エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第4話 魔剣の噂

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第4話 魔剣の噂 エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第4話 魔剣の噂
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第4話 魔剣の噂 人物相関図

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強い剣

 村に滞在して数日。

 セトの脇腹の痛みが治まり始めた頃、二人は宿屋の食堂で旅の商人と向かい合っていた。

「強い剣を探している?」

「ああ」

「できれば、火に関係するものがいい」

 シアが付け加える。

 商人は二人を見比べた。

「買いたいのか?」

「見るだけだ」

「触れられるなら触る」

「勝手に条件を増やすな」

 セトが止めると、シアは不満そうに黙った。

 先代イフリートを殺したものは、その力を奪った可能性が高い。

 黒刃は触れた精霊術を崩すことはできても、奪った力を蓄えておくことはできない。

 それとは違い、力を奪い、自分の中へ残しておける何かがあるのかもしれない。

 それが剣だとは限らない。

 だが、強い武器の噂を追うという方針に、今のところ代案はなかった。

 商人は顎へ手を当てた。

「火に関係する強い剣なら、一つ知っている。ここから北へ行ったところに、火の山があるだろう」

「知らない」

 シアが即答する。

「お前は知らなくてもいい」

 商人は苦笑してから続けた。

「その山の神殿に、火の聖剣が安置されているらしい」

火の聖剣

「聖剣?」

「勇者に力を与えた剣だとか、火の神が残した剣だとか、話はいくつもある」

「どれが本当だ」

「そこまでは知らない。俺も見たことはないからな」

 商人が知っているのは、旅人から聞いた噂だけだった。

 火の山には古い神殿があり、その最奥に燃える剣が安置されている。

 剣を握った者は炎をまとい、普通の人間では扱えない力を得るという。

「使い手を強くする剣か」

 セトが尋ねる。

「らしい。もっとも、今も力が残っているかは知らないが」

 シアが立ち上がった。

「行くぞ」

「まだ朝食が残ってる」

「食べながら行けばいい」

「器ごと持っていく気か」

 シアはテーブルの上にある皿を見た。

 真剣に考え始めたため、セトは先に残りを食べることにした。

 火の聖剣。

 名前だけなら、調べる価値はある。

 火に関係する強力な剣なら、先代イフリートの死と何らかの関係がある可能性も否定できなかった。

火の山へ

 村を出た二人は、街道を北へ進んだ。

 火の山までは、歩いて数日の距離だった。

 近づくにつれて木々は減り、地面を覆う草もまばらになっていく。

 黒い岩が露出した斜面から、白い蒸気が上がっていた。

「暑いな」

 額の汗を拭ったセトの隣で、シアは普段と変わらない足取りで歩いている。

「そうか?」

「お前には聞いてない」

「セトが言ったから答えた」

「火の精霊王に暑さを聞いた俺が悪かった」

 シアは立ち止まり、地面の割れ目から上がる蒸気へ手を入れた。

「何をしてる」

「火の流れを見ている」

「それで何か分かるのか」

「山の中に、大きな火の力がある」

「山なんだから当然だろ」

「そうではない。自然に動いている火とは別に、同じ場所へ集まり続けている」

 シアは山の中腹へ目を向けた。

 古い石段が、蒸気の向こうへ続いている。

「あそこだ」

山の神殿

 石段の先には、小さな神殿が建っていた。

 黒い石を積み上げた建物で、入口の左右には火が灯されている。

 神殿を守る老いた神官は、突然訪れた二人を怪しそうに見た。

「聖剣を見たい?」

「ああ」

「触ってもいいか」

