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森へ向かう道
風の精霊殿を出た後、セトたちは森が広がっている地域へ向かった。
報告では、街道が一晩で木々に覆われている。
切り開いても数時間で元へ戻り、昨日まで畑だった場所にも若い木が生え始めていた。
まだ現地までは遠い。
街道の両側には、低い草原と畑が続いている。
シアは何度か遠くを見たが、樹の精霊王の気配は感じ取れなかった。
「もっと近づかないと分からない」
「報告された範囲も広がっています。昨日の位置を基準にはできません」
ネアは地図へ銀青色の線を伸ばし、報告された場所を順に結んだ。
線は街道の先で大きく膨らむ。
「このまま進めば、今日中には外縁へ着く」
セトが言う。
「その前に、考えておきたいことがあります」
ネアは地図から線を戻した。
「分霊核を探しましょう」
前に聞いた名前
セトは、その言葉を知っていた。
「前にも聞いたな」
「覚えていましたか」
「古代兵器を倒していた時だ」
二体の兵器を相手にし、兵士たちへ負傷者が出た時だった。
ネアは、分霊核があれば戦術の幅が広がると言った。
セトが何なのか尋ねても、今は使えないものだとして説明しなかった。
「古代兵器を倒した後も必要なら、説明すると言っただろ」
「ええ」
「説明されていない」
「必要になったので、今から説明します」
ネアは何も問題がないように答えた。
「遅い」
シアが言う。
「あなたも説明しませんでした」
「私は、ネアが説明すると思っていた」
「俺もだ」
「二人とも、その後は尋ねなかったでしょう」
古代兵器をすべて破壊した後、すぐに精霊王たちの失踪を追うことになった。
分霊核の話を思い出す余裕はなかった。
あの時は探せなかった
「古代兵器の時に役立つなら、なぜ探さなかった」
セトが尋ねる。
「場所が分からなかったからです」
「今も分からないんだろ」
「ええ。しかし、状況が違います」
古代兵器は、世界中から原光を吸い上げていた。
どこにあるかも分からないものを探している間にも、森は枯れ、精霊術は使えなくなり、兵器は動き続ける。
「あの時は、探す時間を兵器の破壊へ使う必要がありました」
「今は時間がある?」
シアが尋ねた。
「目の前の森を放置できるほどではありません」
「ない」
「ですが、次代の精霊王を一人止めれば終わる問題でもありません」
氷、樹、土、晶。
すでに四つの地域で異変が起きている。
倒せば、同じ役割の次代がまた生まれる。
「被害を止めることと、今後のために探すことを並行します」
「今すぐ寄り道をするわけではないんだな」
「ええ。まず、何を探すのかを共有します」
分かれ残ったもの
三人は街道脇の木陰で足を止めた。
ネアは地面から小さな石を三つ拾う。
「分霊核は、過去の精霊王の力の一部です」
「前代の力か」
「前代とは限りません」
精霊王が消滅した時、その役割と力のすべてが次代へ渡るとは限らない。
一部が世界へ散らず、小さな球状の器として残ることがある。
「それが分霊核です」
ネアは一つ目の石を中央へ置いた。
「いつの精霊王が残したものなのか、どのような条件で生まれるのかまでは分かりません」
「精霊王が死ぬたびに一つできる?」
シアが尋ねる。
「そのような知識はありません。毎回残るなら、もっと多く存在するはずです」
「どれくらいある」
「それも分かりません」
「分からないことが多い」
「見たこともありませんから」
ネアの答えに、セトは石から顔を上げた。
誰かではない
「ネアも見たことがないのか」
「ありません。知識として知っているだけです」
「私は少しだけ知っている」
シアが言う。
「丸い。周りに浮かせる。力を入れておける」
「おおむね合っています」
「先代の記憶も入っている?」
「いいえ」
ネアははっきり否定した。
「魂も、人格も、記憶もありません」
過去の精霊王が、そのまま小さな球へ残っているわけではない。
誰かの考えが聞こえることもない。
