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星の外の戦場
終焉の炎が、残った腕を大きく振った。
シアとネアは赤い巨体を押し上げていた位置から離れ、左右へ飛び退く。
巨大な手が二人の間を通り過ぎた。
星を離れる方向へ与えた勢いは、まだ失われていない。
終焉の炎は身体をよじりながらも、遠ざかる動きを続けていた。
周囲に空気はない。
山を崩した時のような轟音も、巨腕が空気を押しつぶす衝撃も起こらなかった。
代わりに、赤い肉体を走る原光だけが、遠くからでもはっきり見えた。
「離れた。次は撃てる!」
「星へ向かう流れが強まる前に、攻撃を始めましょう」
ネアは巨体の下側へ目を向けた。
切り落とした脚の付け根には、もう新しい組織が伸び始めている。
つい先ほど八翼が削ったはずの肩も、赤い線を集めて形を取り戻そうとしていた。
あの再生を止められなかったから、二人はここまで運んできた。
広い宇宙へ出たことで、ようやく大地を傷つける心配なく全力を出せる。
だが、戦場が変わっても敵の性質までは変わらない。
「セトがいないから、好きに動いていいんだよな」
「自分の射線は自分で決められます。ただし、私の位置も見てください」
「分かってる。ネアもこっちを見てよ」
「当然です」
シアは七つの赤い分霊核を周囲へ広げた。
ネアも黒い七核を四翼の近くへ呼び寄せる。
今はどちらも精霊剣ではない。
二人は別々の身体で飛び、別々の場所から同じ敵を狙う。
終焉の炎の四翼が強く明滅した。
それを合図にしたように、赤と黒の四翼が同時に開いた。
八つの火
シアは終焉の炎の正面へ出た。
七つの赤い分霊核が横一列へ広がり、シア自身を加えた八門が巨体の別々の部位を捉える。
狙うのは胸と腹だけではない。
腕の付け根、肩、背中の四翼まで、再生に使われている場所をまとめて撃ち抜く。
地上では周囲の山を巻き込まないよう、撃つ方向を選ばなければならなかった。
今は、背後に大地がないことを確かめればよかった。
「炎天・星雨!」
八つの火が同時に放たれた。
赤い線が宇宙を走り、肉体へ別々の方向から突き刺さる。
肩が崩れ、胸が裂け、腹にいくつもの穴が開いた。
失われた肉体は燃えながら本体を離れ、暗い空間へ散っていく。
だが、巨体は倒れない。
傷のある場所へ原光が寄り始め、胸の穴の縁が早くも内側へ伸びた。
「ネア、今!」
「月天・散華」
黒い八門が一斉に動いた。
ネアはシアが開けた穴へすべてを重ねるのではなく、再生しようとする肉体のつなぎ目を狙う。
黒い線が伸びた組織をほどき、その場所を支える原光を奪った。
胸の穴は広がったまま残り、伸びかけた腕も途中で動きを止める。
それでも、別の場所から流れが回り込んでくる。
「ほら、効いてる!」
「傷は残せます。ですが、再生を完全には止められません」
「だったら、戻るより早く次を撃てばいい」
「そのためにも、撃つ場所を変える必要があります」
ネアは巨体の背後へ回った。
シアは正面に残り、傷を広げようとする。
二人の砲撃は同じ時機に始まっても、同じ場所から放たれるわけではない。
シアが破壊し、ネアが戻る流れを減らす。
八翼で覚えた連携を、今は二人の判断で続けていた。
月天・絶穿
終焉の炎の胸部に、星雨で開けた大きな穴が残っている。
しかし穴の縁は広く、周囲の組織がそれぞれ別の方向から伸びてきた。
ネアが散華で一方を止めても、反対側では新しい肉体が作られる。
広い範囲を崩し続けるだけでは、修復する場所を増やしているにすぎないのかもしれない。
「広げるだけじゃ戻るね」
「ならば、今度は深く穿ちます」
