エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第5話 白炎

エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第5話 白炎 エレメンタルクロス ~精霊の剣~
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第5話 白炎
エレメンタルクロス ~精霊の剣~
創作実験TOP作品紹介人が扱える精霊に、意志はない。火や光の力として術者に従う、粒子のような存在――それが、この世界の常識だった。白と黒。二種類の精霊を剣の形に固定する少年セトは、忌避される二属性同時使用を隠しながら旅をしていた。ある日、巨…
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ 第5話 白炎 人物相関図

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大会の町へ

 王都を出た二人は、精霊術大会が開かれる町へ向かっていた。

 街道を歩き始めて半日。

 セトは、宿屋でもらった大会の案内を読み直していた。

「まだ見るのか」

 隣を歩くシアが尋ねる。

「参加するなら、決まりは知っておかないとまずい」

「相手を倒せば勝ちだろ」

「殺したら失格だ」

「殺さなければいい」

「お前の場合、それだけじゃ不安なんだよ」

 大会では、相手が降参するか、審判が戦闘不能と判断すれば勝利となる。

 命を奪う攻撃は禁止。

 観客席や場外へ大きな被害を出した場合も、失格になる可能性がある。

「相手だけを燃やせばいいんだな」

「燃やすことから離れろ」

「火の精霊王に何を求めている」

「加減だ」

「している」

「大型魔獣を焼き尽くした時のどこが加減だった」

「あれは大型魔獣だったからだ」

 シアにとっては、相手に合わせて力を変えた結果らしい。

 大型魔獣を倒した時より弱ければ、すべて手加減に含まれるのかもしれない。

「大会では、俺が前に出る」

「なぜだ」

「お前が前に出たら、一瞬で終わる」

「早く勝てるならいいだろ」

「魔剣を調べる前に、大会そのものから追い出されるかもしれない」

 シアは納得していない顔をした。

 それでも、反対はしなかった。

援護の練習

「では、わたしは何をする」

「後ろから援護だな」

「炎を撃つ」

「小さくしろ」

「どのくらいだ」

 シアが右手を上げた。

 手のひらの上に、人の頭ほどの火球が現れる。

「大きい」

 火球が拳ほどまで縮んだ。

「まだ強い」

 さらに小さくなり、指先ほどの炎になる。

「それなら、たぶん大丈夫だ」

「弱い」

「大会なんだから当然だろ」

「これでは相手が倒れない」

「倒すのは俺がやる。お前は動きを止めたり、注意を逸らしたりしてくれればいい」

「炎を当てて、倒してはいけないのか」

「倒してもいいが、燃やすな」

「炎を当てるのに?」

「だから加減が必要なんだよ」

 シアは指先の火を消した。

「セトだけで勝つなら、二人一組ではない」

「俺が戦って、お前が助ける。それで二人だ」

「わたしも戦う」

「援護も戦いのうちだ」

 シアはしばらく考えた。

「面倒だな」

「人間の大会だからな」

「人間は、戦うことまで面倒にする」

「何でも燃やせる奴を基準にするな」

四体の魔物

 昼を過ぎた頃、前方から荷馬車が走ってきた。

 荷台が大きく揺れ、御者が何度も後ろを振り返っている。

「退け!」

 御者の声を聞き、セトとシアは街道の脇へ移動した。

 荷馬車は二人の横を通り過ぎ、そのまま王都の方角へ走っていく。

 直後、街道の先から地面を踏み鳴らす音が聞こえた。

「何か来るな」

「ああ。複数いる」

 木々の間から、四体の魔物が姿を現した。

 低い姿勢で地面を走る、四本脚の魔物。

 頭から背中にかけて、岩のように厚い甲殻で覆われている。

 先頭の一体の口元には、折れた縄が引っかかっていた。

「荷馬車を追っていたのか」

「四体いる」

「見れば分かる」

「二体ずつか?」

「一体ずつだ。残りが動いたら考える」

 セトは街道の中央へ出た。

 右手に白い光が集まり、白刃を形作る。

 シアもその隣へ並んだ。

「右を頼む」

「ああ」

 セトが左側の一体へ向かう。

