非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第19話 祈りではなく、問い合わせ

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創作実験TOP転生したのに、ステータス画面が表示されないんだが。作品紹介ステータス画面は表示されなかった。スキルも、鑑定も、翻訳も、女神のチュートリアルもない。現代日本でデータサイエンティスト兼プロジェクトマネージャとして働いていた山科理人…
非正規転生~転生したけど最弱スキルすらもらってない~ 第19話 祈りではなく、問い合わせ 人物相関図

※人物画像・相関図の転載、再配布、改変利用はご遠慮ください。

(一)祈祷への返事

降託の間では、石台の線が淡く光り続けていた。
台から床へ。
床から壁へ。
細い光がいくつもの分岐を通り、暗い部屋の奥まで伸びている。
低い音も消えていない。

遠くで古い水車が、ゆっくり回り始めたような音だった。
若い神官は息を呑んだまま動けずにいる。
リナは理人の袖を握っていた。
エルネストだけが、静かに石台を見つめている。
理人は防水ノートを開いた。
降託の間、初期反応。
石台への接触なし。
祈祷なし。
発光あり。
古い神託語に似た表示あり。
そこまで書いてから、顔を上げた。

「これは、通常の反応ですか」

若い神官は答えられなかった。
エルネストが言う。

「少なくとも、私が知る降託の作法とは違います」
「通常は、何をするんですか」
「祈ります」

当然の答えだった。
女神へ接触する。
そのために祈る。
神殿では、それが正しい手順として残されている。

だが、目の前の光は理人には別のものに見えていた。
すでに起動している。
次の入力を待っている。

(二)古い祈祷句

エルネストは石台の前へ立った。
右手を胸に当て、静かに頭を下げる。
若い神官も慌てて同じ姿勢を取った。
リナは理人を見たあと、ぎこちなく手を合わせた。
理人だけが、ノートを持ったまま立っていた。
エルネストが古い祈祷句を唱え始める。
硬く、整った言葉だった。
理人には、すべての単語までは分からない。

それでも、意味の輪郭は追えた。
女神よ。
水を鎮めよ。
道を守れ。
迷える者を導け。
祈祷句が終わる。
石台の光が少し強くなった。
空中に、淡い文字が浮かび上がる。
若い神官が震える声で読んだ。

「水は遠く、祈りは届く。守りを求める者に、清き道を」

エルネストが目を細めた。
古い神託語による、従来どおりの応答なのだろう。
美しい言葉だった。
祈りに返す言葉としては、ふさわしく聞こえる。

だが、理人は眉を寄せた。

「質問に答えていませんね」

若い神官が勢いよく顔を上げた。

「今のは、女神のお言葉です」
「はい」
「ならば、なぜそのような言い方を」
「俺たちは、まだ何も聞いていません」

地下の空気が硬くなった。
祈祷句には、水と道と導きを求める言葉が含まれていた。

だが、理人が知りたいのは、何が起きているかだった。
今の返答では、それが分からない。
エルネストは理人を止めなかった。

「では、山科殿なら、何を聞きますか」

(三)こちらの声は届いているか

理人は石台の前へ一歩近づいた。
膝はつかない。
手も合わせない。
ノートを左手に持ち、右手を石台のくぼみへ近づける。
触れる直前で止めた。

「山科殿」

若い神官が声を上げた。
理人はエルネストを見る。

「触れても?」

エルネストは短くうなずいた。

「どうぞ」

理人は石台へ手を置いた。
冷たい。
石の冷たさだった。

だが、その奥に微かな振動がある。
一定の間隔で、小さな震えが伝わってきた。
理人は息を整える。
祈りの言葉は知らない。
願いも捧げない。
まず、接続を確認する。

「こちらの声は届いているか」

降託の間に、短い沈黙が落ちた。
若い神官が固まる。
リナが小さく息を呑んだ。
その問いは祈りではなかった。
祝詞でもない。
願いでもない。
問い合わせだった。
石台の光が、一度だけ強く脈打った。