「八門を一か所に集める?」
「同じ射線へ並べます。八門の力を一本へ集めるのです」
ネアの七つの分霊核が移動した。
自分の正面に、黒い射点が一直線に重なる。
散華では、八門の力を別々の場所へ広げていた。
今度は逆だ。
八門すべての力を、同じ一点へ集束させる。
攻撃範囲は狭くなるが、その一点へ作用する原光の欠落は、散華とは比べものにならないほど強くなる。
「八門分を一本にするんだ」
「そうです。散華とは区別しましょう」
「名前も変える?」
「原光を絶ちながら穿つ。月天・絶穿とします」
「今つけた?」
「呼び分ける必要がありますから」
黒い四翼を流れる原光が、八つの射点へ満ちた。
ネアは胸部の穴、その奥で最も早く組織が戻る部分を狙った。
「月天・絶穿」
一本の黒い光が伸びた。
八門の出力が同じ射線へ集束し、強烈な原光の欠落を生み出す。
赤い肉体を支えていた原光が、一点から急激に失われた。
周囲から新たな原光が流れ込もうとするが、集束した月の力がそれを上回る。
黒い光は巨体の奥を抜け、その背後へ細く伸びた。
胸部には、入口から出口まで続く深い穴が残った。
ネアは射線を動かさず、穴の縁を確かめた。
炎天・貫星
ネアが開けた黒い穴の縁に、赤い組織が伸び始めた。
だが、中央にはまだ空間が残っている。
シアはそこを見逃さなかった。
七つの分霊核を呼び戻し、ネアと同じように一直線へ並べる。
散らばっていた射点が一つの方向を向くまで、わずかな間があった。
終焉の炎の腕が動いたが、ネアが黒い流れを当て、付け根の動きを鈍らせた。
「通りました。シア!」
「そこへ同じのを撃つ!」
「炎天・星雨とは使い方が違いますよ」
「分かってる。星雨は広く降らせる方」
シアは八つの射点へ火を集めた。
狙う場所は一つ。
ネアが開けた黒い穴の奥だ。
星雨は八門の火力を広い範囲へ分散させる。
今度は、それを一本へ集める。
八門分の火力が一点へ集中すれば、その威力と貫通力は大きく変わる。
「こっちは一本で、星まで貫く」
「貫星ですか」
「うん。炎天・貫星!」
「そのままですね」
「分かりやすいだろ!」
八つの射点へ集まった火が、一本の赤い閃光となった。
分散するはずの八門の火力が、細い射線へ集束している。
赤い光はネアが開けた穴へ突き刺さり、奥に残る肉体を強烈な熱で焼き抜いた。
巨体の内部を突き抜けた閃光が、背後の宇宙へ長く伸びる。
集束した火が通った場所から肉体が崩れ、胸部には前後へ貫通する大きな空洞が開いた。
「貫いた!」
「ええ。絶穿で流れを欠かせた場所へ、貫星で火を通せました」
「今度こそ止まる?」
その答えを待つ前に、穴の縁が赤く動いた。
残った肉体から細い組織が伸び、空いた場所へ寄り集まってくる。
ネアは次の攻撃へ備えながら、目を細めた。
「まだです。でも、違う削り方ができるようになりました」
二人だけの射線
シアは胸部の穴へ、続けて火を通そうとした。
ネアは少し離れた場所から、巨体の背面を見ている。
胸部が貫かれても、背中の組織は残っていた。
そこから伸びた原光が、穴の周囲へ回り込もうとしている。
シアの次の火だけでは、正面からの再生を遅らせることしかできない。
「もう一発、正面からいく!」
「少し待ってください。背後からも流れています」
「じゃあ、そっちへ回る?」
「私が後ろへ行きます。シアは正面から注意を引いてください」
「分かった!」
ネアは黒い四翼を開き、巨体の下を回って背面へ出た。
シアは真正面に留まらず、腕の届かない斜め上から火を撃つ。
終焉の炎がその火へ反応し、胸部の組織が厚くなる。
そこへ原光が集まった分、背面の流れが細くなった。
ネアは黒い一門を背中の導路へ通す。
