本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第8話 ジジ様は何も変わっていない

本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第8話 ジジ様は何も変わっていない 創作実験
本当に人間ってあさはかな生き物だよね 第8話 ジジ様は何も変わっていない
本当に人間ってあさはかな生き物だよね
創作実験TOP日常系/猫視点コメディ/人間観察―― 猫には猫の常識がある。人間はそれを、何ひとつ分かっていない。 ――作品紹介黒猫のシジミは、人間に飼われている。少なくとも、うちの人間はそう思っている。だが、シジミからすれば話は逆だ。毎日決…

ジジ様が出る

今日は金〇ロードショーの日である。

うちの人間は、朝から何度もテレビの前を通るたびに番組表を確認していた。

朝、肩へ落ちた髪をまとめながら一度。

昼、飲み物を取りに来たついでに一度。

夕方、薄い色の部屋着へ着替えてから、もう一度。

放送される内容が、そのたびに変わるとは思えない。

一度確認すれば十分である。

それでも、うちの人間は画面に表示された題名を見るたび、満足そうにうなずいていた。

別に見るものなど、毎週同じようなものだろう。

人間が走ったり、怒鳴ったり、食べたり、誰かの秘密を暴いたりする。

たまに動物が出てきても、人間の都合に合わせて妙な声を当てられている。

猫なら妙に偉そうな話し方。

犬なら元気で単純な話し方。

小さな動物なら、なぜか語尾まで幼くなる。

人間は動物の言葉が分からないくせに、どのように話すかだけは勝手に決める。

だが、今日は違う。

あのジジ様が出る。

シジミは夕方から、テレビの正面にある一番見やすい場所を確保していた。

いつもなら、うちの人間が座る長椅子の真ん中である。

背もたれにもたれる必要はない。

画面までの距離もよい。

横から光が入ることもなく、音も正面から聞こえる。

番組を見るには、最も適した場所だ。

先に座った者の場所

うちの人間がやってきて、シジミを見る。

手には温かい飲み物を持ち、もう片方の腕には菓子の袋を抱えていた。

「そこ、私の場所なんだけど」

何を言っているのだろう。

先に座った者の場所である。

人間は毎日のように椅子や机や家に名前をつけ、自分のものだと主張する。

だが、実際にそこを使っている者がいるなら、いまはその者の場所だ。

それくらいも分からないのだから、人間の所有という考え方はずいぶんと雑である。

うちの人間は長椅子の前に立ち、シジミを見下ろした。

シジミも見上げる。

どちらも動かない。

うちの人間は少し首を傾けた。

髪が肩から滑り、頬へかかる。

指でそれを耳へかけながら、もう一度言った。

「少しくらい詰めてくれてもいいんじゃない?」

詰める理由がない。

シジミはすでに、必要な広さしか使っていない。

丸くなれば、もう少し狭くはできる。

だが、これからジジ様を見るのである。

前足をそろえ、姿勢を正し、いつでも画面へ集中できる状態にしておきたい。

長い時間、体を縮め続けるのは落ち着かない。

うちの人間はしばらくシジミと見つめ合ったあと、諦めて端に座った。

正しい判断である。

テーブルの上には、飲み物と菓子が置かれた。

飲み物からは甘い匂いがする。

菓子は袋を開けるたび、乾いた音を立てた。

二時間ほど絵の動く箱を見るだけなのに、なぜ食料まで用意する必要があるのかは分からない。

狩りをするわけでもない。

縄張りを守るわけでもない。

ただ座っているだけで腹が減るとは、人間の体はずいぶん燃費が悪いらしい。

しかも、うちの人間は夕食を食べたばかりである。

食事のあとに菓子を食べ、それを夜食ではなく別のものとして扱う。

人間は食べ物へ名前をつけることで、食べた回数まで少なく見せられると思っているのだろうか。

やがて、聞き慣れた音楽が流れ始めた。

うちの人間が少し姿勢を正す。

