本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第25話 今度はスズメの巣

本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第25話 今度はスズメの巣 創作実験
本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第25話 今度はスズメの巣
本当に人間ってあさはかな生き物だよね
創作実験TOP日常系/猫視点コメディ/人間観察―― 猫には猫の常識がある。人間はそれを、何ひとつ分かっていない。 ――作品紹介黒猫のシジミは、人間に飼われている。少なくとも、うちの人間はそう思っている。だが、シジミからすれば話は逆だ。毎日決…

予想どおり次が来た

カラスのひなが巣立った。

ムクドリのひなも巣立った。

巣を守るカラスに警戒されることもなくなった。

早朝から屋根の上で、

「ギャー!」

と鳴かれることもなくなった。

これで本当に平和になるのだろうか。

シジミは、そう思っていた。

カラスがいなくなったときも、同じことを思った。

その直後に、ムクドリが家の屋根へ巣を作った。

ならば、ムクドリがいなくなったあとにも、何かが来る可能性はある。

空いた場所は、空いたままとは限らない。

安全だった場所。

雨を避けられる場所。

実際にひなが育ち、巣立った場所。

そういう場所を見つければ、別の鳥が使おうとすることもある。

数日後。

予想どおり、次が来た。

スズメである。

超優良中古物件

朝、シジミが窓辺で外を見ていると、一羽のスズメが屋根の端へ止まった。

見覚えのある屋根の隙間を、離れた場所から眺めている。

すぐには近づかない。

首を細かく動かす。

周囲を見る。

カラスはいない。

ムクドリもいない。

人間が外へ出てくる気配もない。

それを確かめてから、少しずつ隙間へ近づいた。

入口の手前で止まる。

中をのぞく。

すぐに離れる。

また周囲を見る。

それから、もう一羽が飛んできた。

最初の一羽よりも、さらに慎重だった。

屋根へ直接は降りない。

近くの木へ止まる。

電線へ移る。

家の周りを一度飛ぶ。

ようやく、最初の一羽の隣へ降りた。

二羽は小さな声で話し始めた。

「ここ、いいかも」

「前、カラスが近くにいた」

「もういない」

「本当に?」

「最近、見ない」

「ムクドリもいた」

「それもいなくなったみたい」

「ちゃんと巣立った?」

「ちゃんと巣立ったっぽい」

二羽は、屋根の隙間を見た。

「じゃあ、超優良中古物件!」

「巣立ち実績あり!」

なるほど。

そういう評価になるのか。

人間が家を選ぶときも、似たようなことを気にする。

雨が入らない。

風が強くない。

危険が少ない。

暮らしやすい。

そして、以前そこへ住んでいた者が無事に暮らせていたか。

鳥にとっても同じらしい。

すでに一度、ムクドリのひなが育った。

親鳥が食事を運んだ。

ひなは巣立った。

少なくとも、子育ての途中で巣が壊れたり、外敵に襲われたりはしていない。

実績がある。

スズメ夫婦から見れば、十分に魅力的な場所なのだろう。

リノベーション

ただし、ムクドリが使っていた巣を、そのまま使うわけではなかった。

厳密には、少し違う。

スズメ夫婦は、巣の中へ大量の藁を運び始めた。

細い枯れ草。

柔らかそうな葉。

どこかから拾ってきた糸。

小さな羽。

人間が落としたらしい紙の切れ端まで運んでくる。

すでにある巣材を利用しながら、自分たちが使いやすい形へ整えている。

人間風に言えば、改装である。

リフォーム。

あるいは、リノベーション。

二つの違いは知らない。

うちの人間も、絵の光る板で家の話を見るたびに使い分けているが、たまに自分でも混乱している。

古いものを直すのがリフォーム。

価値まで変えるのがリノベーション。

以前、そのような説明を読んでいた。

ならば、ムクドリの巣をスズメ向けに作り変えているのだから、リノベーションなのかもしれない。

