非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第11.5話 最後まで聞かないと条件が分からない

非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第11.5話 最後まで聞かないと条件が分からない 創作実験
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創作実験TOP転生したのに、ステータス画面が表示されないんだが。作品紹介ステータス画面は表示されなかった。スキルも、鑑定も、翻訳も、女神のチュートリアルもない。現代日本でデータサイエンティスト兼プロジェクトマネージャとして働いていた山科理人…
非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第11.5話 最後まで聞かないと条件が分からない 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

(一)言葉が増える

カランタのギルドに通うようになってから、しばらく経った。
山科理人は、もう水を頼むだけで詰まることはなくなった。
袋の数。依頼の人数。戻った者。戻らない者。道が悪い。魔物を見た。撤退する。後で確認する。
そのあたりの言葉なら、どうにかなる。

完璧ではない。
発音も怪しい。

長い話になると、今でも途中で置いていかれる。
それでも、最初にカランタへ来た頃とは違う。
槍を向けられ、何も分からず手を上げるしかなかった頃に比べれば、ずいぶんましになった。
リナがいなくても、短い仕事の話ならできる。

それは大きな進歩だった。

ギルドの奥では、今日も紙が動いている。
依頼票。帰還報告。未帰還の札。撤退条件の紙。戻った理由を書いた小さな欄。

最初は、そこに書かれたものの大半がただの模様に見えた。
今は違う。

全部ではない。
だが、少しずつ読める。
読めるものが増えると、世界が少し広がる。
だが、言葉の問題が消えたわけではなかった。
単語が分かるようになると、今度は文章で転ぶ。

それを、理人はこの頃になってようやく知った。

(二)短い会話

朝、受付のセリアが一枚の依頼票を差し出した。
理人はそこに書かれた行き先を指す。

「北の道。雨のあと。荷車、遅い?」

セリアは少しだけ目を丸くした。
以前なら、リナが間に入らなければ通じなかった。
今は、通じる。

「遅くなります。昨日、戻った荷運びがそう言っていました」

理人はうなずく。
全部は聞き取れない。
だが、必要な単語は拾える。
昨日。戻った。荷運び。言った。遅い。
理人は依頼票の余白に、小さな印をつけた。

雨後。遅延。要確認。
セリアは苦笑した。

「あなた、本当にどこでも印をつけますね」

理人は少し考えてから答えた。

「忘れるから」

セリアは一瞬きょとんとし、それから小さく笑った。

「それは、正しい理由です」

理人は、そのくらいの会話ならできるようになっていた。
リナが横で、少し得意そうな顔をしている。
まるで、自分が教えた言葉が通じたことを確認しているようだった。
理人は少しだけ肩をすくめた。
まだ子どもに見守られている。

だが、それでも進歩は進歩だった。
セリアが次の依頼票を手に取る。
理人は、今度は自分から尋ねた。

「これは、誰が見た?」

セリアはすぐに答えた。

「南門の荷運びです。名前はこの欄です」

理人はうなずき、見た人の欄に印を置いた。
誰が見たか。誰が言ったか。誰が戻ったか。
その言葉も、少しずつ増えていた。

(三)レクとレクナ

問題は、その後だった。
ギルドの奥で、カイルが若い冒険者に何かを言っていた。
理人は、聞こえた単語を拾う。
北の道。小型魔物。夕方。行く。戻る。
その中に、何度か出てくる音があった。

「レク」
行く。
理人は、そう覚えていた。
カイルは若い冒険者を見て、北の道を指しながら言った。

「……レク」

理人は、一瞬眉をひそめた。
夕方に北の道へ行くのか。
それは危ない。
そう思って口を開きかけた。
だが、カイルの言葉はそこで終わらなかった。

「レクナ」

最後に、小さな音がついた。
ナ。
理人は口を閉じた。
行く、ではない。
行かない。

いや、行くな、に近い。
単語だけを拾えば、夕方、北の道、小型魔物、行く、に聞こえる。
だが、最後まで聞けば、夕方に北の道へ行くな、小型魔物が出る、になる。
理人は、こめかみを押さえた。