「駄目に決まっている」

 神官が答えるより先に、セトが言った。

「触れなくていい。近くから見せてもらいたい」

「何のために」

「探している剣がある。その剣かどうか確かめたい」

「聖剣を探し物と一緒にされても困る」

 当然の反応だった。

 セトは事情をどこまで話すべきか考える。

 隣でシアが口を開いた。

「火の力を持つ剣を探している」

「なぜだ」

「先代の火が奪われた。それを持っているものを探している」

 神官の顔が険しくなった。

「先代とは、誰のことだ」

「前のイフリートだ」

 神官がシアを見た。

「お前は何者だ」

「今のイフリートだ」

「おい」

 セトが止める間もなかった。

名乗る少女

 神官は黙ってシアを見た。

 シアも黙って見返している。

 やがて神官が口を開いた。

「火の精霊王を名乗る者は、時折現れる」

「そうなのか」

「お前が驚くな」

 セトが小声で言う。

「本物だという証拠はあるのか」

 神官に問われ、シアは右手を上げた。

 炎が生まれる。

 入口の左右に灯されていた火が、シアの手へ向かって傾いた。

 神官が目を見開く。

 シアが指を動かすと、二つの火は細い輪となって空中を回り、元の灯火へ戻った。

「これでいいか」

「普通の術士にもできるんじゃないか」

「セトは黙っていろ」

 神官はしばらく考えた後、神殿の中へ二人を通した。

「触れることは許可できない。見るだけだ」

「分かった」

 シアが答える。

「本当に分かってるな?」

「セトはわたしを何だと思っている」

「剣を見ると触ろうとする奴だ」

燃えない剣

 神殿の奥は、山の岩盤を掘り抜いて作られていた。

 壁の割れ目を赤い光が流れている。

 熱を帯びた精霊力が、細い流れとなって最奥へ集まっていた。

 その中心に一本の剣がある。

 黒い岩で作られた台座へ、刃を下にして突き立てられていた。

 刀身は暗い赤色で、金属とも石ともつかない。

 炎をまとってはいない。

 だが、周囲の空気が揺らぐほどの熱を発していた。

「火の聖剣だ」

 神官が言った。

「かつては刀身から炎が立ち上り、近づくだけでも身を焼かれたという」

「今は違うのか」

「見ての通りだ」

 シアは剣の前まで進んだ。

 張られている鎖の手前で足を止める。

 触れるなという約束は守った。

「どうだ」

 セトが尋ねる。

「火の力を蓄えている」

「先代のものか?」

 シアは答えず、剣を見つめ続けた。

蓄えられた力

「違う」

 しばらくして、シアが言った。

「分かるのか」

「ああ。先代から奪った火は感じない」

 剣の中にあるのは、この山の火だった。

 壁や地面を通じ、長い時間をかけて少しずつ集められた力。

「この剣は、山の火を蓄えているのか」

「ああ。集めた力を中へ残し、必要な時に使う」

 シアは火の聖剣を見たまま続けた。

「こういう剣を、人間は聖剣と呼ぶことがある」

「こういう剣?」

「力を蓄え、それを使い手へ与える剣だ」

 神官が怪訝そうにシアを見る。

「聖剣を知らなかったのか」

「人間が何と呼ぶかは知っている。だが、その呼び方はあまり正確ではない」

「どういう意味だ」

「同じ仕組みの剣でも、人間を害するものは魔剣と呼ばれる」

「魔剣?」

「人や魔物、精霊術から力を奪い、中へ蓄える剣だ」

「それは、聖剣とは別のものではないのか」

「力を蓄え、必要な時に使う仕組みは同じだ」

 シアは岩壁を流れる赤い光を指した。

「この剣は山から火を集めている。人間を傷つけず、長い間守られてきた。だから聖剣と呼ばれている」

「魔剣は、人や魔物から奪うのか」

「そういうものが多い」

 違うのは、力の集め方と人間からの扱われ方だった。

 剣そのものの仕組みに、大きな違いがあるわけではない。

聖と魔

「なら、聖剣か魔剣かは、人間が決めた呼び名なのか」

 セトが尋ねる。

「ああ」

「剣そのものに善悪があるわけではない?」

「剣に意思があるとは限らない。使う人間と、力の集め方が違うだけだ」