だが、巣の入口へ藁を詰めすぎて、何度か外へ落としている。

価値が上がっているのかは分からない。

一羽が藁を運ぶ。

もう一羽が中で受け取る。

形を整える。

少しすると、入れたばかりの藁が外へ落ちる。

外にいた一羽が、それを見る。

「落ちた」

中から声がする。

「形が悪かった」

「さっき運んだばかり」

「だから?」

「また運ぶの?」

「また運んで」

人間の家づくりにも、似たようなことがあるのかもしれない。

一度作る。

気に入らない。

壊す。

また作る。

完成に近づいているようで、同じところを何度も直す。

それでも数日すると、巣はスズメ夫婦のものらしい形になっていった。

入口の近くまで藁が増えた。

内側には柔らかいものが集められている。

外からは奥が見えにくくなった。

気づかれていないか

スズメは警戒心が強い。

庭へ食事を食べに来るスズメたちも、すぐ地面へは降りない。

まず木に止まる。

次に周囲を見る。

シジミがいないか。

カラスがいないか。

人間が近くにいないか。

逃げ道があるか。

それを確かめてから降りる。

食事をついばんでいるあいだも、何度も顔を上げる。

一粒食べる。

見る。

もう一粒食べる。

また見る。

何かが動けば、一斉に飛ぶ。

そのスズメが、子を育てる場所を選ぶのである。

慎重になるのも当然だった。

スズメ夫婦は、巣作りを始めてからも何度も周囲を確かめた。

人間が屋根を見上げれば、作業を止める。

シジミが窓辺へ来れば、離れた木へ移る。

庭へ別の鳥が来れば、しばらく戻らない。

本当にここでよいのか。

危険はないか。

気づかれていないか。

そう考えているらしい。

今度はスズメが巣を作ってる

だが、うちの人間はとっくに気づいていた。

「今度はスズメが巣を作ってる」

少し楽しそうだった。

ムクドリが屋根へ巣を作ったときには、

「思ったよりうるさい」

「家を出るたび威嚇される」

「早く巣立って」

と何度も言っていた。

それでも別の鳥が同じ場所へ巣を作り始めれば、また喜ぶ。

前回の経験から、何も学んでいないのだろうか。

あるいは、ムクドリとスズメは違うと思っているのかもしれない。

たしかに違う。

ムクドリは、

「ギャー!」

と鳴く。

スズメは、人間の耳には、

「チュンチュン」

と聞こえる。

声だけなら、スズメのほうが穏やかである。

だが、内容まで穏やかとは限らない。

ひなが生まれた

やがて、巣の中から小さな声が聞こえるようになった。

ひなが生まれたらしい。

親が戻ってくると、声が一斉に大きくなる。

「飯!」

「こっち!」

「先に!」

「腹減った!」

どの鳥の子も、食事については遠慮しない。

親が何かをくわえて帰ってくる。

入口へ止まる。

中へ入る。

ひなが騒ぐ。

食事を渡す。

また飛んでいく。

その繰り返しである。

スズメ夫婦は忙しくなった。

巣を作っていたころより、さらに周囲へ神経を使う。

食事を探しに行く。

巣へ戻る。

入口へ近づく前に、周囲を見る。

危険がいないか確かめる。

そして、すばやく中へ入る。

シジミは、なるべく屋根の近くへ行かないようにしていた。

スズメのひなを狙うつもりはない。

だが、親にそのつもりがないと理解させるのは難しい。

猫である。

小さな鳥を捕まえることもある。

巣の近くにいるだけで、警戒されるには十分だった。

だから距離を取る。

相手が神経質な時期に、わざわざ近づく理由はない。

お前もスズメだろ

しかし、すべてのスズメが同じように配慮するわけではなかった。

毎朝、庭へ食事を求めに来るスズメ軍団である。

うちの人間は、相変わらず庭へ食事をまいている。

カラスが子育てをしていたころも来た。

危険だと分かっていながら、朝食を諦めなかった。

ムクドリが屋根へ巣を作っていたころも来た。

そして今度は、同じスズメが子育てをしている。

同じ種類なのだから、少しは事情を理解し合えるのかと思った。

だが、そうではなかった。

朝。

まだうちの人間が起きていない時間に、いつものスズメたちが庭へ集まった。

