

「面倒だ」

「何度目だよ」

準々決勝

 試合開始と同時に、槍の男がシアへ向かった。

 セトの前には剣の男が立つ。

 完全に二人を分断するつもりだった。

 剣が振り下ろされる。

 セトは白刃で受け止めた。

 相手の刃を外へ流し、肩へ斬り返す。

 剣の男は素早く下がった。

 その間に、槍の男はシアへ迫っている。

「前へ出るなと言われた」

 シアが言った。

「なら、そのまま場外へ出ろ!」

 二本の槍が左右から突き出される。

 シアは一歩だけ下がった。

 槍の穂先が届く直前、男の足元に小さな火が生まれる。

 男は反射的に横へ跳んだ。

 シアは逃げない。

 男が着地する場所へ、次の火を置く。

「くっ」

 槍の男がさらに横へ動く。

 火はどれも、触れれば少し熱い程度だった。

 だが、どの程度の威力か分からない男は、踏み込むことができない。

 シアは火を一つずつ置き、相手の進む方向を変えていく。

「セト」

 呼ばれて、セトは剣の男を押し返しながら横目で見る。

 槍の男が、シアの火に追われてこちらへ近づいていた。

「そういうことか」

一か所へ

 セトは白刃を横へ振った。

 見えている刀身より先まで届いた斬撃に、剣の男が大きく下がる。

 そこへ槍の男が入り込んだ。

 二人の相手が、舞台の中央で重なる。

「邪魔だ!」

「お前が来たんだろ!」

 相手同士の動きが一瞬止まった。

 シアがセトを見る。

「これでいいか」

「ああ」

 セトは白刃を短くし、二本の短剣に分けて続けざまに投げた。

 一つは槍の男が持つ右の槍を弾く。

 もう一つは剣の男の足元へ刺さった。

 二人の注意が白い短剣へ向く。

 その間に、セトは新しい白刃を作って距離を詰めた。

 槍の男の胸元へ柄を叩き込む。

 男が倒れた。

 剣の男が斬りかかる。

 セトは白刃を作り直し、刃を受ける。

「今だ、シア!」

白炎の合図

 小さな火が飛んだ。

 狙いは相手ではない。

 セトが持つ白刃へ、まっすぐ向かってくる。

 火が白い刀身へ触れる。

 白い炎が、刃の表面を走った。

「何だ、それは」

 剣の男が目を見開く。

 セトは炎へ流れる力を絞った。

 白炎は刀身を薄く包むだけになる。

 見た目ほどの熱はない。

 それでも、相手には分からない。

 剣の男が白炎を警戒し、大きく距離を取った。

「弱くしたのか」

 シアが後ろから尋ねる。

「人間相手だからな」

「強くすれば剣ごと壊せる」

「壊さなくていい」

 セトが踏み込む。

 剣の男は白炎を受けることを避け、さらに後ろへ下がった。

 舞台の端が近い。

 セトは正面から白炎を振る。

 男が横へ逃げる。

 逃げた先には、シアが置いた小さな火があった。

 男は足を止めた。

 セトは白炎を消し、白刃の柄で男の腹を打つ。

 体勢を崩した男が、舞台の外へ落ちた。

二度目の勝利

 審判がセトたちの勝利を告げた。

 観客席から、大きな歓声が上がる。

 白い炎をまとった剣が珍しかったのだろう。

 舞台を下りると、シアがセトの白刃を見た。

「ほとんど燃えていなかった」

「相手に当てるつもりはなかったからな」

「では、なぜ白炎にした」

「相手が警戒した」

「見た目のためか」

「前にも言っただろ。強そうに見えれば、斬らずに動かせることがある」

「相手は白炎の強さを知らない」

「知らないから効くんだよ」

 シアは考え込んだ。

「弱くした方が、相手がよく動いた」

「ああ」

「強くしていたら?」

「剣で受けたかもしれないな」

「壊せた」

「だから壊す必要はない」

「手加減は難しい」

「少しは意味が分かったか?」

「弱くした方が便利な時がある」

「そういうことだ」

「だが、倒すなら強い方が早い」

「そこから離れろ」

四組

 準々決勝が終わり、残ったのは四組になった。

 次は準決勝。

 勝てば決勝へ進める。

 控え場所から、別の準々決勝が見えた。

 大剣を持った男が、相手の防御を正面から打ち破る。

 その後ろでは、細い杖を持った相方が風を操り、敵の足を止めていた。

 二人の動きに迷いがない。

 大剣の男は、相手が倒れる前に刃を止めている。

 力だけでなく、手加減にも慣れていた。

「あれが次の相手だ」

 セトが言った。

「強いのか」

「今までの二組よりはな」

「わたしが倒す?」

「援護だ」

「まだか」

「大会が終わるまでだ」

 試合を終えた大剣の男が、セトたちの方を見る。

 視線はセトではなく、シアへ向いていた。

 白炎を作っているのがシアだと気づいているらしい。

「次はお前を先に狙うだろうな」

「またか」

「今度は火を置くだけでは止まらないかもしれない」

「なら燃やす」