 火の聖剣は、この山から少しずつ火の力を受け取っている。

 誰かを襲わなければ力を保てないわけではない。

 一方、魔剣と呼ばれるものには、周囲の生き物や精霊術から強引に力を奪うものがある。

「先代の力を奪ったものも、魔剣かもしれないということか」

「剣なら、その可能性がある」

「だが、人間から聖剣と呼ばれている可能性もある」

「ああ。名前だけでは分からない」

 人間が付けた呼び名と、実際に蓄えている力が一致しているとは限らない。

 聖剣と呼ばれていても、別の何かから力を奪っているかもしれない。

 調べるべきなのは名前ではなく、その中に何の力が残っているかだった。

二十年前

「この剣が最後に使われたのはいつだ」

 セトが神官へ尋ねた。

「二十年ほど前だ」

「誰かが持ち出したのか」

「いや。この神殿で力を解放したと記録されている」

 その時、剣が長年蓄えてきた火のほとんどを使い切った。

 それ以降、刀身から立ち上っていた炎は消え、山から少しずつ力を集め直しているという。

「二十年前から、ここを動いていないのか」

「ああ。私の先代も、その前の神官も管理している。台座から抜かれた記録はない」

 先代イフリートが殺されたのは、およそ二年前。

 この剣が二十年前に力を使い切り、それ以降ずっと神殿にあるのなら、先代殺害には使えない。

「違ったな」

 セトが言う。

「ああ」

 シアは火の聖剣を見ていた。

「だが、探すものは少し分かった」

「先代の火を蓄えている剣か」

「剣とは限らない」

「それは分かってる」

「だが、こういうものなら、奪った力を残しておける」

 火の聖剣は先代を殺したものではなかった。

 それでも、力を奪ったものが何をしているのか、その可能性の一つは見えた。

王都の聖剣

 神殿を出る前、神官が二人を呼び止めた。

「力を蓄える剣を探しているなら、王都にも聖剣がある」

「火の剣か?」

「いや、光の聖剣だ」

 王都の大神殿には、太陽の光を蓄える聖剣が安置されている。

 百年以上前から存在し、剣を持った英雄へ光の加護を与えたという記録も残っていた。

「火の剣ではないなら関係ない」

 シアが言う。

「先代の火を蓄えている可能性はある」

 セトが答えた。

「光の聖剣と呼ばれていても、光だけを持っているとは限らないんだろ」

 シアは少し考えた。

「確かにそうだな」

「調べる価値はある」

「なら行く」

 火の山を下りた二人は、そのまま王都へ向かうことにした。

 火の聖剣は違った。

 だが、空振りというだけではない。

 聖剣という呼び名だけで、調査から外してはいけないことが分かった。

光の大神殿

 王都へ到着したのは、それから数日後だった。

 大神殿は、王都の中心に建つ白い石造りの建物だった。

 高い窓から差し込む光が、床へ真っすぐ落ちている。

 光の聖剣は、神殿中央の祭壇に安置されていた。

 白銀の刀身。

 金色の装飾。

 刃の周囲には淡い光が漂い、離れた場所からでも強い力を感じる。

 火の聖剣とは違い、今も十分な力を蓄えているらしい。

「強そうだな」

 シアが言う。

「お前がそう言うと期待できるな」

「だが、違う」

「もう分かるのか」

「ああ」

 シアは祭壇へ近づかず、入口付近で足を止めた。

「光しかない」

「先代の火は?」

「感じない」

 先代イフリートから奪った力を蓄えているなら、火の痕跡が残っているはずだった。

 目の前の聖剣にあるのは、長い年月をかけて集められた光だけだった。

太陽の剣

 神殿の司祭によれば、光の聖剣は日中になると、祭壇上部の天窓から太陽光を浴びる。

 夜間も地下へは移さず、その場で厳重に管理されていた。

「二年前に持ち出されたことは?」

「ありません」

「短い間でも?」

「祭典で王都の広場へ運ばれたことはあります。しかし、大神殿の者と王都の騎士が常に同行します」

 記録も残っている。

 先代イフリートが殺されたと思われる時期にも、光の聖剣は王都にあった。