低い木。

塀。

窓の近く。

それぞれ、いつもの位置へ止まる。

そして、一羽が鳴いた。

「飯!」

別の一羽も続く。

「はよう飯!」

「起きろ!」

「腹減った!」

いつもどおりである。

屋根の巣では、親スズメが動いた。

入口から顔を出す。

庭を見る。

何羽も集まっている。

大声で鳴いている。

一羽の親スズメが、低い声で言った。

「何だ、あいつら」

もう一羽も入口から周囲を確かめる。

「いつも朝飯を食べに来る連中」

「うちの前で?」

「前から来てる」

「今も?」

「今も」

庭のスズメ軍団は、さらに騒ぐ。

「飯!」

「まだか!」

「寝てるぞ!」

「もっと鳴け!」

親スズメの体が少し膨らんだ。

「こら! うちの前で騒ぐな!」

庭のスズメたちが一瞬黙る。

巣の親が続ける。

「こっちは子育て中なんだ!」

庭の一羽が屋根を見上げた。

「お前もスズメだろ」

「だから何だ!」

「仲間じゃないか」

「仲間なら静かにしろ!」

後から作ったんだろ

そのとおりである。

同じ種類だからといって、無条件に歓迎されるわけではない。

巣の近くへ集団が来る。

大声で鳴く。

動き回る。

それだけで、親スズメには迷惑なのだろう。

騒ぎを聞きつけて、カラスや猫が来るかもしれない。

人間が窓を開けるかもしれない。

巣の場所に気づかれるかもしれない。

子育て中の親から見れば、仲間がいる安心より、巣の近くで騒がれる危険のほうが大きい。

だが、朝食を狙うスズメ軍団には、別の事情がある。

ここで鳴かなければ、うちの人間が起きない。

うちの人間が起きなければ、食事が出ない。

食事が出なければ、朝食を食べられない。

一羽が親スズメへ言った。

「人間を起こしてるんだ」

「別の場所で起こせ!」

「ここで鳴くと早い」

「巣の前だ!」

「それはお前たちが後から作ったんだろ」

正しい。

スズメ軍団は、ムクドリが巣を作るより前から庭へ来ていた。

うちの人間を起こし、食事を要求していた。

その習慣がある場所へ、スズメ夫婦が移ってきた。

家の屋根が優良中古物件でも、周囲が静かな住宅地とは限らない。

物件だけでなく、近隣の状況も確認するべきだった。

スズメ夫婦は、カラスがいないことを確かめた。

ムクドリがいないことも確かめた。

以前のひなが無事に巣立ったことも確認した。

だが、毎朝ここへ食事を求めて来る集団までは、調べていなかったらしい。

超優良中古物件にも欠点

人間の家選びでも、建物だけを見て決めたあとで困ることがある。

駅が近い。

部屋が広い。

日当たりがよい。

だが、朝から騒がしい。

隣がうるさい。

人の出入りが多い。

住み始めてから、初めて気づく。

超優良中古物件にも、欠点はある。

どちらにも理由がある

屋根の親スズメが鳴く。

「静かにしろ!」

庭のスズメ軍団が鳴き返す。

「飯が出たら静かになる!」

「出るまで騒ぐな!」

「出るまで騒がないと、飯が出ない!」

筋は通っている。

困ったことに、どちらの主張にも理由がある。

子育て中だから、巣の近くを静かにしてほしい。

朝食が欲しいから、人間を起こしたい。

親スズメは、ひなの安全を優先する。

スズメ軍団は、自分たちの腹を優先する。

同じ種類でも、立場が違えば望むことも違う。

庭の一羽が言った。

「お前たちも食べればいいだろ」

親スズメが怒る。

「ひなの食事を探しに行くんだ!」

「庭のを持っていけば?」

「人間がまくものばかり食べさせられるか!」

「腹に入れば同じだろ」

「同じじゃない!」

子を育てる親には、食事の内容にも考えがあるらしい。

庭のスズメたちは、自分が食べられればよい。

巣の親は、ひなへ何を与えるかまで考える。

同じ食事でも、目的が違う。

さらに別のスズメが言った。

「じゃあ、お前たちは食べなくていいから、オレたちに食わせろ」

「だから、巣の前で騒ぐな!」

話が元に戻った。

面倒だ

スズメ軍団は、少し鳴く声を落とした。

「飯」

小さい。

うちの人間は起きない。

もう少し大きくする。

「飯!」