役割を継ぐ次代へ命令するものでもない。
「力を通し、蓄え、別の場所で作用させるための器です」
「では、見つけても名前を付ける必要はない」
シアが言う。
「付けても返事はしません」
「石と同じか」
「普通の石よりは使えます」
「なら、少し違う」
シアは納得した。
役割へ残る器
「誰のものか分からなくても、私が使える?」
シアが尋ねる。
「火の系統であれば」
「先代より前のイフリートが残したものでも?」
「使えるはずです」
分霊核は、残した個人へ結び付いているのではない。
火、月、風といった役割の系統へ結び付いている。
そのため、どの世代が残したものでも、同じ役割を担う次代が扱える。
「私の力ではないのに、私の力として動く」
「器の形が、現在のイフリートを受け入れます。中へ蓄えるのは、見つけた後のあなたの力です」
「最初から満杯ではない?」
「残っている量は、実物を見なければ分かりません。ただ、見つけた後は、そこへ現在のあなたの力を蓄えられます」
「見つけたら、まず入れる」
「急に最大まで入れないでください」
「少しずつ入れる」
「本当に分かっていますか」
「少しずつ最大まで」
「途中で確認します」
実物がないうちから、最初の試験方法だけは決まった。
もう一つの作用点
古い知識では、原初の精霊王が分霊核を複数の作用点として使っていた。
ネアは中央の石を自分に見立てた。
少し離れた場所へ、二つ目の石を置く。
「通常、わたしたちの術は、わたしたち自身を起点にします」
ネアの指先から銀青色の線が伸び、道端の草を囲んだ。
「分霊核があれば、離れた位置にも作用点を置けます。ただし、どこまでも遠くへ飛ばせるわけではありません。知識では、本人の周囲五~十メートル程度です」
二つ目の石からも線が伸びたように、別の角度から草を囲む。
「本体で攻撃しながら、分霊核で防御する。正面から相手を押さえながら、横から別の術を加える。離れた場所の術を維持しながら、自分は動く。そうした使い方ができます」
「分身か」
「違います」
「自分が二人になる?」
「なりません」
「手が増える」
シアが言った。
ネアは少し考える。
「その方が近いです」
分霊核は自分で判断しない。
精霊王が別の場所へ置いた、もう一つの手に近かった。
「例えば、セトが正面から来るとして」
ネアは一つ目の石をセト、二つ目を自分、三つ目を分霊核として並べた。
「わたしがセトの攻撃を止めれば、その間は別の術へ意識を回しにくくなります」
三つ目の石を、セトに見立てた石の横へ動かす。
「分霊核に防御を維持させれば、わたし自身は別の位置を動かせます。反対に、本体で防御しながら、分霊核を攻撃の起点にもできます」
「相手は、ネアだけを見ていればいいわけではなくなる」
「ええ。攻撃の威力が同じでも、見る方向と対処する数が増えます」
セトは地面の三つの石を見た。
一人の精霊王が、一度に二つの場所へ力を置く。
古代兵器を二体同時に相手にした時、ネアが戦術の幅が広がると言った意味が分かった。
増えるもの
「一つあれば、力も二倍になるのか」
セトが尋ねる。
「単純にはなりません」
ネアは三つ目の石を置く。
「分霊核は、精霊力を蓄えられます。持てる総量は増えます」
「一度に出せる量は?」
「器が増えただけで、本人の制御や一つの術の限界まで自動的に上がるわけではありません」
大きな一撃を一度だけ放つ力が、急に倍になるわけではない。
しかし、本体とは別に力を残しておける。
一度目の攻撃の後も、分霊核に蓄えた力を使える。
防御へ力を回しながら、本体側の攻撃を止めずに済む。
「強くなるというより、続けられることと、同時にできることが増えます」
「それは強くなるんじゃないか」
シアが言う。
「結果としては強くなります。ただ、同じ一撃が何倍にもなるという意味ではありません」
「面倒な分け方だ」
「戦い方を間違えないためには必要です」
七つの器
「いくつまで使える」
「知識の上では、七つほどです」
ネアは残る小石も集めようとして、三つしか拾っていないことに気づいた。