 シアは右側の一体へ手を向けた。

一体ずつ

 二体の魔物が同時に地面を蹴った。

 シアの前へ向かった魔物は、頭を低くして突進する。

 シアが指を動かした。

 細い炎が一直線に飛ぶ。

 炎は甲殻の隙間へ入り込み、内側で弾けた。

 魔物は一歩も届かないまま、地面へ崩れ落ちた。

「終わった」

「早いな」

 セトの方は、まだ始まったばかりだった。

 正面から迫る魔物を半歩横へ避け、白刃を肩へ振り下ろす。

 白い刃が甲殻の表面を裂いた。

 だが、傷は浅い。

 魔物は勢いを失わず、体を大きく振った。

 セトは白刃を盾のように構える。

 甲殻が刀身へぶつかった。

 足が地面を滑る。

「硬いな」

「もう倒したぞ」

「見れば分かる」

 魔物が方向を変える。

 再び突進する前に、セトは白刃を短く作り直した。

 短剣状になった白い刃を投げる。

 刃は魔物の脇腹へ刺さったが、甲殻を貫き切る前に光の粒となって消えた。

「まだ倒せないのか」

「お前と比べるな」

遅い方

 魔物が三度目の突進へ移る。

 セトは長剣に戻した白刃を構えた。

 狙うのは、前脚の付け根にある甲殻の隙間だ。

 魔物が頭を振る。

 額を覆う厚い甲殻が白刃を横から弾いた。

 セトの右腕が大きく上がる。

 角が脇腹へ迫った。

 体をひねり、ぎりぎりで避ける。

 服の表面が浅く裂けた。

「セト」

「まだ手を出すな」

「時間がかかっている」

「それでも俺の相手だ」

 シアは倒した魔物の横に立ち、セトの戦いを見ていた。

 残りの二体は、林の手前から様子をうかがっている。

「援護の練習をする」

「今はいい」

「大会では必要なんだろ」

「練習なら、先に言ってから――」

 シアの指先に小さな火が灯った。

勝手な援護

「おい、待て」

「小さくした」

「大きさの問題じゃない」

 シアが指を弾く。

 小さな火が、セトの相手へ向かって飛んだ。

 魔物が横へ跳ぶ。

 火はその体を外れた。

「外したぞ」

「避けられた」

「援護になってないだろ」

 セトは魔物の突進を受け流し、白刃を振る。

 その軌道へ、外れたはずの火が入った。

 赤い火が、白い刀身へ触れる。

 白刃が大きく揺らいだ。

「何だ?」

 火は消えなかった。

 刀身の表面を走り、白刃全体へ広がっていく。

 赤かった炎が、白い光へ変わる。

 白刃そのものが燃えているように、白い炎が刀身を包んだ。

 魔物が正面から迫る。

 セトは考えるより先に、燃える剣を振り下ろした。

白い炎

 白い炎をまとった刃が、魔物の額へ当たる。

 先ほどまで白刃を弾いていた甲殻が、赤く焼けた。

 刃が表面へ食い込み、亀裂の奥まで炎が走る。

 魔物の突進が止まった。

 セトは一歩踏み込み、剣を横へ振る。

 白い炎が甲殻の隙間を焼き、白刃が首元へ深く入った。

 魔物が地面へ倒れる。

 セトはすぐに距離を取った。

 白刃を包んでいた炎は、まだ消えていない。

「今のは何だ」

「援護だ」

「そういう意味じゃない」

「わたしの火が、白刃に乗った」

「見れば分かる」

 炎は白い。

 だが、シアが放った火そのものが増えたようには見えなかった。

 小さな火が触れただけなのに、刀身全体が強く燃えている。

「お前が大きくしたのか?」

「していない」

「なら、なぜ燃えてる」

「分からない」

「お前がやったんだろ」

「狙ったわけではない」

 白炎を見つめながら話していると、林の前にいた残り二体が動いた。

残りの二体

「来るぞ」

「ああ。一体ずつだな」

「今度は勝手に援護するなよ」

「必要ならする」

「必要かどうかは俺が決める」

 二体の魔物が左右へ分かれた。

 シアは右へ向かう。

 セトは左側の魔物へ白炎を構えた。

 シアの相手が甲殻を立てる。

 口元へ淡い光が集まり始めた。

 だが、術が放たれるより先に、シアの炎が足元から巻き上がる。

 魔物の全身が一瞬だけ赤く包まれた。

 炎が消えた後には、黒く焼けた魔物が倒れている。

「終わった」

「やっぱり早いな」

 セトの相手は、すぐには突進してこなかった。

 前脚で地面を強くかく。

 街道の土が盛り上がり、魔物の前に厚い壁を作った。

「精霊術も使うのか」

 土の壁の向こうで、淡い光が集まる。

 何かを撃ち出すつもりらしい。