赤い線が途切れ、胸部へ戻ろうとしていた組織の動きが遅れた。
「そっち、効いた?」
「効いています。ただ、次は下から流れます」
「じゃあ、今度は私が下へ回る!」
「その間、私はここを抑えます」
セトの八翼では、二本の精霊剣を持つ一人の身体が位置取りの中心だった。
今は、離れた二人がそれぞれの射点を持っている。
一人が正面を狙っている間に、もう一人は背後へ回れる。
ただし互いを見失えば、どちらの攻撃がいつ届くかも分からなくなる。
シアは撃つ前にネアの位置を確かめた。
ネアも射線を変えるたび、シアの進む方向を見た。
攻撃は二人分に分かれている。
それでも、相手を信じて待つ一瞬が、次の一撃を強くしていた。
残す射点
終焉の炎の右腕が持ち上がった。
集まった原光が拳へ流れ、巨体の周囲に赤い光の筋が走る。
シアは、七つの分霊核をすべて砲撃へ向けかけて手を止めた。
ここで八門を撃てば、腕は削れるだろう。
だが、その間に自分の移動を支える射点がなくなる。
「大きいのが来る!」
「全部を撃つ必要はありません。残してください」
「分かってる。三門でいく!」
シア自身と二つの分霊核が胸部を狙う。
残る五つは背後と左右に分かれた。
三門から火が走り、巨体の上側を削った。
直後、残していた分霊核が順番に原光を放出する。
シアの進路が折れ曲がり、巨腕が通り過ぎる場所から身体が外れた。
攻撃に使わない分霊核は、余っていたわけではない。
次の移動を作るために必要だった。
反対側ではネアが四門の黒い射点を開いていた。
自分自身と三つの分霊核で腕の付け根を崩す。
残る四つのうち二つは飛び散る原光を吸収し、ほかの二つは自分の周囲へ防御を広げた。
シアが避けた巨腕がネアの側へ迫っても、黒い四翼の向きを変える余裕がある。
「全部撃たない方が動きやすいね」
「以降は、この配分を基本にしましょう」
「最初は大きく削りたかったんだよ」
「その判断が間違っていたとは言っていません」
二人は距離を取り直した。
八門を重ねる攻撃は、ここぞという時に使える。
だが、巨体が何度でも手を伸ばす以上、すべての射点を攻撃へ回して戦い続けるわけにはいかない。
火力を減らすのではない。
攻撃に使う門数を、状況に応じて変えるのだ。
その判断が、二人だけの長い戦いを支えていく。
肉体に開く砲口
終焉の炎が腕を下ろした。
次の一撃へ備えているように見えたが、拳へ集まっていた原光は胸部へ戻っていく。
再生の途中で止まっていた肉体が、急に別の形へ盛り上がり始めた。
胸、肩、腹。
傷を塞いでいたはずの組織が、一つずつ丸く窪んでいく。
赤い筋がその奥へ伸び、窪みの中心へ原光を送り込んでいた。
「何か作ってる」
「離れてください。あの形は、ただの再生ではありません」
シアは巨体の右へ回った。
ネアは反対側へ離れながら、窪みの数を確かめる。
最初は胸だけだったものが、背中の肉体にも現れていた。
人間の腕なら、振る方向を見て避けられる。
しかし全身の窪みが同じように光れば、正面以外からも攻撃が来るかもしれない。
「全部こっちを向いてない?」
「それぞれ違う方向を向いています。来ます!」
窪みから赤い光束が伸びた。
胸のものはシアへ、背中のものはネアへ。
肩と腹からは、二人の間を横切る方向へも放たれた。
赤い線が暗い空間で交差する。
シアは三つの分霊核を前へ出し、迫る線を火で押し返した。
ネアは黒い四翼の向きを変え、正面の二本を吸収して残りを外側へ曲げる。
射線を抜けた二人は、それぞれ異なる角度から巨体を見た。
「今の、星雨みたいだった」
「似ています。ただし分霊核ではありません。自分の肉体に砲口を作っています」