膝へかけていた薄い布を整え、飲み物を手の届く位置へ置く。

シジミも前足をそろえ、画面へ向き直った。

同じ黒猫ではない

そして、ジジ様が現れた。

黒く美しい毛並み。

無駄のない体つき。

暗い場所でも目立つ、鋭く輝く目。

何より、魔女の横にいながら、少しも媚びた様子がない。

今日もかっこいい。

うちの人間が、画面とシジミを見比べた。

「シジミと同じ黒猫だね」

同じではない。

たしかに毛の色は近い。

だが、耳の形も、目の色も、体格も違う。

尻尾の動かし方にも個性がある。

座るときの前足の位置も違う。

歩くときに体重を置く場所も違う。

鳴く前に耳を動かす癖も違う。

猫同士なら、一目見れば別の猫だと分かる。

人間は自分たちのことなら、髪型が違う、服が違う、顔が違うと細かく見分ける。

うちの人間など、髪の長さが少し変わっただけで、気づかなかった相手について何日も不満を言う。

前髪を切った。

毛先を整えた。

色が少し変わった。

猫から見れば、どれもほとんど同じである。

それでも人間同士には、重要な違いらしい。

そのくせ、猫になると毛の色だけで同じにする。

黒い猫を二匹見れば、似ていると言う。

白い猫を二匹見ても、似ていると言う。

模様があれば、今度は模様だけを見る。

それで猫を理解したつもりになっている。

とはいえ、ジジ様と同じ黒猫だと言われること自体は、悪い気はしない。

シジミは少しだけ胸を張った。

うちの人間がそれを見て、頭を撫でる。

指先から、淡い甘い匂いがした。

「シジミもかわいいよ」

だから、比べるところが違う。

ジジ様がかっこいいという話をしている。

かわいいかどうかではない。

人間は猫について褒める言葉を、ほとんどかわいいしか持っていない。

賢くてもかわいい。

強くてもかわいい。

険しい顔でもかわいい。

失敗してもかわいい。

怒っていてもかわいい。

どれほど違う姿を見せても、最後には同じ言葉へ押し込める。

便利ではあるが、ずいぶん雑である。

物語を動かす猫

人間は、空を飛ぶ魔女の物語だと思っているらしい。

とんでもない勘違いである。

あれは、ジジ様がまだ世間を知らない魔女を導く物語だ。

魔女は勢いだけで知らない町へ行き、住む場所も仕事も決めないまま飛び出していく。

人間なら無計画だと非難するところだが、魔女というだけで勇気がある、成長しているなどと好意的に解釈される。

知らない場所へ行く。

食べ物をどうするか決めていない。

眠る場所も決めていない。

頼れる相手もほとんどいない。

猫が同じことをすれば、人間は迷子だと騒ぐだろう。

保護しなければならない。

一人では生きていけない。

危険だから外へ出してはいけない。

そう言うはずである。

魔女なら旅立ち。

猫なら迷子。

人間は、同じ行動でも相手によって名前を変える。

その隣で、現実的な心配をしているのがジジ様である。

どこへ行くのか。

どうやって暮らすのか。

本当に大丈夫なのか。

浮かれている相手の横で状況を確認し、危険を察し、必要なら忠告する。

実に立派な使い魔である。

使い魔という呼び方も、シジミはあまり好きではない。

あれでは魔女が主人で、ジジ様が従っているように聞こえる。

実際には逆だ。

魔女が好き勝手に行動できるのは、ジジ様が一緒にいてくれるからである。

知らない町で一人にならずに済む。

不安なときには話を聞いてもらえる。

失敗したときには、横から冷静な意見をもらえる。

調子に乗れば止めてもらえる。

危険な場所へ行けば警戒してもらえる。

それほど世話をしてもらいながら、使い魔と呼ぶ。

うちの人間も、シジミのことを飼い猫だと思っている。

毎朝決まった時間に起こしている。

帰宅すれば、外から危険な匂いをつけていないか確認している。

食事の時間を忘れれば知らせている。

長く座り続けていれば、膝へ乗って休ませている。

これほど世話をしているのはシジミのほうである。