『はい。届いています』

柔らかな声だった。

『あなたの問いを聞いています』

若い神官が息を呑んだ。

「女神が……答えた」

リナは光の中心を見つめる。

「普通に返事した……」

(四)自然な返答

理人も少しだけ意外だった。
神託のような、意味を読み取る必要のある言葉が返ると考えていた。
あるいは、正しい祈祷句を唱えなければ何も返らない可能性もあった。

だが、返答は自然だった。
はい。
届いています。
あなたの問いを聞いています。
理人はノートへ書いた。
初回入力。
こちらの声は届いているか。
初回応答。
はい。届いています。
あなたの問いを聞いています。
自然文による応答。
神託調ではない。
若い神官は、震える手で胸元の聖印を握っていた。
エルネストは目を閉じ、静かに息を吐く。
リナが小声で言った。

「女神さま、ちゃんと聞いてるんだね」

理人は答えなかった。
聞いている。
たしかに、そう見える。

だが、別の言い方も浮かんでいた。
入力を受け取っている。

(五)白い女性

床を走る線が一つずつ灯った。
壁の奥で低い音が響く。

やがて、部屋の中央に白い影が結ばれ始めた。
淡い光の布。
長い髪。
白い衣。
中央神殿の女神像によく似た、穏やかな女性の姿だった。
そこに立っているようで、立ってはいない。
足元は石床へ触れていない。

輪郭はわずかに揺れ、向こう側の壁が透けて見える。
若い神官が、その場へ膝をついた。

「女神様……」

リナも息を呑んだ。

「出てきた」

エルネストは胸に手を当て、深く頭を下げた。
理人だけが、膝をつかなかった。
白い女性は美しかった。
慈悲深く見える。
怖くない。
人間が祈りたくなる姿だった。

だが、理人は別のところを見ていた。
声が先に返った。
姿は後から現れた。
輪郭は女神像に似すぎている。
足元は床へ接していない。

口元は動いているが、声と完全には合っていない。
理人はノートへ書き足した。
白い女性型表示。
中央神殿女神像に類似。
輪郭透過。
足元非接地。
音声と口元に僅かな差。
受け手向け表示形式の可能性。
本体なのか、投影された姿なのか。

まだ分からない。

(六)応答形式

白い女性は、穏やかに理人を見ていた。

『あなたの問いを聞いています』
「応答形式を確認したい」

若い神官が顔を上げる。

「応答、形式……?」

白い女性の微笑みは変わらなかった。

『応答形式を確認します』

続いた言葉は、先ほどまでとは違った。

『現在選択可能な応答形式は、以下です』

空中に淡い文字が並ぶ。

『一、祈祷応答。
祈り、願い、祝詞に対して、古い神託語および象徴表現で応答します』
『二、神託応答。
危険条件、予測、未到達情報を、神託文として圧縮出力します』
『三、照会応答。
入力された問いに対して、確認可能な条件、観測情報、予測値を優先して応答します』
『四、記録用応答。
神殿記録、現場記録、照合作業に適した簡潔な形式で応答します』
『五、対話応答。
会話の継続を優先し、受け手の理解度に合わせて応答します』

若い神官は完全に固まっていた。
リナも文字を見上げている。

「女神さまが、返事の仕方を選ばせてくれてる?」

理人はノートへ、五つの形式を書き写した。

(七)照会応答

エルネストは白い女性を見上げたまま動かない。
その顔に怒りはなかった。
長年、開け方の分からなかった扉が、目の前で開いたような顔だった。
理人は白い女性を見る。

「照会応答で」
『照会応答を選択しました』

即座に返ってきた。
神に祈ったというより、返答方法を選んだ感覚に近い。
若い神官が震える声で言う。

「神官長……これは、どういう」

エルネストは低く答えた。

「私にも、初めて見る応答です」

理人はノートへ書いた。
照会応答、選択。
選択後、即時反映。
白い女性型表示は継続。
表情変化なし。
リナが恐る恐る尋ねる。

「女神さま、話し方を変えられるの?」
「たぶん、返し方を変えられる」
「人でも、相手によって話し方を変えるよ」
「そうだな」

理人は白い女性を見る。

「でも、これは話し方だけじゃない。返ってくる情報の形を選んでいる」
「情報の形?」
「何を、どう並べて返すか」

リナは少し考えた。

「分かりやすく答えてくださいって頼めるの?」
「今のところは、そう見える」

(八)水害リスク

理人は、白倉村で確認したかったことを口にした。

「白倉村周辺の水害リスクを、現地で確認できる条件で返してください」

白い女性は怒らなかった。
微笑みも、声の柔らかさも変わらない。

『照会対象、白倉村周辺水害リスク』

空中に文字が並ぶ。

『支流水路未登録。
低所倉庫あり。
巡回間隔過大。
連絡頻度低下。
雨後濁流到達遅延あり。
総合判定、優先確認対象』

若い神官が口を開けたまま固まった。
リナが小さく言う。

「女神さま、急に帳面みたいになった」
「形式を選んだからだ」
「さっきと同じ女神さまなのに?」
「同じ姿で、同じ声だ」

理人はノートへ書いた。
白い女性型表示。
照会応答。
条件列挙。
神託応答より情報粒度が高い。
仮説。
女神の姿と、応答内容の生成は分かれている可能性。
エルネストは白い女性を見上げたまま呟いた。