「見て覚えた?」
「少なくとも、こちらの攻撃へ対応する形に変わりました」
シアは砕いた窪みの一つへ視線を戻す。
穴の縁から新しい肉体が伸び、また砲口の形を取り始めていた。
破壊しても再生する性質が、今度は攻撃する器官にも働いている。
終焉の炎は、ただ殴り続ける相手ではなくなっていた。
返される星雨
終焉の炎の四翼が広がった。
胸と肩に戻った砲口が、今度は二人の移動先へ向きを変える。
先ほどの砲撃は、そこへいる相手を狙っていた。
今回は違う。
シアが右へ抜けようとした先にも、すでに赤い線が伸び始めている。
「また来る!」
「数が増えています。進む方向も見ていますね」
全身の砲口が光った。
何本もの赤い線が、二人へ向かう射線と、その周囲を塞ぐ射線に分かれる。
シアは四翼から火を放出し、線の間で最も広い隙間へ身体を滑らせた。
正面の二本を分霊核で焼き払い、残る一本から身をそらす。
赤い光が白い衣装のすぐ横を抜けた。
一つを避けても、別の砲口がすでに次の線を向けている。
ネアは黒い四翼を広げ、迫る複数の線をまとめて偏向させた。
しかし、その後ろから別の角度の光が重なる。
一本が翼の先端をかすめ、黒い輪郭が大きく欠けた。
ネアは残していた分霊核を自分の背後へ動かし、身体を射線の外へ押し出す。
欠けた翼には原光が戻り、形が少しずつ整っていった。
「大丈夫?」
「翼の端です。動きには支障ありません」
「こっちの星雨より、ずっと数が多い」
「狙いの細かさはまだ私たちが上です。ですが、一本ごとの力が強い」
ネアは巨体の四翼を見た。
砲口へ流れ込む原光は、四翼からだけでは説明しきれないほど多い。
その理由までは分からない。
ただ、技術だけで相手を押さえ込めると思っては危険だった。
巨体は新たな砲口を開き、赤い線をまた別の方向へ伸ばす。
二人は攻撃へ戻る前に、互いの空いている進路を確かめる必要があった。
互いの逃げ道
シアは右へ避けようとして止まった。
二本の赤い線が進路を横切り、その奥には三本目が待っていた。
上へ逃げても、別の砲口が向きを変えつつある。
すべての射線を打ち消そうとすれば、七つの分霊核を防御へ回すしかない。
だが、攻撃が続く限り、そこで立ち止まることになる。
「右が塞がった!」
「その二本はこちらで曲げます。右上へ抜けて!」
ネアはシアの斜め後ろへ近づき、二つの黒い分霊核を自分の前方へ出した。
光束の端に黒い流れが触れ、二本の向きがわずかに外れる。
シアは空いた隙間へ四翼を傾け、一気に抜けた。
全門を使う必要はない。
相手が通る幅だけ開ければ十分だった。
だが、ネアがそちらへ手を回した分、今度は自分の前方へ砲撃が集まる。
黒い四翼が動こうとする先を、腹部の砲口が狙っていた。
「ネア、前へ出て!」
「前には砲口が残っています」
「それを壊す!」
シアは三門を巨体の腹へ向けた。
火が小型の砲口を突き抜け、支えていた組織を崩す。
光束が途切れ、ネアの正面が開いた。
ネアはそこへ飛び込み、巨体の近くを横切って砲撃の外側へ出る。
シアもその動きを見て、横から追おうとする別の砲口を火で潰した。
「助かりました」
「さっきの、お返し」
「では、次も遠慮なく頼みます」
「そっちもね!」
黒い四翼と赤い四翼が、大きく離れた場所で向きをそろえた。
今はそれぞれの射点をすべて使うより、一門を相手のために残した方が動ける。
昔の二人なら、相手が動けなくなった瞬間を狙っていただろう。
今は、その一瞬を作らせないために自分の力を使っている。
集められた砲口
シアが背後へ回り、三門の火で終焉の炎の左肩を崩した。
反対側からネアの絶穿が通り、肩と胸をつなぐ肉体に深い穴が開く。
