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動かない身体
目を覚ました時、セトは見覚えのない天井を見ていた。
木の梁。白く塗られた壁。
開けられた窓から、朝の光が差し込んでいる。
身体を起こそうとする。
腕へ力を入れた途端、肩から背中にかけて重い痛みが走った。
「起きないで」
横からシアの声がした。
セトが顔だけを向ける。
シアは窓際の椅子へ座っていた。
二つの赤い分霊核が、その肩の左右へ浮かんでいる。
「どれくらい寝ていた」
「夜から朝まで」
「普通だな」
「途中で二回起きた。でも覚えてない」
「それは寝ていたことになるのか」
「また寝たから、なってる」
セトはもう一度起き上がろうとした。
今度は肘を寝台へつく。
「だから起きないで」
「起きられるか確認している」
「起きられてない」
昨日よりは
扉が開き、ネアが部屋へ入ってきた。
手には水の入った器を持っている。
二つの黒い分霊核が、少し遅れて室内へ入った。
「何をしているのですか」
「起きられるか確認していた」
「確認する必要はありません。まだ起きないでください」
ネアは器を小さな台へ置いた。
セトの手首へ指を触れる。
銀青色の細い線が、腕から肩へ伸びた。
「昨日よりは整っています」
「なら起きられる」
「昨日よりは、です」
「同じことを言ってる」
シアが言った。
「セトが都合のよい部分だけ聞いています」
線が胸元を通り、背中へ回る。
精霊回路に大きな損傷はない。
だが、身体の内側を流れる原光は、所々で滞っていた。
二本の精霊剣から流れ込んだ力を受け止め続けたため、全身がまだ通常の流れへ戻っていない。
「腕や脚を傷めたわけではありません」
ネアが言う。
「身体の一か所ではなく、全体が疲れています」
「立つくらいなら」
「立つ必要がありません」
残っている力
セトは、シアの周囲に浮かぶ赤い分霊核を見た。
昨日より光が強い。
夜の間にも、シアは少しずつ力を戻していたらしい。
ネアの黒い分霊核にも、銀色の線が巡っている。
「二人は平気なのか」
「平気」
シアがすぐに答える。
「まったく消耗していないわけではありません」
ネアが訂正した。
「ただ、セトよりは回復しています」
「分霊核にも力が残ってる」
シアが赤い玉を一つ手元へ寄せる。
内部には、まだ火の光が揺れていた。
「昨日の戦いが続いても、私はもう少し戦えた」
「わたしもです」
ネアの返答に迷いはなかった。
「晶の精霊王が再び結晶化を始めても、しばらくは止められました」
「でも、セトが動かなかった」
シアが言う。
「ああ」
セトは自分の右手を見た。
指は動く。拳を握ることもできる。
それでも、剣を持って立つ姿は想像できなかった。
戦いの後
晶の精霊王との戦いは終わっている。
林の結晶化も止まった。
固まった川や木をすぐに元へ戻すことはできないが、これ以上広がる様子はない。
シアとネアは、倒れたセトを近くの集落まで運んだ。
途中で迎えに来た兵士たちが荷車を用意し、三人は夜のうちに空いていた家へ入った。
「晶の精霊王は?」
「地面の深いところで結晶を作ってる」
シアが答える。
「上へ出さないよう、場所を選んでいます」
ネアが続けた。
「今朝も確認しましたが、林へ再び広げる様子はありません」
「二人で行ったのか」
「近いから」
「セトが寝ている間に、川を塞いでいた結晶も少し動かしてきました」
「戦った次の日に?」
ネアがセトを見る。
「だから、わたしたちはセトより動けると言っているのです」
休む日
朝食が運ばれてきた。
柔らかく煮た穀物と、細かく切った野菜が入った汁物だった。
セトは寝台の上で身体を起こし、壁へ背を預けた。
そこまで動くことは許された。
汁物の器を持つ。
腕が震えるほどではない。
だが、持ち続けると肩の奥が重くなった。
「重の精霊王と戦った後にも、右腕へ疲れが残っていました」
ネアが言う。
