非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第11話 新人死亡率という名の請求書

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創作実験TOP転生したのに、ステータス画面が表示されないんだが。作品紹介ステータス画面は表示されなかった。スキルも、鑑定も、翻訳も、女神のチュートリアルもない。現代日本でデータサイエンティスト兼プロジェクトマネージャとして働いていた山科理人…
非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第11話 新人死亡率という名の請求書 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

(一)何人、戻らない

新人が何人死んだのか。
山科理人の問いに、ギルドの空気が止まった。
大声ではなかった。
理人の現地語も、まだ滑らかではない。
それでも、意味は伝わった。

「新人。どの依頼。何人、戻らない」

リナが、足りないところを補う。

「新人が、どの依頼で戻らなかったか。理人は、それを知りたいんだと思う」

セリアはすぐには答えなかった。
答えたくなかったからではない。
答えられなかったからだ。

死亡報告はある。未帰還の記録もある。遺品回収の依頼もある。報酬未払いの帳簿もある。
だが、それらは別々の棚にあった。
死者は記録されている。
しかし、死亡率としては数えられていない。

セリアは、奥の棚を見た。
古い依頼票の束が積まれている。
誰も好んでは見ない紙の山。

理人は、その棚を見て思った。
請求書だ。
誰かが払わずに済ませてきたものが、紙の束になって積まれている。

ギルドの中では、まだ人の声がしていた。
依頼を探す者。報酬を受け取る者。受付を急かす者。笑う者。怒る者。

けれど、理人の周囲だけ、そこから切り離されたように静かだった。
ミナは、撤退条件の紙を握ったまま立っている。
カイルは壁にもたれ、理人とセリアを見ている。
リナは、理人の隣で息を詰めていた。
理人はもう一度、言葉を探した。

「どの依頼。何人。戻らない。見たい」

セリアの表情がわずかに険しくなる。
怒っているのではない。
その問いを、今まで一つの問いとして受け取ったことがなかった顔だった。

(二)答えられない理由

セリアは有能だった。
理人にも、それは分かっていた。
依頼を受ける者をさばく。帰還確認をする。報酬を渡す。苦情を受ける。死亡報告を処理する。依頼主への連絡をする。
彼女は、それを毎日やっている。
だからこそ、すぐには答えられない。

仕事が多すぎる。
記録が多すぎる。
そして、記録の目的が違いすぎる。

死亡報告は、死亡を伝えるためのもの。
未帰還記録は、戻っていない者を残すためのもの。
遺品回収依頼は、遺品を探すためのもの。
報酬未払いの帳簿は、金を処理するためのもの。

どれも必要だ。
だが、どれも新人死亡率を見るためには作られていない。

理人はセリアを見る。
セリアは険しい顔をしていた。
怒っているのではない。
自分が知らなかったことに、腹を立てている顔だった。

理人は、その顔を知っている。
前の世界にもあった。

日々の仕事は回している。
報告書も作っている。
帳票も残している。
それなのに、ある日、別の問いを投げられる。

この工程では、どこで一番手戻りが起きているのか。
この不具合は、どの条件で増えているのか。
この遅れは、誰のせいではなく、どの構造で生まれているのか。
その瞬間、記録が足りないことに気づく。

記録していなかったわけではない。
ただ、その問いに答える形では残していなかった。
セリアは、まさにその顔をしていた。

理人は責めるつもりはなかった。
むしろ、責めてはいけないと思った。
ここで責めれば、次から記録は隠れる。
人が死んだ記録でさえ、都合のいい形に変わる。
それだけは避けなければならない。

(三)紙の山

セリアは奥へ行った。
しばらくして、両腕に紙の束を抱えて戻ってきた。
それだけでは終わらなかった。

さらに木札の束。
未帰還者の紐付き札。
遺品回収依頼の控え。
報酬未払いの記録。

机の上に置かれるたび、重い音がした。
それは、人の死の音ではない。
ただの紙の音だ。
だが、理人には軽く聞こえなかった。

リナも黙っていた。
ミナは少し離れた場所から、その紙の山を見ている。
カイルは壁際に立っていた。
いつものように斜に構えた顔をしている。
だが、目だけは笑っていなかった。