巨体はバランスを失い、ゆっくりと回り始めた。
シアはその動きに合わせ、次の射線を肩口へ向ける。
「押せる!」
「そのまま続けてください」
二人がさらに撃ち込もうとした時、終焉の炎の胸に開いていた小さな砲口が閉じた。
続けて腹の砲口が沈み、肩と背中の窪みも肉体の内側へ戻っていく。
シアは攻撃が止まったように見えて、一瞬だけ手を緩めた。
しかし、砲口へ向かっていた原光そのものは消えていない。
別々に流れていた赤い筋が、胸部の同じ位置へ伸びていた。
「砲口を減らしてる?」
「違います。集めています」
胸の中央が大きく盛り上がった。
周囲の肉体が左右へ開き、今までの窪みとは比べものにならない大きさの穴ができる。
その奥へ、四枚の翼からも太い原光の流れが接続した。
全身に散っていた攻撃のための力を、今度は一か所へ集めている。
大きな砲口の奥で赤い光が何度も収縮し、細い一点へ押し込められていった。
「一本にしたんだ」
「多方向ではなく、一点を貫くための形です」
「私たちの貫星と絶穿みたいに?」
「効果は近いのでしょう。ただし、分霊核を並べたわけではありません」
ネアは胸部の巨大な砲口へ視線を据えた。
肉体の配置を変えて力を集めたなら、最初の一撃を止めてもまた形を直す可能性がある。
再生する巨体を相手に、砲口を一度壊せば終わりだとは考えられなかった。
穴の中心が白に近い赤へ変わる。
「ネア、離れて!」
「来ます!」
追い続ける光
胸部から赤い光が放たれた。
広く散る光ではない。
一点へ収束した太い線が、ネアのいた空間をまっすぐ貫く。
ネアは黒い四翼を傾け、横へ飛んだ。
避けたはずの光は消えず、巨体の砲口が動くのに合わせて進む方向を変えた。
一本の光束が、途切れることなく追いかけてくる。
横から見ていたシアが声を上げた。
「まだ続いてる!」
「砲口を動かしています。射線を外れ続けないと危険です」
ネアは残していた分霊核を背後へ回し、身体をもう一段横へ押した。
赤い線が黒い四翼の端をかすめ、先ほど戻った翼の一枚を大きく削る。
原光の欠落を相手へ向けて広げようとするが、受け止めている間にも砲口の向きが変わる。
すべてを吸収し続けるのでは、次の方向へ動く余裕を失ってしまう。
ネアは防御を一点に固めるのをやめ、射線と直角になる方向へ加速した。
分霊核の一つが身体を横へ押し、収束光の外側へ抜ける。
ようやく赤い線が黒い翼の横を通り過ぎた。
「大丈夫?」
「避けられました。ですが、あの光は一度撃てば終わりではありません」
「貫星とは違う」
「ええ。八門の出力を集束させた砲撃とは違います。一つの砲口へ原光を流し続けているのです」
終焉の炎は巨体を回し、胸部の穴を再び二人へ向けた。
砲口の奥では次の原光が集まり始めている。
多方向砲撃は逃げ道を狭める。
一点集中の砲撃は、避けたあとまで追ってくる。
それぞれの怖さは違った。
「見て、別の方法で作った?」
「そう考えるべきでしょう。攻撃を真似るというより、必要な結果を選んでいるように見えます」
内部の仕組みまでは分からない。
だが、戦い始めた時より、敵の攻撃方法が増えていることは確かだった。
削って戻る
シアの星雨が、終焉の炎の右半身を崩した。
ネアは散華をその切断面へ重ね、再接続しようとする組織から原光を奪う。
さらに貫星が胸を抜いた時、巨体の輪郭は一度大きく縮んだ。
だが、四翼に集まった原光が残る肉体へ回ると、失った場所がまた膨らみ始めた。
攻撃が通らないわけではない。
通っても、それだけでは終わらないのだ。
「減ったと思ったら戻る」
「私たちも削られた翼を戻しています。相手だけの話ではありません」