親スズメがすぐに怒る。

「うるさい!」

スズメ軍団の一羽が不満そうに言う。

「これじゃ人間が起きない」

「起こすな!」

「朝飯が出ない!」

「別の場所で探せ!」

「面倒だ!」

それが本音だった。

食事はほかでも探せる。

だが、この庭なら、うちの人間がまく。

虫を探す必要もない。

草の種を見つける必要もない。

危険を冒して道へ降りる必要もない。

ただ鳴いて待てばよい。

一度楽な方法を覚えると、手放すのは難しい。

スズメ夫婦が子育て中かどうかより、自分たちの朝食のほうが重要である。

場所と権利

親スズメが、巣の入口から飛び出した。

庭の木へ降りる。

スズメ軍団の近くへ止まった。

「ここで騒ぐな!」

一羽が言い返す。

「ここはお前の庭じゃない!」

「うちの巣がある!」

「巣は屋根だろ!」

「屋根の下も近い!」

「食事は庭だ!」

「声は屋根まで聞こえる!」

「鳥なんだから聞こえるだろ!」

激突である。

人間から見れば、同じようなスズメが枝に集まって鳴いているだけだろう。

だが、話している内容は穏やかではない。

静かにしろ。

食事を出させろ。

巣へ近づくな。

庭はお前のものではない。

先に来ていた。

後から住んだ。

朝から、場所と権利をめぐって争っている。

平和だなあ

そこへ、うちの人間が起きてきた。

寝床に近い窓の布が動く。

スズメ軍団が一斉に反応する。

「起きた!」

「飯!」

「もっと鳴け!」

親スズメが叫ぶ。

「騒ぐな!」

結果として、全員の声が大きくなった。

うちの人間が窓を開ける。

栗色の髪を片手で整えながら、庭を見た。

木の枝。

塀の上。

屋根の端。

何羽ものスズメが集まっている。

「今日もたくさん来てる」

庭のスズメ軍団が鳴く。

「飯!」

親スズメが鳴く。

「巣の前で騒ぐな!」

別の一羽が鳴く。

「早く飯!」

もう一羽が鳴く。

「帰れ!」

うちの人間は、その声を聞きながら笑った。

「平和だなあ」

どこがだろう。

朝食を求める集団と、子を守る夫婦が争っている。

同じ種類であることは、何の助けにもなっていない。

むしろ、互いの言葉がよく分かるため、言い争いがはっきりしている。

同じスズメだろ

うちの人間は柔らかな上着を羽織り、庭へ食事を持ってきた。

窓を開ける。

親スズメが警戒して屋根へ戻る。

「人間が出た!」

「巣を見るな!」

スズメ軍団は喜ぶ。

「飯だ!」

「降りろ!」

「早く!」

うちの人間が食事をまく。

庭へ一斉にスズメが降りた。

食事をついばむ。

取り合う。

押しのける。

追いかける。

親スズメは屋根から、その様子を見ている。

「早く食べて帰れ!」

庭の一羽が答える。

「今食べてる!」

「騒ぐな!」

「取るな!」

「それはオレのだ!」

「そっちの話じゃない!」

巣の親の警告と、庭の食事争いが混ざっている。

誰が誰へ何を言っているのか、分からなくなりそうである。

一羽が大きな欠片をくわえた。

巣のある屋根へ近い場所へ飛ぶ。

親スズメがすぐに追いかける。

「こっちへ来るな!」

「食べる場所を変えただけだ!」

「巣に近い!」

「同じスズメだろ!」

「だから安心とは限らない!」

仲間だから安全とは限らない

親スズメは正しい。

同じ種類なら、すべて信用できるわけではない。

ほかの巣へ近づく。

食事を奪う。

子を攻撃する。

そのようなことが絶対にないとは限らない。

子育て中は、念のため警戒する。

仲間だから安全だろうと決めつけるより、そのほうがよい。

大きな欠片を持ったスズメは、追われて別の木へ移った。

「神経質だな!」

親スズメが言い返す。

「子育て中なんだ!」

以前、うちの人間がカラスへ言ったことと似ている。

気性が荒い。

神経質だ。

相手が何かを守っていることを考えず、警戒される側は相手の性格の問題にする。

自分が巣へ近づいた。

自分が大声で騒いだ。

それでも、

「相手が神経質」

で終わらせる。

鳥も人間と、それほど変わらないところがあるらしい。

仲間が増えてうれしい?