セリアは紙の束を指した。
何かを言う。
リナが訳す。

「全部じゃない。古いものは奥。名前が重なっているものもある。未帰還のままのものもある」

理人はうなずいた。
完璧ではない。
それでいい。
完璧を待っていたら、何も見えない。

理人は、机の上に置かれた紙を見た。
日付の古い依頼票。端が擦り切れた木札。誰かの名前が刻まれた札。赤い紐でまとめられたもの。黒い印のついたもの。

戻った者。戻らなかった者。死んだと分かった者。死んだかどうかも分からない者。
それらが、同じ机の上に初めて並んだ。

セリアは、近くにいた職員へ何かを言った。
職員は渋い顔をしたが、奥からさらに数枚の記録を持ってきた。
理人はそれを見て、静かに息を吐いた。

紙はある。
記録もある。
足りないのは、つながりだ。

(四)汚い記録

記録は、予想通り汚かった。
同じ依頼なのに、書き方が違う。
ゴブリン討伐。森の小鬼退治。畑荒らし退治。小型魔物駆除。
同じものかもしれない。
違うものかもしれない。

新人という言葉も曖昧だった。
初めて依頼を受けた者。登録から一月以内の者。下級札を持つ者。経験はあるが、この支部では初めての者。
どれを新人と呼ぶのかが、揃っていない。

未帰還も曖昧だった。
死んだのか。逃げたのか。別の町へ行ったのか。まだ捜索中なのか。
死亡報告がある者もいれば、遺品だけ戻った者もいる。
報酬未払いで残っている者もいる。

理人は、頭を抱えたくなった。
だが、驚きはなかった。
データはだいたい汚い。

倉庫でもそうだった。
ギルドでも同じだった。
違うのは、ここで汚れているものが、人の生死に近いことだけだ。

理人は、紙の端に印を置いた。
確定。不明。たぶん。後で確認。

この四つだけでも、場の空気が少し変わる。
セリアは、たぶんの印を見て眉を寄せた。
カイルは鼻を鳴らした。
ミナはじっと見ている。
理人は、セリアに向けてゆっくり言った。

「分からない。消す、違う」

リナが訳す。

「分からないものは消さない。分からないまま残す」

セリアは、すぐには返事をしなかった。
だが、紙を取り上げることもしなかった。
理人はそれで十分だと思った。

きれいな数字を作るために、汚い記録を捨ててはいけない。
汚いと分かるように残す。
そこから始めるしかない。

(五)三つに分ける

理人は、机の上を三つに分けた。
帰還。未帰還。死亡または死亡に近い記録。
正確ではない。
だが、最初は粗くていい。

リナが名前を読む。
セリアが依頼名を補う。
理人が印を置く。

一つ。
二つ。
三つ。

名前が重なれば、同じ人物か確認する。
依頼名が違えば、内容を聞く。
戻ったか。戻らなかったか。誰と行ったか。新人か。経験者はいたか。

何度も詰まった。
リナが読めない字もあった。
セリアが記憶で補うこともあった。
カイルが横から、「そいつは戻ってない」「そいつは別の町へ行っただけだ」と言うこともあった。

