非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第21話 開示権限がありません

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非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第21話 開示権限がありません
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創作実験TOP転生したのに、ステータス画面が表示されないんだが。作品紹介ステータス画面は表示されなかった。スキルも、鑑定も、翻訳も、女神のチュートリアルもない。現代日本でデータサイエンティスト兼プロジェクトマネージャとして働いていた山科理人…
非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第21話 開示権限がありません 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

(一)照会対象

白い女性は、静かに待っていた。

『判定対象項目を指定してください』

理人はノートに書いた自分の名前を見る。
山科理人。
この世界へ来てから、何度も名乗った名前だった。
だが、今から見るのは、自分が知っている自分ではない。
この仕組みが、自分をどう記録しているか。

理人は石台へ手を置いた。

「山科理人の個体履歴」

白い女性の輪郭が淡く揺れる。

『照会対象を確認』
『該当個体、一件』

空中に文字が浮かんだ。
山科理人。
自分の名前なのに、他人の記録のように見えた。

『対象個体照合、成立済み』
『項目別開示範囲を判定します』

短い間が空く。

『個体履歴には、原世界情報および制限情報が含まれます』
『同席者への開示許可を確認してください』

理人は顔を上げた。

(二)同席者への開示

若い神官が筆を止めた。
エルネストも理人を見る。
リナが不安そうに尋ねる。

「理人だけで聞く?」

理人はすぐには答えなかった。
何が出てくるか分からない。
自分でも、聞きたくない情報かもしれない。

「ここから先も、神殿の記録として残す必要がありますか」

理人が尋ねると、エルネストは若い神官へ向き直った。

「筆を置きなさい」
「神官長」
「階段まで戻り、そこで待ちなさい」

若い神官は迷った末、筆を置いた。
理人へ頭を下げ、降託の間から出ていく。
足音が遠ざかると、エルネストが言った。

「あなたが望むなら、私も退きます」

理人は首を横に振った。

「いてください」

それから、リナを見る。

「リナは――」
「いる」

即答だった。

「理人が聞くなら、隣にいる」

理人は小さく息を吐いた。

「分かった」

白い女性へ向き直る。

「同席者二名への開示を許可します。公的記録への全文転記は許可しません」
『開示範囲を設定』
『対象本人、許可同席者二名』
『記録制限を適用します』

(三)部分開示

空中に文字が並び始めた。
白い女性の声は、照会応答のままだった。

『山科理人、個体履歴照会』
『開示範囲、対象本人への部分開示』

理人はノートを開く。
山科理人 個体履歴照会記録。開示範囲。対象本人および許可同席者への部分開示。
文字は続いた。

対象個体名。山科理人。現地流入区分。外来個体。現地運用分類。現地不足補助個体。
分類説明。記録密度不足、制度定着不足、神託実務変換不足、危険条件照合能力不足を補助する個体。
そこまでは、すでに聞いた内容だった。
だが、今度は正式な個体履歴の一部として表示されている。

理人は一字ずつ書き写す。
そして、次の項目へ目を移した。

(四)生命活動停止

原世界肉体状態。生命活動停止。
理人の筆が止まった。
文字は続く。
流入時点。原世界肉体生命活動停止後。死因欄。急性内因性停止。詳細、開示制限。
地下から音が消えた。
少なくとも、理人にはそう感じた。
水の流れる音も。
リナの呼吸も。
自分の心臓の音さえ遠くなる。
原世界肉体状態。生命活動停止。流入時点。生命活動停止後。
何度読んでも、文字は変わらない。
仮説ではなかった。
可能性でもない。
記録だった。
リナが、理人の袖を握る。