うちの人間は、庭で食事をついばむスズメを眺めていた。

「仲間が増えて、うれしいのかな」

違う。

むしろ減ってほしいと思っている。

巣の親からすれば、朝食のスズメ軍団は仲間ではなく、毎朝家の前へ集まる騒がしい集団である。

同じ種類が近くにいれば安心することもあるだろう。

危険に気づきやすい。

敵が来れば一斉に逃げられる。

だが、巣の場所が知られる。

鳴き声で目立つ。

食事を奪い合う。

子育て中には、邪魔になる面も多い。

人間は、同じ種類の動物が一緒にいれば喜んでいると思う。

猫同士なら友達。

犬同士なら遊び相手。

鳥が集まれば仲間。

だが、人間同士だって、近くにいれば全員仲良くなるわけではない。

同じ家の近くに住む。

同じ場所で食事をする。

同じ時間に外へ出る。

それだけで、相手へ不満を持つこともある。

自分たちはそうなのに、鳥は同じ種類なら仲良しだと思う。

ずいぶん単純である。

うちの人間は、屋根の入口から顔を出す親スズメへ気づいた。

「あ、巣の子も見てる」

見ているのは親である。

そして、楽しそうに眺めているのではない。

早く帰れと思っている。

もうないだろ

庭の食事が減ってくると、スズメ軍団は少しずつ飛び去った。

最後まで残った二羽が、小さな粒を探して地面を跳ねる。

親スズメが屋根から鳴く。

「もうないだろ!」

一羽が答える。

「まだあるかもしれない!」

「ない!」

「探してるんだ!」

「ほかで探せ!」

ようやく最後の二羽も飛んでいった。

庭が静かになる。

親スズメは、しばらく周囲を見た。

それから巣の中へ戻る。

ひなたちの声が聞こえる。

「飯!」

「遅い!」

「腹減った!」

親スズメは、休む間もなく再び外へ飛び出した。

今度は自分の子の食事を探しに行く。

先ほどまで朝食を食べていたスズメ軍団とは違い、庭へは降りなかった。

別の方向へ飛んでいく。

ひなに適した食事を探すのだろう。

うちの人間が、飛んでいく親スズメを見送った。

「みんな朝から元気だねえ」

元気だから騒いでいたのではない。

腹が減っていた。

子を守っていた。

巣の前から追い払おうとしていた。

それぞれの事情が重なった結果である。

翌朝も同じ

翌朝も、同じことが起きた。

スズメ軍団が来る。

「飯!」

親スズメが怒る。

「騒ぐな!」

スズメ軍団が言い返す。

「人間を起こしてる!」

「別の場所でやれ!」

「ここが一番早い!」

うちの人間が起きる。

食事をまく。

スズメ軍団が降りる。

親スズメが警戒する。

そして、うちの人間だけが笑う。

「今日も平和だなあ」

人間には言葉の意味が分からない。

だから、どれほど激しく言い争っていても、かわいらしい鳥の声にしか聞こえない。

小さな鳥が集まっている。

朝日が当たっている。

庭で食事をしている。

屋根では子育てをしている。

その表面だけを見れば、たしかに平和に見える。

だが、朝食のスズメ軍団は、巣の夫婦を神経質だと思っている。

巣の夫婦は、スズメ軍団を騒がしい邪魔者だと思っている。

互いに同じ種類だからといって、譲る気はない。

それでも翌朝には、また同じ場所へ集まる。

庭に食事が出るからである。

原因はうちの人間

原因は、うちの人間だった。

うちの人間が毎朝食事をまく。

だからスズメ軍団が来る。

巣の前で騒ぐ。

親スズメが怒る。

その争いを作っている本人が、温かい飲み物を手に眺めながら、

「平和だなあ」

と言っている。

カラスがいなくなった。

ムクドリもいなくなった。

次はスズメが巣を作った。

そして、スズメ同士で争い始めた。

平和にならない原因は、鳥が次々に来ることだけではない。

うちの人間が食事を出し続けていることにもある。

だが、本人は少しも気づいていない。

シジミは猫語でつぶやく。

「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」


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