完璧な表ではない。
だが、紙の山は少しずつ形を変えた。
ただの過去の束から、問いに答えるための形へ。
理人は、石を置きながら小さく言った。

「まず、見えるようにする」

リナはうなずいた。

「見えたら、少し怖いね」

理人は手を止めた。
その通りだった。
見えない方が楽なものは、たくさんある。

リナは、名前を読むたびに少しずつ声が小さくなった。
知らない名前のはずだった。
けれど、戻らなかったと聞くたびに、その名前はただの文字ではなくなる。

誰かが受付に来た。
誰かが依頼票を受け取った。
誰かが森へ行った。
誰かが戻らなかった。
その流れが、紙の間から立ち上がってくる。

理人は、リナに無理をさせすぎていないかと一瞬思った。
だが、リナは紙から目をそらさなかった。
彼女は小さく言った。

「読む」

理人はうなずいた。

「頼む」

その言葉は、今度は現地語で言えた。

(六)記憶も記録する

カイルは、いくつかの名前で口を挟んだ。

「あいつは新人扱いじゃない。前の町で二年やってた」

別の紙では、首を横に振った。

「それは死んだんじゃない。報酬で揉めて支部を変えた」

また別の名前では、少し黙った。

「そいつは……森で見つかった。遺品だけな」

セリアの手が止まる。
リナも、読む声を少し落とした。

理人はカイルを見る。
カイルの記憶は貴重だ。
だが、記憶だけでは危ない。

理人は、その横に小さな印を置いた。
たぶん。
カイルが眉を上げる。

「俺の言葉が信用できないってか」

リナが訳す前に、理人は首を横に振った。

「大事。でも、記録、違う」

リナが少し考えて訳す。

「カイルの話は大事。でも、紙にないから、確定にはしない。たぶんで残す」

リナがそう訳すと、カイルはしばらく理人を見た。
それから、鼻を鳴らした。

「面倒な男だな」

少し間を置いて、彼は机の上の紙を見た。

「だが、“たぶん”は大事だ」

リナが目を上げる。
カイルは、古い依頼票の束を顎で示した。

「一つだけなら、ただの勘違いかもしれない。見間違いかもしれない。臆病者の言い訳かもしれない」

そこで、カイルは指先で机を軽く叩いた。
一度。
二度。
三度。

「でも、“たぶん”が重なってきたら別だ」

リナは、その言葉を理人に訳した。
理人は、カイルを見た。
この男は、分かっている。

確定していない話を、確定したように扱う危うさも。
確定していないからといって、全部捨てる危うさも。
カイルは肩をすくめた。

「森で長生きする奴は、だいたいその“たぶん”で引き返す」

リナが訳すと、理人はゆっくりうなずいた。

「それは、いい記録になる」

カイルはまた鼻を鳴らした。
今度は、少しだけ機嫌がよさそうだった。

(七)偏り

夕方までかかって、ようやく最初の形が見えた。
完璧ではない。
抜けもある。
重複もある。
未確認もある。

それでも、傾向は出た。
過去半年。新人が含まれる依頼。そのうち、戻らなかった者がいる依頼。

数は、多すぎると言うほどではない。
だが、少ないと言えるほどでもなかった。
問題は、偏りだった。

高危険度の依頼ではない。
低危険度。初心者可。短時間。低報酬。
そういう依頼の中に、戻らなかった者が混じっている。
特に多いのは、森に入る依頼だった。
ゴブリン討伐。薬草採取。行方不明者捜索。遺品回収。

理人は石を並べた。
依頼の数。戻った数。戻らなかった数。新人が含まれていた数。死亡が確定した数。未帰還のままの数。
数字は粗い。
だが、十分だった。

セリアは、その石を見て黙っていた。
ミナは口元を押さえた。
カイルは、壁にもたれたまま目を細めている。

理人は思った。
これは、請求書だ。
誰か一人に突きつけるためのものではない。
ギルドという仕組みが、後回しにしてきたものの請求書だった。

理人は、危険度の印を指した。
低い。

次に、戻らなかった者の石を指す。
多い。

それから、森の依頼を指す。
集中。
リナがそれを言葉にする。

「低い危険の依頼なのに、新人が戻っていないものがある。特に森へ行く依頼に集まっている」

セリアは返事をしなかった。
返事の代わりに、石を見続けた。

(八)並べると変わる

セリアは、死者を知らなかったわけではない。
むしろ、覚えていた。
名前を見れば顔が浮かぶ。
報酬を受け取れなかった者。帰還予定日を過ぎても戻らなかった者。仲間だけが戻った者。遺品だけが戻った者。

一人一人なら、覚えている。
だが、並べたことはなかった。

並べると、別のものになる。
個別の不幸ではなく、傾向になる。
偶然ではなく、偏りになる。
セリアは、机の上の石を見ていた。

「こんなに」

彼女が小さく言った。
リナが訳さなくても、意味は分かった。
こんなに。
その言葉には、怒りよりも疲れがあった。
そして、少しの悔しさがあった。

ミナは、撤退条件の紙を握りしめていた。
もし紙がなかったら。
もし、足跡が三つでも進んでいたら。
もし、怖いと言えないまま森の奥へ進んでいたら。
彼女の名前も、いつかこの机の上に置かれていたかもしれない。