「その翌日に移動して、晶の精霊王と戦いました。完全に回復していたわけではありません」
「一日は休んだ」
「一日しか休んでいません」
「動けた」
「動けることを、十分に回復した基準へしないでください」
前にも言われた言葉だった。
シアが汁物を飲みながらセトを見る。
「今回は、動けなくなった」
「分かっている」
「なら休む」
「ああ」
「今日はずっと」
「それは長い」
「一日だから長くない」
一本と二本
食事を終えた後、ネアは昨日までの戦いを順に確認した。
重の精霊王との戦いでは、セトは極炎を二度使った。
分霊核に残した力があったため、シアの火は二撃目にも足りていた。
負荷を受けたのは、火を身体へ通し、剣を振ったセトだった。
晶の精霊王との戦いでは、極炎と絶光を同時に扱った。
シアが出力と火の制御を担当する。
ネアが吸収と偏向、結晶形成の阻止を担当する。
セトが二本の剣を持ち、身体、剣技、位置取りを担う。
「一本なら問題なかった?」
シアが尋ねる。
「問題がないとは言えません」
ネアが答える。
「ですが、今回ほど早く動けなくなることはなかったでしょう」
「二本だから?」
「二人分の力を、一つの身体で同時に受けていますから」
極炎と絶光は、同じ力ではない。
身体へ流れ込む量だけでなく、流れ方も違う。
セトは二つを混ぜず、左右で別々に通しながら動いていた。
それを長く続ければ、人間の身体が先に止まる。
休養不足だけではない
「完全に休んでいれば、もっと長く動けた」
セトが言う。
「それはそうでしょう」
ネアは否定しなかった。
「なら、今回は休みが足りなかったことも原因だ」
「原因の一つです」
「一つ?」
「十分に休んでいれば、限界へ達するまでの時間は延びます」
ネアは二つの黒い分霊核へ目を向けた。
「ですが、わたしたちと分霊核の力が尽きるより、セトの身体が先に止まるという順番まで変わるとは思えません」
分霊核は力を蓄えられる。
休めば、シアとネア自身の力も戻る。
集める数が増えれば、保持できる力はさらに増える。
だが、セトの身体へ一度に通せる力が、それに合わせて増えるわけではない。
「次はもっと早く終わらせる」
シアが言った。
「相手が短く終わらせてくれるとは限りません」
「もっと強く撃つ」
「セトがさらに早く止まります」
シアは少し考えた。
「じゃあ、だめ」
増える力
「残りの分霊核も探すのか」
セトが尋ねる。
「探します」
ネアが答える。
「分霊核が不要になったわけではありません」
「増やせば、もっと戦える」
シアが言う。
「シアとネアはな」
「セトも使える」
「精霊剣になれば、俺の周囲へ来る。だが、動かしているのは二人だ」
「そう」
「力が残っていても、俺が倒れれば精霊剣は解除することになる」
「昨日みたいに、戻ってから戦える」
「それも分霊核の利点です」
ネアが言う。
「ただ、精霊剣でなければ突破できない相手に対しては、セトが動けなくなった時点で、最も有効な手段を失います」
昨日は、晶の精霊王の防御をほとんど崩した後だった。
そのため、シアとネアは人型へ戻ってから押し切れた。
もっと早い段階でセトが止まっていれば、同じ結果にはならなかった。
使い切れない強さ
「二つの分霊核には、まだ力が残っていました」
ネアが言う。
「シアにも、わたしにも残っていました」
「俺だけ使い切った」
「精霊力を使い切ったわけではありません」
ネアはセトの言葉を正した。
「セト自身の原光は残っています。精霊回路も壊れてはいません」
「でも動けなかった」
「力があることと、それを流し続けられることは別です」
セトの中に原光が残っていても、身体へうまく回らない。
右腕へ力を送れば、肩と背中で滞る。
脚へ送れば、踏み込む前に流れが乱れる。
器の中身が空になったのではない。
中に残っているものを、必要な場所へ運べなくなっていた。
「分霊核と似てる」
シアが言った。
「中に火があっても、私が動かさないと撃てない」
「近いですが、セトの場合は動かそうとしても身体が応じなかったのです」