「でも、あっちは戻る量が多すぎる」
「巨大な身体ですから。しかも、何度も組み直せます」
二人は攻撃へ回す門数を減らし、砲口が向くたびに移動のための分霊核を残した。
終焉の炎が小型砲口を開けば、射線の薄い側へ抜ける。
大型砲口を作れば、集中が終わる前に側面へ移る。
その隙に星雨や絶穿を通すと、巨体は再び大きく欠けた。
反撃の仕方を変えても、シアとネアは対応できる。
けれど、倒し切れるわけではなかった。
「砲撃なら、こっちの方が上手いのに」
「技術で上回ることと、相手を消せることは別です」
「じゃあ、もっと上手く撃つしかない」
「撃つ場所は考え続けましょう。ただ、他にも条件があるのかもしれません」
ネアは、自分たちが深く貫いた箇所を思い返した。
そこに何があったのか、外から確かめる手段はない。
壊したはずの部分が戻った、という結果だけは見えている。
敵の砲撃が進歩しても、こちらの射点操作はまだ精密だった。
それでも、戦況は大きく傾かない。
互いに削り、削られ、戻る。
その繰り返しが長引くことだけが、はっきりしてきた。
側面の火
終焉の炎の全身から、小さな砲口が沈んでいった。
胸部に残った大きな穴だけが赤く光り、四翼からの原光を集めている。
その向きは、巨体の正面へ出ていたネアを捉えていた。
ネアは四翼を広げ、射線を外すために横へ動く。
シアは反対側から胸部を見た。
大型砲口の横には、厚い肉体が盛り上がっている。
あそこを削れば、砲口の向きを保つ部分まで崩せるかもしれない。
「私を狙っています」
「分かった。横から壊す!」
「攻撃したら、すぐに位置を変えてください」
「任せて!」
シアは終焉の炎の脇腹へ回った。
自分と三つの分霊核、合わせて四門を前へ出す。
残る四つは身体の周囲へ分け、移動と迎撃に備えさせた。
四門の火が、胸部へ続く厚い肉体を同じ側から削っていく。
大型砲口の奥では赤い光が膨らんだが、その向きはまだネアを追っていた。
ネアが逃げるたび、巨大な胸部が少しずつ回転する。
シアは巨体の回転に合わせて外側へ移り、同じ傷を広げた。
少しずつ動いていても、巨体から見ればほぼ同じ角度に留まっていた。
「こっちは見てない!」
「見ていないとは限りません。同じ場所に留まりすぎです」
「もう少しで砲口が落ちる!」
「シア、いったん離れなさい!」
シアの火が脇腹の奥まで通った。
赤い肉体が大きく裂け、大型砲口を支える部分にも亀裂が走る。
攻撃は効いている。
だから、あと一撃で決まるように見えた。
シアは四門の向きを変えず、次の火を集める。
その間にネアはさらに距離を取り、巨体の正面から外れようとしていた。
終焉の炎の四翼が一度だけ強く光る。
ネアは、胸部へ向かう原光の向きが変わったことに気づいた。
狙われた赤
終焉の炎が、ネアへの砲撃を止めた。
胸部へ集めた原光は失われていない。
大型砲口を支える肉体が大きく動き、巨体そのものが急激に回転する。
赤い砲口はネアから外れ、脇腹を削り続けていたシアを正面に捉えた。
シアの四門は攻撃の直後で、まだ次の火を集めている。
「シア! 離れてください!」
「近い!」
シアは左右へ残していた分霊核を動かした。
身体を押して、砲口の正面から抜けようとする。
しかし、終焉の炎の巨体が大きく向きを変えた分、射線も急に近づいていた。
砲口の奥では、収束した赤い光がもう細い一点となっている。
逃げる方向へ四翼を傾けても、その前に光が届く。
シアはすぐに判断を変えた。
「避けられない。受ける!」
「受け止め続けてはいけません! 動ける位置を残して!」
ネアの声が届いた時、胸部から一本の赤い光束が伸びた。
シアは攻撃へ向けていた分霊核まで呼び戻す。