シアが近くから五つ拾い、地面へ並べる。
「七つ」
「ありがとうございます」
中央の一つをネア本人とし、その周囲へ七つの石を置く。
「ただし、七つを持てることと、七つすべてを別々に精密操作できることは同じではありません」
「手が七本増えても、考える頭は一つ」
セトが言う。
「ええ。独立して戦術へ組み込める数には限界があるはずです」
多く持てば、それだけ力を蓄える場所は増える。
しかし、それぞれを違う方向へ動かし、違う術を使わせるには、精霊王自身がすべてを制御しなければならない。
「七つ並べて、全部から同時に撃つ」
シアが言った。
「知識の上では、今のわたしたちに簡単にできる使い方ではありません」
「七つあるのに?」
「七つへ同じだけ意識を向け、同じ瞬間に同じ術を成立させる必要があります。数が増えれば、ずれも増えます」
「一つずつ撃つ」
「それなら可能性は高いです」
「七つ順番に撃てば、七回」
「蓄えた量が足りれば、ですが」
シアは、できないと言われた時より納得した顔をした。
「実際にどこまで扱えるかは、手に入れてみなければ分かりません」
「まず一つもない」
シアが並べた石を見た。
「ええ。今は全部、普通の石です」
原光のない場所
「絶光で周囲の原光をなくした時にも使えるのか」
セトが尋ねる。
古代兵器との戦いでは、再生を止めるために周囲の原光を枯らした。
その間は、敵だけでなくシアや味方の術士も、周囲から力を集められなくなった。
「使えます」
ネアはうなずいた。
「分霊核の内部へ事前に蓄えておけば、外から原光を集められない状態でも、一定時間は動けます」
「ネアが全部なくして、私だけ分霊核から出す」
「火の分霊核があれば可能です」
「ずるい」
「敵から見れば、そうでしょうね」
絶光で相手の力を止めた後、自分たちまで動けなくなる必要がない。
今回の次代精霊王にも、周囲の原光を大きく動かす者がいる。
分霊核があれば、相手の役割を止めた後にも、こちらだけが行動を続けられる可能性があった。
精霊剣になった時
「シアかネアが剣になったら、分霊核はどうなる」
セトが尋ねる。
「使い手の周囲へ移ります」
ネアは、中央に置いていた石をセトの足元へ動かした。
七つの小石も、その周囲へ並べ直す。
「操作するのは、基本的には精霊王です。使い手は精霊剣を扱い、わたしたちが分霊核を動かす形になるはずです」
「はず?」
「わたしも実際に使ったことはありません」
「知識どおりに動く保証はない」
「大きく外れるとは思いませんが、細かな感覚までは分かりません」
シアはセトの周りへ置かれた石を見た。
「私が剣で攻撃する。セトが振る。分霊核でも攻撃する」
「全部を同時に考える必要があります」
「やってみれば分かる」
「まず見つけてください」
「それが先だった」
宝玉の形
ネアは小石を拾い上げた。
「分霊核は、この石よりも丸く、宝玉に近い形をしています」
「大きさは?」
「小さいものです。人間が宝石として持ち運べる程度です」
「見れば分かるか」
「わたしたちなら、同じ属性のものへ触れれば分かる可能性が高いです」
「人間は?」
「珍しい宝石に見えるだけでしょう」
分霊核そのものは、強い精霊力を放っていない。近づけば誰でも圧力を感じるわけでもない。触れた人間へ力を与えることもない。
「危険なものなら、祠に置かれていたかもしれません」
ネアが言う。
「強い力があれば、兵器や魔道具として記録されたでしょう。しかし、何も起こらない小さな玉です」
「きれいなだけ」
「人間から見れば、そうです」
加工できない石
「ただし、人間の道具では加工できません」
「切れない?」
「削ることも、穴を開けることもできません」
宝石として形を整えようとしても、表面が変わらない。
「なら、珍しい石として有名になるんじゃないか」
セトが尋ねる。
「一つの場所へ残っていれば、そうなるかもしれません」
しかし、魔法的な効果はない。大きな宝石でもない。加工できなければ、指輪や首飾りへ使いにくい。