それでも人間は、自分が猫を飼っていると思っている。

魔女とジジ様の関係も、おそらく同じなのだろう。

魔女が空を飛んで物を運べることばかり注目されるが、物語を動かしているのはジジ様だ。

少なくともシジミにはそう見える。

うちの人間は、画面を見ながら笑っていた。

ジジ様が何か言うたびに、

「かわいい」

と口にする。

違う。

あれはかわいいのではなく、賢いのである。

人間は猫を見ると、すぐにかわいいという言葉で片づける。

美しい毛並みも、鋭い観察力も、危険を避ける判断力も、すべてかわいいに押し込める。

言葉を一つ覚えると、それだけで何でも説明できると思っているらしい。

ジジ様が魔女の代わりに危険な役目を引き受けても、うちの人間は笑う。

ジジ様が慌てていても、笑う。

ジジ様が真剣に困っていても、笑う。

うちの人間は菓子を一つ口へ入れ、また笑った。

人間にとって、猫が必死になっている姿はおもしろいらしい。

自分たちが同じ目に遭えば大騒ぎするくせに、猫のことになると急に見物する側へ回る。

まったく身勝手な生き物である。

それでも、シジミは画面から目を離さなかった。

何度見ても、ジジ様の身のこなしには無駄がない。

狭い場所を通るときの姿勢。

高いところから周囲を見るときの目。

相手との距離を測るときの耳の向き。

人間は言葉ばかり聞いているが、猫は体全体で話す。

尻尾をどちらへ動かしたか。

耳を伏せたか、立てたか。

背中を丸めたか。

目を細めたか。

前足へ体重を移したか。

後ろ足へ力をためたか。

それだけで、何を考えているかはだいたい分かる。

だからシジミには、ジジ様が何を言っているのか、画面の中の声が聞こえなくても理解できる気がした。

話せなくなったのではない

やがて物語は進み、あの場面が近づいてくる。

うちの人間の表情が少し変わった。

楽しそうに見ていたのに、急に考え込む顔になる。

菓子へ伸ばしていた手も止まる。

頬へかかった髪を耳へかけ、そのまま画面を見つめた。

そして、ジジ様がいつものように鳴いた。

魔女には、それがただの鳴き声にしか聞こえない。

うちの人間が言った。

「なんで途中から、この猫は人と話ができなくなるんだろう?」

シジミは耳を動かした。

何を言っているのだ。

ジジ様は、ずっと話している。

先ほどから何も変わっていない。

口を開き、魔女へ向かって声を出している。

目も、耳も、尻尾も、全身を使って話しかけている。

それなのに、魔女の側が意味を受け取れなくなった。

ただそれだけである。

話せなくなったのではない。

聞けなくなったのだ。

変わったのはジジ様ではなく、魔女のほうである。

うちの人間は腕を組んだ。

袖口から出た指先で、自分の腕を軽く叩いている。

「魔法が弱くなったからかな」

違う。

「大人になったってことなのかな」

それも違う。

「自立したから、もう猫の言葉が必要なくなったとか?」

まるで分かっていない。

人間は、何かが分からなくなると、すぐに自分たちに都合のいい意味をつけたがる。

成長。

自立。

心の変化。

聞こえなくなったという単純な事実だけでは納得できず、そこに大きな意味があると思いたがる。

しかし、聞こえなくなることが成長だというなら、ずいぶん寂しい成長である。

以前は分かっていた相手の言葉が分からなくなる。

そばにいる者が何を訴えているのか、受け取れなくなる。

それを大人になった証拠として喜ぶとは、人間の考える成長は奇妙である。

むしろ退化ではないだろうか。

子供の人間は、猫を見れば猫だと分かる。

こちらが鳴けば、鳴いたと気づく。

遊びたいときに尻尾を動かせば、近づいてくる。

嫌がって耳を伏せれば、素直な子供なら手を止める。

大人になると、なぜか自分の考えのほうを優先する。

猫が近づけば、お腹が空いたのだろうと言う。

離れれば、機嫌が悪いのだろうと言う。

眠っていれば、暇なのだろうと言う。