理人は、その可能性を考えた。
考えたくはなかった。
だが、考えなければならない。

戻った者がいる。
戻らなかった者もいる。
その差を、運や勇気だけで片づけてはいけない。

セリアは、石の並びから目を離さなかった。
それは、受付として見るには重すぎるものだった。
だが、見ないままにしておくには、もっと重いものだった。

(九)冒険者は死ぬ仕事

「冒険者は死ぬ仕事だ」

誰かが言った。
ギルドの奥にいた男だった。
職員なのか、古い冒険者なのか、理人には分からない。
だが、その声は強かった。

「危険を承知で受ける。だから報酬が出る。死ぬ者がいるのは当然だ」

リナが固い顔で訳す。
理人は、その男を見た。
言っていることの一部は、間違っていない。
冒険者は危険な仕事だ。
ゼロにはできない。

だが、死ななくていい依頼で死ぬのは別だ。
低危険度と書かれた紙を信じて死ぬのは別だ。
撤退を笑われて進んだ結果、戻らないのは別だ。
セリアが何か言おうとした。
だが、男は続けた。

「こんな数字を出せば、依頼主が困る。新人の仕事が減る。報酬を上げろと言われる。支部が回らなくなる」

それも、完全な嘘ではなかった。
理人は黙った。
数字を出せば、面倒が増える。
それは本当だ。
だが、数字を出さなければ、死者が個別の不幸として流れていくだけだ。

カイルが低く言った。

「死体を拾う依頼も、支部の仕事だろうが」

場が少し静かになった。
反発した男は、カイルをにらむ。
カイルは動かない。
理人は、机の上の石を見る。
反発は当然だった。

数字は、人を追い詰める。
数字が出れば、誰かが責任を問われる。
責任を問われれば、人は記録を守るのではなく、自分を守ろうとする。
それを間違えれば、今見えたものは、次から見えなくなる。
理人は、ここが危ないと思った。