価値を見いだす者もいれば、使い道がないとして倉庫へ入れる者もいる。
「金具で挟めば飾りにはできる」
シアが言った。
「ええ。装飾品の一部になっている可能性もあります」
「宝物庫、商人の在庫、誰かの飾り」
「ほかの宝石へ混ざったまま、箱の底にある可能性もあります」
価値が定まらないもの
「削れないなら、壊れない宝石として高く売れないのか」
セトが尋ねる。
「大きさと見た目を好む者には価値があるでしょう」
ネアは小石を指先で転がした。
「ですが、加工できないものは、望む形へ仕立てられません。魔道具にも使えず、持っていても特別な効果はない。高価だと考える者と、使い道がないと考える者に分かれます」
「価値が決まっていない」
「ええ。だから、同じ物でも扱われ方が変わります」
ある場所では、珍しい宝石として箱へ収められる。別の場所では、加工に失敗した石として職人の棚へ置かれる。子供がきれいな石として拾い、そのまま家へ持ち帰っている可能性もある。
「強い力を出さないことが、一番探しにくい」
シアが言った。
「ええ。危険でも、役に立つものでもないため、同じ扱いが続きません」
属性の色
「色は同じなのか」
「系統によって違います」
火の分霊核なら赤。月の分霊核なら黒。風なら緑。
「雷は?」
「おそらく、雷の性質に近い色です。正確な見た目は、リグの知識を確認した方がよいでしょう」
「赤い小さい玉なら探しやすい」
シアが言う。
「赤い宝石は多いです」
「黒は少ない」
「赤よりは絞れるかもしれません。ただ、色だけでは足りません」
赤く、小さく、丸い。
それだけなら、似た石はいくらでもある。
分霊核には、普通の宝石にはない特徴がある。
「削れないことと、力がないこと」
セトが言う。
「ええ。魔道具として反応しないのに、人間の道具では加工できない。その組み合わせが手掛かりになります」
薄く広げる
「場所が分からないなら、どうやって探す」
セトが尋ねる。
ネアは街道の中央へ立った。
「同じ属性の精霊力を、広い範囲へ薄く広げます」
銀青色の光が、ネアの足元から円状に伸びた。
攻撃ではない。
草を倒さず、土を削らず、木の幹と石の表面をなぞって遠くへ進む。
「触れた場所から返ってくる流れを見ます」
「反射か」
「近いです」
薄く広がった月の力は、地面や木々へ触れ、わずかに形を変えて戻ってくる。
ネアは戻る流れを一本ずつ確かめた。
「分霊核があれば、そこだけ返りません」
「吸われる?」
「ええ。空の器へ力が入ります」
「穴や空洞も、返らないんじゃないか」
セトが尋ねる。
「何もない場所では、力がそのまま先へ進みます。分霊核の場合は、一点へ吸い込まれて止まります」
壁の向こうが空いていることと、壁そのものが力を飲み込むことは違う。
「流れ方を見れば区別できます。ただ、遠すぎれば、その違いも小さくなります」
声を遠くへ投げ、返ってこない場所を探すようなものだった。
返らない場所
銀青色の光は、しばらくしてネアのもとへ戻った。
「あるか」
「ありません」
「範囲が狭い?」
「無制限には広げられません。薄くしすぎれば、返った流れを区別できなくなります。それに、広げた範囲が大きいほど、確認にも時間がかかります」
ネアはもう一度、先ほどより街道に沿って細長く力を伸ばした。
結果は同じだった。
「近くに月の分霊核はありません」
「次は私」
シアが前へ出る。
赤橙色の光が足元から広がった。
熱はない。
炎にもならず、草の間と石の上を薄く流れていく。
シアは目を閉じた。
「いっぱい返ってくる」
「一つずつ見てください」
「見てる」
少し後、赤橙色の流れも戻った。
「ない」
「火の分霊核も、この周囲にはないようですね」
同じ属性だけ
「ネアの探し方で、火の分も見つけられないのか」
セトが尋ねる。
「見つけられません」
「月の力を入れても、火の器は受け取らない?」
「まったく反応しないか、周囲の石と区別できない程度でしょう」
分霊核は、同じ系統の精霊王だけが扱える。
探す時も同じだった。