「最後に否定が来るの、怖いな」

日本語だった。
リナが横で首を傾げる。
理人は木片に二つの音を書いた。
レク。レクナ。行く。行かない。
違いは最後の小さな音だけ。

だが、その小さな音を聞き落とせば、行動が真逆になる。
依頼票なら、笑い話では済まない。
理人はカイルを見る。
カイルは若い冒険者の頭を軽く小突き、さらに何かを言っている。
若い冒険者は不満そうだが、北の道へ行くのはやめたらしい。

理人は息を吐いた。
言葉は、途中で判断してはいけない。
最後まで聞かなければ、危ない。
それを、かなり実感のある形で学んだ。

(四)最後の一語

理人は、木片に短い文を書き分けた。
夕方。北の道。行く。
そこまでは同じ。
最後に、別の印をつける。
行く。行かない。行くなら戻る。行く前に見る。行ったら逃げる。

最後の一つで、意味が変わる。
リナはそれを見て、少し笑った。
当たり前だと言いたげだった。
理人も分かっている。
日本語だって、最後まで聞かなければ分からない文は多い。

だが、依頼票や撤退条件では、笑い事ではない。
途中まで聞いて分かった気になれば、死ぬ。

「最後まで聞かないと、条件が分からない」

理人は小さく言った。
リナは、言葉の意味までは分からなかったかもしれない。
だが、理人が大事なことを言っているのは分かったらしい。
彼女は、木片の最後の印を指した。
そこ。

そう言うように。
理人はうなずいた。
そうだ。
最後のそこだ。
否定。条件。命令。保留。後で確認。

どれも、文の後ろに来やすい。
そして、後ろに来るものほど、判断を変える。
理人は木片に、最後、と書く代わりに、終端を示す小さな線を引いた。
ここまで聞く。
ここまで読んでから判断する。

それは、思った以上に重要だった。

(五)誰が見たか

もう一つ厄介なのは、誰が、だった。
ギルドでは、よく主語が落ちる。
見た。戻った。逃げた。怪我をした。倒した。
誰が見たのか。誰が戻ったのか。誰が逃げたのか。誰が怪我をしたのか。

話している者同士には分かる。
その場にいた者には分かる。
だが、後で紙だけを見る者には分からない。
理人は、依頼票の余白に小さな欄を足した。
見た人。報告した人。戻った人。

セリアがそれを見て、ため息をついた。

「また欄が増えました」

理人はうなずいた。

「増える」
「減らす気は?」

理人は少し考えた。

「あとで、減らす」

今は無理だ。
何を省いてよいか分からないうちは、省いてはいけない。
セリアは苦笑した。

「その言い方だけは、ずいぶん上手になりましたね」

理人は少しだけ困った顔をした。
褒められているのか、呆れられているのか。
どちらも、たぶん正しい。
リナが横から木片をのぞく。

「見た人、書くの大事」

理人はうなずいた。

「誰が見たか。後で、違う」
「うん。犬が吠えたのを見たのが私か、大人かで、言われ方が違う」

リナは、少しだけ真面目な顔で言った。
理人は手を止めた。
それは、リナの実感だった。
誰が見たかで、記録の扱いが変わる。
それが良いか悪いかではない。

現実に、変わる。
だから、書く必要がある。
主語は、ただの文法ではない。
記録の重さを決めるものでもあった。

(六)エルとエルカ

その日の昼、若い冒険者が撤退条件の紙を見て首を傾げた。
理人にも、少し分かる。
紙にはこういう意味のことが書かれている。
小型魔物を二体以上見たら、荷車を守って戻る。
そこで出てくる音があった。