「威力は抑えろよ」

準決勝

 準決勝が始まった。

 大剣の男が前へ出る。

 杖の使い手は後方に残らず、斜め横へ移動した。

 セトとシアを正面から分けるつもりらしい。

「始め!」

 大剣の男はセトではなく、シアへ向かった。

 同時に、杖の使い手がセトへ風を放つ。

 強い横風が舞台を走る。

 セトは白刃を石床へ突き立て、押し流されるのを防いだ。

「シア、避けろ!」

 大剣が振り下ろされる。

 シアは横へ動いた。

 刃が石床へ当たり、鈍い音を立てる。

 シアが小さな火を放つ。

 男は大剣の腹で受けた。

 火は弾けたが、男の動きは止まらない。

「弱いな」

「弱くしろと言われている」

「なら、先に場外へ出てもらう」

 大剣が横へ振られる。

 シアは後ろへ下がった。

 舞台の端まで、まだ距離はある。

 だが、このまま押され続ければ場外になる。

分けられた二人

 セトは白刃を振り、正面の風を切った。

 風そのものを斬り消すことはできない。

 それでも、精霊力の流れを乱せば、一瞬だけ弱くなる。

 そこを抜けようとする。

 杖の使い手が次の風を放つ。

「行かせない」

 風が壁のように立ちはだかった。

 セトが前へ進めない間に、大剣の男がシアを追い詰めていく。

「シア!」

「聞こえている」

「火を俺に飛ばせるか」

「風が邪魔だ」

「相手に当てなくていい。上へ飛ばせ!」

 シアが指を向ける。

 小さな火が、セトの頭上より高い場所へ放たれた。

 横風に押され、火は大きく流される。

 白刃から遠い。

「届かないぞ」

「分かっている」

 シアは二つ目の火を放った。

 最初の火より高い。

 風に流され、舞台の外へ消える。

「何をしている」

 大剣の男がシアへ迫る。

「援護だ」

「どこを狙っている?」

「今、考えている」

火の通り道

 三つ目の火が上がった。

 また風に流される。

 だが、今度は消えなかった。

 横風に乗り、杖の使い手の前を通過した。

 相手がわずかに身を引く。

 風の向きが変わった。

「セト」

「ああ」

 シアは、風を止めようとしていたのではない。

 火を流すことで、相手が風を向ける先を確かめていた。

 四つ目の火が放たれる。

 今度はセトの正面ではなく、少し後ろへ。

 杖の使い手が風を曲げる。

 火は弧を描き、セトの横を通った。

「次だ」

 セトは白刃を高く構えた。

 五つ目の火が飛ぶ。

 風に流され、横から白刃へ近づく。

 セトは一歩だけ下がり、刀身を火の通り道へ差し込んだ。

 火が白刃へ触れる。

 白い炎が燃え上がった。

風を破る

 セトは白炎へ力を回した。

 火が強くなる。

 今回は人間を斬るためではない。

 正面を塞ぐ風の術を崩すためだ。

 白炎を振り抜く。

 高密度に集めた白刃が風を形作る精霊力へ食い込み、炎がその流れを乱した。

 風の壁が左右へ割れる。

「なっ」

 杖の使い手が目を見開いた。

 セトは割れた風の間を走る。

 相手が新しい風を作るより早く、白炎の切っ先を杖へ当てた。

 炎の威力を落とす。

 白刃だけを短く振り、杖を中央から斬った。

 杖の先が石床へ落ちる。

「降参するか」

 杖の使い手が下がる。

 それでも、両手を前へ出して風を集めようとした。

 セトは白刃を消し、短剣状に作り直す。

 足元へ投げた。

 白い刃が石床へ刺さる。

 相手の動きが止まった。

「……降参する」

 一人目が手を上げた。

二対一

 残る大剣の男が、シアの前で振り返った。

「もう終わったのか」

「二人になった」

 シアが答える。

「では、今度はわたしも前へ出ていいか」

「駄目だ!」

 セトが走りながら叫んだ。

「二対一だぞ」

「だから援護しろ!」

「今まで援護していた」

「最後まで続けろ!」

 大剣の男がセトへ向き直る。

「ずいぶん変わった組み方だな」

「俺もそう思う」

「前で戦える方を、後ろへ置いている」

「前に出すと大会にならないんだよ」

「どういう意味だ?」

「気にしなくていい」

 大剣が振られる。

 セトは白刃で受けた。

 重い衝撃が腕へ伝わる。

 男は力任せに押しているわけではない。

 刃を合わせたまま角度を変え、セトの白刃を外へ流そうとする。

 セトも足を動かし、押し切られない位置へ移る。

小さな火の使い方

「シア、右だ」

 小さな火が、男の右側へ飛ぶ。

 男は動かない。

 火の威力が低いと、すでに見抜いていた。

 そのまま大剣を押し込んでくる。

「効かないぞ」

「当てるとは言っていない」

 火は男の横を通り過ぎた。

 セトは白刃を引く。

 押す相手を失った男の体が、わずかに前へ傾く。