七つすべてを身体の前へ並べた。
いまさら攻撃を続けても、砲口を壊すより先に自分が貫かれる。
最初の分霊核が赤い防御壁を作り、その後ろへ残る六つが一直線に重なる。
光が壁の中央へぶつかった。
最初の衝撃で防御の表面が大きくへこむ。
「持って!」
シアは四翼から原光を送り、前方へ力を集めた。
収束砲は短い一撃ではない。
受け止めている間も、赤い光が同じ場所へ流れ込み続けている。
シアは自分の身体を動かせる隙を探した。
だが、壁を少し傾けるだけで、光が横へ回り込もうとする。
そのまま動けば、防御の外から身体へ届くかもしれなかった。
七つの盾
最前列の防御壁に、細い亀裂が走った。
シアは壁を厚くするために原光を送り続ける。
しかし、終焉の炎の収束砲は弱まらない。
最初の壁が砕けると、後ろの分霊核が新たな壁を広げた。
光束の先端は途切れず、二枚目の中央へ食い込む。
防いでいる間にも、砲口はシアの位置へ向けられたままだった。
「まだ、いける!」
二枚目も破られた。
シアは三枚目を広げ、少しでも横へ出られないか四翼の向きを変える。
だが、身体が動いた分だけ砲口も追ってくる。
三枚目の壁は中央が薄くなり、続けて四枚目へ衝撃が伝わった。
分霊核による防御の形が壊れても、分霊核そのものが消えたわけではない。
それでも、今は作り直す時間がない。
後ろに残した壁で受け止めるしかなかった。
五枚目が現れた時、シアは砲撃に使うための原光まで防御へ回した。
赤い四翼が強く光る。
五枚目が押し潰され、六枚目が大きく歪んだ。
光束の太さは変わらない。
防御が薄くなるほど、赤い線はまっすぐシアへ近づいてくる。
「まだ!」
七枚目の壁が開いた。
最後の分霊核が作る壁へ、終焉の炎の収束砲が食い込む。
シアは、次に備えて自分の周囲へ火を集め始めた。
もう後ろに分霊核はない。
七枚目にも亀裂が走り、壁の中央から赤い光が漏れ出す。
シアは四翼の出力を前面へ寄せ、火の層を重ねた。
自分で受けるしかない。
最後の壁が砕けた。
継続する赤い光束が、シア自身の防御へ到達した。
火と火が正面からぶつかり、シアの姿が赤い光の中へ隠れた。
それでも砲撃は終わらない。
シアは自分の防御が削られるのを感じながら、まだ射線を外れる場所を探していた。
横から来る黒
ネアの視界から、シアの姿が消えた。
終焉の炎の収束砲が、同じ場所へ赤い光を送り続けている。
砲口を壊すために残していた黒い射点を、ネアはすべて自分のもとへ戻した。
かつて原初戦では、弱った火の精霊王は攻撃を重ねる相手だった。
今は違う。
あそこからシアを動かすために、先に自分が動かなければならない。
「シア!」
黒い四翼が大きく開いた。
ネアは赤い砲口の正面へ出ず、光束に捕まっているシアの真横へ回る。
防御を重ねて砲撃を押し返す時間はない。
相手が一つの射線へ力を集めているなら、その射線から身体を外せばいい。
黒い分霊核が短く原光を流し、ネアの身体を横から加速させた。
ネアは赤い光の縁へ飛び込む。
「こっちです!」
ネアの身体がシアへ激突した。
抱えてから動かすのでは遅い。
自分ごと横へ押し飛ばす。
赤と黒、二人の身体が一緒に収束砲の外へ抜けた。
途切れない赤い線は、そのまま暗い宇宙の彼方へ伸びていく。
ネアは黒い四翼を大きく広げ、二人に残った勢いを分散した。
シアの赤い四翼は残っている。
七つの分霊核も失われてはいなかった。
ただ、身体を覆う火の防御は大きく削られている。
「動けますか?」
「動ける。……助かった」
「礼はあとです。まだ砲口が残っています」
「分かってる」
ネアはシアから少し離れ、黒い七核を広げた。