「エル」
見る。
それは、理人も覚えている。
だが、紙の中では、少し形が違っていた。
「エルカ」

見る、ではない。
見たら。見れば。条件になる。
小型魔物。二体。エルカ。荷車。守る。戻る。

単語を並べただけでは、順番が分からない。
小型魔物を見てから戻るのか。
戻る途中で小型魔物を見た場合なのか。
荷車を守るのが先なのか。
逃げるのが先なのか。

カイルが若い冒険者の頭を軽く叩いた。
たぶん、最後まで読め、という意味だ。
理人は、紙を見直した。
条件。行動。優先順位。
それを分けて書かなければならない。

理人は、撤退条件の紙を三つに分けた。
もし。その時。先にすること。
セリアが横から見て言った。

「子供向けみたいですね」

理人はうなずいた。

「子供向け、強い」

セリアは、少し考えてからうなずいた。
否定しなかった。

分かりやすい紙は、賢い人間のためだけにあるのではない。
疲れた人間。焦った人間。怖がっている人間。言葉に自信のない人間。
そういう人間が間違えないためにある。

理人は、自分のためにもその欄を分けた。
もし。その時。先にすること。
単純な三つの欄が、長い文章よりずっと強く見えた。

(七)水桶と荷役獣

リナは、理人の木片を見て、少し考え込んでいた。
それから、荷役獣の方を指した。
一頭が、水桶の前で鼻を鳴らしている。
リナは、その荷役獣を指した。
次に、水桶を指す。

それから、飲むしぐさをした。
理人はうなずく。
荷役獣が水を飲む。
リナは、今度は水桶を先に指した。
それから荷役獣を指す。

最後に、ひっくり返すしぐさをした。
水桶を、荷役獣が倒す。
理人は一瞬考え、少し笑った。
同じものが出てきても、順番と最後の動きで意味が変わる。
リナは満足そうにうなずいた。

文法を説明したわけではない。
だが、理人には十分だった。
リナはいつも、言葉より先に動きを見る。
だからこそ、語順の違いを、動きの違いとして感じている。
理人は木片に書いた。

順番。最後の動き。誰が。
それだけで、だいぶ違う。

リナはさらに、荷役獣を指した。

「この子、水、飲む。いい」

次に、水桶を指して、倒すしぐさをした。

「水桶、この子、倒す。怒られる」

理人は笑った。
確かに、結果はかなり違う。
水を飲んだのか。
水を倒したのか。
荷役獣がしたのか。

誰かが荷役獣へしたのか。
同じ単語が並んでいても、順番と最後の動きで、現実が変わる。
理人は、リナの説明を木片に残した。
動物の例は、案外強い。
現場の人間にも通じやすい。

そして、理人自身にも通じやすかった。

(八)長い文

午後、セリアが報告文を見せてくれた。
理人は、ゆっくり読んだ。
雨のあと。東の道。崩れた。荷車。遅れた。小型魔物。夕方。目撃。

単語は拾える。
だが、文全体になると怪しい。
雨のあとに崩れたのは東の道なのか。
雨のあとに目撃されたのが小型魔物なのか。
荷車が遅れたから夕方になったのか。

夕方だから小型魔物が出たのか。
理人は、報告文の上に小石を置いた。
雨。道。荷車。魔物。夕方。

次に、線でつなぐ。
セリアが横で見ている。

「何をしているんですか」
「どれが、どれに、かかるか」

セリアは少し考えた。

「……それ、私たちも間違えます」

理人は顔を上げた。
セリアは、少し苦い顔で続ける。

「急いで読むと、魔物が出たから荷車が遅れたように見える。でも、実際は道が崩れて遅れたあと、夕方になって魔物を見た、だったりします」

理人はうなずいた。
それは、かなり大きな違いだった。
原因と結果が入れ替わる。
危険度も変わる。
依頼票の分類も変わる。

言葉の並びは、ただの言い方ではない。
判断そのものに関わる。

理人は、報告文をもう一度見た。
長い文には、情報が多い。
だが、多い情報が正しくつながっているとは限らない。
読む人間が急いでいれば、都合のいい順番でつながる。
そして、そのまま処理される。

理人は小石の線を一本消した。
別の線を引く。
雨のあと。道が崩れる。荷車が遅れる。夕方になる。小型魔物を見る。
この順番なら、危険は道と時間の両方にある。
魔物だけの問題ではない。

そこを間違えると、対策も間違える。

(九)文章は危ない

理人は、報告文をそのまま写すのをやめた。
文章のままでは、あとで読み間違える。
だから、欄に分ける。
いつ。どこ。誰が見た。何が起きた。原因らしきもの。結果。確定していないこと。後で確認すること。