「もっと悪い」
「そうですね」
強くできるか
「俺の精霊回路を強くする方法はあるか」
セトが尋ねた。
シアはネアを見る。
ネアはすぐには答えなかった。
「原光を流す練習を続ければ、多少は安定するでしょう」
「多少」
「急に精霊王二人分の力へ耐えられるようになる方法は知りません」
「シアは?」
「知らない」
「精霊剣になる側の知識は?」
「ある。でも、持つ人間を強くする知識はない」
精霊剣は、精霊王が自ら剣となり、人間へ身を預ける形だ。
精霊王は出力と属性を制御する。
人間は身体と剣技を担う。
その仕組みはシアにもネアにも分かる。
だが、剣を持つ人間が、どのように身体を鍛えればよいかは別だった。
「精霊王の知識に、すべてが含まれているわけではありません」
ネアが言う。
「人間の身体については、人間の方が詳しかったのでしょう」
訓練法がない
「過去の使い手は、どうしていた」
「精霊剣を扱った人間自体が多くありません」
ネアが答える。
「記録が残っていたとしても、一人の精霊王と一人の人間によるものが中心でしょう」
「二本は?」
「少なくとも、二本を同時に扱うための訓練法を、わたしは知りません」
「私も」
シアも答えた。
「一回剣になって、少しずつ時間を延ばす?」
「それは訓練というより、セトへ負荷をかけているだけです」
「少しなら」
「回復していない人間で試しません」
セトは二人を見る。
「完全に回復してからなら?」
「多少は慣れる可能性があります」
ネアは言葉を選んだ。
「ですが、身体が耐えられるようになるのか、壊れるまで我慢できるようになるだけなのか、区別できません」
「我慢できる方はいらない」
シアが言う。
「同感です」
流す側の限界
「二人の方で、俺へ流す量を調整することはできる」
「できます」
「昨日もしていた」
「ええ」
ネアがうなずいた。
「極炎も絶光も、最初から最大の力を流していたわけではありません」
「セトが動ける量にしてた」
シアが言う。
「最後の壁で増やした」
「そこで限界へ達したわけか」
「それ以前から、右手と右脚の動きが遅れていました」
ネアは見逃していなかった。
「本当なら、もう少し早く解除するべきでした」
「あと少しだった」
「その『あと少し』で動けなくなりました」
「でも届いた」
「届いたのは、シアとわたしが戻って戦えたからです」
昨日の判断が完全な失敗だったわけではない。
結果として晶の精霊王は止まった。
ただし、次も同じように勝てる保証はない。
「わたしたちができるのは、流す量を減らすことです」
ネアが続ける。
「セトの精霊回路そのものを、大きくすることではありません」
「月の力でも?」
「乱れた流れを整えることはできます。偏りを見つけ、詰まりを減らすことも」
今も、ネアはセトの腕へ細い線を通している。
「ですが、それは治療や調整です。精霊王二人分へ耐えられる身体に変えることではありません」
「火も無理」
シアが言った。
「燃やして広げる?」
「セトの内側を燃やさないでください」
「しない。無理って言った」
「先に燃やす案を出したように聞こえました」
「出してない」
一人分の身体
セトは寝台の上で両手を開いた。
右手に極炎。左手に絶光。
左右へ異なる力を通し、二本の剣を別々に動かす。
幼い頃から二本の剣を同時に扱ってきたため、二刀を動かすこと自体には慣れている。
その点では、ほかの人間より精霊剣二本へ向いているはずだった。
それでも、身体は一つしかない。
腕が二本あっても、精霊回路が二人分あるわけではない。
足も、心臓も、呼吸も一人分だった。
「剣技の問題ではないな」
セトが言う。
「昨日の動きに、大きな誤りはありませんでした」
ネアが答える。
「剣を置く位置も、進む道も、間違ってはいません」
「ただ、身体が続かなかった」
「ええ」
「剣が振れないなら、剣技も使えない」
「そういうことです」
一本ずつでは足りない
「同時に持たない」
シアが言った。