「理人?」

理人は答えなかった。
ノートへ写そうとして、筆先が止まる。
手が震えていた。
エルネストが静かに言う。

「無理に記録する必要はありません」

理人は首を横に振った。

「書きます」

声が、自分のものではないように聞こえた。

「書かないと、逃げるので」

(五)やっぱり死んでいた

理人は、ゆっくりと書き写した。
原世界肉体状態。生命活動停止。流入時点。原世界肉体生命活動停止後。死因欄。急性内因性停止。詳細、開示制限。
書き終え、筆を置く。

「……やっぱり、死んでたんだな」

誰もすぐには答えなかった。
考えていなかったわけではない。
むしろ、最も可能性が高いと考えていた。
知らない世界。戻れない場所。通じない言葉。
元の世界で眠っていて、長い夢を見ている可能性も捨てきれなかっただけだ。
だが、記録には生命活動停止とある。
リナが小さく尋ねた。

「元の場所には、帰れないの?」
「少なくとも、元の体には戻れない」
「元の体……」

リナが、その意味をどこまで理解したのかは分からない。
それでも、袖を握る手は離れなかった。
エルネストが深く頭を下げる。

「この場へ立ち会わせてしまいました」
「俺が聞いたんです」

理人は白い女性を見た。

「必要でした」

必要なことと、痛くないことは別だった。

(六)直接介入記録

理人は、しばらく間を置いてから尋ねた。

「俺の原世界での生命活動停止に、あなたは関与しましたか」

白い女性は穏やかに答えた。

『当該生命活動停止に対する直接介入記録はありません』

理人は書いた。
生命活動停止への直接介入記録なし。
少なくとも、残された記録上では、目の前の相手が理人を直接死なせたわけではない。

「俺がここへ流入したのは、生命活動が止まった後ですか」
『はい』
「誰が、俺をここへ流入させた」

白い女性の光が、わずかに硬くなる。

『開示権限がありません』

理人の筆が止まった。
初めてではない拒否だった。
だが、今度は自分がここにいる理由へ、直接突き当たった。

「流入させた理由は」
『開示権限がありません』

理人はノートへ書く。
流入主体。開示不可。流入理由。開示不可。

情報がないわけではない。
ある。
ただし、自分には開けられない。

(七)今の分類

理人は問いを変えた。

「現地運用分類の根拠を、開示可能な範囲で」

白い女性が答える。

『倉庫記録改善』
『依頼票運用補助』
『魔法陣外形補正補助』
『神託文照会補助』
『未到達危険条件抽出』
『白倉村緊急対応補助』

理人は順に写した。
そこに並んでいるのは、自分が実際にしてきたことだった。
倉庫の木片を揃えた。依頼票の項目を見直した。魔物除け札の形を比べた。神託を現地確認へ変えた。白倉村で、見落とされた条件を拾った。

「今の俺の扱いとしては、間違っていない」

理人は言った。
エルネストが尋ねる。

「納得できませんか」
「きれいすぎるんです」
「きれいすぎる?」
「今までやったことを並べれば、この分類になります」

理人はノートへ書く。
現地運用分類。実績とは一致。流入理由とは別。

「今どう扱われているかと、なぜ来たかは同じとは限りません」

(八)付与なし

理人は、勇者碑文の前で聞いた加護を思い出した。
危機に応じた力。聖剣を扱う力。瘴気を払う力。傷を癒やす力。

「俺に、加護や支援は付与されていますか」

白い女性が答える。

『当該個体への危機対応加護、付与記録なし』

理人は書いた。
危機対応加護。なし。

「言語理解支援は」
『付与記録なし』
「身体能力の補正は」
『付与記録なし』
「魔法を使うための補助は」
『魔力経路接続なし』
「記録や照会を行うための能力補助は」
『付与記録なし』

返答はすべて同じ方向を示していた。
言葉も。身体も。魔法も。記録も。

理人へ追加されたものはない。
リナが、ノートを見つめる。

「じゃあ、理人が今までやってきたことは?」

(九)仕事の残り

理人は少しだけ笑った。

「俺の仕事の残りだな」
「仕事の残り?」
「前の世界で覚えたことの残り」

理人はノートへ表を作った。
加護・支援有無確認。言語理解支援。なし。身体能力補正。なし。魔力経路接続。なし。危機対応加護。なし。記録・照会能力補助。なし。
何もなかった。
本当に、何も与えられていなかった。
だから言葉を一つずつ覚えた。
数字を拾った。形を比べた。人に尋ねた。間違えた記録を直した。

