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ここまで『八重結び』をお読みいただき、ありがとうございました。
実は、この作品で最初に書いたのは第0話でした。
公開しているものは、後から設定に合わせてかなり調整していますが、最初に出てきたのは「八十年前の地下道で、防火扉を閉めた日」の話です。
ただ、その時点では、特に小説を書くつもりはありませんでした。
第0話を書いたあと、ふと考えました。
怨霊って、そもそも何なんだろう。
壁を抜ける。
でも、人の首を絞める。
実体があるのか、ないのか、よく分からない。
気体なのか。
固体なのか。
それとも、状態を変えられるのか。
そんなことを考えているうちに、かなり雑に言うと、
存在確率を調整できれば、それっぽいことができるのでは?
という発想に行き着きました。
量子力学のトンネル効果などを、かなりふわっとしたイメージとして借りています。
もちろん、厳密な物理として扱っているわけではありません。
あくまで創作上の発想です。
そこから、
- 偏向:空間上の存在確率に偏りを持たせる
- 固定:存在確率が高い状態をその場に固定する
- 希薄:存在確率を減らす、散らす、分解する
- 凝縮:存在確率を高め、集める
- 観測:存在確率を読む
- 同調:存在確率に自分を合わせる
といった術式の基本系統が出てきました。
ただ、一つ一つの系統だけだと、どうにも弱そうです。
では、組み合わせればいい。
これが「接続」の基本設定です。
接続する以上、上限もあるだろう。
人間が安全に扱える限界は、八個くらいではないか。
では、その倍くらいまで無理やり伸ばすと、禁呪になるのではないか。
そんな感じで、八接続、十六接続、禁呪という考え方が出てきました。
作中でも瀬良が言っていますが、
難しければ術者が減る。
術者が減れば事例が減る。
事例が減れば事故が起きやすくなる。
このあたりは、設定を作っている時にかなり自然に出てきた考え方です。
そして、十六接続を安全に分解したら、六十四接続くらいになりそうだなと思いました。
そこで主人公に、
だったら八人でやればいいじゃん
と言わせたら、ちょっと爽快なのではないか。
ここで「八重結び」という言葉が出てきました。
ただ、それだけだと少しシンプルすぎました。
十六接続を八人で分けて終わり、では面白くない。
それなら、まず「安全化禁呪」という形に一段階置いて、そこからさらに危険を取り除いたものを「八重結び」にしよう。
そう考えたあたりから、設定作りが一気に地獄になりました。
まず、安定化。
これは対立系統で中和する。
つまり、術式には対立構造が必要になります。
次に、押し上げ。
作中でいう「枝」です。
これは、術者本人にもはっきり見えない、言語化しきれない暗黙知として置くと面白そうだと思いました。
さらに、それを分担させる。
最初は八人で済むつもりでした。
でも、考えれば考えるほど、
八人だけでは足りない。
隙間を見る人がいる。
外側から観測する人がいる。
署名を確認する人がいる。
責任を持つ人がいる。
術具を支える人がいる。
十六人、三十二人と増えていき、
八重結び、いったい何人参加してるんだよ。
という状態になりました。
そうして、だいたい今の作品の形になっています。
そして、ここで重要なことを忘れていることに気づきました。
キャラを、誰一人考えていない。
そうです。
この物語は、設定だけが先行しきってしまった作品です。
読んでくださった方の中には、「伏線をちゃんと拾っている」と思ってくださった方もいるかもしれません。
逆です。
答えを先に設定しています。
伏線っぽいものは、後から配置しています。
極端なことを言うと、この作品は、
0話 → 6.5話 → 7話 → 8話 → 8.5話 → 6話……
くらいの順番で作っていると言っても過言ではありません。
本当にそんな感じです。
最初の作品なので、一般的な小説がどのように作られているのかは、正直よく分かっていません。
たぶん、少し特殊な作り方をしているのかもしれません。
設定を作って、構造を決めて、成立条件を並べて、事故条件を洗い出して、そこから登場人物を配置する。
ある意味、職業病のようなところもあります。
職業は一応伏せておきます。
推測してみるのも、少し面白いかもしれません。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
『八重結び』は、退魔士を「祓う人」ではなく、調査し、対処し、報告し、経過観察まで行う専門業者として描く話でした。
怪異を倒して終わりではなく、
名前を確認し、記録を残し、責任の線を引き、帰ってきたことを確かめる。
そういう地味な部分まで含めて、ひとつの作戦になる。
その面倒くささを、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
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