「極炎で壊して、一度戻る。次に絶光で止める」
「切り替える間に、晶の精霊王が壁を作る」
セトが答える。
「昨日は、壊すことと作らせないことを同時に行う必要があった」
「速く切り替える」
「精霊剣から人型へ戻り、もう一人が剣になるまでには時間がかかります」
ネアが言う。
「一瞬で切り替えられたとしても、極炎を解除した間は突破力を失います。絶光を解除した間は、形成を止められません」
「一本で足りる相手もいる」
「ああ」
セトがうなずいた。
「一本で足りるなら、二本持つ必要はない」
「ですが、昨日のような相手もいます」
異なる二つの役割を、同時に果たさなければ届かない相手。
その時、一本ずつ入れ替えるだけでは足りない。
一番細い場所
「シアとネアが弱いわけではない」
セトが言った。
「当たり前」
シアが答える。
「分霊核が足りないわけでもない」
「まだ増やせますが、昨日の戦闘に必要な量は残っていました」
「剣も二本あった。攻撃も通った」
「はい」
「それでも止まった」
セトは自分の胸元へ手を置いた。
「ここで」
シアが眉を寄せる。
「セトが弱いって話?」
「昨日の三人の戦いでは、俺が一番先に止まった」
「でも、セトがいなかったら塔に入れなかった」
「それと、先に限界へ達したことは別だ」
シアは納得していない顔をした。
ネアが引き継ぐ。
「単純な強さの比較ではありません」
「じゃあ何?」
「三人で一つの戦いをする時、最も早く動けなくなる部分が、全体の限界になります」
シアとネアには、まだ力があった。
四つの分霊核にも力があった。
晶の精霊王へ届く手段もあった。
それらを一つの戦いへ束ねる場所が、先に止まった。
「力を通す道が広くても、途中に細い場所があれば、そこで流れが詰まる」
セトが言う。
「昨日は俺が、その細い場所だった」
「もっと分霊核が増えても?」
シアが尋ねる。
「俺を通さず、二人が人型で使うなら意味はある」
「精霊剣なら?」
「使える力が増えても、それを使い切る前に俺が止まる」
シアは赤い分霊核を見る。
「余る」
「ああ」
「もったいない」
「問題はそこではありません」
「でも、もったいない」
「それも問題ではあります」
人間が限界
「俺が三人の中で一番弱い部分だ」
セトが言った。
シアがすぐに口を開こうとする。
セトは先に続けた。
「剣士として弱いという話じゃない。精霊王二人と分霊核の力を束ねる部分として、俺が一番先に限界へ達する」
「それなら分かる」
シアは少し不満そうに答えた。
「言い方が悪い」
「ほかに短い言い方が思いつかなかった」
「私はまだ撃てた」
「ああ」
「ネアもまだ動けた」
「ええ」
「セトだけ立てなかった」
「そうだ」
事実を並べれば、それだけだった。
精霊王の力を強くするために分霊核を探した。
その結果、力の蓄えと戦い方は増えた。
増えたからこそ、それを受け取る人間側の限界が見えるようになった。
今できること
「分霊核探しは続けます」
ネアが言う。
「ただし、分霊核を増やすだけでは、三人の戦力を十分に上げられません」
「次はセト」
シアが言った。
「人を物のように言わないでください」
「セトを強くする」
「方法が分からないという話をしていたところです」
「探す」
「どこで?」
「人間に聞く」
「精霊剣の使い手自体がほとんどいないと言ったでしょう」
「ならセトが考える」
シアは迷わなかった。
「セトは人間だから」
「ずいぶん簡単に任せるな」
「必要だから」
セトは小さく息を吐いた。
「すぐに方法が見つかるとは限らない」
「それまでは、今の限界を前提にする必要があります」
ネアが言う。
「二本を使う前に、解除する条件まで決めましょう」
「時間か?」
「時間だけではありません。腕や脚の反応が遅れた時点で解除します」
「あと一歩でも?」
シアが尋ねる。
「ああ」
「本当に?」
「昨日の後なら分かる」
「セトがまだ行けると言っても、解除します」
ネアが言った。
「ああ」
「私も止める」
「殴らずにな」