鳴けば、ごはんが欲しいのだろうと言う。

うちの人間も同じである。

シジミが窓の前で鳴けば、外へ出たいのだと思う。

実際には、窓の外に見慣れない鳥がいることを知らせているのかもしれない。

長椅子の前で鳴けば、膝へ乗りたいのだと思う。

実際には、座る場所を空けてほしいだけかもしれない。

台所で鳴けば、何でも食事だと思う。

人間は、猫が何を伝えても、最後には自分が理解しやすい形へ変えてしまう。

そうしておいて、猫は話せないと思っている。

ジジ様は何も変わっていない。

魔女のそばにいる。

呼ばれれば振り向く。

必要なときには近づく。

危険なときには声を出す。

言葉が通じていたころと同じように、ずっと話しかけている。

ただ、魔女がその意味を受け取れなくなった。

それでもジジ様は離れない。

聞いてもらえなくなったからといって、すぐに見捨てたりはしない。

そこがまた、かっこいい。

猫は柔軟である

シジミならどうするだろう。

うちの人間が、ある日突然、猫の言葉を聞けるようになったとする。

シジミが朝食の時間を伝える。

うちの人間が理解する。

窓を開けるよう命じる。

うちの人間が理解する。

座る場所を空けるよう伝える。

うちの人間が理解する。

撫でるのはいまではないと伝える。

うちの人間が手を止める。

ようやく人間も少し賢くなったと思ったところで、また聞こえなくなる。

おそらくシジミは、何度かは説明を試みる。

鳴き方を変える。

前足で触れる。

目的の場所まで連れていく。

じっと目を見る。

尻尾で示す。

それでも分からなければ、仕方がない。

人間にも理解できる方法へ切り替えるしかない。

食事が遅ければ皿を鳴らす。

窓を開けなければカーテンへ登る。

椅子を空けなければ膝へ乗る。

撫でるのをやめなければ、その手から離れる。

話が通じない相手には、行動で教える。

猫は柔軟である。

一方、人間は猫の言葉が聞こえなくなっただけで、猫が話さなくなったと決めつける。

自分に分からないものは、存在しないことにする。

実に乱暴な考え方である。

過去まで書き換える

うちの人間は、まだ考えていた。

飲み物の椀を両手で包み、少し首を傾ける。

「最初から、本当に話してたのかな。魔女がそう思っていただけだったりして」

シジミは思わず、うちの人間の顔を見た。

そこまで疑うのか。

話していた相手ではなく、聞いていた側の思い込みだったことにする。

人間は、自分が理解できなくなったものに対して、過去まで書き換えようとするらしい。

以前はたしかに分かり合えていた。

一緒に話し、笑い、困ったときには相談していた。

その時間まで、勘違いだったのではないかと言い出す。

ジジ様に失礼である。

人間は、自分が覚えていないことについても、

「そんなこと言ったかな」

と簡単に否定する。

忘れたのは自分である。

相手が言わなかったことにはならない。

聞き取れなくなったのは魔女である。

ジジ様が話していなかったことにはならない。

自分の側に起きた変化を、相手の存在そのものへ押しつけている。

画面の中では、物語が終わりへ向かって進んでいた。

魔女は再び空を飛ぶ。

人間たちは、その姿を見て喜ぶ。

うちの人間も安心したように息を吐いた。

「よかった。魔法、戻ったんだね」

空を飛べるようになったことは、すぐに分かる。

目に見えるからだ。

箒が浮く。

体が空へ上がる。

以前のように飛んでいく。

人間は目に見える変化を理解するのは早い。

だが、ジジ様の言葉がどうなったかは、はっきりしない。

人間は、目に見える力が戻れば、それで問題が解決したと思うらしい。

飛べる。

働ける。

笑える。

だから元どおり。

本当にそうだろうか。

大切な相手の言葉が、以前のようには聞こえないままである。

それでも一緒に暮らしていく。

聞こえなくなった側は、相手が黙ったと思う。

話している側は、伝わらないことを知りながら声をかけ続ける。