ネアがどれだけ広く精密に流れを見ても、火の分霊核は探せない。
シアも、月の分霊核を見つけられない。
「では、風の分霊核はフィオラしか探せない」
「ええ」
「今から呼ぶ?」
「呼びません」
フィオラは生まれたばかりで、自分の身体と力を確かめ始めたところだった。
風の精霊殿を拠点とし、各地の情報を集める役割もある。
「分霊核については伝えます。ただ、探すかどうかはフィオラ自身が決めることです」
「リグには?」
「ハルヴェンと合流した時に伝えてもらいましょう」
探す者を分ける
「ほかの次代にも分霊核がある?」
シアが尋ねる。
「可能性はあります。ただし、その属性の精霊王でなければ確認できません」
氷の分霊核が存在しても、シアやネアには探せない。
樹、土、晶も同じだった。
「今は、その本人たちが問題を起こしている」
セトが言う。
「探すよう頼んでも、何に使うか分かりませんね」
「役割を広げるために使う」
シアが答えた。
「その可能性が高いです」
現在の世界へ適応する前に分霊核を渡せば、被害を大きくするかもしれない。
「まずは火と月です。リグが協力するなら雷。フィオラについては、本人が必要だと判断してからにします」
「全部を一度に集める話ではない」
「ええ。扱う者の状態も確認する必要があります」
広すぎる世界
「二人で歩きながら探せば、そのうち見つかるか」
シアが尋ねる。
「大陸中を隙間なく歩くつもりですか」
「それは時間がかかる」
「ですから、先に範囲を絞ります」
分霊核が近くにあれば、精霊王は流れの欠け方から位置を探せる。
しかし、どの国にあるかも分からない状態では、探す範囲が広すぎる。
山中へ落ちたままかもしれない。遺跡の土に埋まっているかもしれない。人間が拾い、何百年も別の場所へ運ばれているかもしれない。
「昔の精霊王が消えた場所は分からないのか」
「知識には残っていません」
「歴史書は?」
「精霊王の死が、正確な場所まで人間の記録へ残るとは限りません」
「なら、今ある石の情報を探す方が早い」
「ええ」
探す順番
ネアは地図の端へ、三つの印を付けた。
「最初に、人間側の情報で候補を集めます」
商人が扱った記録。宝石を集める者の所蔵品。加工できずに返された石。古い家や寺院、城の倉庫に残る品目。
「次に、その候補がある地域まで行き、わたしたちが力を薄く広げます」
「最後に触って確かめる」
「反応が明確なら、近づく前に分かるでしょう。ただ、箱の中や地下にある場合は、最後の確認が必要になるかもしれません」
「候補を全部持ってきてもらう方が早い」
シアが言う。
「偽物も、似た石も、関係のない宝石も、一か所へ集まります」
「行く方が早い?」
「候補が少なければ」
探す方法が分かっても、簡単に見つかるわけではない。
人間の情報で範囲を狭め、精霊王の感知で確かめる。
どちらか一方だけでは足りなかった。
人間の中にある情報
昼を過ぎた頃、三人は街道沿いの小さな詰め所へ着いた。
森の異変を調べる兵士が、通行する者へ迂回路を伝えている。
セトは水と食料を受け取り、机を借りた。
「探す条件をまとめる」
紙の上へ、シアとネアが話した特徴を書く。
赤または黒の小さな宝玉。人間の道具では削れない。穴を開けられない。魔道具としての力は確認できない。一般的な宝石の種類へ当てはまらない。
「これを各国へ伝えるのですか」
兵士が紙を見る。
「まずは記録を探してもらう。宝物庫、商人、宝石を集める者、加工職人」
「回収しますか」
「しない。所在の確認だけだ」
「見つけた者から取り上げるのではないのですか」
「持ち主がいるなら、まず説明する」
セトは紙から顔を上げた。
「買うのか、借りるのか、譲ってもらうのかは、その後だ。精霊王のものだったから返せだけでは通らない」
「元は私たちの力」
シアが言う。
「今持っている人間が盗んだとは限らない」
「拾ったかもしれない」
「何代も前から家にあるかもしれません」
ネアも続ける。
見つけることと、手に入れることは別だった。