「特別な力がないのに、ここまで来たんだね」

リナが言う。

「一人では来られなかった」

理人は答えた。
白倉村の人々。セリア。エルネスト。そして、リナ。

与えられた力はなかった。
だが、助けられなかったわけではない。
その二つも別だった。

(十)勇者ではない

理人は白い女性へ向き直った。

「俺は、勇者呼出対象ですか」
『否』

短い返答だった。
理人は書く。
勇者呼出対象。否。

「勇者としての加護は」
『付与なし』
「勇者としての役割は」
『該当なし』

リナが理人を見る。

「理人、勇者じゃないんだね」
「最初から、そうだろうとは思ってた」

剣はない。魔法もない。言葉すら通じなかった。

「でも、ここまで来た」

リナが言う。

「勇者だからじゃない」

理人はノートを見る。
記録。照会。条件の比較。
持っていたのは、それだけだった。

「勇者じゃなかったから、見えたものもあるかもしれない」

エルネストが顔を上げた。
理人自身も、その意味をまだ説明できなかった。
それでも、ノートへ残した。

(十一)開示権限がありません

理人は問いを続ける。

「なぜ、俺は勇者呼出対象ではないのか」
『開示権限がありません』
「なぜ、加護が付与されていないのか」
『開示権限がありません』
「なぜ、言語理解支援も付与されていないのか」
『開示権限がありません』

同じ答えが返る。
だが、理人は苛立たなかった。
無回答ではない。
理由がないのでもない。
理由は存在する。
ただ、現在の理人には開示できない。
ノートへ書く。
勇者呼出対象外の理由。制限対象。加護がない理由。制限対象。言語理解支援がない理由。制限対象。

「本人の情報でも開示されない?」
『当該項目は、個体履歴の本人開示範囲に含まれません』

個人情報の保護とは別の壁だった。

(十二)変わる権限

「俺に開示権限がない、ということですか」
『現在の照会権限では開示できません』

理人は、現在という言葉へ線を引く。

「照会権限は変わる可能性がありますか」

短い沈黙。

『条件により変動します』

理人の筆が止まる。
固定ではない。

「変動条件は?」
『開示権限がありません』

エルネストが、苦笑に近い息を漏らした。
理人も少しだけ口元を歪める。

「そこも開かないか」
『はい』

自然な返事だった。
リナが首をかしげる。

「開ける方法があることは、分かったんだよね」
「そうだな」

条件はある。
権限も変わる。
だが、その条件を知る権限がない。
理人はノートへ書いた。
照会権限。条件により変動。変動条件。開示不可。
壁はある。
だが、動かない壁ではなかった。

(十三)勇者呼出判定

理人は、別の方向から尋ねることにした。

「現在、勇者は呼び出されていますか」
『否』

エルネストが白い女性を見上げる。

「勇者を呼び出す判定は行われていますか」

理人が続けた。

『判定履歴があります』
「結果は」
『勇者呼出判定、不成立』

降託の間が静まり返った。
勇者が現れていないだけではない。
呼び出しの要否を判定し、その結果として成立していない。
エルネストが低く尋ねる。

「女神は、勇者を必要としていないのですか」

白い女性は答えなかった。
問いの範囲が広すぎる。
理人が聞き直す。

「勇者呼出判定が不成立となった理由を照会します」
『開示権限がありません』

やはり、そこにも壁があった。

(十四)不成立

「判定に関係する領域を提示してください」

白い女性が答える。

『危機種別評価』
『介入判断規則』
『現地対応可能性評価』

理人は書き写した。
勇者呼出判定。不成立。判定理由。開示不可。関連領域。危機種別評価。介入判断規則。現地対応可能性評価。
危機種別。現地対応可能性。
二つの言葉へ線を引く。
勇者が不要だから、呼ばれないのか。
勇者では解決できないから、呼ばれないのか。
勇者を呼ぶことで、別の問題が起きるのか。
まだ分からない。
だが、不成立の理由は、魔王の有無だけでは決まっていない。
少なくとも、現地がどこまで対応できるかも判定に含まれている。