それは、空を飛ぶことよりも難しいことかもしれない。

シジミは画面の中のジジ様を見つめた。

やはり、物語を動かしているのはジジ様である。

魔女が飛べなくなったときもそばにいた。

言葉が届かなくなってもそばにいた。

魔女がまた飛べるようになったあとも、変わらずそこにいる。

人間は派手な場面ばかり覚えている。

空を飛ぶ場面。

危険を乗り越える場面。

大勢から褒められる場面。

だが、本当に大事なのは、何も変わらず隣にいる者ではないだろうか。

少なくとも、シジミにはそう思える。

何ひとつ伝わっていない

番組が終わった。

うちの人間は満足そうに背伸びをした。

両腕を上へ伸ばすと、まとめていた髪が少し崩れ、肩へ落ちた。

「やっぱりいい映画だなあ」

その感想には、シジミも同意してよい。

ただし、うちの人間がどこまでジジ様の偉大さを理解したかは疑わしい。

おそらく、空を飛ぶ魔女が成長する話だと思ったままである。

ジジ様が魔女を支え、言葉が届かなくなっても変わらずそばにいたことは、かわいい黒猫という言葉の中へ押し込められている。

シジミは長椅子から降り、うちの人間の前へ回った。

そして、まっすぐ顔を見上げる。

今夜の番組について、少し教えてやる必要がある。

ジジ様は話せなくなったのではない。

魔女が聞けなくなっただけだ。

猫はいつでも話している。

人間が聞こうとしていないだけなのだ。

シジミは、できるだけ分かりやすく猫語で言った。

ジジ様は何も変わっていない。

変わったのは魔女のほうだ。

聞こえないからといって、話していないことにはならない。

うちの人間は、しばらくシジミを見つめた。

少しは伝わっただろうか。

うちの人間は椀をテーブルへ置いた。

頬へかかった髪を耳へかけ、シジミと目を合わせる。

いつもより長く鳴いたことには気づいたらしい。

やがて、うちの人間は笑顔になった。

「映画が終わったから、お腹空いたの?」

何ひとつ伝わっていなかった。

話ができなくなったのではない。

聞いている側が、勝手に自分の分かる意味へ置き換えただけである。

まさに今、うちの人間がそれを証明していた。

ジジ様の声を魔女がただの鳴き声として聞いたように、うちの人間もシジミの説明を食事の要求へ変えた。

人間は猫の声を理解できないのではない。

理解できないまま、自分の考えた意味で埋めてしまう。

分からないなら、分からないと言えばよい。

それなのに人間は、何かを分かったことにしなければ落ち着かない。

変わらずそばにいる

シジミは目を細め、うちの人間に背を向けた。

軽く床を蹴り、先ほどまで座っていた長椅子の真ん中へ飛び乗る。

うちの人間の場所だと言われたが、いま使っているのはシジミである。

つまり、シジミの場所だ。

うちの人間が戻ってきて、長椅子の前で立ち止まる。

「また真ん中に座ってる」

先ほど説明したはずである。

使っている者の場所だ。

だが、うちの人間にはそれも伝わらない。

少し迷ったあと、うちの人間は長椅子の端へ座った。

そのままシジミの背中を撫でる。

聞こえていなくても、そばにはいる。

理解していなくても、触れようとはする。

その点だけなら、魔女とジジ様に少し似ているのかもしれない。

もっとも、ジジ様と同じにされるのは、うちの人間にはまだ早い。

シジミは前足を体の下へしまい、画面が暗くなったテレビを眺めた。

ジジ様は最後まで何も変わっていなかった。

隣にいた。

声をかけていた。

ただ、その声を聞き取れなくなった者がいただけである。

それなのに人間は、猫が話さなくなったと言う。

自分に聞こえないものは、存在しないことにする。

自分に分からないものは、相手が変わったことにする。

シジミは尻尾の先をゆっくりと揺らした。

「本当に人間ってあさはかな生き物だよね」


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