セリアは、理人の木片を見て言った。

「文章じゃないですね」
「文章、危ない」

理人はそう答えた。
セリアは少し笑った。

「神殿の人が聞いたら怒りそうです」
「神殿?」

理人は聞き返した。
セリアは肩をすくめた。

「神殿の文は、もっと古いですから」

理人は、そこで少しだけ手を止めた。
古い文。古い語順。古い省略。
それが神殿に残っている。
まだ、それ以上は考えなかった。
だが、木片の端に小さく書いた。

古い文。後で確認。
リナがそれをのぞき込む。

「神殿の言葉、難しいよ」
「リナも?」
「うん。大人も、ときどき間違える」

理人は顔を上げた。
それは、聞き捨てならない話だった。
大人も間違える文。
それが、ただの祈りならまだいい。
だが、道や危険や決まりに関わる文なら、話は違う。

理人は木片に、もう一つ印を置いた。
要注意。
セリアはそれを見て、少し嫌そうな顔をした。

「また増えましたね」
「増えた」

理人は素直に認めた。

(十)道守りの言い伝え

午後、セリアが受付の棚から古い写しを一枚出した。
ギルドの報告書ではない。
神殿分院が旅人向けに写した、古い道守りの言い伝えらしい。
おとぎ話というほど柔らかくはない。
神託というほど厳かでもない。

だが、普通の依頼票とは明らかに言葉が違った。
紙の端には、何度も折られた跡がある。
荷運びや巡礼者が、道に出る前に見るものなのだろう。

理人には、全部は読めない。
それでも、いくつかの単語は拾えた。
雨。東の細道。倒れ木。白い石。夕。獣。待つ。戻る。

そして、聞き慣れた音もあった。
レク。
行く。
それに、最後の音がついた形。
レクナ。

行かない。
あるいは、行くな。
もう一つ。
エル。
見る。

それに条件の音がついた形。
エルカ。
見たら。
見れば。

理人は、紙の上に指を置いた。
単語だけなら、少し分かる。
だが、つながりが分からない。
雨の後に、東の細道へ行くな、なのか。
倒れ木を見たら戻れ、なのか。

白い石の先で待て、なのか。
夕方に獣を見たら戻れ、なのか。
それとも、夕方になる前に戻れ、なのか。
似ている。
ギルドの撤退条件に似ている。

だが、もっと読みにくい。
普通の報告書より、主語が少ない。
条件も薄い。
何が何にかかっているのか、すぐには分からない。
セリアが横から言った。

「東の細道に出る前に読むものです。古い道の言葉なので、今の人でも少し読みづらいです」
「神託?」

理人が聞くと、セリアは首を横に振った。

「神託ではありません。土地の言い伝えです。ただ、神殿が写して配っているので、言い回しは神殿の文に近いです」

理人は、少しだけ眉を寄せた。
それは、ちょうど危ない位置にある文だった。

(十一)古い言葉

神託ではない。
だから、理人は本物の神の言葉を読んでいるわけではない。
だが、神殿の言い回しに近い。
つまり、古い語順や省略の癖を少し含んでいる。

理人は、紙の余白に小石を置いた。
雨。道。倒れ木。白い石。夕。獣。戻る。
次に、それぞれを線でつなごうとした。

だが、すぐに手が止まる。
どれが条件なのか。
どれが結果なのか。
どこまでが場所なのか。
どこからが行動なのか。

セリアが、少し苦い顔をした。

「それ、私たちもたまに間違えます。白い石を見たら戻れ、なのか、白い石の手前で待て、なのか。土地の人に聞かないと分からないことがあります」

理人はうなずいた。

それは、ただの言い伝えではなかった。
古い道の危険を、言葉に閉じ込めたものだ。

ただし、それは古い言葉が雑だったという意味ではない。
もしかすると、その土地の古い方言なのかもしれない。
その道を使っていた者たちには、十分に明確な指示だったのかもしれない。
白い石。東の細道。倒れ木。夕。獣。戻る。