 火の聖剣と同じく、こちらも違う。

「二つ目も外れか」

 大神殿を出たセトが言う。

「何本調べれば見つかる」

「分からない」

「全部か?」

「世の中に何本あると思ってる」

「知らない」

「俺も知らない」

 シアは少し考えた。

「なら、もっと怪しい剣から調べればいい」

「どうやって選ぶ」

「魔剣と呼ばれているものを探す」

「それをどこで探す」

「人に聞く」

「魔剣を持っている奴が、素直に教えるとは思えないけどな」

力を与える剣

 二つの聖剣を見たことで、いくつか分かったことがある。

 聖剣も魔剣も、精霊力を内部へ蓄えることができる。

 火の聖剣は、火の山から力を集めていた。

 光の聖剣は、長い年月をかけて太陽の光を蓄えている。

 そして蓄えた力は、必要な時に放出できる。

「聖剣を持った英雄が強くなったという話は、剣の力を使っていたからか」

 セトが尋ねる。

「たぶんな」

「白刃とは違うな」

「白刃は、セトが剣を強くしている」

 シアは光の大神殿を振り返った。

「あれは、剣が人間へ力を渡す」

 白刃は、セトが周囲の精霊を集めて、その場で作る剣だ。

 握っただけで、セト自身の力が増えるわけではない。

 聖剣や魔剣には、蓄えた力を使い手へ流すものもある。

 人間の体を強くし、普段は使えない精霊術を使わせることもあるらしい。

「先代を殺せるほど力を蓄えた魔剣か」

「見つければ分かる」

「何を根拠に」

「火があるか見る」

「先代の火と、普通の火は区別できるのか」

「近くで見れば、たぶん」

「たぶんか」

「見たことがないからな」

 シアにしては、珍しく慎重な答えだった。

張り紙

 二人は王都の宿屋で、次に向かう場所を相談することにした。

 宿屋の一階は酒場も兼ねており、壁には仕事や催しを知らせる紙が何枚も貼られている。

 空いている席を探していたシアが、そのうちの一枚の前で止まった。

「セト」

「どうした」

「魔剣がある」

 声が大きかった。

 周囲の客が一斉に振り返る。

 セトはシアの隣へ行き、張り紙を見る。

 近隣の都市で開かれる精霊術大会の告知だった。

 参加者は二人一組。

 予選を勝ち抜いた者たちが競い、優勝した組には賞金と特別な武器が与えられる。

 その武器について、張り紙には大きな文字で書かれていた。

 ――優勝賞品、魔剣。

「ずいぶん堂々と書いてあるな」

「これを調べる」

 シアはすでに行く気になっている。

「本物とは限らない」

「なら、見れば分かる」

「優勝賞品だぞ。見るだけで近づけるか?」

「優勝すればいい」

二人一組

 セトは張り紙を読み直した。

 大会への参加条件は二人一組であること。

 武器の使用は認められるが、命を奪う攻撃は禁止。

 参加者の受付は、まだ締め切られていない。

「出るぞ」

 シアが言った。

「まずは大会について調べる」

「出ないと魔剣へ近づけないかもしれない」

「展示される可能性もあるだろ」

「優勝すれば確実だ」

「簡単に言うな」

「セトが前で戦って、わたしが全部倒せばいい」

「俺が前にいる意味がない」

「なら、セトは見ていろ」

「大会の意味までなくなる」

 シアは不思議そうに首を傾げた。

「勝てば同じだろ」

「同じじゃない」

「人間の大会は面倒だな」

 セトは張り紙を壁から外さず、開催場所と受付期間を覚えた。

 本物か偽物かは分からない。

 先代イフリートを殺したものとも限らない。

 それでも、魔剣と呼ばれる武器へ近づける機会だった。

「行くだけ行くか」

「ああ。出るぞ」

「まだ参加するとは言ってない」

「二人一組だ」

 シアは張り紙の文字を指す。

「セトとわたしで二人いる」

「人数の問題じゃない」

 だが、他に有力な手掛かりもない。

 二人は翌朝、魔剣が優勝賞品となる大会の開催地へ向かうことになった。


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