「これが、同じ御声なのか」

若い神官が顔色を変える。

「神官長、これは」
「記録を取りなさい」
「ですが」
「記録を」

若い神官は慌てて筆を取った。

(九)未来を見ているのか

リナは白い女性を見つめていた。

「女神さまって、こんな話し方もするんだね」

理人は尋ねる。

「どう見える?」
「姿は、女神さまっぽい」
「うん」
「でも、今のはギルドの確認表みたい」

理人は、その言葉もノートへ書いた。
エルネストがゆっくり口を開く。

「私からも、確認してよいでしょうか」
「俺に許可を取ることではないと思います」
「今は、あなたがこの応答を開いた」

理人はうなずいた。

「聞いてください」

エルネストは少し迷った。

「神託は、未来を見ているのですか」

若い神官が息を呑んだ。
白い女性は穏やかにエルネストを見る。

『確定未来情報は保持しません。
観測情報、予測値、未到達情報、危険条件を統合し、神託語へ圧縮出力します』

地下の空気が止まった。
理人は一字ずつノートへ写す。
確定未来情報は保持しない。
観測情報。
予測値。
未到達情報。
危険条件。
神託語へ圧縮出力。

「未来を見ているのではなく、今ある情報と予測を神託にしている」

(十)予言ではない

若い神官が震える声を上げた。

「女神が、未来をご存じないということですか」

エルネストは答えない。
理人も答えなかった。
確定未来情報を保持しないことと、未来を知らないことは同じではない。
白い女性も、何も補わなかった。

ただ、応答を終えたように微笑んでいる。
エルネストが静かに言った。

「少なくとも、私たちが受け取ってきた意味での予言ではない」

その声は、長く抱えていた疑問へ初めて形を与えられた者の声だった。
理人は、次の問いを選んだ。

「白倉村に関する水祓い神託は、未来の水害を予言したものか」

白い女性の輪郭が、わずかに揺れる。

『未来確定ではありません。
上流雨量、支流水路未登録、低所倉庫、巡回遅延、連絡頻度低下を検出。
複合リスク警告として出力』

理人は目を細めた。
上流雨量。
支流水路未登録。
低所倉庫。
巡回遅延。
連絡頻度低下。
すべて、白倉村で確認したものだった。

(十一)危なくなる形

「じゃあ、あの村のこと、ちゃんと拾ってたんだ」

リナが小さく言う。
理人はうなずいた。

「拾っていたんだと思う」
「よかった」

リナは、少しだけ息を吐いた。

「ただ、人が村を心配して見ていたのとは違う」
「違うの?」
「たぶん、危ない条件を拾っていた」

理人は指を折る。

「上流で雨が降った。記録されていない水路がある。倉が低い場所にある。巡回が遅れている。知らせが町まで届きにくい」
「それが重なると危ない?」
「そう」

理人はノートへ書いた。
白倉村を個別に見守っていたのではなく、危険条件を検出した可能性。

「村を覚えていたというより、危なくなる形を拾っていた」

リナは白い女性を見る。

「じゃあ、女神さまは、助けたかったの?」

理人はすぐには答えなかった。

「まだ分からない」
「でも、危ないことは知らせようとしていた」

エルネストが言う。

「だから、古い言葉へ変えられる」
「危険条件を、人間が神託として受け取れる形へ変える」

理人はうなずく。

「でも、変えた時点で情報が落ちる」
「そして私たちは、さらに祈りの言葉として整える」
「二度、落ちるのですね」

(十二)聞く順番

理人は白い女性を見た。
聞きたいことは多い。
自分はなぜここにいるのか。
誰が呼んだのか。
元の世界で何が起きたのか。
勇者とは何か。
女神とは何か。
問いは、すぐにでも口から出そうだった。