当時の人間なら、その並びだけで分かった可能性がある。
どの白い石なのか。
どこから先が危ないのか。
夕とは、どの暗さを指すのか。
獣とは、何を避けろという意味なのか。

それは、土地と経験を共有している者には、説明しなくても通じたのかもしれない。

だが、時間が経つと、共有されていたものが消える。
道が変わる。
石が動く。
森が広がる。
獣の種類が変わる。

その言葉を使っていた人間がいなくなる。
それでも、言葉だけは残る。
残った言葉は、同じ顔をしている。
だが、それを読む人間の側が、もう同じではない。

さらに、そこへ神殿の言葉が重なる。
土地の者が口で伝えていた言葉を、神殿の者が写す。
神殿の文体に整える。
祈りの言い回しに寄せる。
意味を説明しやすい形に直す。

そのつもりだったのかもしれない。
だが、土地の言葉と、神殿の文法が重なれば、元の指示は少しずれる。
方言の省略。古い語順。神殿の修辞。祈り文の格式。
それらが混ざると、どこまでが土地の注意で、どこからが神殿の解釈なのか分かりにくくなる。

理人は紙を見た。
読みにくいものを、読めたことにして運用すると、現場が危ない。
古い言葉が悪いのではない。
神殿の解釈が悪いと決めつけるのも早い。
危ないのは、古い言葉を、今の現場に合わせて読み直さないことだ。

そして、解釈が混ざったものを、最初から一つの正しい意味だったように扱うことだった。

(十二)語順

その夜、理人は宿代わりに使っている倉庫の隅で、木片を見直した。

単語は、かなり増えた。
水。袋。薬草。道。魔物。戻る。逃げる。見る。聞く。たぶん。不明。後で確認。

だが、単語だけでは足りない。
誰が。何を。どこで。いつ。どうなった。どうすべきか。
その順番が変われば、判断が変わる。
最後の一語で、意味が反転することもある。
主語が落ちれば、責任の所在が消える。

修飾が長くなれば、原因と結果が入れ替わる。
古い言葉に神殿の文体が重なれば、どこまでが元の指示で、どこからが解釈なのかも分からなくなる。

理人は、木片に小さく書いた。
語順。
その横に、もう一つ印を足す。
優先順位。

言葉の並びは、ただの癖ではない。
何を先に見て、何を後で判断するか。
その順番だった。

理人は、今日書いた欄を見直した。
もし。その時。先にすること。誰が見た。誰が戻った。何にかかる。どこまでが条件。どこからが結果。
どれも面倒だ。
だが、面倒だから省くと、あとで人が間違える。
人が間違えれば、紙は人を危ない方へ押す。

理人は木片の端を指でなぞった。
言葉は、思っていたよりずっと現場に近い。
そして、思っていたよりずっと危うい。

(十三)後で確認

単語が分かるようになった時、理人は少し安心した。
これで、話ができると思った。

だが、それは甘かった。
単語の次には、距離があった。
近い過去。遠い過去。見たこと。聞いたこと。触れたくないこと。

その次には、並びがあった。
誰が先に来るのか。何が省かれるのか。最後に何が置かれるのか。どこまでが条件で、どこからが結果なのか。
言葉は、思っていたよりずっと現場に近い。
そして、思っていたよりずっと危うい。

理人は、神殿分院が写した道守りの言い伝えを思い出した。
雨。東の細道。倒れ木。白い石。夕。獣。戻る。

それは、ただの古い言い伝えに見える。

だが、理人には別のものにも見え始めていた。
主語の抜けた報告書。
条件の位置が分かりにくい警告文。
土地の記憶と、神殿の解釈が重なった、古い仕様書。

理人は小さく息を吐いた。

「神託、か」

まだ早い。
そう思う。
だが、いつか向き合うことになる。
その時に必要なのは、祈り方ではなく、読み方かもしれない。
理人は、木片に印を一つ足した。

後で確認。

(十四)ログ

ログ
構文差分:検出
主語補完:不安定
注記:
語順依存の解釈揺れを確認。


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