
ネタバレ注意
この記事は、作品全体の設定・終盤の回収・最終話のテーマに触れます。
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
この物語の出発点は、かなり素朴な疑問でした。
ファンタジー世界を題材としたゲームや物語では、たいてい最初の町の近くには弱いモンスターしか出ません。
もちろん、それがゲーム性の都合であることも、成長物語として必要な段階であることも分かっています。
いきなり最初の町の外に最強クラスの魔物が出てきたら、物語もゲームも始まりません。主人公はまず外へ出て、弱い敵と戦い、少しずつ経験を積み、世界を広げていく必要があります。
だから、最初の町の周辺には弱いモンスターしかいない。
これは、物語としてはとても自然な約束事です。
ただ、世界の側から考えると、少し不思議でもあります。
たとえば、勇者の町の周りには結界があり、強いモンスターが近づけない、という説明はあり得ます。
でも、それなら他の町も同じように守ればいいのではないか。
なぜ勇者の町の周辺だけ、都合よく「成長にちょうどいい危険」になっているのか。
そう考えているうちに、ふと思いました。
もしかすると、順番が逆なのではないか。
勇者の町の近くにいるモンスターが弱いのではなく、弱いモンスターしかいない土地に住んでいた者の方が、勇者になりやすいのではないか。
強すぎる魔物がいる土地では、外へ出た瞬間に死んでしまう。
逆に、何も危険がなければ、外へ出る理由も、鍛えられる機会もない。
少し危険で、でも戻ってこられる。
失敗しても死なずに済む。
今日だめなら、明日また試せる。
そういう土地に生まれた者の方が、結果として遠くまで行けるようになるのではないか。
これが、この物語の設定の出発点でした。
一方で、魔王の立場になって考えれば、勇者を封じたいのは当然です。
過去に勇者に倒された記録があるなら、魔王軍はそれを分析するはずです。
勇者の出身地。
勇者の血筋。
神託。
聖痕。
聖剣。
仲間。
そういう共通項を抜き出し、次の勇者が現れる前に潰そうとする。
しかも今回の魔王は、できる限り有能な存在にしたいと思いました。
油断して負ける魔王ではなく、かなり真面目に勇者対策をする魔王です。
自分が考え得る限りの最高のマネジメント能力を持った魔王に、勇者封じをやってもらう。
では、それでもなお勇者相当の存在が生まれるとしたら、どこから来るのか。
そこに興味がありました。
魔王が「勇者の条件」を封じた結果、従来型の勇者は確かに封じられる。
けれど、その戦略から外れた場所に、どうしても空白ができる。
その空白から、勇者ではない者たちが少しずつ進んでくる。
そういう話なら面白いのではないか、と思いました。
そのため、主人公はかなり普通の少年、あるいは青年が望ましいと考えました。
読者の観測点として、特別な血筋でも、最初から選ばれた存在でもない人物が必要だったからです。
それがロアンです。
ロアンは、最初から勇者ではありません。
特別に強いわけでもない。
すごい剣を持っているわけでもない。
神託を受けたわけでもない。
ただ、危ない時に戻ることができる。
人の話を聞くことができる。
一人で全部を抱え込まず、誰かに頼ることができる。
そういう性質を持った主人公として作りました。
ただ、ロアン一人では絶対に詰みます。
この話では、問題を一つずつ分けて考え、解ける形にしてくれる人がいないと前に進めません。
そこでミルカが必要になりました。
ミルカは、魔法で派手にすべてを解決する役ではありません。
むしろ、状況を分解し、条件を見て、今できることとできないことを切り分ける役です。
「普通の火の魔法」を、普通ではない精度で使う人でもあります。
そして、旅には回復役が必要です。
けれど、単に傷を治すだけでは、この世界はかなり厳しい。
一歩進む前に、危険を少しだけ避けられる人がいないと、そもそも前へ進めない場面が多い。
だから、軽い予知のような感覚を持つエナが生まれました。
ただし、エナには万能の未来視をさせたくありませんでした。
遠い未来をすべて見通す力ではなく、手の届く範囲の悪い予感。
今ここで止まれば変えられるもの。
袖を引ける距離の危険。
そのくらいの力として置きました。
最後に、前に立つ強い剣士が必要でした。
ただ、最初から「自分は最強だ」と分かっている人物ではなく、自分の強さをあまり正確に認識できていない剣士にしたいと思いました。
それがガルドです。
田舎道場で剣を振り、薬草が必要なら崖を登る。
本人にとっては普通のことでも、周囲から見るとだいぶおかしい。
そういうずれを持った剣士です。
ロアン、ミルカ、エナ、ガルド。
この四人は、最初から伝説の仲間だったわけではありません。
勇者、賢者、聖女、剣聖として揃っていたわけでもありません。
ただ、それぞれが少しずつ足りないものを持ち寄り、誰かの足りないところを補いながら進んでいきました。
そして、魔王を倒した後、世界は彼らに意味を与え始めます。
剣は聖剣になり、物語は神託になり、傷は聖痕になる。
村は勇者の町になり、家族は勇者の一族になり、仲間は賢者、聖女、剣聖になる。
ロアンは、灰の勇者と呼ばれるようになる。
でも、それらは最初から揃っていた条件ではありません。
歩いた後に、世界がそう呼んだものです。
この物語の題名である「勇者の条件」は、最初は魔王軍が勇者を封じるために定義したものです。
けれど最後には、それが少し違う意味になります。
勇者の条件は、出発前に持っていなければならないものではない。
進んだ後で、誰かがそこに意味を見つけるものなのかもしれない。
そんな話として読んでいただけていたら、とても嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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