「次に見る場所は、ここだ」

理人は呟いた。

(十五)未開示の場所

理人はノートの新しいページへ、開けなかった項目だけをまとめた。
流入主体。流入理由。勇者呼出対象外の理由。加護が付与されていない理由。言語理解支援が付与されていない理由。勇者呼出判定不成立の理由。介入判断規則。上位命令。
すべて、情報がないとは言われていない。

返されたのは、
開示権限がありません。
という言葉だった。
リナがページをのぞく。

「分からないことばっかり」
「でも、分からない場所は分かった」

理人は答えた。

「前よりは進んでる」

エルネストがうなずく。

「無知なのではなく、未開示」
「はい」

存在するかどうかも分からない情報を探すのと、存在するが閉じられた情報を開くのとでは、進め方が違う。
次に探すべきなのは、答えではない。
開くための条件だった。

(十六)ここにいる

しばらく、誰も話さなかった。
白い女性だけが、静かに待っている。
リナは理人の袖を握ったままだった。

「理人は、ここにいるよ」

理人はリナを見る。

「うん」
「元の体は、もう動かないんだよね」
「そうみたいだ」
「でも、理人はここにいる」

リナは少しだけ強く袖を握る。

「それは、なくならないよね」

理人は答えるまでに時間がかかった。

「なくならない」

口にすると、ようやく息が入った。
エルネストが深く頭を下げる。

「山科殿。あなたの記録へ立ち会ったことを、軽く扱いません」
「お願いします」
「神殿に残すべき記録と、残してはならない情報を分けます」

理人はうなずいた。
記録は必要だ。
だが、残せばよいわけではない。
情報は、持つ者によって人を守りも、傷つけもする。

(十七)次に見るもの

理人は新しいページを開いた。
次に見るべきもの。
一、勇者呼出判定が不成立になった理由。
二、危機種別評価とは何か。
三、現地対応可能性評価とは何か。
四、勇者では対応できない危機があるのか。
五、魔王は現在の危機の主要因なのか。
六、勇者を呼ぶことで悪化する条件があるのか。
七、制度、物流、記録、神託運用の不足は、危機評価に含まれるのか。
書き終え、筆を止める。

魔王。勇者。危機。現地対応可能性。
ようやく、一つの線が見え始めていた。

勇者がいない理由は、勇者が不要だからとは限らない。
勇者だけでは足りないのかもしれない。
勇者を呼ぶという方法そのものが、今の問題に合っていない可能性もある。
理人は白い女性を見る。

「勇者呼出判定が不成立となった理由を、照会します」
『当該照会には、危機種別評価および介入判断規則が含まれます』
「分かっています」

理人は答えた。

「開示範囲判定から始めてください」

(十八)閉じないノート

『開示範囲判定を開始します』

白い女性は、変わらず穏やかに微笑んでいる。
理人はノートへ目を落とした。
原世界肉体状態。生命活動停止。勇者呼出対象。否。加護・支援。付与なし。言語理解支援。付与なし。魔力経路接続。なし。
自分は勇者ではなかった。
女神から力を与えられた者でもなかった。
言葉も、自分で覚えた。
記録も、自分で残した。
何もなかったからこそ、見えたものもある。
言葉が通じない不便さ。情報が落ちる怖さ。制度の外に置かれる危うさ。

理人は、自分の名前を見る。
山科理人。
この世界へ来た理由は、まだ開かない。
勇者ではない理由も、まだ開かない。
だが、勇者呼出判定が不成立だったことは分かった。

次の問いも決まった。
理人はノートを閉じなかった。
まだ、閉じる時ではなかった。

(十九)ログ

ログ
個体履歴:部分開示
原世界状態:確定
対象個体支援:付与なし
勇者呼出判定:不成立
注記:
対象個体に死亡認識が発生。
介入判断領域への照会要求を確認。


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