「必要なら殴る」
「必要ありません」
回復
その日は、ほとんど寝台の上で過ごした。
昼過ぎに一度だけ立った。
寝台へ手をつき、ゆっくりと腰を上げる。
立つことはできた。
だが、背筋を伸ばしたところで視界がわずかに揺れた。
「座ってください」
ネアが言う。
「まだ立っている」
「立っていられるうちに座るのです」
シアが反対側から腕を支える。
「倒れる前に座る」
二人に戻され、セトは寝台へ腰を下ろした。
「歩けないな」
「朝よりは進みました」
「立っただけだ」
「朝は起き上がることにも失敗していました」
翌朝には、部屋の中を歩けるようになった。
昼には家の前まで出て、長椅子へ座った。
二つの赤い分霊核と二つの黒い分霊核も、三人とともに外へ出る。
四つとも、戦いの直後より光を取り戻していた。
「分霊核の方が早い」
セトが言う。
「比較しないでください」
ネアが答えた。
「でも遅い」
シアが言う。
「否定はしませんが、競争ではありません」
強い光
夕方、兵士が一通の報告を持ってきた。
別の地域で、強い光が断続的に観測されているという。
夜でも周囲が昼のように明るくなる。
光が収まった後には、植物や地面の形が変わっている。
植物が急に成長したかと思えば、次の光で焼け落ちる。
地面が盛り上がり、その直後に崩れる。
川の流れまで変わり始めているらしい。
「一つの属性だけには見えませんね」
ネアが報告を読む。
「全部、光で起きてる?」
シアが尋ねる。
「現地で確認しなければ分かりません」
「場所は?」
セトが地図を広げた。
今いる集落からは、数日かかる。
「明日の朝、さらに詳しい報告が届く予定です」
兵士が答えた。
「分かりました」
兵士が帰った後、シアがセトを見る。
「行く?」
「今は行かない」
シアが少し目を見開く。
「自分から言った」
「今出ても、移動だけで余計に疲れる」
「妥当な判断です」
ネアがうなずく。
「明日の報告を確認し、セトの状態を見て決めましょう」
次の戦いまでに
次の異変が始まっている。
完全な解決方法が見つかるまで、待ってはくれないかもしれない。
身体が回復すれば、以前と同じように戦える。
極炎を一本なら扱える。
絶光も使える。
二本同時でも、短時間なら動ける。
だが、それだけでは問題がなくなったことにはならない。
「治った後も、限界は同じか」
セトが尋ねる。
「同じ戦い方をすれば、同じ限界へ近づきます」
ネアが答えた。
「休んだ分、昨日より長くは動ける」
「ええ」
「でも、最後は止まる」
「その可能性が高いです」
「なら、止まらない方法を探す」
「あるかは分かりません」
「まず、あるかどうかからだ」
シアが二つの赤い分霊核を手元へ寄せた。
「方法がなかったら?」
「今ある限界の中で戦う」
「それだけ?」
「見つかるまではな」
人間の番
夕方、四つの分霊核は三人の周囲で静かに浮かんでいた。
二つの赤い玉には火が戻りつつある。
二つの黒い玉にも、銀色の線が増えている。
シアとネアは、休めば力を取り戻す。
分霊核も、時間をかければ再び蓄えられる。
増やせば、さらに多くの力を持ち運べる。
だが、その力を三人の戦いへ束ねる時、必ず人間であるセトを通る。
その人間が最初に止まれば、残った力は使えない。
「次は俺か」
セトが言う。
「次?」
シアが尋ねる。
「強くするものだ。今までは二人の分霊核を探していた」
「今度はセトを探す?」
「ここにいる」
「なら探さなくていい」
「方法を探すんだ」
ネアが黒い分霊核からセトへ視線を移す。
「まずは、今あるものから考えるしかありませんね」
「ああ」
シアとネアには、まだ先がある。
分霊核にも、まだ力を蓄える余地がある。
その力を止めている一番細い場所は、今は人間だった。
だから次は、その人間自身の番だった。
エレメンタルクロス ~精霊の剣~ TOPへ

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