 セトは白炎を振り下ろした。

壁を壊す火

 白炎が土の壁へ当たる。

 表面が焼け、白刃が途中まで食い込んだ。

 だが、一撃では壊れない。

「さっきより弱いな」

 シアが言った。

「俺に言うな。お前の火だろ」

「火の大きさは同じだ」

 壁の向こうから、圧縮された土の塊が飛び出した。

 セトは白刃を引き抜き、身を横へ投げる。

 土の塊が街道へ当たり、乾いた破片をまき散らした。

 セトは再び白炎を構える。

 魔物の甲殻を斬った時より、炎が小さくなっている。

「さっきと同じように燃えろ」

 白刃へ意識を向ける。

 剣の形を保つために集めている精霊力。

 その一部が、刀身の表面で炎へ変わっていた。

 白刃を強く固定する。

 同時に、集めた力を炎の方へ押し出す。

 白い火が大きくなった。

「できたな」

 シアが言う。

「俺が動かしてるのか?」

「たぶん」

「たぶんか」

「今は壁を壊せ」

 魔物が次の術を作る。

 セトは地面を蹴り、白炎を横へ振り抜いた。

 先ほどより強い炎が土の壁を焼く。

 白刃が深く入り、壁を一息に切り崩した。

 土煙の向こうに、魔物の姿が現れる。

 セトはそのまま踏み込み、甲殻の隙間へ白炎を突き入れた。

 四体目の魔物が倒れた。

強くする

 周囲が静かになった。

 四体の魔物が動かないことを確認し、セトは白炎へ目を戻した。

「さっき、炎が大きくなった」

「ああ」

「お前が強くしたわけじゃないんだな」

「わたしは何もしていない」

 シアはセトが持つ白炎へ近づいた。

「火をつけたのはわたしだ。だが、燃えている力は白刃に集まっているものだ」

「白刃の力を、火に変えているのか」

「そう見える」

 セトは剣を軽く振った。

 白い炎が刀身の後を追う。

 意識を白刃の表面へ向けると、炎が少し強くなる。

 反対に、集めた精霊力を剣の形へ強く固定すると、炎が小さくなった。

「俺の方で、ある程度は変えられる」

「もっと強くできるか?」

「試してみる」

 二人は街道から外れた岩場へ移動した。

 セトは人の背丈ほどの岩へ向かって白炎を振る。

 最初の一撃では、表面が焼けて浅い傷が残った。

 次は炎へ多くの力を回す。

 白い火が大きく燃え上がった。

 振り下ろされた白炎が岩へ深く食い込み、焼けた亀裂を作る。

「さっきの壁なら、これで簡単に壊せる」

「最初からそれを使えばよかったな」

「今見つけたんだよ」

弱くする

 セトは白炎を見つめた。

「反対もできるか」

「反対?」

「弱くする」

「なぜだ」

「いいから見てろ」

 白刃の形を崩さないよう、炎へ流れる力を絞る。

 刀身を包んでいた白い炎が、細くなった。

 さらに絞る。

 炎はうっすらと刃の表面を覆うだけになる。

 セトは足元に落ちていた枯れ枝へ、刀身の腹を近づけた。

 最初は触れる前から焦げ始めた。

 さらに炎を弱くする。

 今度は、枯れ枝へ近づけてもすぐには燃えない。

 しばらく当てて、ようやく表面が黒くなった。

「かなり弱くできるな」

「弱くしてどうする」

「大会で使える」

「強い方が相手を早く倒せる」

「早く倒しても、死んだら失格だ」

「殺さない程度に強くすればいい」

「その殺さない程度を決めるために弱くしてるんだよ」

 シアは小さくなった白炎を見る。

「これでは防御壁を壊せない」

「壁には強くする」

「相手にも強くすればいい」

「人間相手なら弱くする」

「なぜ壁と人間で変える」

「壁は壊しても死なないからだ」

弱い技の意味

 シアは納得していないようだった。

「弱い技に何の意味がある」

「手加減できる」

「手加減する意味が分からない」

「相手を殺さずに勝てるだろ」

「最初から攻撃しなければ、殺さない」

「それでは勝てない」

「なら強く攻撃すればいい」

「それだと殺すかもしれない」

「面倒だな」

「大会では重要なんだよ」

 セトは白炎をさらに弱くする。

 白い火はほとんど見えなくなった。

「例えば、これなら相手に当たっても、一瞬で全身が燃えることはない」

「倒せるのか」

「白刃で斬れば倒せる」

「斬るのか?」

「浅く斬る」

「炎を弱くして、剣でも弱く斬るのか」

「ああ」

「それなら、何のために炎を乗せる」

 セトは答えに詰まった。

「……牽制になる」

「普通の白刃でいいだろ」