(十)数字で殴らない

理人は、机の上の石を見た。
この数字は危ない。
そう思った。

数字は、便利だ。
人を黙らせる力がある。
だから危ない。

このまま誰かを責めるために使えば、次から記録は歪む。
未帰還は別の言葉に変えられる。
死亡報告は遅れる。
新人の定義が変わる。
危険度の分類が言い訳になる。

前の世界でも、数字はそうやって壊れた。
理人は、ゆっくり言った。

「これで、誰かを罰する。違う」

リナが訳す。
場の数人が理人を見る。

「罰する。次、書かない。次、嘘」

その言葉は、倉庫で口にしたものに近かった。
リナが少しだけ目を伏せる。
セリアも、何かを思い出したような顔をした。
理人は続けた。

「見る。変える。次、死なない」

リナが訳す。

「誰かを責めるためじゃない。次に同じ依頼を受ける人を死なせないために見る」

セリアは、机の上の石を見た。
カイルも黙っている。
反発していた男は、まだ納得していない。
だが、少なくとも、数字を出した目的は場に置かれた。

処罰ではない。
次に同じことを起こさないための確認。
その違いを、理人はどうしても譲れなかった。

理人はさらに、セリアを見た。

「書いた人、悪い。違う」

リナが訳す。

「記録した人を悪者にしない。戻らなかったことを書いた人も、死亡報告を出した人も、悪者にしない」

セリアの手が、机の端で少し止まった。
理人は、石を一つ指した。

「悪い人、探す。後」

次に、石の並び全体を指す。

「まず、同じこと、減らす」

リナが訳すと、カイルが小さく息を吐いた。

「本当に面倒な男だな」

その声には、少しだけ笑いが混ざっていた。

(十一)支部長

奥の扉が開いた。
出てきたのは、年配の男だった。
大柄ではない。
だが、立っているだけで場が少し静かになる。

顔には古い傷がある。
片手の指が一本、少し曲がっている。
現場にいた者の身体だった。

セリアが姿勢を正す。
カイルも、少しだけ壁から背を離した。
リナが小さく言った。

「支部長」

理人は男を見る。
男は机の上の石を見た。
依頼票の束を見る。
未帰還の札を見る。
それから、理人を見た。

「これを並べたのは、お前か」

リナが訳す。
理人はうなずいた。

「リナ。セリア。カイル。みんな」

自分一人ではない。
それは、はっきり言いたかった。

支部長は少しだけ目を細めた。
理人の言葉が正確に通じたかは分からない。
だが、意味は届いたらしい。
支部長は机の上の石を見ながら、低く言った。

「冒険者は死ぬ仕事だ」

反発していた男が、少し安心した顔をする。
だが、支部長は続けた。

「だが、死ななくていい依頼で死ぬのは、支部の怠慢だ」

リナが訳す前に、場の空気が変わった。
カイルが小さく笑った。
セリアは、初めて少しだけ息を吐いた。

理人は、支部長を見た。
この人は、数字を見た。
少なくとも、見ないふりはしなかった。
支部長は、石の並びを指した。

「粗い」

セリアが小さく身を固くする。
理人はうなずいた。

「粗い」

支部長は次に、未帰還の札を指した。

「足りない」

理人はまたうなずいた。

「足りない」

支部長は、最後に戻らなかった者を示す石を指した。

「だが、見ない理由にはならない」

リナが訳す。
理人は、静かに頭を下げた。

(十二)線が引かれる

その日、ギルドが変わったわけではない。
依頼票がすべて書き換わったわけでもない。
新人が死ななくなったわけでもない。
撤退条件が全員に受け入れられたわけでもない。
ただ、線が引かれた。

見るべきだと言う者。
見ると面倒になると言う者。
そして、見ないともっと面倒になると言う者。

新人を守るべきだと言う者。
新人に甘い顔をするなと言う者。
そして、厳しいと追い詰めるは違うと言う者。

依頼票を変えるべきだと言う者。
依頼が回らなくなると言う者。
そして、無理に依頼を回せば、もっと回らなくなると言う者。

見えるものが増えた。
だから、言葉も一歩だけ進んだ。

逃げることは、ただの臆病ではなくなった。
戻ることは、ただの失敗ではなくなった。
怖いと言うことは、ただの弱さではなくなった。
たぶんと残すことは、ただの曖昧さではなくなった。

まだ、誰も大きな変化など口にしていない。
だが、物事はたぶん、最初から大きな制度の名前で始まるものではない。
見えるものが増えた分だけ、言葉を一歩だけ進める。
そこから始まる。

セリアは、机の上の石を片付けなかった。
カイルは、若い冒険者たちを見ていた。
ミナは、撤退条件の紙をまだ持っていた。
支部長は、古い依頼票の束を奥へ戻させなかった。
反発していた男は、苦々しい顔で席を立った。

理人は、そのすべてを見ていた。
何かがきれいに始まったわけではない。
むしろ、面倒が始まった。
だが、面倒が始まったということは、見ないで済ませる段階が終わったということでもある。

(十三)もっと言葉がいる

その夜、セリアは理人に紙の束を渡した。
全部ではない。
まずは、新人が関わる依頼だけ。
それでも、かなりの量だった。

リナはそれを見て、少し顔を引きつらせた。
理人も同じ気持ちだった。
読めない字。揺れる依頼名。別々の記録。欠けた日付。曖昧な帰還報告。
やることは多い。
それに、言葉が足りない。

理人は、セリアに聞きたいことの半分も聞けなかった。
セリアの説明も、リナを通さなければ大半が分からない。
このままでは限界がある。

理人は、紙の束を見下ろした。
数えるだけでは足りない。
読む必要がある。
話す必要がある。
この世界の言葉で、説明する必要がある。

リナが隣で言った。

「言葉、もっと覚えないとね」

理人はうなずいた。

「そうだな」

珍しく、現地語ではなく日本語で返した。
通じなかったはずだ。
だが、リナはなぜか少し笑った。
ギルドの紙の山は、まだ机の上にある。
新人死亡率という名の請求書は、ようやく封を切られたばかりだった。

(十四)ログ

ログ

未接続項目:連結
局所負荷:上昇
分類維持:困難
反応分岐:発生

注記:
蓄積値の再解釈が開始。


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