 その先に、通り過ぎた火が戻ってきた。

 シアが指を動かし、火の進む方向を変えていた。

 小さな炎が男の顔の前で弾ける。

 熱よりも光が目を塞いだ。

「くっ」

 男が顔を背ける。

 セトは白刃を短く持ち替え、懐へ入った。

 柄を男の胸当てへ叩き込む。

 だが、男は倒れない。

 大剣の柄でセトの肩を打ち返した。

 セトの体が横へ流れる。

「セト」

「大丈夫だ」

 男が追撃しようと踏み込む。

 足元へ、次の火が置かれた。

 男は踏み切る直前で止まった。

 今度は避けた。

合わせる

 セトは肩の痛みを確かめながら白刃を構え直した。

「弱いと分かっていても避けるんだな」

 シアが言った。

「踏みつける必要がないなら避けるだろ」

「なら、逃げる場所を決められる」

「ああ」

 シアが三つの火を出した。

 男の左。

 後ろ。

 右斜め前。

 一度に攻撃するのではなく、動ける方向を一つだけ残す。

 大剣の男も意図に気づいた。

「思い通りには動かん!」

 男は火の一つへ大剣を振る。

 風圧で小さな炎を吹き消した。

 その動きで、大剣が体の横へ流れる。

 セトは空いた正面へ踏み込む。

 男はすぐに大剣を戻した。

 白刃と大剣がぶつかる。

「シア!」

 セトが叫ぶ前に、火が飛んでいた。

 白刃へ触れる。

 白炎が生まれる。

手加減する白炎

 白い炎が燃え上がる。

 大剣の男が力を込めた。

「その剣は見た!」

 大剣を白炎へ押し当て、正面から受け止める。

 セトは炎を強くしなかった。

 むしろ限界まで弱くする。

 白い火は大剣を焼かない。

 男は白炎を受け止められたと判断し、さらに前へ出た。

 セトは白刃の長さを一気に縮めた。

 支えを失った大剣が前へ落ちる。

 セトは相手の横へ回った。

 白刃を再び伸ばす。

 弱い白炎をまとった刀身を、男の首元へ止めた。

「終わりだ」

 男は動かなかった。

 白い火が首の近くで揺れている。

 熱はほとんどない。

 だが、そのことを知っているのはセトとシアだけだった。

 男が大剣を石床へ置く。

「降参だ」

準決勝突破

 審判が腕を上げた。

「勝者、セト、シア組!」

 歓声が闘技場を満たした。

 セトは白炎を消す。

 シアが近づいてきた。

「最後も弱くしたな」

「ああ」

「強くすれば、大剣を壊せた」

「壊したら弁償になるかもしれないだろ」

「そこを気にしていたのか」

「相手を傷つけないことも大事だ」

「剣の方が先だった」

「どっちも大事だ」

 シアは降参した男の大剣を見る。

「強い剣だった」

「欲しがるなよ」

「白炎でどこまで耐えるか試したかった」

「試さなくていい」

「大会は手加減が多いな」

「そういう決まりだからな」

「だが、少し分かった」

「何が?」

「倒さなくても、相手を動かすことはできる」

 シアは自分の指先へ、小さな火を一つ出した。

「弱い火でも、セトが斬る場所を作れる」

「ああ」

「白刃へ火を乗せれば、セトが強さを決められる」

「ああ」

「わたしが全部倒さなくても勝てる」

「やっと分かったか」

「全部倒した方が早いことは変わらない」

「そこも変わらないのか」

もう一つの準決勝

 セトたちが控え場所へ戻ると、反対側の準決勝が始まった。

 勝った組が、明日の決勝の相手になる。

 一人は片刃の剣を持つ男。

 もう一人は、体格の小さな精霊術士だった。

 剣の男は、試合が始まる前から運営席の後ろにある木箱を見ていた。

 視線が離れない。

「魔剣が欲しいらしい」

 シアが言った。

「大会に出てるんだから、珍しくないだろ」

「あの男は、試合より箱を見ている」

 審判が開始を告げる。

 剣の男は一気に距離を詰め、相手の前衛を押し切った。

 相方の精霊術士は、必要な時だけ短い光を飛ばし、相手の視界を遮っている。

 派手さはない。

 だが、無駄もなかった。

 試合は長く続かなかった。

 剣の男が相手の武器を弾き、胸元へ刃を突きつける。

 もう一人も相方の光に動きを止められ、降参した。

 決勝進出が決まる。

 剣の男は歓声へ応えなかった。

 舞台を下りながら、再び魔剣の入った木箱を見る。

「次はあの二人か」

 セトが言った。

「勝てば魔剣を調べられる」

「ああ」

「なら、次も援護する」

「頼む」

「必要なら、わたしが倒す」

「手加減してくれ」

「面倒だな」

「ここまで来て戻るなよ」

 決勝は翌朝。

 あと一勝すれば、木箱の中にある魔剣へ手が届く。

 セトとシアは、二人一組のまま最後の試合へ進んだ。


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