「見た目が強そうだ」

「見た目のためか」

「相手が警戒すれば、無理に斬らずに済むかもしれない」

 シアはしばらく考えた。

「やはり弱い技の意味は分からない」

「大会に出れば分かる」

「分からなければ強くする」

「勝手に強くするなよ」

手加減できる炎

 再び炎を強くする。

 白炎はセトの意思に応じて、刀身を大きく包んだ。

 弱くする。

 今度は、刃の表面に白い光が薄く揺れるだけになる。

 火を生み出したのはシアだった。

 だが、一度白刃へ乗った後は、セトが強さをある程度調整できる。

 防御を崩す時には強く。

 人間へ向ける時には弱く。

「手加減できる炎の剣か」

 セトが言った。

「強くもできる」

「そっちより、弱くできる方が大事だ」

「セトは変わっているな」

「お前にだけは言われたくない」

「強い剣を作ったのに、弱く使うことを喜んでいる」

「力は調整できた方がいいんだよ」

「最大で使えばいい」

「それしか考えてないだろ」

「ああ」

 迷いのない返事だった。

黒刃では

「黒刃でも試すか」

 セトは白炎を消した。

 白刃も光の粒へ戻し、代わりに左手へ黒刃を作る。

 周囲の光が押しのけられ、剣の形をした空白が現れた。

「同じように火を飛ばせ」

「小さくか?」

「最初はな」

 シアが指先へ火を灯す。

 小さな炎が黒刃へ向かう。

 触れた瞬間、火の形が崩れた。

 黒刃へ乗る前に、赤い光が周囲へ散って消える。

「駄目だな」

「黒刃には、火へ変える力がない」

「何もないからな」

「ああ。白刃は力を集めている。黒刃は力を外へ出している」

 シアはもう一度、少し強い炎を送った。

 結果は同じだった。

 火は黒刃へ触れたところから崩れ、刀身を包むことなく消える。

「無理に乗せると、火の方が消える」

「敵の炎なら使えるが、白炎のようにはならないな」

「白い方だけか」

「ああ」

白炎

 セトは黒刃を消し、再び白刃を作った。

 シアも指先へ小さな火を灯す。

「もう一度だ」

「ああ」

 シアが火を飛ばす。

 今度は狙いを外さない。

 火が白刃へ触れ、白い炎となって刀身を包んだ。

 セトが意識を向ける。

 炎が強くなる。

 力を絞れば、炎は小さくなる。

「名前が要るな」

 シアが言った。

「急だな」

「白刃と区別できない」

「白い炎だから、白炎でいいだろ」

「そのままだな」

「白刃と黒刃を付けた一族に言え」

 シアは少し考えた。

「白炎でいい」

「結局そのままか」

 白炎は、セトだけの精霊術ではない。

 シアだけの火でもない。

 セトが白刃を作り、形を保つ。

 シアが火を乗せる。

 その後の強さは、白刃を握るセトが調整する。

 二人の力が揃って、初めて成立する剣だった。

二人で戦う

「大会でも使えるな」

 セトが言った。

「強く使うのか」

「相手による」

「弱くするのか」

「相手が人間ならな」

「やはり意味が分からない」

「それでも勝手に強くするなよ」

 シアは小さくうなずいた。

「セトが前で戦う」

「ああ」

「わたしが後ろから火を送る」

「ああ」

「セトが遅ければ、わたしが相手を倒す」

「そこは援護しろ」

「今日も援護した」

「狙いを外しただろ」

「結果的に強くなった」

「毎回そうなるとは限らない」

「今度は白刃を狙う」

「最初からそうしてくれ」

 シアは少しだけ満足そうに白炎を見た。

「これなら、二人で戦っている」

「最初からそう言ってる」

開催地

 練習を終え、二人は街道へ戻った。

 夕方になる頃、遠くに町の外壁が見えてきた。

 門の上には、大きな旗が掲げられている。

 二本の剣が交差した、大会の紋章だった。

 街道には、武器を持った旅人が増えている。

 二人組で歩く者も多い。

「あそこか」

 シアが町を見た。

「ああ」

「魔剣もある」

「本物ならな」

「優勝すれば分かる」

 シアは迷いなく町へ向かって歩いていく。

 セトもその後を追った。

 優勝賞品の魔剣が、探しているものかは分からない。

 それでも、確かめるためには大会へ出る必要がある。

 そして今の二人には、ただ強いだけではない、新しい剣が一つ増えていた。


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