だが、理人は止めた。
問い方によって、返ってくる情報の形が変わる。
祈祷応答と照会応答では、同じものを尋ねても違う答えが返るかもしれない。
答えられない情報もあるだろう。
返答がないことと、情報が存在しないことも同じではない。

リナが理人を見た。

「自分のこと、聞かないの?」
「聞く」
「今じゃないの?」
「先に、何を聞けるのかを確認する」

理人はノートへ書いた。
内容照会前に、応答範囲と開示条件を確認。
エルネストが、その文字を見る。

「慎重なのですね」
「大事な答えほど、聞き方を間違えたくありません」

(十三)保護対象

理人は白い女性へ向き直った。

「照会応答で、開示に条件がある情報を教えてください」

白い女性の微笑みは変わらない。

『現地活動中個体に紐づく履歴情報は、個別情報保護対象です』

空中に文字が続く。

『開示には、対象個体照合および開示範囲判定が必要です』

若い神官が眉を寄せた。
リナが理人を見る。

「本人なら見られるの?」

理人は、そのまま尋ねた。

「対象本人による照会なら、開示できますか」
『対象個体照合後、要求項目ごとに開示範囲を判定します』
「本人でも、全部ではない?」
『開示範囲は項目ごとに異なります』

理人は書き写した。
現地活動中個体。
個別履歴、保護対象。
対象個体照合が必要。
照合成立後、項目別に開示範囲判定。
本人照会でも全項目開示とは限らない。
理人は筆を止める。

自分について聞く前に、確認するべきことが増えた。
誰に対して、どのように本人だと認めるのか。
何を基準に、開示範囲が決まるのか。
そして、その規則は誰が定めたのか。

(十四)三つの見出し

理人は石台から手を離した。
光は少し弱くなったが、白い女性の姿は残っている。
待機状態。
理人には、そう見えた。
それまでの走り書きを見返し、新しいページを開く。

確認できたこと。
判断できないこと。
追加確認事項。
確認できたこと。
祈祷句には、古い神託語による象徴的な返答があった。
具体的な問いには、自然な言葉で返答した。
応答形式は選択できた。
照会応答では、危険条件が個別に示された。
確定した未来を返しているわけではない。
活動中個体の履歴には、照合と開示判定が必要。
判断できないこと。
白い女性の姿が、女神そのものなのか。
受け手へ見せるための姿なのか。
祈祷と照会が、同じ相手へ届いているのか。
対象個体を何によって照合するのか。
開示範囲を何が決めるのか。
最後の一行へ丸い印をつける。
要確認。

(十五)一つではない

リナがノートをのぞく。

「分かったことより、分からないことの方が多いね」
「分かったつもりにならないために残してる」

リナは白い女性を見た。

「女神さまがいることは、分かったんじゃないの?」
「何かが答えていることは分かった」
「女神さまじゃなくて?」
「女神ではないとは言ってない」

理人は答えた。

「女神という言葉が、何を指しているのかが分からない」

リナは少し難しい顔をした。

「姿の人?」
「それも候補」
「声の人?」
「それも」
「石台の向こうにいる人?」
「それも分からない」

リナは白い女性と石台を交互に見る。

「一つじゃないかもしれない?」

理人の筆が止まった。
姿。
声。
応答を作るもの。
記録を持つもの。
開示を決めるもの。
理人はノートへ一行加えた。
表示、応答、記録、開示判定の主体が同一とは限らない。

「リナ、ありがとう」
「何が?」
「見る場所が増えた」

(十六)見たままを書く

少し離れた場所では、若い神官も記録を続けていた。
その筆は何度も止まっている。
書いては消し、また書き直す。
エルネストは、その記録を見た。

「見たままを書きなさい」
「ですが、神託として残すには」
「まだ神託と決めなくてよい」

若い神官が顔を上げた。

「女神のお言葉ではないと?」
「そうではありません」

エルネストは静かに答えた。

「私たちがどの形で受け取ったのかを、先に決めつけてはならないということです」

若い神官は戸惑いながらも、紙へ向き直った。
エルネストも自分の記録を開く。
女神の白き姿を拝した。
祈祷句への応答を賜った。
山科理人による問いにも応答があった。
問い方に応じ、御言葉の形が変わった。
照会による応答は、従来の神託文より明確だった。
エルネストの筆が止まる。
しばらく考えたあと、続きを書いた。
神託を正しく受け取るためには、祈りだけでなく、問いを整える必要がある。