収束砲が止まったわけではない。
敵が向きを変える前に、こちらも次の攻撃を始める必要があった。
「シア! 合わせなさい!」
その声の意味を、シアはすぐに理解した。
細かく説明されなくても、何を狙っているのか分かった。
即席
シアは巨体の右へ、ネアは左へ分かれた。
それぞれの七つの分霊核が、二人の周囲へ広がる。
終焉の炎の胸部では、大型砲口が次の原光を集め始めていた。
今なら、再び撃たれる前にこちらの十六門を向けられる。
ただし、八翼ではない。
セトが二本の精霊剣を握り、赤と黒の流れを一つにそろえることもできない。
シアが八門の火を、ネアが八門の月を、それぞれ独立して動かすだけだ。
「即席!」
「双天」
ネアが続けた。
シアは笑った。
別々の射点を一つの場所へ集める必要はない。
十六門の攻撃が届く時機だけを合わせればいい。
二人は互いの翼の向きと、巨体の残った部位を確かめた。
シアの火は胸と肩、四翼を削る位置へ向かう。
ネアの月はその切断面へ重なり、原光の流れを断つように広がる。
シアは、ネアが何を狙っているかをもう尋ねなかった。
ネアも、シアへ細かな指示を出さなかった。
先ほどシアを横へ飛ばした時と同じように、相手が動く瞬間を信じている。
二人が同時に叫んだ。
「星華!」
赤い八本と黒い八本、十六の線が同時に走る。
赤い火が巨体の胸と腕を引き裂き、四翼の付け根を焼き飛ばす。
黒い月が損傷した組織へ重なり、戻ろうとする原光を奪って形を崩した。
砲口へ集まっていた赤い光も、支える肉体とともに散る。
終焉の炎は次の収束砲を放つ前に、全身を大きく削られた。
セトを中心とする八翼の一撃ではない。
それでも、二人が互いを信じて時機をそろえた十六門は、確かに成立していた。
消えない炎
終焉の炎の巨体が崩れた。
両腕は失われ、胸の大型砲口も周囲の肉体ごと消し飛ぶ。
赤い四翼がちぎれ、残った胴も黒い欠落の中で細かく分かれていった。
二人は砲撃を終えたところで動きを止めなかった。
シアが残った赤い組織へ火を通し、ネアが切り離された場所から原光を奪う。
戻る前にさらに削り、小さな欠片すらまとめて再接続させないようにした。
やがて、大きな手足も、四翼も、砲口も見えなくなった。
暗い宇宙に、わずかな赤い光の塊だけが残る。
「これなら……」
シアが前へ出る。
ネアは答えず、赤い塊の周囲を確かめた。
完全に動きを止めたようにも見える。
だが、黒い欠落の隙間で、細い原光がまだ流れている。
外から新しい原光が集まり始めた。
ネアはその小さな変化を見逃さなかった。
「まだです」
「まだ?」
塊から、一本の細い組織が伸びた。
続いて二本目が生まれる。
先ほど原光を奪った場所を避け、赤い流れが別の方向へ組み替えられていく。
新しい肉体が膨らみ、失われた四翼の一枚が形を取り始めた。
その横で、次の翼も生まれようとしている。
即席の星華は確かに成功した。
これまでより小さく削ることもできた。
しかし、その結果さえ終焉の炎の再生を終わらせなかった。
「また戻る」
「ええ。即席でも、十分に大きく削れました。足りないのは、再生を終わらせる方法です」
「なら、見つかるまで削る」
「そのつもりです」
シアの七つの分霊核が再び広がった。
ネアも黒い四翼の位置を整え、次の射線へ目を向ける。
何を壊せば止まるのかは分からない。
それでも、星の外へ運んだ終焉の炎を地上へ戻すつもりはなかった。
赤い四翼と黒い四翼が、再生する巨体の左右へ分かれる。
どちらも退かなかった。
戦いは、終わらなかった。
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