強い武器になると広まれば、奪おうとする者が出る。
価値があるとだけ伝われば、価格をつり上げる者も出る。
「精霊王に関係することも、必要以上には広めないでくれ」
「承知しました」
「加工できない石を持っている者へ、処分せず保管するよう伝えるだけでもよいですか」
「それでいい。移動させると、こちらが探した時に位置が変わる」
「報告には、持ち主と現在地を付けます」
「頼む」
名前のない宝石
「人間側での呼び名はないのか」
兵士が尋ねた。
「分霊核とは呼ばれていないでしょう」
ネアが答える。
「地域ごとに、違う名が付いている可能性があります」
削れない赤玉。穴の開かない黒石。傷の付かない宝石。
持ち主や商人が、見たままの名を付けているかもしれない。
「名前で探すより、特徴で探した方がよいです」
「しかし、力がない宝石の記録となると、かなり多そうです」
「ええ」
ネアは否定しなかった。
人間にとって、分霊核は強力な遺物ではない。
所有しているだけでは、何も起こらない。
だからこそ、重要な記録へは残らない。
「役に立たないから、どこにでも行く」
シアが言った。
「売られ、譲られ、飾られ、忘れられます」
「厄介だな」
セトは条件を書いた紙を兵士へ渡した。
先に止めるもの
詰め所の外で、馬の足音がした。
森の側から戻った兵が、泥を跳ね上げながら駆け込んでくる。
「街道の第三標識が森に入りました!」
「昨日は第二標識までだったはずだ」
「今朝、第三の手前に若木が出ました。先ほど確認した時には、道の両側が完全に木で塞がれています」
地図の上で、森の外縁がさらにこちらへ動く。
「人は残っているか」
セトが尋ねる。
「周辺の家は避難済みです。畑に残っていた者も移動させました」
「樹の精霊王は?」
「森の奥で人影を見たという報告があります。ただ、近づけません」
セトは立ち上がった。
分霊核を探す条件は整った。
しかし、見つかるまで森が待つことはない。
「紙は各国へ回してくれ。俺たちは森へ行く」
「分霊核なしで?」
シアが尋ねる。
「今までどおりだ」
「なら焼く」
「話す前に森全部を焼かないでください」
ネアが言った。
森に消えた街道
詰め所から先へ進むほど、道の上へ落ちる影が増えた。
最初は、街道脇に若い木が数本立っているだけだった。
その先では、根が土を持ち上げ、踏み固められた道を割って枝が伸びている。
さらに進むと、街道そのものが見えなくなった。
太い幹が道を塞ぎ、その奥には、以前から森だったように木々が連なっている。
「ここまで来れば分かる」
シアが前を見る。
「いる。もっと奥」
ネアも銀青色の線を森へ伸ばした。
線は木々の間へ入り、急速に増え続ける原光へ触れる。
「樹の精霊王です。森全体へ力を流しています」
目の前の森は、自然に育ったものではない。
幹も枝も根も、今も伸び続けていた。
風が吹いていないのに、葉が一斉に揺れる。
その奥から、新しい木が土を割って立ち上がった。
「話ができそうか」
セトが尋ねる。
「近づかなければ分かりません」
「なら行く」
「森を焼けば出てくる」
シアの手に赤橙色の光が集まる。
「呼び出すために全部焼かないでください」
「少しだけ焼く」
「まず進みます」
ネアが木々の間へ銀青色の線を伸ばし、原光の流れが比較的弱い場所を探した。
「こちらなら通れます。ただし、道が残っているとは思わないでください」
セトは白刃を作り、行く手を塞ぐ細い枝だけを切った。
分霊核を探す方法は分かった。
だが、候補となる場所の情報が集まるまで、それを探し始めることはできない。
今は、目の前で広がり続ける森を止める方が先だった。
三人は、木々に飲まれた街道へ入った。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ TOPへ

自サイト版では人物紹介・用語集・設定資料などをまとめていますが、
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