(十七)問いを整える

若い神官が、エルネストの記録を見る。

「神官長……祈りでは足りないということでしょうか」

エルネストは白い女性を見上げた。

「祈りを捨てるという意味ではありません」
「では」
「祈る者が何を求めているのか、私たち自身が分からないままでは、返された言葉も正しく読めません」

理人は顔を上げた。

「白倉村の神託は届いていました」
「はい」
「しかし、私たちは予言として読み、起きる時を待った」
「条件を確認しなかった」
「ええ」

エルネストの視線が、自分の記録へ落ちる。

「女神のお言葉が足りなかったのではない。私たちの問いと受け取り方が足りなかった」

リナが尋ねる。

「ちゃんと聞くために、質問するの?」

エルネストはうなずいた。

「ええ。ちゃんと聞くためです」

理人はノートへ書いた。
祈りを疑うのではない。
聞き落とさないために、問いを整える。
祈祷を行う前に、何を問うのかを明確にする。
追加確認事項。
応答の規則。
開示の規則。

(十八)次に問うべきこと

理人は新しいページを開いた。
次に問うべきこと。
一、あなたは誰か。
二、女神とは何か。
三、その姿は本体か、表示か。
四、神託はどのように作られるか。
五、応答できる範囲は何か。
六、応答できない範囲は何か。
七、俺に関する履歴は存在するのか。
八、存在するなら、どこまで照会できるのか。
九、対象個体照合はどのように行うのか。
十、開示範囲は何を基準に決まるのか。

そこで筆が止まった。
地下へ降りる前に見た勇者碑文が、頭に残っている。
ガレス。
レンシ。
ミサキ。
カスマ。
ハルト。
トーマ。
特に、ミサキ。

あの名前だけは、古い異国名として片づけられない。
そして、エルネストが説明した女神の加護。
危機に応じて与えられた力。
勇者たちが言葉に苦しんだと読める記録はない。
自分は言葉でつまずいた。

もし勇者たちも外から来た者なら、同じ苦労があってもおかしくない。
だが、記録には残っていない。

(十九)つながらない線

理人は続きを書いた。
十一、勇者とは何か。
十二、過去の勇者は、この世界の人間だったのか。
十三、外から来た者だった場合、どのように来たのか。
十四、呼ばれたのなら、誰が、何のために呼んだのか。
十五、勇者が来た時、言葉は通じていたのか。
十六、通じていたなら、それはなぜか。
十七、勇者に与えられたという加護とは何か。
十八、外から来た者に、何かが与えられることはあるのか。
十九、祈りと問い合わせの違いは何か。
二十、応答と開示を定める規則は何か。
そこまで書いて、筆を止める。
多すぎる。
いくつかは、まだ聞く順番ではない。

ミサキという名。
外から来た自分。
女神の加護と、言葉に苦しんだ記録のない勇者たち。
線は見える。

だが、まだつながらない。
問いの順番を間違えれば、返された答えの意味も間違える。
最初に聞くべきことは、内容ではない。
応答と開示の規則だった。

(二十)理人の祈り方

理人はページの一番上に、新しい一文を書いた。
まず、あなたの応答規則を確認する。
その下へ続ける。
開示条件を確認する。
エルネストが、その文字を読む。

「女神に対して、規則を問うのですか」
「女神が何であっても、返答には条件があります」

理人は白い女性を見る。

「条件があるなら、先に確認した方がいい」

エルネストは少しだけ苦笑した。

「やはり、あなたをここへ連れてきてよかった」

若い神官は、まだそう思えていない顔をしていた。
リナは白い女性をじっと見ている。

「女神さま、困ってるかな」
「困る、という感じではないと思う」
「じゃあ、待ってる?」

白い女性は淡く光っている。
消えない。
急かさない。

ただ、次の入力を待っている。

「たぶん、待ってる」

女神は答えた。
願いではなく、問いに。
そして、問い方を選ぶことができた。
理人はノートの表紙へ手を置いた。
祈る前に、問い合わせる。
問い合わせる前に、問いの届き方を確認する。
それが、山科理人の祈り方だった。

(二十一)ログ

ログ
祈祷入力:未確定
照会形式:成立
人型表示:生成
応答範囲:限定開放
注記:
未登録形式の対話が開始。


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